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ロシアと米国が、シリア民主軍、シリア軍と連携し、ダーイシュとヌスラ戦線主導の反体制派掃討を本格化か?

青山弘之東京外国語大学 教授
(写真:ロイター/アフロ)

シリア紛争解決に向けた停戦プロセスと政治移行プロセス、そして「テロとの戦い」を定めた国連安保理決議第2254号の採択を受け、ロシア、米国が西クルディスタン移行期民政局人民防衛部隊(YPG)への支援を軸に実質的に連携を強化しつつある。

また、ロシア軍の支援を受け攻勢を続けるシリア軍は、停戦プロセスと政治移行プロセスの開始に先立って、ダーイシュ(イスラーム国)、シャームの民のヌスラ戦線、そしてその他の反体制武装集団と局地的な停戦合意を交わし、戦闘員の退去を進めている。

こうしたなか、1月25日にスイスのジュネーブで開催予定のシリア政府と反体制派統一代表団との交渉に向けて、シリア国内外の紛争当事者が動きを活発化させている。

2015年12月下旬のシリア情勢をめぐる主な動きは以下の通り。

1.アレッポ県北部の「安全保障地帯」をめぐってロシアと米国の水面下で接近

アレッポ県北部、とりわけ2015年半ばに米トルコ両国政府が設置合意した「安全保障地帯」(飛行禁止空域)において、ロシアと米国が西クルディスタン移行期民政局人民防衛部隊主導のシリア民主軍への支援を軸として連携を強化していると解釈できる動きが散見された。

「安全保障地帯」は、米国主導の有志連合が「穏健な反体制派」を後援しダーイシュ(イスラーム国)を放逐したうえで、同地にシリア人避難民を帰国させることが狙いだった。だが、米国による「穏健な反体制派」支援策は、トルコ領内での軍事教練プログラム、シリア領内での支援のいずれにおいても失敗した。米国は10月以降、アル=カーイダ系組織のシャームの民のヌスラ戦線などと共闘する「穏健な反体制派」への支援を事実上終始、これに代わってシリア民主軍への支援を強化していった。

シリア民主軍は、人民防衛部隊がラッカ革命家戦線などのいわゆる「自由シリア軍」諸部隊とともに結成した連合組織である。米国は、人民防衛部隊や西クルディスタン移行期民政局を主導するクルド民族主義政党の人民連合党(PYD)をテロ組織とみなすトルコ政府に配慮して、シリア民主軍を支援する姿勢をとったが、その内実は、人民防衛部隊への支援にほかならなかった。

人民防衛部隊の活動をめぐって、トルコ政府は、同部隊がユーフラテス川以西を越えて、「安全保障地帯」に進軍することに異議を唱え、米国を牽制した。米国もトルコ側の意向に配慮し、「安全保障地帯」においては、シャーム戦線(「穏健な反体制派」とジハード主義武装集団の連合組織)を空爆支援するにとどまっていた。だが、シャーム戦線はダーイシュの侵攻を食い止めるだけの力を持たず、一進一退の攻防を繰り返すだけで、空爆支援が奏功することはなかった。

そればかりか、シャーム戦線が一翼をなすアレッポ・ファトフ軍作戦司令室(ヌスラ戦線、シャーム自由人イスラーム運動などが有力)は、「安全保障地帯」西部のアアザーズ市一帯や西クルディスタン移行期民政局アフリーン地区の中心都市であるアフリーン市一帯、さらには同民政局が実効支配するアレッポ市シャイフ・マクスード地区で、人民防衛部隊や、同部隊と革命家軍が主導するシリア民主軍との戦闘を激化させていった。

こうしたなか、アアザーズ市一帯やアフリーン市郊外などでロシア軍、ないしはロシア軍と思われる戦闘機がシリア民主軍を支援するために空爆を実施しているとの情報が聞かれるようになった。例えば、12月28日、シリア民主軍はアフリーン市郊外のマーリキーヤ村、シャワーリガ村一帯でヌスラ戦線などと交戦、ロシア軍と思われる戦闘機の空爆支援により、同地の制圧に成功した。

また「ムラースィル・スーリー」(12月31日付)は、アレッポ県アフリーン市の消息筋の話として、ロシア軍のヘリコプター複数機が、西クルディスタン移行期民政局アフリーン地区の中心都市である同市に着陸したと伝えた。

同消息筋によると、このヘリコプターは、人民防衛部隊への武器弾薬を運ぶとともに、イラン人士官やシリア軍士官を搬送しており、ロシア軍、イラン、そしてシリア政府の支援のもと、人民防衛部隊、そして米国が支援する同部隊主導のシリア民主軍が、アフリーン市とアレッポ県東部のアイン・アラブ市の間の地域(米トルコが「安全保障地帯」に指定している地域)、そして同地域の中心都市の一つアアザーズ市の制圧に向けた動きを強めている、という。

