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ロシアの支援を受けるYPGとシリア軍の攻勢がもたらした「事態悪化」でトルコとサウジがさらに迷走

青山弘之東京外国語大学 教授
(写真:ロイター/アフロ)

西クルディスタン移行期民政局人民防衛部隊(YPG)が主導するシリア民主軍は、ロシアの空爆支援とシリア軍との連携により、アレッポ県北西部で「反体制派」(アル=カーイダ系組織を含むイスラーム過激派と「穏健な反体制派」の連合体)への攻勢を続け、その中心拠点であるアアザーズ市に迫った。

「事態悪化」を受け、トルコ政府は、ハサカ県やアレッポ県東部で散発的に行ってきた越境砲撃をアレッポ県北西部に拡大、「反体制派」戦闘員をシリアに潜入させるとともに、YPGとロシア軍への反抗を自己正当化すべく、さまざまなプロパガンダ活動に訴え、「反体制派」の劣勢挽回を画策した。

トルコとともに「反体制派」を支援してきたサウジアラビアは、トルコ政府の姿勢に同調し、好戦的な姿勢を誇示した。だが、国連安保理では、ロシアだけでなく、イラク、エジプトがトルコのシリアへの介入を批判、シリア民主軍を支援する米国も、トルコ政府に対して砲撃停止を求めた。

シリア紛争をめぐるトルコとサウジアラビアの迷走ぶりがこれまで以上に顕著となるなか、シリア国内では、シリア軍、シリア民主軍が「反体制派」、ダーイシュ(イスラーム国)の掃討を加速させ、支配地域を拡大した。

シリア政府は、こうした戦果を「YPGとの合同勝利」だと自賛する一方、アサド大統領は紛争における完全勝利と現行憲法のもとでの移行プロセスの実施、といういわゆるジュネーブ・プロセスそのものを無視するような強硬姿勢を示し、ロシアでさえもこうした姿勢に難色を示した。

2月25日に再開が予定されているジュネーブ3会議をめぐっては、シリア政府、「反体制派」、ダーイシュの包囲下にある都市への人道支援物資が行われるという進展は見られたものの、シリア国内の軍事バランスの変化(シリア軍、シリア民主軍の優勢)をめぐってISSG(国際シリア連絡グループ)諸国どうしの対立が激化し、日程通りの会議再開の可能性は遠のいた。

2016年2月中旬のシリア情勢をめぐる主な動きは以下の通り。

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なお本稿におけるカッコ付きの 「反体制派」は、ヌスラ戦線、シャーム自由人イスラーム運動などアル=カーイダ系組織を含むジハード主義武装集団(イスラーム過激派)と、スルターン・ムラード旅団、第1海岸師団など欧米諸国政府が「穏健な反体制派」とみなす武装集団の連合勢力を指す。シリアの反体制政治組織・武装集団を総称する場合はカッコを付さず、反体制派と記す。

1.シリア軍、YPG主導のシリア民主軍はロシア軍の支援を受け、アレッポ県北西部などで「反体制派」をさらに放逐

アレッポ県北西部でヌッブル市、ザフラー町に対する「反体制派」の包囲解除に成功し、トルコとアレッポ市を結ぶ「反体制派」の兵站戦遮断に成功したシリア軍とYPG主導のシリア民主軍は、ロシア軍の空爆支援を受け、引き続き「反体制派」への攻勢を続けた。

シリア民主軍は「反体制派」が占拠を続けてきたマンナグ軍事飛行場を制圧するとともに、拠点都市の一つであるタッル・リフアト市、そしてその周辺のカフルナーヤー村、シャイフ・ハラール村を制圧、アレッポ県北東部における「反体制派」の最大拠点であるアアザーズ市に迫った。

シリア民主軍はまた、米トルコ政府が昨年半ばに設置合意した「安全保障地帯」内における「穏健な反体制派」の拠点都市マーリア市に向けて進軍を続け、同市の名士と無血開城に向けた調整を開始した。

「穏健な反体制派」は、「安全保障地帯」内では有志連合との連携を嫌うヌスラ戦線などのアル=カーイダ系組織と共闘していないが、マーリア市の開城には現在のところ応じようとしていない。

しかし、マーリア市をめぐってシリア民主軍との対峙を余儀なくされた「穏健な反体制派」の背後を突くかたちで、ダーイシュが同市への侵攻を再開、「反体制派」は板挟み状態となっている。

