安倍政権がゴールデンウィーク後にも国会に提出しようとしている安保法制関連法。その内容は、一言で言えば「売国法制」、あるいは「戦争法案」。日本を守るためではなく、米国の戦争に日本を巻き込み、自衛隊員のみならず、一般市民にまでもリスクを負わせうるものだ。

安保法制関連法案の具体的な内容は、自民、公明両党が先月20日に合意した共同文書「安全保障法制整備の具体的な方向性について」にそったものになると観られる。これによれば、昨年夏に問題となった集団的自衛権の行使を可能とするだけでなく、米軍他多国籍軍への後方支援、国連が統括しない紛争地での治安維持活動への参加なども可能とするという。

安倍首相は、安保法制が「戦争法案」であると国会で批判を受けていることについて、「レッテル貼り、無責任な批判は避けるべきだ」「デマゴギー」(先月20日の参院予算委員会)と不快感をあらわにしている。だが、米国がイラク戦争など国連憲章や国際人道法などを無視した戦争を行ってきたことや、第一次安倍政権をふくめた自民党政権が、イラク戦争を支持・支援してきたことから考えれば、当然の批判だろう。

○虐殺や虐待の支援も「後方支援」となるのか?

米軍により壊滅的被害を被ったイラク西部の都市ファルージャ
米軍により壊滅的被害を被ったイラク西部の都市ファルージャ

安倍政権は、安保法制の一環として、米軍他、他国軍への補給や人員・物資の輸送のための自衛隊海外派遣を恒久法で制定するとしている。だが、それは国際人道法違反の戦争犯罪の片棒を日本が担ぐことになりはしないか。イラク戦争での自衛隊イラク派遣では、航空自衛隊は米軍の兵士や物資を輸送していたが、問題は当時、米軍が何をしてきたのかについて、現在に至るまで批判的な検証が行われていないことだ。イラク戦争において、米軍が行ってきたことは、正に戦争犯罪のオンパレードである。

  • クラスター爆弾や白リン弾などの非人道的兵器の使用、劣化ウラン弾等による放射能汚染の拡大
  • ファルージャやラマディ等の都市を包囲しての無差別攻撃、それにともなう集団虐殺、住宅や学校など民間施設の大規模な破壊、女性や子どもなどの民間人を狙撃、病院や救急車への攻撃
  • 不確かな情報による令状なしの拘束および収容所での性的含む拷問や虐待と致死
  • 家宅捜索を行ったイラク人家族の集団殺傷
  • イラク人女性や少女への性的暴行
  • 報道関係者の不当逮捕や殺傷

これらは全て、国際法や国際人道法に違反する戦争犯罪だ。つまり、航空自衛隊は、これらの戦争犯罪の片棒を担いでいた疑いが極めて濃厚、ということである。もし、違うというならば、当時、航空自衛隊が輸送した米軍の部隊名を開示し、その部隊がどの様な作戦に従事したのかを明らかにすべきである。また、当時、米軍のイラクでの活動が、国際人道法への重大な違反を繰り返してきたことは、誰の目にも明らかだったにもかかわらず、そのことは航空自衛隊のイラクでの活動を中止することにはならなかった(それどころか、当時は自衛隊が米軍の人員や物資を輸送していたことすら隠蔽されていた)。今、論議されるべきことは、米軍等が紛争地で虐殺や虐待などの戦争犯罪を繰り返していても、兵員や武器弾薬の輸送や補給などの「後方支援」を自衛隊が行うのか否か、ということだろう。

○「治安維持活動」への参加の危うさ―自衛隊や日本自体が攻撃対象に

米軍は「治安維持活動」でイラクでの強い反感を招いた
米軍は「治安維持活動」でイラクでの強い反感を招いた

今回の安保法制では、国連平和維持活動(PKO)ではない紛争地での活動においても、自衛隊が治安維持活動に参加できるとしているが、これも非常に大きな危険性をはらんでいる。具体的には、自衛隊が検問や家宅捜索を実施するということであるが、これは本当にマズイ。イラク戦争で、米軍が嫌われていた大きな要因の一つが、この検問や家宅捜索だからだ。検問や家宅捜索の際のトラブルで現地の人間を傷つければ、必ず自衛官らは攻撃対象となる上に、日本の国家イメージ自体に重大な悪影響が及び、ひいては、日本人全体のリスクが高まる。もともと、検問所は武装勢力による攻撃対象となりやすく、それゆえに任務にあたっていた米軍兵士も神経質になり誤射が続出した、というようにトラブルなしに任務を続けるのは、極めて難しい。

