5月24日に法案成立した確定拠出年金法の大改正について速報記事をアップしました。

本日午後1時、抜本的法改正成立!最速で確定拠出年金改正の重要ポイントを解説

翌日25日には、個人にとっての改正ポイントを追加でアップしています。

2500万人に朗報!最高に有利な資産形成枠が誕生する

今回、解説したいのは、すでに運用を行っている550万人の10兆円の資産にも影響が出てくる法律改正の内容です。そして、この改正のいくつかはすでに説明済みの個人型の確定拠出年金にも影響を及ぼします。

金融庁も驚くような厚生労働省の「攻め」の法律改正

今回の法律改正が面白いのは、確定拠出年金という厚生労働省所管の法律でありながら、金融庁も驚くような攻めの姿勢で改正をしてきているところです。

アメリカやイギリスの企業年金トレンドをよく吸収し、行動ファイナンスの成果やパターナリズムのアプローチを取り入れてきています。

これは簡単にいえば「投資について教えることも大事だが、ベターな選択肢になるようゆるやかに誘導してしまったほうがいい」ということです。もちろんそのセットとして「金融機関が自分だけ得するような誘導を行わないよう、縛るところは縛る」という工夫もしてきています。

金融庁がなかなかできないことを、労働者を守る視点から厚生労働省が踏み込んできたともいえます。ではポイントを紹介していきましょう。

企業の確定拠出年金担当者、労働組合の役員は要チェックしたい9つのポイント

1.金融商品の選択肢を一定本数以下に抑える

行動ファイナンスの研究成果では、選択肢があまりにも多いと人は思考停止し保守的な投資行動を取るとされます。確定拠出年金の商品数は平均16~20本くらいですが、30本以上の会社もあります。

これについて一定本数を上限にし、金融機関の都合で本数ばかり増えるようなことがないよう歯止めをかけます。上限本数はこのあと別途定めます。

また、定期預金等の安全性のある資産を最低1本は採用せよという義務が削除されたり(採用することは問題ない)、分散投資に適した商品リストを提示するような義務が加えられます。

これにより、会社は社員に提示する商品について厳選をする必要と、「商品の目利き」をする能力が必要になってきます。

金融機関にいわれるがままに商品リストを増やす、というわけにはいかなくなるわけです。

2.一定の手続きにより金融商品を除外できる条件整備

運用商品の本数上限を設定するということは、多すぎる商品や不適当な商品を削ることも必要です。今までは所有者全員の同意が必要なのにリストは個人情報保護の関係で会社は入手できないなど、実質的に除外不可能となっていました。

これについて、3分の2の同意(一定期間後未回答の場合、同意とみなす)で除外ができることになります。

これもまた、「どれを除外するのか」「どうして除外するのか」理由をはっきりさせないといけません。運用成績は冴えない投資信託が金融機関の意向で「残留」するのは大問題です。会社の判断は重大ということになります。

3.社員が運用未指図の場合、投資商品を自動購入させることができる仕組み

これも行動ファイナンスの知見を活かした改正ですが、「行動できない個人をベターな選択肢に導く」という観点から、投資についてよくわからない人が何も行動を起こさなかった場合、一定の経過期間と通知をもって、分散投資された投資商品を自動購入したことにできます。

これにより、投資について詳しくない場合でも、定期預金に塩漬けにしインフレにも負けては実質的な目減りになるような事態を回避することができるというわけです。

このアプローチはアメリカの401kプランやイギリスのNESTなどで採用されていますが、世界的なトレンドを取り込んだというチャレンジングな取り組みです。

もちろん、どの商品を自動的に買わせるのか、会社の「目利き」も問われることになります。

4.中小企業が確定拠出年金を活用しやすくする環境整備

確定拠出年金というと大企業の実施する制度というイメージがありますが、実際には8割が中小企業とされます。しかし、企業数でいえば99%が中小企業ですから、普及の余地はまだまだあります。しかも中小企業の退職金・企業年金実施率は低下の傾向にあります。

今回は2つのアプローチで中小企業向け規制緩和をします。1つは、役所へ提出する書類を簡略化し、制度設計も単純な制度を作る方法です。

もう1つは、社員に個人型の確定拠出年金に入ってもらい、会社のお金をそこに追加入金し、企業年金的な仕組みを作る、というものです。いずれも社員数が100人以下の中小企業の選択肢となります。

