空爆にうってつけの日

ロシア空軍によるシリア領内での空爆が開始されてから6日目に入った。ロシアによる空爆は激しさを増しており、当初とは異なってレーザー誘導ミサイルや衛星誘導爆弾といった精密誘導兵器による精密攻撃も行われるようになってきた。

こうした中で、ロシアのテレビ局「ロシア24」が以下のような一風変わった「天気予報」を放映した。

「10月のシリアは飛行に向いた気候になるでしょう」と述べる女性アナウンサーの背後には、ロシア空軍の戦闘機とともに10月のシリアの平均気温や湿度、風速などが表示されている。

アナウンサーは続けて、10月のシリアでは9月に比べて雨が少なく、曇りの日が多い為に軍事作戦が困難になるほどの高温にはなりにくいことなどを紹介した。

トルコ領空を侵犯したSu-30SMの同型機(筆者撮影)
トルコ領空を侵犯したSu-30SMの同型機(筆者撮影)

だが、10月4日、トルコ国防省は、ロシアの戦闘機が先週末にトルコ領空を数秒間侵犯し、トルコ空軍がF-16戦闘機を緊急発進させていたことを発表した。これに対してロシア国防省は領空侵犯の事実を認め、悪天候による偶発的な事故であったとして再発防止を約束した。

たしかにロシア空軍が展開するラタキア県のアサド国際空港はトルコ国境からわずか48kmほどに過ぎず、気象条件によっては事故という可能性は排除できない。しかし、先週末のラタキア周辺の天候は曇り時々晴れで、ロシア空軍が攻撃対象としたアレッポ付近も、気象記録を見る限りは悪天候と言えるほどの天候ではなかったようだ。

また、領空を侵犯したとされるSu-30SM戦闘爆撃機はロシア空軍が導入中の新鋭機であり、衛星航法システムを搭載する。この意味では、ロシア空軍の保有する航空機の中では最も位置を見誤りにくい機体であった筈である。

2度目の領空侵犯と「国籍不明のミグ」

加えてトルコ外務省は、日曜日(4日)にもシリア国境に近いハタイ周辺でロシア空軍機による二度目の領空侵犯があり、やはりF-16を緊急発進させたことを明らかにしているほか、同日には国籍不明のMiG-29戦闘機がトルコ空軍のF-16にレーダー照射を行うなどの妨害行為を行ったとしている。

トルコは問題のMiG-29を「国籍不明」としているが、今のところロシア空軍がMiG-29をシリアに展開させているとの情報は入っておらず、この妨害行為はシリア空軍によるものであったと考えられる。

これに対してトルコ外務省はロシア大使を呼び出して抗議を表明するとともに、「トルコ空軍の交戦規定は明確であり、領空を侵犯するものは鳥でも撃墜する」との声明を発表した。

全体としてみれば、こうした領空侵犯や挑発行為の続発を単なる偶然と片付けるのはややナイーブであろう。匿名の米国防総省当局者も5日、米CBSニュースに対して、「これが偶然であるとは思わない」と述べている。

西側軍事力の排除を狙うロシア

ロシアは空爆開始直前から米国に対してシリアから空軍部隊や要員を引き揚げるよう要請していたことが明らかになっているほか、ロシア外務省中東・アフリカ問題大統領特使のボグダノフ外務次官が「シリア上空における飛行禁止区域の設定に反対する」旨の発言をインターファックス通信に対して行っていた。

このように考えると、ロシアの狙いはトルコ国境で緊張状態を作り出し、米国の恐れるロシア軍との直接衝突の懸念を高めることで、シリアに対するNATOの空爆を閉め出す意図があるとも考えられよう。ロシアはヌスラ戦線など非IS系反政府組織への西側の支援を非難するとともに、トルコが空爆を行っているクルド人勢力をロシアの提唱する反IS大連合の潜在的パートナーと見なしている(9月にプーチン大統領がタジキスタンで行った演説では、クルド人勢力は他の非IS系反政府勢力とは別扱いで肯定的に言及された)。

ロシアがシリアに配備したとされるトール防空システム(筆者撮影)
ロシアがシリアに配備したとされるトール防空システム(筆者撮影)

加えてロシアはラタキアのアサド空港に最新鋭のパンツィリ-S1短距離防空システムを配備していることが確認されているほか、NATOのブリードラブ司令官はより射程の長いトール防空システムが配備されたことを確認したと今月1日の時点で述べていた。ISやその他の反政府力が航空戦力を持たないことを考えれば、これらの防空システムが西側の空軍力を念頭に置いていることは明らかであろう。

また、以下の映像(6秒ごろから)に見られるように、ロシアはアサド空港に有効半径300kmに及ぶクラスーハ-4電子妨害システムを配備したことが今週に入ってから確認されている。

ロシアは火砲を前進配備しているとも伝えられ、地上からの砲撃戦も含めてシリアへの軍事的関与を強める可能性が出てきた。

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