一方、シリア軍も、シリア民主軍と足並みを揃えるかたちでザフラー町南部のタームーラ村を制圧したのを皮切りに、タッル・リフアト市近郊のミスカーン村などを制圧した。

こうした事態に対して、国連ザイド・ラアド・フサイン国際連合人権高等弁務官は、ロシアにより民間人5万人以上が避難、30万人がシリア軍の包囲を受けていると発表し、事態悪化への懸念を表明した。

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シリア軍、シリア民主軍はまた、アレッポ市一帯でも連携を強化、「反体制派」への攻勢を強めた。

シリア軍、国防隊、クドス旅団(パレスチナ人)、ヒズブッラー戦闘員は、ロシア軍の空爆支援を受けアレッポ市バニー・ザイド地区、アーミリーヤ地区、ライラムーン地区を攻撃した。

シリア民主軍も、「反体制派」の支配下にあるアレッポ市ハラク地区、ブスターン・バーシャー地区に侵攻し、「反体制派」と交戦した。

これに対して、ヌスラ戦線、シャーム自由人イスラーム運動などからなるジハード主義武装集団は、西クルディスタン移行期民政局支配下のアレッポ市シャイフ・マクスード地区を砲撃した。

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シリア軍とシリア民主軍の連携に関しては、シリア政府高官から高く評価する声が相次いだ。

バッシャール・ジャアファリー国連代表はシリア北部で達成されている勝利は、シリア軍とクルド人の合同勝利とみなすことができる」と述べる一方、ブサイナ・シャアバーン大統領府政治報道補佐官も人民防衛部隊を「シリアの部隊である」と形容した。

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一方、ラタキア県、ダルアー県では、シリア軍が、人民防衛諸集団、ヒズブッラー戦闘員、イラン人・イラク人戦闘員とともに進軍を続け、失地を回復していった。

ラタキア県では、イドリブ県とラタキア県北東部、そしてトルコ領内とを結ぶ戦略的要衝であるキンサッバー町を制圧した。また、ダルアー県では、ダルアー市マンシヤ地区などに支配地域を拡大した。

2.トルコが「反体制派」の劣勢挽回を画策し、シリア北西部への越境砲撃とプロパガンダ活動を激化

YPG主導のシリア民主軍がアレッポ県北西部のアアザーズ市に迫るなか、トルコ軍はハサカ県やアレッポ県東部で散発的に繰り返してきた越境砲撃をアアザーズ市一帯、そして西クルディスタン移行期民政局アフリーン地区の中心都市アフリーン市一帯へと拡大していった。

越境砲撃は、シリア民主軍、とりわけ人民防衛部隊の拠点に対していると発表されたが、住宅地が被弾し、住民多数が死傷した。

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トルコ政府は越境砲撃に加えて、ダーイシュとの「テロとの戦い」という文脈のなかでシリア領内への地上部隊派遣への意思を表明した。

これは、サウジアラビアによる同様の意思表明(後述)に準じるもので、有志連合の枠内で派遣が行われることが強調された。だが、米国がトルコ軍の越境砲撃停止を求めたことを踏まえると、その真意は、シリア国内での単独行動、具体的にはシリア軍やシリア民主軍との交戦の意思を否定するではなく、ロシア軍との連携に躊躇しない米軍との協力に消極的姿勢を示すことにあると考えられる。

事実、レジェプ・タイイプ・エルドーアン大統領は、バラク・オバマ米大統領との電話会談で、米国が人民防衛部隊への支援を継続すれば、有志連合がシリアでのダーイシュに対する空爆で使用している南西部のインジルリク空軍基地を閉鎖すると脅迫した。

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地上部隊派遣という点に関して、トルコ政府が行ったのは、トルコ領内からアアザーズ市一帯への「反体制派」戦闘員の派遣(潜入の許可・黙認)で、ロイターによると、シリア領内からの避難民のトルコへの避難が規制されるなか、戦闘員約2,000人がトルコ領内からシリア北部に潜入した。

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トルコ政府はまた、ロシア軍の空爆に対しても、非難の声を強め、国境地帯に飛行禁止空域を設定すべきとの主張を繰り返した。

15日にイドリブ県マアッラト・ヌウマーン市で国境なき医師団が支援する病院が空爆を受けると、アナトリア通信をはじめとするトルコのメディア(さらには西側メディア)では、ロシア軍による空爆を非難が繰り返された。

被害を受けた国境なき医師団は、空爆を行った戦闘機の所属について断じることはなかったが、シリア人権監視団は、ロシア軍によるものと推定、これに対してロシア政府、シリア政府は米軍主導の有志連合による空爆だと主張している。

