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古典モンスターの“ダーク・ユニバース”、1作目でつまずく。ハリウッドに珍しくない、挫折したシリーズ物

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
トム・クルーズ主演の「ザ・マミー〜」はシリーズを立ち上げるはずだった(写真:Shutterstock/アフロ)

 闇に生きる者たちは、文字どおり、日の目を見ない運命なのか。

 ディズニーがマーベルの「アベンジャーズ」、ワーナー・ブラザースがDCコミックスの「ジャスティス・リーグ」でやるように、ユニバーサルが古典モンスターで“ダーク・ユニバース”シリーズを始めると発表したのは、今年5月のこと。スタート作品として位置づけされたのは、トム・クルーズ、ラッセル・クロウ、ソフィア・ブテラが出演する「ザ・マミー/呪われた砂漠の王女」だった。

 2作目は2019年2月北米公開予定の「Bride of Frankenstein」で、フランケンシュタイン役にはハビエル・バルデム、監督には「美女と野獣」のビル・コンドンが決まる。その後、ジョニー・デップ主演の透明人間、クロウ主演のジギルとハイドなどが続く予定で、ユニバーサルはそれらのスターが一同に揃った写真を、誇らしげに公開もした。このシリーズを率いるのは、「ザ・マミー〜」の監督で娯楽大作のベテラン脚本家アレックス・カーツマンと、「ワイルド・スピード」シリーズなどで知られる大物プロデューサー、クリス・モーガン。クルーズと親しい脚本家クリストファー・マッカリー、 デビッド・コープも加わり、最強のチームで幕を開けた。

”ダーク・ユニバース”のキャスト。(写真:Marco Grob/Universal Pictures)
”ダーク・ユニバース”のキャスト。(写真:Marco Grob/Universal Pictures)

 しかし、6月にアメリカで「ザ・マミー〜」が公開されると、結果は大コケ。批評家からは「最後の黄金のスター(クルーズ)が妥協した姿を見るのは辛かった」 (『Metro』)「トム・クルーズのキャリアで最低の映画」(『Forbes』)「このつまらない映画を見たら、‘ダーク・ユニバース’に対する期待はすっかり消える」(『The Hollywood Reporter』)などこきおろされ、北米興収も、製作予算1億2,500万ドルの作品にしてはがっかりの8,000万ドルにとどまった。北米外から結構取り戻せたとはいえ、この規模の娯楽大作は、北米だけで1億ドルはいかないと、まず次はない。

 出だしですっかりつまずいてしまったユニバーサルは、先月、「Bride of Frankenstein」の製作延期を発表している。「The Hollywood Reporter」が伝えるところによると、カーツマンとモーガンは、すでに“ダーク・ユニバース”プロジェクトを離れ、それ用に設けられたオフィスはがらがら状態だそうだ。

 鳴り物入りで始めたのに、目的を達することなく消えていった作品は、ハリウッドに多数ある。マーベルのように次から次へと的中させるのは、非常に稀なのだ。大ベストセラーの映画化「ダイバージェント」は、最後の1本はアメリカで劇場公開されなかったし、「アメイジング・スパイダーマン」も、2作目の最後でグウェン・ステイシー(エマ・ストーン)を殺し、3作目ではシェイリーン・ウッドリー演じるメリー=ジェーンをピーター・パーカー(アンドリュー・ガーフィールド)の新恋人として出すことまで決まっていたのに、そこで終わってしまっている。

 もっとも、「アメイジング・スパイダーマン2」は、スパイダーマンものとしては5作目で、この夏には心機一転した「スパイダーマン:ホームカミング」が成功した。トリロジーのはずが1作目で立ち消えてしまっていたハリウッド版「ドラゴン・タトゥーの女」も、 新たにクレア・フォイをリスベット役に立て、原作者スティグ・ラーソンの死後に出版された4冊目「The Girl in the Spider’s Web」で再チャレンジする姿勢だ。

“ダーク・ユニバース”も、なんらかの形で軌道修正して進められることは、十分ありえる。「Bride of Frankenstein」は、あくまで延期であり、中止ではなく、コンドンはまだ監督にとどまったままなのだ。このシリーズが、「ザ・マミー〜」1作で終わってしまったと考えるのは、まだ早い。だが、メジャースタジオがシリーズ化できるものに飛びつく今日、ハリウッドには、1作だけで終わってしまったシリーズも、いくつかある。たとえば、これらがそうだ。

「ライラの冒険 黄金の羅針盤」(2007)

「ロード・オブ・リング」三部作の大ヒットに味をしめたニューライン・シネマが、次のファンタジー超大作として狙いを定めたのは、フィリップ・プルマンによる、この三部作小説だった。ニコール・キッドマン、ダニエル・クレイグ、エヴァ・グリーンなど、キャストは超豪華で、製作費は1億8,000万ドルと破格の額。カンヌ映画祭で製作発表記者会見を行うなど、マーケティングにもお金をかけた。 原作1作目の最後より前で終わらせ、まさに「続く」という感じのエンディングにもしたところにも次への意欲が見えたが、それがまた、観客にとっては満足がいかず、逆効果になってしまっている。北米興収は7,000万ドルと、残念な数字に終わった。監督はクリス・ワイツ。

