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アウシュビッツの囚人の白黒写真をカラーで再現:「人間らしさを出したかった」

佐藤仁学術研究員・著述家
(アウシュビッツ収容所博物館提供)

 第2次大戦時にナチスドイツがユダヤ人ら約600万人を殺害したホロコースト。最大の殺戮施設だったアウシュビッツ絶滅収容所では約100万人が殺害された。労働力にならない老人や子供たちはアウシュビッツに到着すると殺害された。

 囚人たちを撮影した写真も残っている。当時の写真や映像はモノクロ(白黒)だ。その白黒の写真をブラジル人のデジタル・アーティストのMarina Amaral氏がデジタル技術を活用して、色づけを行った。アウシュビッツ収容所のツイッターで、カラーになった当時の囚人の写真が公開された。

 以下のアウシュビッツ収容所が公開した写真は、1942年12月に14歳でアウシュビッツに収容されたポーランド系ユダヤ人のCzestawa Kwoka氏。彼女がアウシュビッツ収容所に移送された理由は「ただ彼女がユダヤ人だったから」ということ。彼女は3か月後の1943年2月にアウシュビッツで殺害された。

 Czestawa Kwoka氏の白黒の写真が、Marina Amaral氏のデジタル技術によってカラーで再現された。確かにカラーで見る写真と白黒で見る写真とでは印象が大きく異なる。

▼1942年12月にアウシュビッツ到着時にナチスによって撮影されたCzestawa Kwoka氏の白黒の写真。

▼デジタル・アーティストのMarina Amaral氏によってカラーで再現されたCzestawa Kwoka氏の写真。

「カラーで表現し、人間らしさを出したかった」

 ホロコーストが行われていた1930年代~1940年代の写真や映像は白黒だ。ホロコーストを描いた映画「シンドラーのリスト」も、当時の様子や雰囲気を出すために白黒で表現されている。歴史の教科書や本に出ている当時の写真も白黒だ。そのため、日本だけでなく世界中で「ホロコーストは白黒」という印象が強い。

 デジタル・アーティストのMarina Amaral氏は、「ホロコーストの犠牲者のイメージは無機質な白黒。その見方を変えたい」ということから白黒の写真をカラーで再現してみた。「ユダヤ人というだけでホロコーストで殺された人たちにも、夢があり、家族や友人がいた。彼らをカラーで再現することによって、人間らしさを出したかった」と述べている。14歳の少女Czestawa Kwoka氏の白黒写真をカラーにした理由については、Marina Amaral氏自身の直感。「苦しい環境の中にいたにもかかわらず、彼女の目には勇気があると感じた」とコメントしている。

「ホロコーストは白黒」というイメージを変える

 ホロコーストの記憶の記録については、多くの分野でデジタル化による保存が進んでいる。莫大な予算と人材を投じて、当時の文書や写真などをデジタルで保存したり、生存者のインタビューをデジタル化して記録したり、当時の様子をVRで再現するといった取り組みが進められている。

 だが、当時の白黒の写真をデジタル技術を活用して、鮮明にカラーで再現し、当時を追想するという試みは、ほとんど見られなかった。カラーで表現されると白黒よりもリアリティがある。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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