5.掛金を年単位でやりくりできる緩和

現在の確定拠出年金制度は「月単位」で同額の掛金を出し続けなければなりません。これを「年単位」での管理でよいとする規制緩和です。

具体的には「ボーナス月の増額」が考えられます。本人がマッチング拠出をしたり個人型確定拠出年金に入る場合も、毎月の積み立てとボーナス月の増額が併用できれば、利便性は大きく向上します。

6.制度変更が容易に(中退共から確定拠出年金への変更と資産の引き継ぎを可能にするなど)

退職金・企業年金制度はしばしば会社の都合で変更されますが、このとき法律の制限により資産を新制度に引き継げないとしたら、これはムダな規制です。

今回、会社の都合による制度変更(合併や吸収など)であったり、個人の都合により制度を移る場合に、資産を引き継げる規制緩和が行われます。

60歳になるまで、資産を積み上げ続けるチャンスが高まります。

7.会社は投資教育を継続的に行うべきことの明確化

確定拠出年金では社員が自己責任で投資をする、といってもその研修機会を会社は与えるべきです。今までの制度では会社が管理と運用を行い、最後の支払額を耳をそろえて支払っていたのですから、研修を実施するのは当然のことです。

しかし継続的な投資教育実施率はあまり高くありません。5年以上たっているのに制度発足時以外研修を行っていない会社が3割ほどあるとされます。150万人以上が研修チャンスがないとしたらこれは恐ろしいことです。

今回の法律改正では継続教育の義務について表現を強め、企業の実施を促しています。教育未実施の会社にプレッシャーをかけているというわけです。

8.会社は金融機関の評価を行い、適宜見直すべきことの明確化

ビジネスは競争があって進化しますが、確定拠出年金では最初の受託時の競争だけでその後はあまり競争が進んでいないのが現状です。一部の金融機関ではサービスが劣後しているともいわれます。

そこで、会社が金融機関の業務評価を行い、改善の要求をしたり、改善期待がない場合は他社への委託切り替えをするよう求める改正が行われました。5年に一度は行うことが盛り込まれています。

ただし努力義務規定でスタートするので未実施でも罰則がないのは残念なところです。

9.企業の投資教育委託先として企業年金連合会が選択肢に

大企業と中小企業を比較すると、継続的な投資教育の実施率に明確な差があります。もちろん中小企業の実施率が低いのです。これは労働組合のリクエストの有無とも関連していると思われます。

投資教育の重要性が企業規模で差があるわけではありませんので、中小企業が投資教育を受けやすくなるよう、企業年金連合会(厚生労働省系の関連団体)が行う業務として投資教育が追加されます。法改正の議論に際しては中小企業が対象と想定されているようです。

今回の法改正の「裏テーマ」 ~企業の担当者は社員のための最善を尽くす必要/労働組合の役員は会社に要求していく必要があること

今回、長めに解説していますが、実務的にはもっと長めに解説する必要があります(筆者の専門分野ですが最低2時間は講演したいところです)。それくらいややこしい内容が含まれています。

あえて簡単にいえば「550万人の企業型確定拠出年金加入者に多くの影響がある」ということです(一部改正は、個人型の確定拠出年金にも影響します)。資産額は10兆円弱ですから、金額的にも大きな影響があります。

しかし、ややこしいせいもあってか、ほとんどニュースには紹介されていません。ニュースをしっかり読んでいる人であっても、「公務員や自営業者が確定拠出年金に入れる改正」と思っていたのではないでしょうか。

誰でも確定拠出年金に入れる、というのが今回の法改正の「表テーマ」だとしたら、今回紹介した改正が求めているのは「裏テーマ」です。

それはつまり「確定拠出年金を採用した会社は社員のためのベストな制度運営をきちんとしろ」という本来当たり前のメッセージです。金融機関の儲けや取引関係ではなく、あくまで社員を第一に考え行動しろ、ということです(忠実義務)。

そのためには、金融機関にお任せ気分でいた企業の担当者は襟を正す必要があります。人事系の専門誌などでも解説がされるでしょうから勉強していただきたいですし(私も数誌書く予定です)、企業年金連合会や金融機関の行うセミナーなども利用し情報収集してほしいと思います。

また、労働組合の担当者は適宜会社にリクエストしたり、会社の取り組みを監督するような、いい意味での緊張関係を作る必要があります。社員に自己責任を押しつけた悪い制度だと無視を決め込む労働組合もあるようですが、本当の社員の利益を考えればきちんと勉強し、直視してほしいと思います。

――法律改正から3日で一気に1万文字くらい書いたので、粗い表現のところもあったかもしれませんが、雑誌よりも早く、ニュースにもまだ触れられていない情報も届けられたのではないかなと思います。