また状況が緊迫する中で、自衛官らが充分や証拠なども無く、現地の人間を拘束した挙句、虐待し死に至らしめることも起こりうる。拷問や虐待というと、米軍のそれがよく知られているが、イラク戦争では、イギリス軍兵士らが拘束したイラク人男性を集団暴行し、殺してしまった事例がある。今年に入り、欧州の人権団体や弁護士らがICC(国際刑事裁判所)に提訴したところによると、およそ2,000件もの虐待がイギリス軍によって行われていたとされ、虐待が常態化していたようだ。またイラクにおいては、自衛隊の宿営地のあったサマワも含まれるムサンナ州で、オランダ軍諜報士官たちが、イラク人捕虜数十人に対する拷問に関与していたことが明らかになっている。こうした虐待は、個人のメンタリティの問題だけでなく、自国兵士が紛争地で死傷するにつれ、組織的に、あるいは国家ぐるみで拷問を容認する傾向があると観るべきだ。自衛隊も、紛争地に派遣され、治安維持活動を行うならば、米軍やイギリス軍、オランダ軍と同じ問題に直面することになるだろう。

そもそも、PKOの様に国連主導ではなく、米国が主導する紛争地での「治安維持活動」は、米軍が大規模な戦闘を行うことも少なくなく、実態として、PKOのような「紛争当事者間の停戦合意ができている状態」とはかけ離れたものと観るべきである。自衛隊の活動地域も従来の「非戦闘地域」から、「現に戦闘行為が行われている現場以外」に広げるとされているが、占領に対する武装勢力の攻撃はゲリラ戦であることが多いことから、ついさっきまでその場で戦闘が行われていなくても、自衛隊が来た途端に攻撃が始まり、戦闘状態になるのは、充分有り得ることなのだ。また、米軍主導の「治安維持活動」はその人権無視のスタンスから、現地での激しい反感を招くこととなり、米国に同調して活動する国々もまた憎悪の対象となり、実際に大規模テロ(英国での地下鉄・バス爆破テロ、スペインの列車爆破テロ等)にあっていることは、この間の対テロ戦争を振り返れば明らかなことである。

○情報が開示されるのか? 隠蔽、ウソつき…安倍首相の実績

航空自衛隊イラク派遣の全輸送実績(人員)
航空自衛隊イラク派遣の全輸送実績(人員)

前述した安保法制についての自公共同文書「安全保障法制整備の~」では、自衛隊の海外派遣の方針として、「国民の理解が得られるよう、国会の関与等の民主的統制が適切に確保されること」としているが、それが守られるかは全く疑わしい。秘密保護法の施行に加え、航空自衛隊のイラク派遣では、その具体的な活動が国会議員にすら明かされず、安倍首相は国会でウソをついていたからだ。民主党政権時に開示された情報によれば、イラク派遣での航空自衛隊の全輸送実績(人員)の内、米軍関係者が全体の約6割にものぼったのにも関わらず、第一次安倍政権時、安倍首相は「人道復興支援のため」「国連の人員や物資を運搬する」と国会で答弁していたが、実際には国連の人員はわずか6%にすぎなかったのである。安保法制への批判が「無責任」「デマゴギー」だと言うならば、安倍首相自身が、かつての国会での虚言を謝罪し、当時の航空自衛隊の活動についての情報を全て開示すべきなのである。それができないのあれば、いくら原理原則を設けてもそれが守られるかどうかは全く信頼が置けないのだ。

また、共同文書では、自衛隊海外派遣が可能となる要件について「支援対象国の軍が、国連決議や関連する国連決議に基づいて活動している」「国会の事前承認を基本とする」としているが、国連安保理決議なしに米国がイラク戦争を強行したことにも関わらず、自衛隊をイラク派遣したことについて、自公両党は説明すべきだろう。当時の日本政府は湾岸戦争の国連決議を持ち出しての強引な解釈で「イラク戦争は国連決議を得ている」とし、それは現在までも撤回されていないが、その後のオランダやイギリスの検証でも明らかとされた様に、国際法の専門家らはイラク戦争を「国連憲章違反の戦争」と判断している。国際的には、日本の詭弁は全く通じないのだ。

○卓上の空論ではなく、具体的な事例の検証や謝罪・説明責任を

安保法制をめぐる与党協議やそれをめぐる報道に欠けているのは、卓上の空論ではなく、イラク戦争等、具体的な過去の事例から観て、安保法制がどの様なリスクがあるのか、国連憲章や国際法、国際人道法をどう順守していくのか、という視点だ。過去の事例を検証していけば、いかに安保法制が危ういものであるか、おのずとわかってこようものなのである。そして何より、安倍首相含む自民党政権の歴代の首相・閣僚が、イラク戦争における自らの詭弁やウソについて、謝罪し、説明責任を果たすことであろう。