こうした動きが事実であるとすれば、米国がトルコに配慮し、空爆支援を躊躇してきた「安全保障地帯」において、ロシア、シリア軍、イランが有志連合に代わって空爆し、「テロとの戦い」を主導することを意味している。

なお、米国は、国連安保理決議第2245号に基づいて開催予定のシリア政府と反体制派統一代表団の交渉に、PYDを参画させるようサウジアラビアやトルコを説得していると言われている一方、ユーフラテス河畔地域で人民防衛部隊主導のシリア民主軍を空爆支援、シリア民主軍はティシュリーン・ダムを制圧、フーフラテス川以西に進軍を開始した。

また、シリア民主軍が米軍の支援を受けて、ユーフラテス川西部に位置するダーイシュの拠点都市の一つマンビジュ市の攻略をめざす一方、シリア軍はロシア軍の支援を受けてアレッポ市東部のクワイリス軍事飛行場一帯から同じく、バーブ市やマンビジュ市方面に進軍を続けけている。

シリア軍、シリア民主軍、ロシア、そして米国は、それぞれの利害は異なってはいるが、アレッポ県でのダーイシュとの戦いにおいて戦略的パートナー関係を強化していると言える。

シリア地図(筆者作成)
シリア地図(筆者作成)

2.シリア軍がロシア軍との連携のもと各地でダーイシュ、ヌスラ戦線などへの攻勢を続ける

シリア軍がロシア軍との連携のもと、ダーイシュ(イスラーム国)、シャームの民のヌスラ戦線、シャーム自由人イスラーム運動、イスラーム軍の支配地域への空爆や攻撃を続け、支配地域を拡大した。

ダーイシュとの戦いにおいて、シリア軍は、ヒムス県中部、アレッポ県東部、ダイル・ザウル県で攻勢を続け、ヒムス県カルヤタイン市近郊の大マヒーン山、小マヒーン山などマヒーン町一帯およびハドス村、フワーリーン村を再制圧した。

また、ダーイシュ以外の反体制武装集団との戦いにおいて、シリア軍は、アレッポ市南部、ラタキア県北部、イドリブ県、ハマー県で、ヌスラ戦線、トルコマン・イスラーム党、シャーム自由人イスラーム運動、ジュンド・アクサー機構などと交戦し、アレッポ市ラーシディーン地区南部の丘陵地帯に到達したほか、ラタキア県北部のヌーバ山、ブルジュ・カスブ村を制圧、またハマー県北部でも10余りの村を奪還した。

一方、ヌスラ戦線、イスラーム軍、シャーム自由人イスラーム運動などが共闘するダマスカス郊外県では、ムウダミーヤト・シャーム市への包囲を強めたシリア軍が同市攻撃に際して化学兵器を使用したとの報道が飛び交った。

またマルジュ・スルターン村一帯では、合同作戦司令室を結成したスラ戦線、イスラーム軍、シャーム自由人イスラーム運動が、シリア軍と一進一退の攻防を続けたが、25日、イスラーム軍の司令官ザフラーン・アッルーシュ氏が空爆によって死亡した。

この空爆に関して、シリア軍は自らの特殊作戦によって殺害したと発表したが、ヌスラ戦線、シリア国民連合(シリア革命反体制勢力国民連立)などはこぞってロシアの空爆だと断じ、非難した。

シリア軍とロシア軍の攻勢は、これにとどまらずイスラエル領に近いダルアー県、クナイトラ県にも拡大、シリア軍はダルアー県のシャイフ・マスキーン市北部地区、周辺一帯、クナイトラ県西サムダーニーヤ村を、ヌスラ戦線などからなる反体制武装集団との戦闘の末に制圧した。

3.シリア政府との停戦合意に従い、ダーイシュ、ヌスラ戦線のメンバーらの退去が相次ぐ

シリア軍とロシア軍による攻勢を受け、各地でシリア政府と、ダーイシュ(イスラーム国)、シャームの民のヌスラ戦線、そしてその他の反体制武装集団が停戦合意を結び、戦闘員の退去や「捕虜交換」を行った。

首都ダマスカス県では、ヤルムーク区(パレスチナ難民キャンプ一帯)やカダム区で籠城を続けてきたダーイシュやヌスラ戦線のメンバーおよびその家族ら約3,500人の退去にかかる停戦合意がシリア政府との間で交わされた。

複数の信頼できる消息筋によると、合意は、(1)カダム区に籠城していたダーイシュ・メンバーの負傷者の搬送、(2)ダーイシュ・メンバーの家族およびカダム区からの退去を望む住民の移送、(3)ヤルムーク・パレスチナ難民キャンプ、カダム区、ハジャル・アスワド市などダマスカス県南部で籠城するダーイシュのメンバーのダマスカス郊外県東部のビール・カスブ区、ラッカ市、あるいはヒムス県中部(タドムル市方面)への移送、という3段階からなり、ダーイシュのメンバー約2,000人、ヌスラ戦線などのメンバー約1,500人が退去を希望した。