なお、国境なき医師団のジョアン・リュー会長が『ハヤート』に語ったところによると、同組織はシリア国内での活動にあたって、シリア政府に全情報を開示していないという。

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トルコ政府は、17日に首都アンカラで軍を狙った自爆テロが発生すると、人民防衛部隊メンバーが実行犯だと主張し、シリア北西部への越境砲撃を激化させた。

しかし、事件をめぐっては、西クルディスタン移行期民政局を主導する民主統一党のサーリフ・ムスリム党首、そしてシリア民主軍総司令部が強く否定した。

またクルディスタン労働者党(PKK)の分派のクルディスタン自由の鷹(TAK)が犯行声明を出し、トルコ政府による断定が、シリア北西部での「反体制派」の劣勢打開に向けた介入を自己正当化するためのプロパガンダである疑いが高まった。

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トルコ軍によるシリア領内への越境砲撃については、国連安保理の非公式会合で審議されたが、そこではロシアだけでなく、エジプト、そしてモスル一帯へのトルコ軍の進駐に不満を募らせていたイラクが、トルコを厳しく批判した。

こうしたなか、ロシアは、トルコ政府の内政干渉やテロ支援の停止を求めるための安保理決議案を回付、審議を要請した。

たが、米国、英国、フランスは「ロシアの空爆を無実化する」として反対し、決議案を廃案に追い込んだ。

3.サウジアラビアはダーイシュとの戦いを名目とするシリア介入強化への意思表明を通じて、「反体制派」の劣勢打開の糸口を探る

ダーイシュとの戦いに参加するためにシリア領内に地上部隊を派遣する用意があるとの姿勢を示していたサウジアラビアは、米国が歓迎の意思を表明したことを受けかたちで、シリア介入強化への意思表明を繰り返した。

アーディル・ジュバイル外務大臣は、地上部隊派遣に加えて、有志連合がシリア領内での空爆で使用しているトルコ南西部のインジルリク空軍基地に戦闘機を派遣すると発表した。

しかし、この意思表明が実質的な動きとしてかたちを得ることはなかった。地上部隊派遣に関して、ジュバイル外務大臣は、有志連合の枠内で活動を行うことを強調し、単独での作戦、すなわちアサド政権に対抗するような動きを行わないことを確認した。

また戦闘機派遣については、トルコのイスメト・ユルマズ国防大臣が「F-16戦闘機4機を派遣する決定をした」のみだと述べ、否定した。

ダーイシュとの戦いをめぐるサウジアラビアの消極姿勢に関して、ジュバイル外務大臣は「アサド政権はこの地域に過激派とテロリストを引きつける最大の要因」と主張し、「アサド政権を打倒することが我々の目標であり、それを実現するだろう。シリアでの変化が起こらない限り、そしてそれが起こるまで、シリアでダーイシュは敗北しないだろう」と述べ、自己正当化した。

その一方、ジュバイル外務大臣は『シュピーゲル』とのインタビューで、シリアの「反体制派」に地対空ミサイルを供与する必要があると述べ、サウジアラビアの対シリア政策において、ロシア軍、シリア軍、シリア民主軍の攻勢に曝される「反体制派」の劣勢打開に腐心していることを吐露した。

4.シリア軍、YPG主導のシリア民主軍がダーイシュとの戦いで善戦

ロシア軍の支援を受けるシリア軍は、アレッポ県東部(アレッポ市東部)、ヒムス県東部(タドムル市、カルヤタイン市一帯)、ダイル・ザウル県(ダイル・ザウル市一帯)、ハマー県北東部(アレッポ県、ラッカ県との県境)でダーイシュとの戦闘を続けた。

アレッポ県において、シリア軍は、バルハリーン村、スィーン村、ジャディーダ村、アブー・ダンナ村、アブー・ダンナ丘、ティーバ村一帯、そしてアレッポ市とクワイリス軍事飛行場のほぼ中間に位置する火力発電所を制圧した。

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米軍主導の有志連合の空爆支援を受けるYPG主導のシリア民主軍は、ハサカ県で攻勢を強めた。

ハサカ県では、ハサカ市南東部ハーブール川に面した県内におけるダーイシュ最後の拠点都市シャッダーディー市一帯、イラク国境に近いフール町一帯、南西部アブドゥルアズィーズ山一帯に進軍し、シャッダーディー市、フール町近郊のマシュタル村とミシュワール村などを制圧した。

