放射能恐怖という民主政治の毒(3)権威の失墜とその責任」から続き

人々が「真実を語る人」という存在しないものを求めた時、何が現れたのであろうか。ここでは、一つの寓話から始めたい。

1.真実を語る人

2011年。あなたには年端のいかない子供がいる。そしてあなたの(あなたの妻の)お腹の中には赤ちゃんがいる。

まさかこんな事故が起こるとは思わなかった。あなたはテレビに映る空虚な笑い声がまやかしであることには気がついているし、もっともらしいことを言いながら「安全」という言葉を繰り返す男たちの眼鏡の向こうにずるい目があることを知っている。

そんなとき、聡明そうな目をもった人が現れ、あなたの耳元に優しい声で囁く。

『私は真実を語るために来ました』

胸が高鳴りながらも用心深いあなたは、その人が何者であるかを知りたがる。

『私はただの医師です。電力会社から買収された大学教授たちには言えないことを、私は言うことができます。そして私はチェルノブイリを知っています。だから無知な政治家が知らないことを知っています』

やっぱり、とあなたは思う。やっと出会えたのだ。この人ならば、東電と政府が隠している真実を教えてくれる。

「真実を語る人」は優しい人だ。あなたの不安に耳を傾ける。あなたは、内部被曝が恐ろしいものであることについて少しはネットで知識を得ていた。甲状腺がんが子供に増えることくらいはわかっていた。だからなるべく子供のことは外に出さないようにしていた。

「真実を語る人」は次々と隠された真実を暴いていく。予想した通り、「真実を語る人」は内部被曝の恐ろしさを語る。どのネットのサイトよりも分かりやすい言葉で。放射能はいつまでも全身に蓄積され、心臓にたまりあらゆる細胞をがんにして、 あなたをどこまでも追い詰め苦しみを味わせるのだ。あなたはその警告を必死で書き留める。あなたが抱いていたどの不安も、一番悪い方向で的中している。あなたが思っていた通りだったのだ。あなたの家も、食べ物も、水も、空気も、全て汚染されていた。

こんな恐ろしい状況だから政府は必死で情報を隠しているのだ、とあなたは納得する。そして家族と自分自身の将来を思い、あなたは暗澹たる気持ちになる。やはりそれでも、あなたが考えたくなかったこと=それでも一番聞きたかったこと=が1つあった。

あなたは大きなお腹を見る。ネットでつい見てしまった恐ろしい写真が頭の中をよぎる。

「真実を語る人」は 奇妙に口元を緩めて、そして気の毒そうな低い声で言う。『あなたの心配は本当です。今妊娠している人がこんなところに住んでいるのは間違っています。これから恐ろしいことが起こるのです』

思った通りだった。不安は本当だったのだ。あまりの恐怖で息が苦しくなる 。

『政府はあなたたちを騙しているのです。一刻も早く逃げなくてはなりません』

そう言って「真実を語る人」はあなたの前から姿を消す。そして、あなたはその「汚染された場所」に残される。

もう誰のことも信じられない。政治家も、学者も、マスコミも、全てのものが憎くて憎くて仕方がなくなる。

しかしここで、あなたが知らない大事な事実が一つある。あなたを絶望に陥れたこの「真実を語る人」が本当のところはどこから来て、どこに帰っていく人であるかをあなたは知らない。少なくとも、「真実を語る人」はいつもあなたの傍にいてあなたと運命を共にする人ではない。

後編へつづく