サル痘とは?流行状況、症状、予防、治療など 現時点で分かっていること
欧米を中心にサル痘の患者が増加しています。
サル痘は天然痘に似た特徴を持つウイルス感染症です。
これまでに分かっている流行状況と、サル痘に関する基本的な情報についてまとめました。
これまでの発生状況は?
2022年5月29日現在、世界で403例のサル痘患者が報告されています。
内訳は、イギリス106例、スペイン98例、ポルトガル74例の3ヶ国で症例の大半を占めており、それ以外には、カナダ26例、ドイツ22例、イタリア13例と欧米諸国が続いています。
現時点では、日本国内ではサル痘患者は報告されていません。
これまでに分かっている確定例は大半が男性患者であり、20代から40代の比較的若い世代に多いことも特徴です。
また、今回の感染者のうち、ゲイやバイセクシュアルなど男性とセックスをする男性(MSM)の間で発生したケースが多いことが指摘されています。
このアウトブレイクの発端は、2022年5月7日に英国健康安全局(UKHSA)からイギリス国内でのサル痘患者が報告されたことでした。
この最初の患者はサル痘の流行地域であるナイジェリアに最近の渡航歴があったことから、ナイジェリアで感染したと考えられる事例でした。
しかし、その後イギリス国内でもこの発端事例と関連のないサル痘患者が報告され、またイギリス以外のヨーロッパ、アメリカ、カナダ、オーストラリアなど世界中で感染者が報告される事態となっています。
サル痘ってどんな病気?
サル痘は、1970年にコンゴ民主共和国で初めてヒトでの感染例が報告されたサル痘ウイルスによる動物由来感染症です。
サル痘という名前ですが、サルも感染することがあるというだけで、もともとの宿主はネズミの仲間のげっ歯類ではないかと考えられています。
サル痘ウイルスはアフリカの異なる地域にそれぞれ別の系統が分布しています。
コンゴ民主共和国などの中央アフリカのサル痘ウイルスよりも、ナイジェリアなどの西アフリカのサル痘ウイルスの方が病原性が低いことが分かっています。
これまでに報告されているサル痘患者の大半はアフリカからのものですが、近年はアフリカでのサル痘患者が増えているとナイジェリアやコンゴ民主共和国などから報告されており、天然痘の根絶後、種痘の接種歴のある人が減っていることでサル痘患者が増加してきているのではないかと懸念されていました。
アフリカ以外でも、稀に旅行や動物の輸入に関連したサル痘患者がアメリカ、イギリス、シンガポール、イスラエルなど海外でも散発的に報告されていました。
サル痘の症状は?
サル痘は1980年に世界から根絶された「天然痘」に病態がとても良く似ており、症状だけでこれら2つの疾患を鑑別することは困難と言われています。
しかし、サル痘では人から人へ感染する頻度は天然痘よりも低く、また重症度も天然痘よりもかなり低いことが知られています。
ヒトがサル痘ウイルスに感染すると約12日の潜伏期の後に発熱や発疹などの症状がみられます。
アメリカにおける2003年のアウトブレイクの際にサル痘と診断された34人の患者では、以下の症状がみられました。
発疹(97%)
発熱(85%)
寒気(71%)
リンパ節の腫れ(71%)
頭痛(65%)
筋肉痛(56%)
この報告では発疹が出るよりも約2日先に発熱がみられ、発熱は8日、発疹は12日続いたとのことです。
通常、全身に発疹がみられますが、今回のアウトブレイクでは性器や肛門周辺にのみ発疹がみられた事例も報告されているようです。
アフリカにおけるサル痘患者の致死率は約1〜10%とされていますが、先進国ではこれまでに死亡者は確認されていません。
サル痘の皮疹は天然痘と非常に似ており、水疱という水ぶくれが見られることが特徴です。
同様に水疱が見られる水痘(水ぼうそう)では、水ぶくれの時期、かさぶたになった時期など様々な時期の皮疹が混在しますが、サル痘や天然痘では全身の皮疹が均一に進行していくのが特徴です。
天然痘と比べると、サル痘では首の後ろなどのリンパ節が腫れることが多いと言われています。
治療は原則として対症療法となります。
アメリカやイギリスなど海外ではシドフォビル、Tecovirimat、Brincidofovirなど天然痘に対する治療薬が承認されており、実際に投与も行われていますが、日本ではこれらの治療薬は現時点では未承認です。
サル痘の予防は?
サル痘は、
・サル痘ウイルスを持つ動物に噛まれる、引っかかれる、血液・体液・皮膚病変に接触する
・サル痘に感染した人の飛沫を浴びる(飛沫感染)
・サル痘に感染した人の体液・皮膚病変(発疹部位)に触れる(接触感染)
によって感染することが分かっています。
今回のアウトブレイクでは、ゲイやバイセクシュアルなど男性とセックスをする男性(MSM)の間で発生したケースが多いことから、性交渉の際の接触が感染の原因になっているのではないかと疑われています。
種痘(天然痘ワクチン)はサル痘にも有効です。
コンゴ民主共和国でのサル痘の調査では、天然痘ワクチンを接種していた人は、していなかった人よりもサル痘に感染するリスクが5.2倍低かったと報告されています。
しかし、1976年以降日本では種痘は行われていませんので、昭和50年以降に生まれた方は接種していません。私もしてません。
日本国内ではまだサル痘患者は報告されていません。
また、サル痘の症状は日本でもよくみられる水痘(水ぼうそう)や単純ヘルペスといった感染症の症状と非常によく似ており、見た目では必ずしも区別できないことがあります。
ご心配な場合は、かかりつけ医など医療機関や保健所に相談しましょう。