「中国では事故の犠牲者数は必ず35人以下と決まっている」はデマ
中国・天津の大爆発事故の死者数の発表に対して、「35人を超えてるのはさすがに隠せなかったか」などというコメントをネット上でチラホラと見かけます。
何のことかと思ったら、「中国では事故の犠牲者数が35人を超えると市の党委員会書記が更迭されるため35人以下に抑えている」といったデマが流れている模様です。
デマの拡散元になっているNAVERまとめ →中国事故の犠牲者数は必ず35人以下と決まっている - NAVER まとめ(現時点で8万PV以上見られている)
そこで、なぜこの情報がデマなのかを解説していきます。
35人以下とされている事故の情報がそもそも嘘
このNAVERまとめでは、「これらの事故の死亡者数が35人以下だからこの説は本当である」といった主張がなされています。
<過去に起きた事件 死亡者が35人以下のもの>
1995年3月,辽宁省鞍山商场火灾,35人死亡
1995年11月,山东省40多个县(市)遭受暴风袭击,35人死亡
1996年6月,云南曲靖假酒案,35人死亡
~長いので筆者割愛~
2009年9月,河南平顶山矿难,35人死亡
2010年5月,辽宁阜新交通事故,33人死亡
2010年6月,福建广西四川洪灾致,35人死亡
2010年8月,甘肃天水陇南暴雨,34人死亡
2010年9月,广东洪水地质灾害,34人死亡
2010年9月,蜱虫叮咬致死,33人死亡
2011年6月,鄂湘暴雨,35人死亡
しかし、そのいくつもの例で35人以上死亡の発表がなされています。また、そもそも実際の死亡者数と合ってない例も多くみられます(中間報告の数字を根拠にしているものもあるようです)。
「2011年6月,鄂湘暴雨,35人死亡」の死亡者は41名
例えばリストの最後に載っている2011年6月に起きた「鄂湘暴雨」ですが、中国政府のウェブサイトにて「咸宁3市因灾死亡22人」「常德两市因灾死亡19人」と「41名」の死亡者を確認できます。
「2010年9月,广东洪水地质灾害,34人死亡」の死亡者は55名
その2つ上、「广东洪水地质灾害」ですが、こちらの死亡者は「55名」です。
「2009年9月,河南平顶山矿难,35人死亡」の死亡者は42名
この炭鉱爆発事故については日本語での報道も確認できます。死亡者は「42名」です。
<続報>違法操業の炭鉱爆発、死者44人に―河南省平頂山市:レコードチャイナ(タイトルの数字がなぜか間違っていますが……)
事実なのか検証しているウェブサイト
そのほかの例についても、この「35人死亡上限説」がデマではないかと検証しているウェブサイトで否定されているので、より詳しく調べたい方はそちらをご覧ください。
中国の死者数35人上限というおはなしデマじゃね - Togetterまとめ
【鉄道追突】「35人以上死亡で官僚更迭」はデマ=中国紙が解説 : 中国・新興国・海外ニュース&コラム | KINBRICKS NOW(キンブリックス・ナウ)
完全扯淡的35人死亡上限 | 谣言粉碎机小组 | 果壳网 科技有意思(中国人によるデマ否定サイト)
30人以上死亡から特別重大事故
また、「なぜ35人なのか?」という疑問もあります。中国では死亡者が30人以上になった時点から「特別重大事故」としてみなされます。
「30人以上死亡で特別重大事故」なのに、わざわざ35人を上限とする理由がありません。
35人以上死んでも更迭されてない
NAVERまとめでは、35人を上限とする理由について
死亡者が36人以上になった場合、市の党委員会書記が更迭されるのだ。
としています。しかし、35人以上死んでも更迭されていないという情報があります。
昨年11月に上海市静安区で起きたと特大火災事故で58人が死亡したが、区党委書記や上級部門の上海市党委書記、市長は解任されなかったhttp://bit.ly/pKFpawこれだけでガセだとわかるのだが。
実際に調べてみましょう。まず、事故の情報はこちらです。
この火災で、58人の死者と70人を越える入院または治療を必要とする負傷者がでた(火災発生月末時点)。また消息が確認できない者も、56人に及ぶことが報道された。
58人の死亡が確認されていることが分かります。では、その当時の上海市党委書記はどうなったのか?
当時の上海市党委書記は兪正声(ゆ せいせい)氏です。
2007年10月22日、第17期1中全会で党中央政治局委員に再選。同会議で中央政治局常務委員会入りした習近平から上海市党委書記の職を引き継ぐ。上海市は引退後も中国政界に強い影響力を振るう江沢民の牙城であり、上海を守る兪正声は「江沢民一番のお気に入り」とされた。上海市党委書記在職中は、2010年の上海万博を無事成功させるなどの功績がある一方、58人が死亡した高層マンション火災で批判を受けた。
高層マンション火災の件で批判を受けていますが、その後更迭されることなく党中央政治局常務委員に出世されています。
2012年11月15日、第18期1中全会が開催され、兪正声と同じ太子党に属する習近平が最高指導者の地位に就き、兪正声は党中央政治局常務委員に選出された。兪正声は新指導部内で習近平を補佐する役割を担うことになる。しかし、兪正声の政治局常務委員昇格については、政治局常務委員の年齢制限である就任時68歳に近いこと、そして実兄の亡命事件などから反対論もあった。しかし、上海閥の総帥である江沢民や、兪正声と同じ太子党である?樸方の強い後押しで、兪正声は政治局常務委員として最高指導部入りを果たしたという。
つまり、この「死亡者が36人以上になると市の党委員会書記が更迭される」もデマだと分かります。
まとめ
まとめるとこうです。
・死亡者数が35人以下→35人以上死んでた
・30人以上から特別重大事故なのになぜ35人?
・党委員会書記が更迭される→出世してた
もちろん、このNAVERまとめがデマの発生源ではありませんし(大元は中国発のデマ)、そのほかにも拡散しているウェブサイトを多数確認できますので「この記事が全部悪い」というわけではありません。
しかしながらNAVERまとめの運営元であるLINE株式会社の上級執行役員も先日拡散されておりましたので、今はこのまとめが中心になっているとして取り上げて批判することとしました。
LINE株式会社には、ぜひともこのデマ記事の削除を求めたいところです(通報済みです)。
あと誤解されたくないので書いておきますが、「中国政府の発表が信用できない」という意見は理解できますし、同意もします。しかし「それはそれ、これはこれ」。デマを振りまくことは同じように「信用できない」行為です。
追記(8月16日15時42分)
上記で紹介しましたLINE株式会社の田端様がデマの訂正ツイートを行われました。ありがとうございます。
デマを拡散しまして申し訳ございませんでした。>「中国では事故の犠牲者数は必ず35人以下と決まっている」はデマ(篠原修司)- Y!ニュース http://t.co/kZGDe4Esv3
「デマを真実だと思って拡散してしまう」というのは誰でもやってしまうことです。このような記事を書いている私もしばしばやってしまいます。重要なことは、気づいたときに訂正する。そしてその訂正を見て責任を追求するようなことはしない、ということだと思っています。
田端様にはデマ訂正にご協力頂き重ね重ねお礼申し上げます。
追記(8月16日23時05分)
当初、中国語が文字化けしていた状態でしたが、コード化することにより文字化けを回避できることが確認できたため修正しました。