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パリ同時多発テロの衝撃の中、ウィーン・プロセス参加国はシリア紛争停戦と政治プロセス開始に向け一歩前進

青山弘之東京外国語大学 教授
(写真:ロイター/アフロ)

フランスの首都パリで13日夜、同時多発テロ事件が発生し、120人以上が犠牲となった。ダーイシュ(イスラーム国)が犯行への関与を認める声明を出す一方、フランソワ・オランド大統領が事件を「戦争」と評し、「テロとの戦い」を煽るなか、多くの関心が事件そのものの真相やダーイシュのテロの脅威に向けられている。

この事件が今後のフランスを含む欧米諸国の政策にいかなる影響を及ぼすかを判断するのは時期尚早ではある。だが、この事件の影に隠れるかたちで、オーストリアの首都ウィーンでは14日、「国際シリア支援グループ(International Syria Support Group、ISSG)を名乗る米国、ロシア、サウジアラビア、トルコ、イランなど17カ国の外相が「ウィーン3会議」でシリア紛争への対応を協議し、シリアでの停戦プロセスと移行プロセスの開始に向けたより具体的な合意に達した。

9月に欧州へのシリア難民・移民流入問題への関心が高まるのなか、事態に注目する人々の間で「なぜ難民が発生するのか?」という疑問が生じたのと同様、パリでの同時多発テロ事件は早晩、「ダーイシュのテロ拡散の根本原因であるシリアの紛争は今どのように推移しているのか?」という問いを喚起であろう。そこで以下、備忘のために、14日の「ウィーン3会議」での各国の合意内容について簡単に整理しておくことにする。

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「ウィーン3会議」後に発表された共同声明によると、各国はこの会合で以下の点を合意したという。

1. 2012年6月のジュネーブ合意に沿った停戦と政治プロセスの実現。

2. 国連の仲介のもとで、シリア政府と反体制派による移行プロセスが開始され次第、ISSGはシリア国内での停戦に向けて支援、行動を行う。

3. 国連安保理常任理事国は、国連による停戦監視活動の実施とジュネーブ合意に基づく政治的移行プロセスの支援を定めた決議採択への支援を誓約する。

4. ISSGは、自らが支援、ないしは影響力を行使する当事者を停戦させるために可能な措置を講じることを誓約する。

5. 停戦は、ダーイシュ(イスラーム国)、シャームの民のヌスラ戦線、そして参加国がテロリストとみなす組織に対する攻撃・自衛活動には適応されない。

6.シリア政府と反体制派の代表による交渉を、国連の仲介のもと2016年1月1日を目処に開催する。

7. ISSGは、6ヶ月以内(2016年5月)を目処に、シリア国内での停戦と、「信頼できる包括的・非宗派主義的な政府を樹立し、新憲法制定の工程を確定」するためのシリア人による移行プロセス開始を実現するための支援を行う。そのうえで、新憲法の規定に従った自由で公正な選挙を、18ヶ月以内(2017年5月)を目処に実施する。この選挙は国連の監視下で行われ、犯民を含むすべてのシリア人が参加しなければならない。

8. ヨルダンは、テロリストと認定される集団、個人に関する共通の理解を醸成するための支援を行う。

9. ISSGは、停戦や政治プロセス開始に向けた準備の進捗を確認するため、1ヶ月以内に会合を開く。

以上の合意においては、米国、フランス、トルコ、サウジアラビア、カタールなど「シリアの友」を自称する国が強く主張してきたアサド大統領の退陣は盛り込まれていない。これらの国々は、移行プロセスを開始する前提条件としてアサド大統領の退陣が確約されるべきだと主張してきた。だが、今回の合意には、ロシアが提示したとされる妥協案(「次期大統領選挙においてアサド大統領は出馬しない」という妥協案)すらも採用されなかった。

一方、移行プロセスに参加し、シリア政府との交渉を行う反体制派の代表の人選については、各国による人選が行われているため、合意には盛り込まれたかったが、反体制派を「合法的な反体制派」と「テロ組織」に峻別する作業は若干の進展が見られた。すなわち、ウィーン2会議で合意された「ダーイシュ(イスラーム国)とそのほかのテロ組織を、国連安保理での決議および参加国の同意に基づき打倒する」という文言は、今回の合意では「停戦は、ダーイシュ(イスラーム国)、シャームの民のヌスラ戦線、そして参加国がテロリストとみなす組織への攻撃・自衛活動には適応されない」とより具体化し、ヌスラ戦線の名を明記することに反対していた一部諸国が妥協したかたちとなっている。

むろん、もっとも難航が予想されるのは「参加国がテロリストとみなす組織」を確定する作業である。とりわけ、シャーム自由人イスラーム運動、イスラーム軍といったアル=カーイダ系および非アル=カーイダ系のジハード主義武装集団の処遇をめぐっては、これらの組織を「民主化組織」とみなすサウジアラビア、トルコ、カタールと、「テロ組織」とみなすロシア、イランの対立が続いている。

また、シリア政府を支援するレバノンのヒズブッラー、イラン革命防衛隊クドス軍団の処遇についても、サウジアラビア、トルコ、カタールといった国々はその排除をめざす一方、ロシアやイランは国際法上合法的なシリア政府の正式な要請に基づいて展開している勢力との姿勢を崩そうとしていない。

だが、少なくとも現時点で言い得ることは、ウィーン・プロセスがその内容を具体化させる度に、シリアの「主権」と反体制派への「テロとの戦い」を支持するロシア、イラン、そして両国が支援するバッシャール・アサド政権の意向が紛争解決に向けた青写真に組み込まれて、「保護する権利」や「民主化」を根拠に介入を続けてきた「シリアの友」が後退を余儀なくされているということである。

ウィーン3会議は、1ヶ月以内に4度目の会合(ウィーン4会議)を開催することを決定して閉幕したが、パリでの同時多発テロ事件によって、欧米諸国を中心にヒステリックなかたちで高まりつつ「テロとの戦い」への意志が、ダーイシュ台頭の主因であるシリア紛争への各国の対応にいかなる影響を与えるか、今後も引き続き事態に注目し続ける必要がある。

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2011年以降のシリア情勢をより詳しく知りたい方は「シリア・アラブの春顛末期:最新シリア情勢」(http://syriaarabspring.info/)をご覧ください。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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