番組制作者は「女同士のバトル」がお好き? ミソジニーまみれの女性専用車両バッシング
1月15日、ツイッターの「日本のトレンド」に「あぶらとり紙」が載りました。突如現れた「あぶらとり紙」というキーワード。これは一体、何を意味しているのでしょう。
「あぶらとり紙」についてツイートしているのは主に女性。拡散されているのは次のような内容です。
ことの発端となったのは、ニュースサイト「Jタウンネット」の記事。
このサイトでは、昨年末に「女性専用車両のすぐ隣の車両に乗車する女性に嘆いている」男性のメールを紹介する記事を出し、
というコメントも掲載しています。
女性専用車両にはあぶらとり紙が散乱しているって……?
Jタウンネットは年が明けてからさらに、「女性専用車両に乗りたくない女性」の存在を指摘する記事を掲載。この記事の中で、大阪府在住女性(年齢不詳)からの下記のようなコメントが紹介されていました。
個人的には、女性専用車両で香水や化粧の匂いが気になったことはありません。ただ、匂いへの敏感さは個人差があるので、人によっては気になる人もいるのかもしれないと思います。
一方で、多くの女性がツイッター上で疑問を示したのが「あぶらとり紙」について。
引用したコメントにもある通り、最近はメイク用品が進化し、昔ほどあぶらとり紙は使われなくなりました。
あぶらとり紙含め、女性専用車両にゴミが散乱している…と言われてもあまりピンと来ません。まだティッシュの散乱の方が現実的に思いますが、それでは「女性専用車両に特有のこと」にならないから、わざわざあぶらとり紙ということにしたのかなという印象を受けます。
ツイッター上での記事への批判は、このような違和感に基づいているように思います。
ネット記事をワイドショーがこぞって後追い
さらに、このネット記事を参考にしたと思われる企画が、テレビのワイドショーなどで相次ぎました。
- 1月13日放送の「モーニングショー」(テレビ朝日)
- 1月15日放送の「グッとラック!」(TBS)
- 1月15日放送の「Nスタ」(TBS)
それぞれの番組が「女性専用車両に乗らない女性がいる」ことを取りあげました。「グッとラック!」は直接確認できていませんが、「モーニングショー」と「Nスタ」では冒頭で、Jタウンネットと思われるネットニュースがきっかけであると説明されていました。
これらの番組も、ツイッター上ではさまざまに批判されています。
以下、「モーニングショー」と「Nスタ」を見た個人的な感想を書いてみたいと思います。
「端っこにあるので利用しづらい」、妥当な意見はさくっとスルー
モーニングショーでは、冒頭から「何人たりとも自分のスペースには入らせない。まさに戦場と化しているのが女性専用車両」と紹介。「女性専用車両に乗りたくないという女性が増えている?」というナレーションもありました。
こういった番組の煽りではよくあることですが、「増えている」ような印象を与えながら、結局番組の最後まで、実際に昔と比べて増えているのかどうかについての検証はありません。
専用車両に乗らない女性の理由についてのまとめとして、
(1)車両が端っこにあるので利用しづらい(30代会社員)
(2)「お前は痴漢にあわないだろう」と他の人に思われたら恥ずかしい(30代主婦)
という2つの意見を紹介。この2つは、私は納得できる意見です。
(1)については、この説明の前からコメンテーターの女性が同じ意見を述べていましたが軽く触れられた程度でした。気になったのは、続く(2)についての男性出演者らの反応です。
男性出演者らは一瞬コメントの意味がわからなかったらしく、「もう恋なんてしないなんて言わないよ絶対」みたいな二重否定だと茶化します。
そして、「痴漢に遭わないようなタイプに見えるのに女性専用車両に乗っている自意識過剰な女だと思われたら恥ずかしい」という意味だと理解すると、「女性からそう思われるってこと?」と、女性同士での牽制だということにしてしまいます。
「女性専用車両はブスばかり」の風潮には触れず
ネットをよく使う人であれば、もう10年ほど前から女性専用車両に関するひどい4コマが拡散されているのを目にしたことがあるのではないでしょうか。
女性専用車両について一般の女性たちにその感想を聞くニュース映像を切り取ったもので、「女性専用車両は安心」と答えた女性たちと、「私は別にどこでもいいです」と答えた女性の年齢や外見を比べたものです。
女性専用車両を使う女性は自意識過剰であると言うための内容です。
この画像の存在を知らなかったとしても、2015年には松本人志さんがワイドショーで「すごいブスがいっぱい乗ってるんでしょ、女性専用車両って」と発言し、物議を醸しています。
ちなみに私が2015年頃から痴漢を含む性暴力の取材を始めたきっかけは、「女性専用車両が必要と答えた60代女性が7割いる」という調査結果について男性ライターが「痴漢も人を選ぶと思いますけどね」と書いたネット記事を見て、心から悲しく感じたからです。
女性専用車両に乗る女性に向けて、そのような嘲笑が浴びせられることがある。番組の出演者はこのような背景をまったく知らなかったのでしょうか。そうであるとすれば、彼らが女性専用車両についてまず知らなければならないのは、このことなのでは……?
