身もふたもない話から。

やはり、日本代表は日本代表である。

昨秋、ワールドカップイングランド大会で歴史的な3勝を挙げてバブル級の人気を獲得したラグビーのジャパンが、4月30日、今年度初戦を迎える。

神奈川のニッパツ三ッ沢球技場でアジアラグビーチャンピオンシップの初戦をおこなう。例年、アジア諸国とのゲームは大差で勝利する傾向こそあれ、相手の韓国代表には日本最高峰のトップリーグ経験者も揃う。侮れない。

エディー・ジョーンズ前ヘッドコーチのもとワールドカップで結果を残した2015年のチームだが、実は、韓国代表に苦しめられている。大会前の4月18日、南洞アジアード・ラグビー競技場で55-30と打ち合いを演じていた。

当時は本番に向けた長期合宿の只中だ。選手の心身がすり減った状態だったことが、最終スコアの背景にもなっている。ただ裏を返せば、両軍の背景が得点板ないし勝敗を左右しうる、とも取れる。

今回の韓国代表は、ニュージーランド人のジョン・ウォルターズ新監督のもとで今年の4月12日からキャンプを始めた。

かたや日本代表は、20歳以下日本代表を率いる中竹竜二ヘッドコーチ代行のもと24日に都内に集まったばかり。世界ランクを左右するテストマッチに約1週間の準備で臨むのである。

さらに、リーチ マイケルキャプテンや五郎丸歩副キャプテンなどイングランド大会組の選手は、1人も、選ばれていない。

なぜ、突貫工事を強いられているのか。なぜ、イングランド組がいないのか。一体、今回の見どころはどこにあるのか。観戦者の疑問を検証する。

今回の「ベストメンバー」の舞台裏。

イングランド大会後のジャパンの新ヘッドコーチ決定が公式リリースされたのは、2月に入ってからだった。

元オーストラリア代表監督でパナソニックの指揮官であるロビー・ディーンズなど複数の候補者名が挙がりながら、合意に至ったのはジェイミー・ジョセフ新ヘッドコーチだった。今季は南半球最高峰のスーパーラグビーでハイランダーズのヘッドコーチを務めているため、本格的な着任は秋以降となる。

かねてマッチメイクされていたアジアチャンピオンシップは中竹が、こちらも春の目玉とされるスコットランド代表戦など6月のツアーではマーク・ハメットが、それぞれヘッドコーチ代行を務めることとなった。これらボスの代役決定がリリースされたのは、3月だった。

ハメットは、スーパーラグビーに日本から初参戦するサンウルブズの船頭役。日本ラグビー協会はサンウルブズのスタッフの職務実態を調査したうえでの決定を求めた。今回の準備期間が限られた背景には、こうした熟慮があった。

格下相手の大会とされるアジアネーションズカップに向けては、さらに、議論が重なった。

中竹ヘッドコーチ代行は、多くの20歳以下日本代表を挑戦させたいと考えていた。3月には、20歳以下日本代表に5名のオーバーエイジを加えた「ジュニア・ジャパン」を編成。フィジーでのパシフィック・ラグビーカップで、フィジカルの強い環太平洋諸国の有望株相手に挑んでいた。

日本協会側は、異なる意見を持っていた。できる限りオーバーエイジの枠をより広げたいと思ったのである。アジアネーションズカップをテストマッチ扱いにしないよう働きかけられれば話は違ったのだが、そうさせるには相応の交渉力が必要だった。結局、「テストマッチは真剣勝負を」「テストマッチではベストなチーム編成で挑む」という、世界の不文律を踏襲せざるを得なくなった。

「ベスト」といっても、やや注釈がついた。

万人が知るリーチや五郎丸らはスーパーラグビーの海外チームで活動中。ジョセフ率いるハイランダーズの田中史朗、五郎丸のいるレッズで信頼を勝ち取るツイ ヘンドリックも然りである。抜群の破壊力で大会中の話題をさらったアマナキ・レレイ・マフィ、大会直後にバラエティー番組をはしごした畠山健介は、現在、イングランドのプロクラブに在籍している。