イドリブ県では、イズラア市一帯で活動していたヌスラ戦線メンバー約210人のイドリブ県への退去と、ヌスラ戦線が拘束中のイラン軍士官3人の「捕虜交換」を骨子とする停戦合意が成立、ヌスラ戦線メンバーらがシリア政府の用意した大型バスで退去を開始した。

ダマスカス郊外県のバラダー渓谷地方では、シリア政府と地元の武装集団が停戦に合意、シリア軍は130日ぶりにバスィーマ町・アシュラフィーヤ・ワーディー町間の街道を開放し、封鎖を解除、また地元の武装集団もダマスカス県への水道供給を再開した。

そして、9月にイランの仲介により発効していたダマスカス郊外県ザバダーニー市一帯およびイドリブ県フーア市・カファルヤー町一帯でのシリア軍とシャーム自由人イスラーム運動などからなる反体制武装集団との停戦合意の履行においても進展が見られ、ザバダーニー市で籠城を続けていた反体制武装集団戦闘員ら126人が、救急車22台と大型旅客バス7台に分乗し、レバノン領内に退去した。

退去したのは、負傷した戦闘員とその家族らで、大型旅客バスは、ジュダイダト・ヤーブース国境通過所を経由してレバノン領内に入国、その後ベイルート国際空港から航空機でトルコ領内に移動し、最終的にはバーブ・ハワー国境通過所を通ってイドリブ県内のヌスラ戦線などの支配地域に入った。

また、イドリブ県フーア市、カファルヤー町で籠城を続けていた地元住民、国防隊、人民諸委員会隊員約363人も、イドリブ県のバーブ・ハワー国境通過所を経由してトルコに移動し、その後トルコのハタイ空港から空路でベイルートに向かった。

4.シリア政府と反体制派統一代表団の交渉に向けた動きが本格化

シリア紛争の解決に向けた停戦プロセスと政治移行プロセス、そして「テロとの戦い」を定めた国連安保理決議第2254号の採択を受け、シリア国内外の紛争当事者がシリア政府と反体制派の交渉に向けた動きを本格化させた。

シリア政府は、ワリード・ムアッリム外務大街居住者大臣を中国の北京に派遣し、国連安保理決議第2254号が定めた政治移行プロセスを受諾し、反体制派との交渉の意思を表明した。

またシリア国内で活動する反体制政治連合組織の民主的変革諸勢力国民調整委員会は、ハサカ県カーミシュリー市(シリア政府と西クルディスタン移行期民政局が分割統治)を訪問し、西クルディスタン移行期民政局の幹部らと会談、同民政局の反体制派統一代表団入りに異議を唱えるトルコやサウジアラビアを牽制した。

これに対して、サウジアラビアとトルコはリヤドで首脳会談を行い、対応を協議する一方(具体的な内容は不明)、これら2カ国とともにジハード主義武装集団を積極支援してきたカタールは、ロシアとの外相会談で自らが支援する組織を「テロ組織」に認定使用とするロシアの動きに反発、ISSG(国際シリア連絡グループ)が作成準備を進めている「テロ組織」のリスト作成そのものに拒否の姿勢を示した。

サウジアラビアの主催のもとリヤドで開催された反体制派合同会合で設置された統一代表団人選のための最高交渉委員会をめぐっては、シャームの民のヌスラ戦線が、シリア政府との交渉に応じた「自由シリア軍」の「粛清」を決定、イドリブ県やアレッポ県で共闘関係にあった「穏健な反体制派」の第13師団の拠点を急襲するという強硬手段に訴えた。

こうした動きに対して、アル=カーイダ系組織でありながら、イスラーム軍とともに合同会議に参加したシャーム自由人イスラーム運動が、ヌスラ戦線と第13師団を仲裁し、対立の回避に尽力した。

また、1月初めに開催予定の最高交渉委員会に参加しようとダマスカスを発った民主的変革諸勢力国民調整委員会のメンバー2人がレバノン国境でシリア治安当局に一時身柄を拘束された。

なお、シリア紛争解決に向けたプロセスを主導するスタファン・デミストゥラ・シリア問題担当国連アラブ連盟共同特別代表は、シリア政府と反体制派統一代表による交渉を2016年1月25日、スイスのジュネーブで開催すると発表した。

5.シリアでの「テロとの戦い」で孤立感を深めるトルコはシリア領内に部隊を進駐

ロシアと米国が、アレッポ県でのダーイシュ(イスラーム国)、シャームの民のヌスラ戦線に対する「テロとの戦い」や、YPG主導のシリア民主軍への支援において連携を強めるなか、孤立感を深めるトルコは、ハサカ県のマアバダ町近郊、ジュワーディーヤ村北部に幾度となくトルコ軍部隊を侵入させ、領土・領空を侵犯、部隊の一部をシリア領内に進駐させた。

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本稿は、2015年12月下旬のシリア情勢を踏まえて執筆したものです。 主な記事はこちらを参照ください。

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東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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