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ビタミンDの摂取は新型コロナの発症や重症化を防ぐのか?

忽那賢志感染症専門医
(写真:PantherMedia/イメージマート)

ビタミンDが新型コロナの発症や重症化を防ぐのではないか、という仮説が盛り上がっています(私の中で)。

どのような仮説なのか、そして現時点でのエビデンスについてご紹介致します。

ビタミンD摂取は呼吸器感染症を予防する

ビタミンDには、

・ウイルスの複製率を低下させるカテリシジン(cathelicidin)やディフェンシン(defensin)を誘導し、肺に炎症を生じさせるサイトカインの濃度を低下させるとともに、炎症を抑えるサイトカインの濃度を上昇させる効果がある(Nutrients 2020, 12(4), 988)

・ウイルスや細菌の侵入に応答して抗微生物作用を持つペプチドを誘導する

・ビタミンD代謝物が、オートファジー(細胞が自身のたんぱく質を分解し再利用すること)の誘導や活性窒素中間体/活性酸素中間体の合成など、人体の持つ抗微生物メカニズムを促進する(BMJ 2017; 356

などの作用があることが知られており、呼吸器感染症の予防効果があると言われています。

このビタミンDの呼吸器感染症予防効果が、新型コロナにも有効なのではないかということで、注目を集めています。

国立アレルギー感染症研究所(NIAID)所長のアンソニー・ファウチ博士も「私もビタミンDを摂取している」だかなんだかのコメントをしたということでも話題になっているようです。

というわけで、私も興味を持ったので新型コロナとビタミンDとの関係を調べてみました。

新型コロナとビタミンDとの関係は?

黒人種ラテンアメリカ人種は白人種と比べて新型コロナに罹った場合の死亡率が高いことが知られていますが、これにビタミンDが関連しているのではないかとする論説があります。

緯度の高い地域では、黒人種やラテンアメリカ人種などの皮膚のメラニン含有量が多い人は、日光に反応してビタミンDを生成することができないため、血中ビタミンD濃度が低くなり、これが人種による死亡率の違いの原因ではないかというものです。

また、2011年から2012年に行われた調査では、ビタミンD欠乏があったのは肥満の人や糖尿病の人などであり、これは新型コロナの重症化リスクの高い患者層と合致している、という話もあります。

しかし、実際に新型コロナ患者とビタミンDとの関係を検証した研究では、「関係あり」「関係なし」という相反する結果が混在しています。

フランスの高齢新型コロナ患者77人を対象とした研究では、新型コロナと診断される前の1年間にビタミンDのサプリメントを定期的に摂取することは、ビタミンDを摂取しない場合や診断後すぐにサプリメントを摂取する場合に比べて、重症度が低く、生存率が高かった。

スペインでの76人の新型コロナ患者を対象としたパイロット無作為化臨床試験では、高用量ビタミンDによる治療が集中治療室入室のリスクを減少させた。

イタリア北部の病院の新型コロナが疑われた患者347人の後ろ向き解析では、新型コロナであった人と新型コロナではなかった人とのビタミンDの血中濃度に差はなかった。

イタリアの別のグループの研究では、新型コロナ患者324人において、ビタミンDサプリメントの服用は入院のリスクとは関連はなかったが、入院した場合の死亡リスクの上昇と関連していた。

・新型コロナのPCR検査の前の年にビタミンDの血中濃度を測定した489人の患者を対象としたシカゴでのコホート研究では、ビタミンD欠乏患者は、ビタミンDが不足していない患者と比較して1.77倍新型コロナが陽性になりやすかった。

イギリスの348,598人バイオバンク検体を用いた研究では、ビタミンD濃度と新型コロナ検査陽性との関連はなかった。

このように、現時点ではビタミンDが新型コロナの予防や重症化に効果があるとは言えない状況です。

また、まだ査読前ではあるものの、最も科学的信頼性の高い研究であるランダム化比較試験という形式で行われたブラジルでの研究では、ビタミンDを投与された患者と、されなかった患者では入院期間や死亡率などに差がなかったということで、少なくとも新型コロナと診断されてからビタミンDを摂取しても重症化を防ぐことはできなさそうです。

そもそもビタミンDが不足している人は、同時に運動不足や栄養不良などの要因を併せ持っていることが多く、普段からビタミンDのサプリメントを摂取しているような人は、そうではない人と比べて日頃から健康に気を配っていることから、ビタミンD不足が直接の原因ではなく「健康状態の一つの指標である」という可能性も十分にあります。

また、ビタミンDと新型コロナに関する研究の中には、科学的根拠が疑われる論文も出ているようです。

例えば、こちらのインドネシアの新型コロナとビタミンDに関する研究は、ビタミンD欠乏の新型コロナ患者は死亡率が高いという結果でありTwitterでも何千ものツイートがされるなどバズってる状態のようですが、まだ査読がされておらず、この論文の著者の所属する病院名も、この研究に参加している施設も不明であり、ビタミンDの検査結果をどこから得ているのかもはっきしないということで、信ぴょう性が疑われています。

さらに、Plos Oneに掲載された新型コロナとビタミンDに関する研究では、ビタミンD欠乏患者は、欠乏していない患者よりも2倍重症化しやすい、という結果が示されていますが、研究参加者のうち3割しかPCR検査などで確定診断されていないことや、他のリスク因子の評価が十分ではないという点でPlos Oneは再評価が必要であると声明を出しています。

さらにこの論文の著者は論文の中で「特に利害関係はない」と宣言しているにもかかわらず、ビタミンDに関連する企業から資金提供を受けている可能性も指摘されています。

なんだかきな臭い感じがしてきました。

要するに「新型コロナに罹らないために、そして重症化しないためにはビタミンDを摂りましょう」という論文が出れば、利益を得る企業や団体があり、そうした利益関係により科学が歪められている可能性が指摘されているわけです。

結局、ビタミンDは摂った方が良いのか?

新型コロナの発症や重症化を予防できるかどうかは結論が出ていません。

今も複数の研究が進行していますので、ビタミンDサプリを買うのはその結果を見極めてからが良いでしょう。

私も現時点では特にビタミンDサプリメントを摂ったりはしていません(「ていうかおまえはその前にやせろ」と言われそうですが)。

ただし、ビタミンDの摂取は骨の健康を保つためには必要なものであり、そういった意味で、ビタミンD不足になることは避けるべきです。

一方でビタミンDの摂りすぎはかえって健康を損ねることがあります。

現時点では新型コロナを予防するために、あるいは重症化を防ぐためにビタミンDを摂取することは推奨されませんが、ステイホームが続いて最近日光を浴びてないというような方はカーテンを空けて陽の光を部屋に取り込むようにしたり、適度な運動をしたり、魚や牛乳などを適度に食べるようにすることは新型コロナとは関係なく健康を保つために勧められます。

つまり「普通に健康的な生活を送りましょう」ということですね。私も適度な運動を頑張ります。

参考:

JAMA. Sorting Out Whether Vitamin D Deficiency Raises COVID-19 Risk(JAMA. 2021;325(4):329-330.)

HIV and ID Observations. Does Taking Vitamin D Prevent or Treat COVID-19?

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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