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「退職代行で入社1ヶ月以内で会社を辞める新入社員」という「ごく一部の若者」像を一般化するメディア問題

常見陽平千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家
「こんな会社やめてやる!」と藤波辰爾みたいに叫びたかった人です(写真:イメージマート)

「新入社員が入社してすぐに退職代行サービスを利用して会社を辞めた」そんなニュースをよく見かける。そう、この春、働き方関連で話題のキーワードといえば「退職代行」サービスである。

このサービス自体は2010年代後半には既に注目されており、ウェブメディアや、ネット番組では紹介されていた。全国紙やテレビのニュース、ワイドショーなどでも取り上げられているのが、この春の大きな変化だ。番組で紹介され、芸能人などがコメントするので、スポーツ新聞などでも取り上げられ、言葉が広がった。

このような報道で「退職代行を利用」し「入社後1ヶ月以内で」退職する若者像がつくられていく。若者の転職の意向や、同じ組織に勤め続けるかどうかなどの意識調査のデータや、人手・人材不足などのデータなどが絡められ、「同じ企業に長く勤めようとは考えていない」若者が、「売り手市場」も相まって、転職を決めていく姿が描かれる。配属の希望が通るかどうかという「配属ガチャ」など、日本のメンバーシップ型雇用ならではの問題が絡められ、描かれる。

私もこの問題について、この2ヶ月、何度もコメント依頼を受けた。その度に記者にも伝えてきたことがある。「これは本当に一般的な、新入社員像なのか?」という問いだ。警鐘を乱打したい。

立ち止まって考えたい。「退職代行を使う若者」は「一般的」なのだろうか。4月以降の全国紙、ウェブメディア(全国紙や雑誌から配信されたものや、テレビ番組の書き起こし記事なども含む)の「退職代行」に関する報道を一通り読み返してみた。

根拠となっているのは、モームリ、OITOMA(オイトマ)など退職代行業者の利用件数だ。

直近の退職代行サービス関連の報道から拾ってみよう。

朝日新聞デジタル

「辞めたいのに辞められない」頼った退職代行 連休明け、増える相談」(5月13日 6時00分)

https://www.asahi.com/articles/ASS5B1SF0S5BUTIL017M.html

→退職代行業者OITOMA(オイトマ)について記述。

4月の依頼件数:631件

新入社員からの依頼:100件超

Wedge ONLINE

【退職代行は“正義”なのか?】若者の働き方に飛び交う「やさしさ」、本当に自分のためとなる選択とは(2024年5月13日)

https://wedge.ismedia.jp/articles/-/33797

→モームリの実績を紹介。

4月の退職確定実績:1397名

うち新卒:208名

それ以前の他社の記事も見たが、主に、この2社のデータが引用されている。4月以降、取材日前までのデータが紹介されている。コールセンターの映像も紹介され「利用者殺到」などと紹介される。各社、昨年の何倍もの依頼がきているという。

各社の実績は事実である。昨年より利用者が増えていることはたしかだ。ただ、それは一般的な新入社員像なのだろうか。

退職代行業者は他にも存在する。ただ、主に引用されるのは、この2社のデータだ。これがすべてではないし、両社を利用した人もいるだろう。ただ、足し合わせても300人程度である。

文部科学省の「学校基本調査」によると、ここ数年の大卒者約59万人のうち「就職者」は、約44万人いる。退職代行の利用実績を網羅的に調べたデータは確認されていないが、各社昨年よりも利用者が増えてはいるものの、このサービスを使って退職する人はまだまだ一般的だとは言えないだろう。

同じように、入社後1日、1週間、1ヶ月で辞める新入社員の数を正確に捉えたデータを確認することは困難である。報道でも、SNSで話題になった投稿などが論拠となっている。

3年以内離職率については、厚生労働省が「新規学卒就職者の離職状況」という調査を毎年、行っている。この約35年においては、1980年代には20%台後半で、最も高かった年は2004年の36.6%、最も低かった年は1992年の24.3%となっているものの、この直近10年は30%台前半で横ばいである。

なお、この3年以内離職率は必ずしも「若者のキャリアに関する意識が高まった」「自己実現志向」あるいは「打たれ弱いから」さらには「ブラック企業に騙されたから」などとは断言できない。この3年で約3割辞める若者の事情も多様だ。さらに、自身の新卒就活の時に求人倍率が悪化し、その後、回復した際などには第二新卒層への企業のアプローチも増え、転職が増え、離職率が上がる可能性がある。

もちろん、退職代行各社の利用者数が増えていることもまた事実だ(ただ、これも、有力な退職代行会社が現れ、その企業が他社のシェアを奪っている場合は、全体で利用者が増えていることにはならない)。スマートに物事を進めたいというニーズとも合致しているのだろう。企業の早期離職対策も強化され、それをすり抜けたいという想いもあるのだろう。

ただ、問題が発生していることは事実だとはいえ、まだ利用者が多いとは言えないサービスをあたかも主流であるかのように報じ、若者像を決めつけるのもいかがなものか。実に久々に見た、若者像の押し付け、木を見て森を論じる報道だと思った次第である。まずはデータを見よう。眼の前の新入社員と向き合おう。

千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家

1974年生まれ。身長175センチ、体重85キロ。札幌市出身。一橋大学商学部卒。同大学大学院社会学研究科修士課程修了。 リクルート、バンダイ、コンサルティング会社、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。2020年4月より准教授。長時間の残業、休日出勤、接待、宴会芸、異動、出向、転勤、過労・メンヘルなど真性「社畜」経験の持ち主。「働き方」をテーマに執筆、研究に没頭中。著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

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