ハメットが指揮を執るサンウルブズの選手は、クラブ内での立ち位置によって処遇が変わった。堀江翔太キャプテンのような主力格はシーズンの戦いに注力する一方、控えに回る日本人勢は代表へ派遣されることとなった。

結果、今度発表された新生日本代表は、東芝の小瀧尚弘ら昨今の日本最高峰トップリーグで出色の働きを示した若手や中堅、山中亮平らサンウルブズでチャンスを待つ面子、筑波大学の前田土芽ら「ジュニア・ジャパン」で存在感を発揮した20歳以下日本代表、東海大学のテビタ・タタフら日本代表でのプレーを強く希望する留学生などで編成された。

今回のメンバーの大半は、4月上旬から中旬にかけて招集依頼を受けた。サンウルブズ組にいたっては、チームが南アフリカ遠征を終える4月17日の前後にオファーを知ったようだ。一部の大学の注目株が今度のリストに名を連ねなかったことも、きっとこれら意思決定のテンポとは無関係ではない。

サンウルブズの韓国人プロップ、具智元は、スマートフォン上の公式発表で今回のことを認識した。母国相手のテストマッチを心待ちにしながら、いまだ合流は果たせずにいる。サンウルブズはプロップ勢に怪我人を多く抱え、これ以上のリスクを背負いづらくなっていたからだ。

「普通のラグビーファンが何となく考える韓国代表や香港代表より、今回のチームは圧倒的に強い。何となくやれば勝つ相手ではない」

効率的な指導に定評のある中竹ヘッドコーチ代行は、こう気を引き締めていた。

「サンウルブズが1本目のは事実」

もっとも合宿が重なれば、金正奎は「めちゃくちゃポジティブなので、やっていて楽しいです」と笑みを浮かべていた。

金は「ジュニア・ジャパン」のオーバーエイジ枠にも名を連ねたフランカーで、昨季のトップリーグでベストフィフティーンに輝いた24歳だ。合流前は「勝たなきゃいけない」と過度な緊張感を覗かせていたが、集合直後の雰囲気に触れて前を向けるようになった。

安藤泰洋は、サンウルブズの一員でもある28歳のフランカーだ。4月23日。東京・秩父宮ラグビー場での第9節でデビューを飾った。ジャガーズを相手に36-28での初勝利を挙げた翌日に、初めての日本代表合宿に足を運んだ。

「細かいところはまだまだですけど、チームの外枠を作るなかで、皆の能力と理解度の高さを感じます」

関東学院大学では、部員の大麻使用による出場停止明けから3季目の2009年度にキャプテンを務めていた。「当事者意識を持て、と言われた。その言葉は、いまになったらよくわかります」。自分たちの置かれた立場を客観視するのに十分なキャリアを重ねてきている。韓国代表戦での先発を決める2日前、こう言い残したものだ。

「しゃあないです。ラグビーを知っている人の間では、このチームが2軍だと言われる。サンウルブズ(の主力)が1本目なのは事実ですし、中竹さんもミーティングでそう共有している。ただ、そのさらに外側のラグビーを知らない人たちの間では、日本代表が韓国代表と試合をする、余裕で勝つだろう、と思っているはず」

中竹ヘッドコーチ代行は、短期間でのチーム組成のためにグラウンド外の時間をもフル活用。24日夜のファーストミーティングでは、早速「席替え」を命じた。

「まず、話したことがない人同士で並んでください」

食堂内ではスマートフォン禁止とし、対面での話し合いを求めた。細かな戦術のすり合わせが急務だからだ。

戦術、戦略面では、「アクションラグビー」を唱える。パスの供給源の周りに複数の受け手が並ぶ「シェイプ」というパーツを使うが、それ以上に、先手、先手でのポジショニングとプレー選択を重要視する。「ジュニア・ジャパン」でも活動した中村亮土は、28日の取材機会中にこう解説する。

「シェイプを上手く使いながら、相手のディフェンスラインや動きを見て編成を変えていったりして、適応する。自分たちの能力がうまく引き出せるような感じです」

大学選手権7連覇中の帝京大学で5連覇時のキャプテンだったインサイドセンターで、頑健さと冷静さを売りとする。ジャパン選出は2014年以来となる。

「僕の場合は、ジュニア・ジャパンで中竹さんの戦術を理解してきたつもり。それを他のメンバーに早く伝えるのが最初の僕の責任だったのですが、皆は理解度を高く持ってくれていた。ここまでの3日目で、自分たちからこうやりたいという案も出てきましたし。上手くチーム作りができているんじゃないかと」

