経済制裁、ルーブル安、原油安という三重苦(資本逃避も含めれば四重苦)に陥っているロシア経済が大きな注目を集めている。

特に今月、昨年まで1米ドル=25ルーブルほどだった為替レートが、瞬間的とはいえ1ドル=80ルーブルまで暴落したのは衝撃的であった(現在は62ルーブル程度)。誰もが懸念しているのは、ロシアが1998年のように再びデフォルトに陥るのではないか、という点であろう。

筆者は経済の専門家ではないので、そのようなシナリオが実現するかどうかについて何か言える立場ではないのだが、ここではロシア財政の仕組みを簡単にご紹介し、皆様の判断の一助としたい。

依然、原油頼みの経済構造

まずロシア財政の大ざっぱな構造について見てみよう。

ありがたいことに、ロシア財務省の予算白書に従ってロシア政府の歳入構造を見てみると、以下のグラフに示す通り、その半分以上は原油及び天然ガスによるものであることがわかる。要するにロシア経済、なかんづくロシア財政は原油頼みであって、昨今の原油安がいかに大きなダメージとなっているか理解できよう。

ロシア連邦予算の歳入構造(ロシア連邦予算白書より筆者作成)
ロシア連邦予算の歳入構造(ロシア連邦予算白書より筆者作成)

では、実際のところ、原油価格の下落はどの程度響いているのだろうか。ロシア政府が次年度の連邦予算を組む場合には、まず経済発展省がロシア産原油の輸出ブランド「ウラル(Urals)」の翌年度の国際価格を予測し、これに基づいて財務省が歳入全体の想定を作成して予算案を組む。この予算案を元に下院で審議を行い、上院の採択を経て12月初頭に大統領が予算を承認するという流れだ。

2015年度及びそれに続く2016-2017年度予算(ロシアは最近、次年度だけでなくそれに続く2年間についても「計画予算」を組み、経済運営実績に応じて修正していくという方式を採用している)について言えば、ウラル原油1バレルあたりの価格は、2014年度の想定(104ドル/バレル)より4ドル低い100ドル/バレルと想定されている。

ロシア中央銀行
ロシア中央銀行

だが、ウラル原油は8月19日に1年振りに100ドルを割り込んだ。ロシア中央銀行(TsB)は、2015年には100ドルを回復すると強気の予想を発表したものの、12月12日には60ドルを割り込んでおり、財務省戦略計画局のオレシュキン局長は「原油安は構造的なもので、当面100ドルを回復することは考えにくい」と発言している(“Oil prices won't recover above $100- Russian Finance Ministry,” Russia Today. 2014.10.20)。加えてロシア国内では自動車販売の落ち込みを反映してガソリンを中心に石油需要が落ち込んでおり、原油輸出にも大きく影響すると見られている。

対外収支については、ルーブル安傾向を織り込んで1ドル=35ルーブルから40ルーブル弱という(当時として)かなり厳しい見通しで予算が組まれており、上記の原油価格予想と合わせて、経済成長率は年率1.2-3.3%、インフレ率は4.5-5.5%、財政赤字は各年度4500-5500億ルーブル程度で収まると予測されていた。

だが、これらの前提が大幅に崩れていることは前述の通りである。

予算カットに踏み出すロシア

この結果、2015年予算が成立した直後の12月4日、定例の議会向け教書演説に臨んだプーチン大統領は、メドヴェージェフ首相率いる内閣に対して各年度の予算を実質で5%以上削減するよう指示する方針を打ち出した。

さらに12月15日、ロシアの有力経済紙『ヴェードモスチ』が3人の政府当局者が別個に認めた情報であるとして報じたところによると、メドヴェージェフ首相は、すでに固まっている幾つかの指標を除いて2015-2017年の予算の合計10%カットを決定したという。

上記の記事によれば、カットの主な内訳は、運輸システム関連の国家プログラム(38.1%)を筆頭に、宇宙計画(19%)、極東発展計画(6%)、航空機生産(4.6%)、住宅プログラム(4.1%)などとされている。

だが、以下のグラフ(一番内側が2014年度、外側が2017年度)に見る通り、連邦予算で最大の支出項目は社会保障費(約4兆101億ルーブル)であり、これに国防費(約3兆2740億ルーブル)、国家経済(約2兆3387億ルーブル)、安全保障・法秩序(約2兆2148億ルーブル)と続く(いずれも2015年度の数字)。

ロシア連邦予算の支出項目(ロシア連邦予算白書より筆者作成)
ロシア連邦予算の支出項目(ロシア連邦予算白書より筆者作成)

上記の削減項目は住宅プログラムを除くといずれも支出項目第3位の「国家経済」に含まれる予算項目であり、どれだけ削っても限界がある。最大の支出項目である社会保障は、年金や出産・こども支援などプーチン政権の重点課題であり、国民の支持にも直結することから、やはり大きくは削れない。

「聖域」国防費に踏み込めるか

そこで注目されているのが国防費だ。グラフからも明らかなように、国防費はこの経済危機下でも大幅な伸び率を示しており、経済にとって負担となる国防費を削るべきであるという意見は財務当局を中心に非常に強い。

だが、グルジア戦争や、MD問題・NATO拡大問題を巡る米国との対立、そしてウクライナ危機などを経て軍の発言力は高まっていると思われ、プーチン政権としても容易に国防費の削減には踏み出せない。

実は2013年に作成された2014-2016年度の予算と比べると、これでも国防費はかなり抑制されており、これ以上の削減は軍や軍需産業の反発を招くことは必至である。

しかも2016年には、現行の「2020年までの国家装備計画(GPV-2020)」を改編する形で新たな「2025年までの国家装備計画(GPV-2025)」のスタートが予定されており、その詳細は2015年中には固めねばならない。

だが、GPV-2020は総額19兆ルーブル(+軍需産業への補助金3兆ルーブル)という巨額プログラムであり、毎年の装備調達費は巨額(正確な額は公表されていないが、2014年度の装備関連支出である国家国防発注(GOZ)は研究開発費を含めて1兆5000億ルーブルとされている)を軍や軍需産業はなんとしても死守しようとしている。

これに対してシルアノフ財務大臣は「装備計画費は現実的な額であるべき」であると9月に発言しており、国防サイドと財務サイドで激しい攻防が繰り広げられているようだ。

もともとプーチン大統領はブレジネフ政権期に軍事負担で国家経済が破綻したことを教訓として、国防費の抑制を図って来たのだが、上記のように軍の発言権は高まっている。このような抵抗を排除し、財政再建へ向けて手腕を発揮できるのか、それともずるずると軍事負担増加を容認してしまうのかが、今後の大きな分水嶺となろう。

(2014.12.22追記)

上記のGPV-2025については、12月19日に実施された国防省拡大幹部会議において、30兆ルーブルの支出を軍が求めていることが判明した(こちらの拙稿を参照)。