「お買い物中毒な私!」(2009)

原作は、世界中に女性ファンをもつ、ソフィー・キンセラの「レベッカのお買い物日記」シリーズ。お買い物中毒のレベッカの恋と人生をコミカルに語るもので、小説は、彼女が結婚、出産をしても続いていくのだが、映画1作目は北米でたった4,400万ドルしか売り上げず、はかなくもそこで終わっている。公開が2008年のリーマンショックの直後で、「あれ欲しい」「これ欲しい」と浮かれた女性の映画を出すにはタイミングが悪すぎたのかという声も聞かれた。主演はアイラ・フィッシャー、監督はP.J.ホーガン、プロデューサーはジェリー・ブラッカイマー。この顔ぶれ自体が今作には向いていないというのが筆者の個人的意見である。

「ジョン・カーター」(2012)

スペースオペラの原点とも言われるエドガー・ライス・バローズが書いた原作小説は、全部で11冊。ピクサーのアンドリュー・スタントン(『ファインディング・ニモ』『ウォーリー』)は、今作で実写映画監督デビューを果たした。スタントンは子供の頃から原作の大ファンで、彼がディズニーに企画をプッシュし、実現させたものだ。スタントンは主役に知名度のない俳優を希望し、テイラー・キッチュを抜擢。製作予算は2億5,000万ドルにも達し、宣伝にもたっぷりお金をかけたが、北米興収は7,300万ドル、全世界でも2億5,000万ドルと、大赤字に終わった。次のビッグスターかと騒がれたキッチュは、その後も地道に、そこそこ良い作品に出ている。

「サハラ 死の砂漠を脱出せよ」(2005)

クライブ・カッスラーによる“ダーク・ピット”シリーズは、現在までに24冊出版されている。今作は11作目を映画化するもので、主演兼プロデューサーのマシュー・マコノヒーは、当時、次への意欲をたっぷり見せていた。ヒロイン役のペネロペ・クルスと私生活でもカップルになるなど、話題作りまでしたが、典型的なハリウッドのアドベンチャー映画の型にとどまり、新鮮さに欠ける今作は、批評家から酷評される。北米成績は6,800万ドル、全世界でも1億1,900万ドルで、製作予算1億3,000万ドルの映画としては、大失敗だ。自分のアクションシリーズを立ち上げる夢を壊されたマコノヒーは、この後4年ほど、メジャースタジオ系のどうでもいい映画に出るが、2011年から2012年にかけて、まるで目覚めたように、立て続けに低予算のインディーズで本物の俳優としての演技力を証明し、「ダラス・バイヤーズクラブ」(2013)ではオスカーを受賞した。そう思うと、これがシリーズ化しなかったのは、彼にとってそれほど悪いことではなかったかもしれない。

「グリーン・ランタン」 (2011)

スカーレット・ヨハンソンと結婚し、「People」誌から「生存する最もセクシーな男性」に選ばれたばかりで、最高に勢いに乗っていたライアン・レイノルズ。しかし、彼が主演するこのスーパーヒーロー映画は、批評家からもファンからもけなされて終わった。製作予算は2億ドル、世界興収は2億2,000ドルで、マーケティングを含めると赤字。次の話は立ち消えた。しかし、この後、ヨハンソンと離婚したレイノルズは、今作で共演したブレイク・ライヴリーと再婚。昨年は、プロデューサーも兼任する「デッドプール」を爆発的にヒットさせ、ついにスーパーヒーローとして脚光を浴びることになっている。

「パワーレンジャー」(写真/Lionsgate)
「パワーレンジャー」(写真/Lionsgate)

「パワーレンジャー」(2017)

90年代にアメリカをはじめ全世界で大ヒットした子供向けテレビ番組「パワーレンジャー」を、人種構成、キャラクターの背景、テクノロジーなどすべての面で現代にふさわしくアップデートしたのが今作。 5人がやっと変身できるようになるまでに時間が割かれており、2作目でいよいよ本格的に暴れ回るのかと思われていた。しかし北米興収は8,500万ドル、全世界でも1億4,200万ドルにとどまり(製作予算は1億ドル)、「次のアイデアもある」と言っていたディーン・イズラライト監督は、最近、SF映画「Unexpected Phenomenon」を入れてしまっている。次がないとまだ完全には言い切れないものの、難しそうである。

ほかに、「アイ・アム・ナンバー4」(2011)、「ダレン・シャン」(2009)、「エンダーのゲーム」(2013)などが、1作目であえなく終わっている。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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