政府与党が来週にも安保法制を採決しようとする中で、これに反対する人々のデモも活発化すること予想される。こうした議論を呼びそうなのが、デモ参加者数の実数だろう。先月30日の国会包囲デモの参加人数は主催者である「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動」の発表では「12万人」だが、警察発表では「3万3000人」とされている。また、産経新聞は、共同通信の空撮写真から国会前の人数を試算、「3万2000人程度」と報じた。果たしてどの数字が確かなのか。

◯報道機関として恥ずべき産経新聞の杜撰な試算

まず、言えることは、産経新聞の試算は論外だ。空撮写真から割り出すという手法は、一見、正確そうだが、現場で取材していないがゆえの杜撰さが目立つ。筆者は現場で取材していたが、数百人単位、あるいは1000人単位で、参加者は常時入れ替わっていた。その場にいた知人は「初詣みたいだ」と言っていたが、現場の雰囲気をよく伝える喩えだろう。初詣の参拝人数を空撮写真で調べたり、神社の境内の面積から割り出したりはしない。むしろ、1日ののべ人数で計算するだろう。空撮写真から人数を割り出す手法の問題点はそれだけではない。産経新聞が試算に使用したのは、共同通信が空撮した国会正門前の写真1枚だけだが、30日に人々が集まったのは国会正門前だけではない。「国会包囲」というだけあって、日比谷公園や、永田町駅、霞ヶ関駅周辺など、6ヶ所の街宣を行う「ステージ」があり、2ヶ所の「肖像権保障エリア」があった。つまり、少なくとも8ヶ所の集合地点があったわけだが、その周辺の歩道も抗議する人々で埋め尽くされていたのである。国会正門前は、これらの集合地点のメインではあったが、8つある集合地点の一つにすぎなかったのである。しかも、国会正門前と同じように他の集合地点やその周辺でも、常時、人々が入れ替わり立ち替わりで来ていた。つまり、産経新聞の試算は、全体の中の一部分だけを切り取った、不完全なものにすぎない。他社の写真、それも1枚だけを参考にし、現場取材をおろそかにするとは、報道機関として恥ずかしい限りだろう

主催者による国会包囲デモのマップ
主催者による国会包囲デモのマップ

◯警察発表も「あくまでも特定エリアの一時点の人数」

ただ、逆に言えば、全体の中のひとつのポイント、しかも一瞬だけをカウントして「3万2000人」なのだから、産経新聞の試算は、実際には3万人程度ではない規模で人々が安保法制反対の声をあげに集まってきたことを証明したとも言える。このことが意味するのは、産経新聞の試算とほぼ同数の警察発表による「3万3000人」の信ぴょう性が疑われる、ということだ。警察発表の「デモ参加者数」は、毎度、主催者発表の「デモ参加者数」とは開きがある。それは、果たして主催者が「デモ参加者数を多めに水増ししている」ということなのだろうか?警察側が「デモ参加者数を過小発表している」という可能性はないのか?少なくとも、当日、警察側の予想をはるかに越える人数の人々が集まってきたことは確かであろう。正門前道路に警察側は鉄柵を設置、車道に人が溢れないようにしていたが、これについて、主催者側は前々から「10万人規模の参加者数が来たら、車道を解放しないと危険だ」と訴えてきた。警察側はこれを無視し、当日も鉄柵が国会正門前に張り巡らされていたが、実際には膨れ上がった参加者数を前に、車道を解放せざる得ない状況となったのは、空撮写真を観ての通りだ。後日、主催者側は、30日の警察の警備について、「あらかじめ警備が考えた机上のプランを、現場に合わせて人命優先で判断することのできない硬直した警備体制は危険で有害である」と批判、改善を促している。これらの状況から出てくる疑問は、「3万3000人」という数字は、あらかじめ警察側が想定していた参加者数ではないか、ということだ。つまり、3万人程度を予想して警備体制をしいたが、予想をはるかに上回る人数が集まってきた。しかし、主催者側のいう「12万人」を認めてしまうと、参加者数見込みの甘さと当日の警備体制の不備を追及されるので、「3万3000人」という数字をマスコミ側にリークした、ということではないか。警察発表のデモ参加者数については、今月10日の国会質疑で民主党の藤田幸久参院議員がその根拠を質問、これに対し、警察庁の斉藤実審議官は「(警察は)全体の参加者の数を発表する立場にない」「あくまでも特定エリアの一時点の人数把握に努めている」と答弁。警察発表が、実際のデモ参加者のそれに比べ少ないだろうことが、よりはっきりしてきた。

◯周辺地下鉄4駅の利用者は通常に比べ7万以上多かった!

では、実際のところ先月30日のデモ参加者数は、何人だったのか。人数および開催された地域の広さが大きいため、正確な数字は誰にもわからないのだろうが、興味深い調査を行っている人がいる。生活の党東京都第10区総支部長である多ケ谷亮氏は、国会周囲の地下鉄4駅の改札から出た人数について、デモが行われた30日と、デモが行われなかった先月16日とを、東京メトロに問い合わせて検証。その結果をブログで公表している(関連情報)。それによると、国会議事堂前駅、永田町駅、霞ヶ関駅、溜池山王駅の4駅で30日に改札出た人数は16日のそれと比較して7万2189人多いとのこと。さらに、「駅職員に聞いたところ雨の日には地下鉄利用者が1割強減るとのことで、データを最終的に通常の改札出た方の1割くらいのプラスをする」ということで、2000人を上乗せし、30日の4駅の降車人数は、デモの無かった16日と比べ、7万4189人多かった、としている。また、赤坂見附駅、桜田門駅は多賀谷氏が開示を求めたにもかかわらずデータ開示しなかったことや、多賀谷氏の調査には含まれない、東京メトロ・日比谷駅、同・赤坂駅、都営線・内幸町駅、JR新橋駅からの参加、バスや自動車、自転車等での参加も考えられる。主催者が当日に用意した10万枚のチラシが全てくばりきられた上、チラシを受け取れなかった参加者達もいることから観ても、「12万人」という数字は誇張ではなく、実際に10万人規模であったと見るべきなのだろう。

◯今週末からは毎日デモ

先月30日に国会包囲デモを呼びかけた「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動」も、来週末まで、ほぼ毎日国会前での抗議行動を行う予定だ。各メディアで注目を浴びる学生団体SEALDsも今日金曜日の夕方に国会前行動を行う他、来週月曜日の夕方にも大規模行動を呼びかけている。メディアはやるべきことは、いい加減な手法や情報でデモを過小評価することではなく、安保法制に対する人々の懸念や憤りを、そのまま報じることだろう。