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高プロの法案を全文チェックしてみた。【後編】

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長
(ペイレスイメージズ/アフロ)

前編のあらすじ

 1)委員会を設置する

 2)委員会で5分の4以上で議決

 3)議決を労基署へ届ける

 4)2号に該当する労働者から同意を取る

 5)1号に該当する業務をやらせる

 6)3号から5号の措置を講じること

 以上をやると

この章で定める労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定は、対象労働者については適用しない。

となります。

 じゃあ、1号とか、2号とか何なの? パーマン?(古い)

 というわけで、「〇号」の解説に入ります。

対象業務

 まず1号。

一  高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるものとして厚生労働省令で定める業務のうち、労働者に就かせることとする業務(以下この項において「対象業務」という。)

 対象業務を定めているのが、この号。

 しかし、具体的な記述はなく、「厚生労働省令で定める」とされています。

 そのため国会審議を経ずに広げられる危険性があります。

 このあたりの危険性は、次の記事がわかりやすいです。

 高プロ、対象広がる懸念 省令で規定、国会経ず変更可

 また、「高度の専門的知識等」が必要で、「その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるもの」とされていますが、そんな業務たくさんありすぎて、全然、範囲を限定できてないですね。

労働者の範囲~年収要件

 次、2号。これは労働者の範囲を定めるところです。

二 この項の規定により労働する期間において次のいずれにも該当する労働者であつて、対象業務に就かせようとするものの範囲

 

 次の「いずれにも」として、「イ」と「ロ」が挙げられます(なぜか法律では「いろはにほへと」なのです)。

 まず、「イ」。

イ 使用者との間の書面その他の厚生労働省令で定める方法による合意に基づき職務が明確に定められていること。

 ほうほう。書面で職務が定められていればいいのか。

 次、「ロ」。

ロ 労働契約により使用者から支払われると見込まれる賃金の額を一年間当たりの賃金の額に換算した額が基準年間平均給与額(厚生労働省において作成する毎月勤労統計における毎月きまつて支給する給与の額を基礎として厚生労働省令で定めるところにより算定した労働者一人当たりの給与の平均額をいう。)の三倍の額相当程度上回る水準として厚生労働省令で定める額以上であること。

 出ました。

 これが年収要件です。

 年収と言っても、見込まれる額でOKです。

 交通費もコミコミという答弁がニュースになっていますね。

 金額的には、労働者の平均年収の3倍を相当程度上回ればいいことになっています。

 現時点で出ている数字は1075万円ですが、これについては、実質的には357万円くらいになる可能性があることは、私が過去の記事で指摘しています。

謎の「健康管理時間」

 次、3号です。

三 対象業務に従事する対象労働者の健康管理を行うために当該対象労働者が事業場内にいた時間(この項の委員会が厚生労働省令で定める労働時間以外の時間を除くことを決議したときは、当該決議に係る時間を除いた時間)と事業場外において労働した時間との合計の時間(第五号ロ及びニ並びに第六号において「健康管理時間」という。)を把握する措置(厚生労働省令で定める方法に限る。)を当該決議で定めるところにより使用者が講ずること。

 ここで出てくる謎の概念「健康管理時間」。

 健康管理ができる時間だから、働いていない時間なのかなぁ、と思いきや、逆で、働いている時間です。

 高プロでは、労働時間規制がないので、このような変な用語になります。

 それゆえ、過労死をしても、この「健康管理時間」が「労働時間」とは言えないとして、過労死認定がなされない危険性が指摘されています。

 本当は過労死が増えても、統計上は過労死が減るように見えることも、十分にあり得る話です。

 

 で、この「健康管理時間」を使用者は把握する措置をとりましょう、ということが3号には書いてあります。

 おそらく、自己申告でもOKになるのでしょう。

休日104日

 次4号です。

四 対象業務に従事する対象労働者に対し、一年間を通じ百四日以上、かつ、四週間を通じ四日以上の休日を当該決議及び就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより使用者が与えること。

 これが年間104日の休日の根拠です。

 しかし、年間104日の休日は、祝日無視、お盆・年末・正月休み無視で、週休2日程度のものですので、それほどの厚遇ではありません。

 また、実際に104日の休日に、労働者が働いたらどうなるのかも、謎のままです。

 ただ制度を作って、「措置」をとればいいのか、本当に休ませる必要があるのか、とてもあいまいな条文になっています。

健康確保措置

 次は5号です。

五 対象業務に従事する対象労働者に対し、次のいずれかに該当する措置を当該決議及び就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより使用者が講ずること。

 これが健康確保措置の根拠条項です。

 「いずれかに該当する措置」ですので、次の「イ」「ロ」「ハ」「ニ」の4つのうちから1個とればOKということになります。

まずは、「イ」です。

イ 労働者ごとに始業から二十四時間を経過するまでに厚生労働省令で定める時間以上の継続した休息時間を確保し、かつ、第三十七条第四項に規定する時刻の間において労働させる回数を一箇月について厚生労働省令で定める回数以内とすること。

 これは、いわゆるインターバル規制です。

 終業時刻から始業時刻までの休息時間を一定程度とるようにするというものです。

 また、労基法37条4項は、深夜労働を定めた条文です。

 1か月の間に午後10時から午前5時まで働く回数を制限しようというものです。

次は「ロ」です。

ロ 健康管理時間を一箇月又は三箇月についてそれぞれ厚生労働省令で定める時間を超えない範囲内とすること。

 これは、「健康管理時間」の上限設定です。

 つまり、1か月、もしくは、3か月スパンで、働く時間の上限を決めよう、ということですね。

 3つめは「ハ」です。

ハ 一年に一回以上の継続した二週間(労働者が請求した場合においては、一年に二回以上の継続した一週間)(使用者が当該期間において、第三十九条の規定による有給休暇を与えたときは、当該有給休暇を与えた日を除く。)について、休日を与えること。

 これは有給休暇とは別に2週間連続の休みを与える、というものです。

 最後が「ニ」です。

ニ 健康管理時間の状況その他の事項が労働者の健康の保持を考慮して厚生労働省令で定める要件に該当する労働者に健康診断(厚生労働省令で定める項目を含むものに限る。)を実施すること。

 これは健康診断をしなさいね、ということです。

 さて、みなさん、上記の「イ」「ロ」「ハ」「ニ」で、会社がどれを選ぶと思いますか?

 どう考えても「ニ」の健康診断に流れそうですよね。

 これが高プロの健康確保措置といわれる制度です。

真の後編へ続く

 長くなったのでここで切ります。

 続きは、真の後編で。

 ちなみに、ここまでも成果で賃金とか出てこないですよね。

 果たして、真の後編には出てくるのか? ドキドキしますね!

弁護士・日本労働弁護団幹事長

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長(2022年11月に就任しました)。ブラック企業被害対策弁護団顧問(2021年11月に代表退任しました)。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!2021年3月、KADOKAWAから「武器としての労働法」を出版しました。

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