短期間でのチーム結成にあって、もっとも苦しむのがセットプレー。スクラムやラインアウトといったプレーの起点である。

特に、タッチライン際から投入された球を獲り合うラインアウトは、ジャンパー役を支える仲間や投げ手との呼吸、的確なサイン選択と、有形無形のコミュニケーションで成り立つプレーだ。チームのサインの暗記、プレッシャー下におけるサインごとの連携の徹底がマストである。今回は、この領域でのスムーズな落とし込みが求められた。

重責を担うのは、20歳以下日本代表でも手腕を発揮する遠藤哲フォワードコーチだった。指導を受けた誰もが「わかりやすく教えてくれる」と声を揃える伯楽は、フォワードを2列並べ、各ラインに2人の投入役がいっぺんにボールを投げるセッションを提案した。

2列が同じサインを練習すれば、合わせ鏡の要領で自分たちの動きを確認できる。2列がばらばらなタイミングで異なるサインを出すようにすれば、邪魔が入ったなかでも自分たちの動きに集中する訓練を可能とする。

ラインアウトの核をなすロックには、29歳と今回最年長選手の谷田部洸太郎がいる。練習後には遠藤コーチと話し込むことが多く、「シンプルで、やりやすい。僕にも『どうだった?』とコミュニケーションを取ってくれる」と証言していた。チームの雰囲気については、こうだ。

「若いチームですけど、皆とコミュニケーションが取れていて、楽しんでいます。アイスバス(練習後のクールダウン時につかる氷水)に入っていると、水をかけられたり」

背景の面白み。

東京の辰巳の森ラグビー練習場でのトレーニングを観に来るギャラリーや報道陣は、数える程度である。トップリーグチームの練習試合で会場整理が必要だったワールドカップ直後を思い返せば、もうラグビーブームは去ったのかと感じる人もいるだろう。

選手や指導者に責任を押し付けづらい準備期間の短さも、チームが人々の関心から遠ざかる理由にならなくはない。金は「こっちが追う立場になることもある」と、勝負の行方を問われる前に語っていた。

しかし今度の日本代表には、豊穣なバックグラウンドがある。

韓国代表戦の右プロップは、ハンマー投げの日本チャンピオンからラグビーに転向して2年目の知念雄。肉体鍛錬を部是とする東芝でレギュラーへ定着する前に、将来性を買われての抜擢だ。

一方、左プロップで先発の北川賢吾は、10代の頃から有名だったスクラム職人である。イングランド組の藤田慶和は東福岡高校時代の1学年下。北川のスクラムを、雑談の延長で「ジャパンでも…」と話したことがあった。

昨季、イングランド組の山田章仁の代役としてパナソニックの正ウイングに入った児玉健太郎は、慶応義塾大学2年時に指揮官とぶつかり謹慎を余儀なくされたことがある。神奈川県日吉に住まいを構えながら、目の前の専用グラウンドへ出入りできない時期を過ごしていた。

今回、三ッ沢の地でジャパンの背番号「11」をつける。当日、あの時に退部を思いとどまらせてくれた当時の仲間たちが応援に駆け付けるという。

仮にグラウンド外のバックアップ体制に乱れがあったとしても、グラウンド内には静謐かつ明るい雰囲気が渦巻いている。

外部情報が感じさせる後ろ向きなイメージを、現場に居並ぶ1人ひとりの意志が笑って蹴飛ばしにかかっている。

選考過程における制約がいくら多くとも、低予算で強烈な印象を残す美術展のごときメンバーリングがなされた。

それが、2016年の日本代表の船出だった。

――今回はベストメンバーではない、との声があります。

ジョーンズ前ヘッドコーチにスキルの高さを買われた山中は、世相を反映したかもしれぬ質問を受け、言葉を詰まらせる。

しばし沈思黙考の後、矜持を明らかにした。

「日本代表は、日本代表なので。しっかりとした戦いをしないと、(周りは)納得しない」