この進軍では、有志連合の空爆に民間人も巻き込まれ、40人以上が死亡したが、ダーイシュはこの空爆がロシア軍のよるものだと発表した。

また、シャッダーディー市の制圧は、SANAでは「部族民兵と人民防衛諸集団」による制圧と伝えられた。

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シリア民主軍の攻勢は、ハサカ県以外では、アレッポ県東部でもにわかに強まりを見せ、同軍はユーフラテス川西岸のティシュリーン・ダム一帯でダーイシュと交戦した。

ユーフラテス川以西の地域へのシリア民主軍、とりわけ人民防衛部隊の進軍はトルコ政府が「レッド・ライン」として拒否の姿勢を示しているが、シリア民主軍はトルコ軍によるアレッポ県北東部への越境砲撃に対抗するかたちで、「ダーイシュとの戦い」という枠組みのもとに、トルコ政府に圧力をかけたかたちとなっている。

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なお、有志連合はハサカ県、アレッポ県東部以外でも、ダイル・ザウル県(ワルド油田)、アレッポ県北西部でも空爆を実施した。

5.アサド大統領は紛争における「完全勝利」と現行憲法下での政治移行をめざす

アサド大統領は12日にAFPの単独インタビューに応じる一方、15日には首都ダマスカスで、弁護士組合の中央評議会および各県評議会のメンバーの会合に出席し、演説を行った。

AFPとのインタビューでアサド大統領は、「我々は危機発生当初から対話、政治的プロセスを全面的に信頼している。しかし、対話をすることは、テロとの戦いを止めることを意味しない。シリアには二つの路線が必要だ。一つは対話、もう一つはテロリストの殲滅。第1の路線は第の2路線とは切り離されている」としたうえで、「我々にできるかできないかはともかく、これ(シリア全土の奪還)は、我々が躊躇せずにめざしている目標だ。一部を放棄するなどと言うこと自体非論理的だ」と述べ、紛争における完全勝利を自らの最終目標として示した。

また現下の混乱に関しては、「問題はあと何年トルコとサウジアラビアがテロを支援するかだ…。そしていつ西側がこうした国に圧力をかけて、テロ支援を止めさせるかだ」と述べ、トルコとサウジアラビアによる「反体制派」支援が主因だとの見方をしました。

さらに、アレッポ県北西部で事実上の共闘関係にある西クルディスタン移行期民政局人民防衛部隊主導のシリア民主軍の台頭に関しては、「(クルド人の自治に関して)問題はシリア憲法に直接関わる…。こうした問いは、自治であれ、連邦制であれ、分権制であれ、国民的な問いでなければならず、シリアの一高官に対してすべきものではない。こうしたことは将来の政治的対話の一部をなすものだ。だが私が言っておきたいのは、クルド人は愛国的な集団だということだ」と述べ、好意的な姿勢を示した。。

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弁護士組合での演説において、アサド大統領は、「我々が曝されている戦争は5年間におよぶ戦争ではなく、過去30年に及ぶ「概念をめぐる戦争」だ。それは衛星メディア…の出現をもって始まり、インターネットの普及によって、すべての家に入り込んでいった。この戦争は、すべての市民に歪められた概念をもたらすことができるようになった…。そしてこの側面において、我々アラブ人は失敗を犯してしまった。我々は市民にこうした概念を認知させるレベルを欠いていたからだ」と分析した。

アサド大統領は、ジュネーブ3会議において目指されている移行プロレスに関して、ジュネーブ合意(2012年)で設置が求められている移行期統治機関の設置に消極的な姿勢を示したうえで、「もっとも重要なのは、いかなる移行プロセスも現行の憲法に準じていなければならないということだ。つまり、(ジュネーブ・プロセスにおける)移行期統治機関は、憲法からの逸脱、憲法の無効化をめざすものだ…。いかなるプロセスも現行憲法に準じなければならず、現行憲法を停止してはならない」と述べた。

また、移行プロセスと並行してその実現が追求されている停戦プロセスについては「戦闘停止とは軍隊どうし、国家どうしの間で行われるもので、国家とテロリストの間に行われるとしたらその概念は間違えだ…。戦闘停止とは、一義的にテロリストの立場を強化することを止めることを意味している。武器、装備、弾薬、テロリストを送り込むことは許されない。彼らの立場を改善したり強化したりすることも許されない」と述べた。

そのうえで、「誰がテロリストなのか? これに関しては…、国連安保理はダーイシュとヌスラをテロ組織とし、友好国はシャーム自由人イスラーム運動やイスラーム軍をテロリストに指定しようとしている。しかし、我々国家にとって、国家とシリア国民に対して武器を向ける者すべてがテロリストだ」と強調し、「反体制派」を排除する意思を示した。