「女性は新作のマイナーチェンジに目を光らせている」という説明
このあと、「女性ばかりだから? こんな問題も」と、追加で「女性専用車両の問題点」が紹介されます。その内容は、
(1)前に立っている女性のファーやポニーテールが顔にかかる
(2)ヒールの人が多いので揺れに耐えられず次々もたれかかってくる
(3)持ち物のブランドかぶりでマウントの奪い合いが始まる
(4)周囲の視線を気にせずスマホに没頭
こちらはどんな人がこうコメントしたのかは紹介されておらず、その代わりにイラスト付きで面白おかしく紹介されていました。
(1)(4)は女性専用車両に限った話ではないでしょう。(2)は、もしそうだったとして、一体どうしろと言うのでしょうか。
(3)にいたってはさすがに呆れます。番組制作者は、本気でこれが女性専用車両の日常だと思っているのでしょうか。ごく一部の意見を誇張して取り上げていないでしょうか?
男性司会者は(3)について、「私のは新作であなたは旧作など、女性は新作のマイナーチェンジに目を光らせている」から、同じブランド品を身につけている女性同士でマウンティングが始まると説明していました。動物園か何かだと勘違いしていますか?
「男性の目がないから周囲の視線を気にせずスマホに没頭」といった説明もありましたが、普通車両でもスマホに没頭している女性たちの存在を番組関係者は目にしたことがないのでしょうか。
男性も電車内でスマホに没頭していますが、それも悪いことなのでしょうか。
「端っこにあるから利用しづらい」という合理的なコメントをさくっとスルーし、「自意識過剰だと思われそう」という意見を「女性同士の話」と決めつけ、マウンティング合戦のような摩訶不思議な内容を取り上げてゲラゲラ笑う。随分と品が良い番組だと思います。
女性アナに「加齢臭車両に乗ってくれる?」
私が見ていて最もツラかったのは、このコーナーの最後です。
女性専用車両に乗りたくない女性へ共感を示す女性アナウンサーに対し、男性出演者らが「じゃあ加齢臭車両も乗ってくれる?」「(普通車両に)いらっしゃい」と言います。
こういう若い女性への「イジリ」、よくありますよね……。
女性アナウンサーが愛想笑いをしていると、今度は「(普通車両に)乗らないほうがいいよ」「斉藤さんは乗らなくていい」「結果、女性専用車両をおすすめしたい」と言う男性出演者たち。
女性の口から女性専用車両の「問題点」を語らせ、利用しづらさの原因は女性たちの行動にあるという流れを作り、番組の趣旨に合わせて共感を示した女性アナウンサーをいったんからかってから、「あなたは普通車両に乗らなくていいよ」と「許可」を与える。
今年も1月からとんでもないものを見たなと思いました。テレ朝さん、大丈夫ですか。
性被害防止ではなく、マナー問題で議論しようとする不思議
残念ながら「グッとラック!」の放送は直接確認できていませんが、放送内容を紹介した記事によれば、「モーニングショー」と同じようなトーンで女性専用車両を扱ったものの、若林有子アナウンサーが、
などと語ったそうです。いいね! 応援します。番組の企画は似たようなものでも、このようなコメントが入るかどうかは大きな違いだと思います。
ちなみに私の知人の性暴力の被害者支援関係者は、「グッとラック!」から電話取材を受け、
「(女性専用車両は)痴漢問題に対して、加害者を取り締まるわけではないので根本的な解決策ではない」
「しかし、被害に苦しんでいる女性たちにとっては、安心して通勤通学できる場となっている」
と伝えたそうですが、放送では紹介されなかったようです。
私も知人と同意見です。イギリスでは、女性専用車両の導入が検討されたときに「根本的な解決策ではない」「被害者を隔離する策であり女性への侮辱である」ことから反対意見が上がったと聞いたことがあります。
本来では、被害者を守り、性犯罪の根絶につなげる観点から議論されるべき話が女性のマナーの問題にすり替わり、面白おかしく脚色されて消費される。日本は周回遅れどころか異次元なまでにレベルの低い話をしていると感じます。
女性専用車両に乗る女性をバッシングし、乗りづらい風潮を作るかのような報道をしないでほしい。性被害への無関心や無知を感じるこのような報道が相次ぐ日本では、まだ女性専用車両は必要なように思います。
8割が「女性専用車両を利用する」結果は控えめに紹介
「Nスタ」の放送は、街頭での女性たちへのインタビューがメインでした。ここでも、香水の匂いや化粧、について次々と女性の口から問題が語られて、ご丁寧に「周囲に女性しかいないからでしょうか。行動が大胆になってしまうようです」とナレーション。
紹介される街頭インタビューの8割近くが「女性専用車両に乗らない」「女性専用車両で女性のマナーが悪い」という話でしたが、あとで紹介された結果によれば、50人にインタビューして40人が「女性専用車両を利用する」と答えたそう。
それではなぜ、批判的な意見が多かったかのように取り上げるのか。
また、番組内では1988年の「地下鉄御堂筋線事件」で気運が高まり、2000年以降の「女性専用車両導入につながった」と紹介されていました。
「地下鉄御堂筋線事件」については以前記事を書いたことがありますが、この事件がきっかけで女性専用車両が導入されたとは聞いたことがありません。
1988年の事件をきっかけに12年後の2000年の導入につながったというのは、いくら性被害の対応が遅い国といっても無理がありませんか。「気運が高まり」という表現は曖昧なので大まかな意味で言えば合っているのかもしれませんが、雑だなと感じました。
むしろ、2000年頃の痴漢冤罪報道をきっかけに女性専用車両の導入が決まったという説もあります。※『女性専用車両の社会学』(堀井光俊/2009年)
手垢のついた女性専用車両バッシング企画
昨年末に発売された『痴漢とはなにか 被害と冤罪をめぐる社会学』(牧野雅子/エトセトラブックス)では、1990年代までは痴漢をするノウハウなどを娯楽のように紹介していたメディアが、2000年頃を機に痴漢冤罪報道や女性専用車両バッシングに移行した流れが紹介されています。
『痴漢とはなにか』で紹介されている女性専用車両バッシングの一例は、たとえば次のようなものです。
- 「東京 大阪 本誌記者が見た! 『女性専用車両』の馬鹿っ女たち!」(『女性自身』2003年2月4日)
- 「同乗ルポ『女性専用車両はオンナの無法地帯 大開脚に香水地獄』」(『週刊文春』2005年5月26日)
- 「ミッション『都内全ての女性専用車両を制覇せよ』本誌女性編集者『電車女』奮闘記――化粧・爆睡・開脚座りの偽らざる実態」(『現代』2005年9月)
- 「本誌女性記者が乗って見た! 『女性専用車』仰天の品格」(『週刊ポスト』2007年2月9日)
- 「新ダカーポ探検隊 女性専用車両はエゴ丸出し動物園状態!?」(『ダカーポ』2007年3月21日)
- 「凄いことになっている『女性専用車両』の秘密」(『週刊新潮』2008年9月11日)
これを見る限り、女性専用車両は香水臭い!などというのは、手垢がついたネタなんじゃないでしょうか。
個人的には、女性専用車両で不快な思いをしたことがありません。普通の女性が静かに車両に乗っている光景を見ています。
『痴漢とはなにか』で過去の歴史として勉強したばかりのメディアによる執拗な女性専用車両バッシングを、2020年の始めからリアルタイムで観察できるとは思いませんでした。
「モーニングショー」や「Nスタ」の放送で気になったのは、「女は女同士で争う」「女は男のいないところでは気を抜いてはしたない行動をする」といった、典型的なミソジニー(女性嫌悪)が繰り返されていることです。
こういったミソジニーはこれまでずっと女性に向けられてきた偏見であるというのは、繰り返し言っていきたいなと思います。
「モーニングショー」などへの批判から、ツイッターではハッシュタグ「#女性専用車両は必要です」の投稿が急増していますが、これを取り上げる局はあるのでしょうか。
国会図書館などで保管される紙媒体と違い、映像メディアは過去のものになると検証しづらくなります。テレビ番組でのやりっ放しを許さないために、おかしいと感じたときはすぐに反応することが必要だとも思っています。
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