また、ISSG(国際シリア支援グループ)のミュンヘンでの合意については、「1週間で戦闘停止に必要な条件や要件のすべてを揃えることができる者とは誰なのか? 誰もいない」と懐疑的な見方を示した。

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この発言に対して、ヴィタリー・チュルキン国連大使は『コメルサント』(2月19日付)のインタビューのなかで、2月12日のAFPのインタビューでのアサド大統領の発言に関して、個人的な見解だとしつつ「ロシアが行っている外交努力に合致していない」と苦言を呈した。

6.ジュネーブ3会議再開に向けた動き

2月25日に再開予定のシリア政府と反体制派の和平交渉「ジュネーブ3会議」をめぐっては、第52回ミュンヘン国際安全保障会議に出席するためにドイツのミュンヘンを訪れたISSG(国際シリア支援グループ)諸国外相が11日~12日にかけて会合を持ち、「今週中」にシリア軍、ダーイシュ(イスラーム国)、反体制派が包囲する地域への人道支援を開始するとともに、米・ロシアを議長とするISSG作業チームが「1週間以内」に全国レベルでの停戦に向けた手順を確定することを合意した。

具体的には、人道支援に関しては、国連安保理家決議第2254号第12項に従い、ダーイシュの包囲下にあるダイル・ザウル市、アル=カーイダ系組織と「穏健な反体制派」の連合組織ファトフ軍の包囲下にあるイドリブ県のフーア市およびカファルヤー町、そして、シリア軍、ヒズブッラー戦闘員が包囲するダマスカス郊外県のマダーヤー町、ムウダミーヤト・シャーム市、カフルバトナー町に今週中に物資の搬入を行うこと、そしてそのために国連とともに各当事者に対して働きかけることが確認された。

また、全国規模の停戦に関しては、ダーイシュ、シャームの民のヌスラ戦線、そして国連安保理において「テロ組織」と認定されているその他の組織を除く当事者の戦闘停止に向けて、影響力を行使するとともに、作業チームを設置し、シリア政府、反体制派と協議、また協議期間中に停戦に向けた手順を確定することが合意された。

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人道支援に関しては、スタファン・デミストゥラ・シリア問題担当国連特別代表がダマスカスに入り、ワリード・ムアッリム外務在外居住者大臣と会談、シリア政府は支援物資の搬入に同意した。

これを受け、ダマスカス郊外県マダーヤー町、ムウダミーヤト・シャーム市、ザバダーニー市、タッル市、イドリブ県フーア市、カファルヤー町に国連とシリア赤新月社のチームが陸路で物資の搬入を行った。

また、国連人道問題担当事務次長兼人道援助調整官のヤン・エーゲラン氏は、ISSG各国代表との会談を経て、ダーイシュが包囲を続けるダイル・ザウル市一帯に人道支援物資を空から投下するとの方針を決定・発表し、シリア領内で空爆を行うロシアと米国に協力を要請した。

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全国規模の停戦に関しては、シリア領内でのロシア軍の空爆激化の是非、トルコ軍によるシリアへの越境砲撃、サウジアラビアなどによるシリアへの地上部隊派遣意思表明をめぐり、ISSG間での対立が続き、デミストゥラは、2月25日のジュネーブ3会議再開が現実的には不可能だと表明した。

バラク・オバマ米大統領は、こうした膠着状態に関して、ロシア軍やシリア軍の攻撃継続に批判的な姿勢を示したが、「もちろん、ロシアは大きな軍事力を持っている。反乱軍が、世界第2位の強力な軍隊と対峙することなどできない。そうすることで、シリアを実際に安定化させるという問題が解決することもない。唯一の方法は、何らかのかたちの政治的移行だ」と述べ、反体制派に敗北を認めるよう促しているとも解釈できるかたちで譲歩を求めた。

一方、サウジアラビアが後援するリヤド最高交渉委員会のリヤード・ヒジャーブ元首相は「国際社会がロシアの軍事行動停止を保障することを条件に、停戦に応じると武装勢力が合意した」と発表した。

対するアサド大統領はスペイン日刊紙とのインタビューで、「軍事作戦を停止するにはテロリストがそれに乗じて自らの立場を強化することと合わせて、トルコをはじめとする諸外国がテロリストや武器の派遣、テロリストへのあらゆる兵站支援を行うことを阻止することが求められると述べた。

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本稿は、2016年2月中旬のシリア情勢を踏まえて執筆したものです。 主な記事はhttp://syriaarabspring.info/?page_id=26242を参照ください。

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東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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