中孝介 初回盤ジャケット写真
中孝介 初回盤ジャケット写真

四季折々の風景を切り取った、日本の素晴らしさを再発見させてくれるカバーアルバム

日本の音楽シーンが時代をこえて生み出してきたスタンダードナンバーを、「地上で、もっとも優しい歌声」と呼ばれる奄美大島出身のヴォーカリスト、中孝介が歌い紡ぐアルバム作品、『ベストカバーズ~もっと日本。~』が7月31日リリースされた。東日本大震災以降、必要な音とそうでない音が確実に二分したように思うが、こだわりの歌詞とメロディに着目した選曲センス。そして、心をグッと揺さぶる魂の歌声は、今の時代に必然の音が鳴っているように思う。

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本作は、往年の60〜70年代の歌謡ナンバーから、80年代ヒット曲、90〜00年代ポップチューン、今の若者世代の心をとらえるボーカロイド文化から生み出された“神曲”までもが選ばれている幅の広さに注目したい。

「花」、「サンサーラ」のヒットによって知られる中孝介による言霊とでもいうべき音楽の力には、『なつかしゃ』という奄美独特の感情をあらわす、誰かを愛しく思う気持ちや郷愁、美しき事象を前にして心の琴線を振るわす力が存在する。記録メディアが存在しなかったその昔、音楽とはアイデンティティを次世代へ継承する為の手段であったことを思い出す。音楽とは時代をこえる祈りであり、生きる希望そのものだったのだ。

日本復帰60周年を迎えた奄美大島にて、独自のシマ唄文化が広がっていた背景には、それこそブルースとして人々の生活に音楽が寄り添っていたように、多くの苦労が存在していた。奄美に生まれ在住し、そんな血を受け継ぐヴォーカリスト、中孝介による“もっと日本。”をテーマとした本作では、日本人としてのアイデンティティが歌として語り継がれ、形のない音楽だからこそ、新たな入り口を“タグ付け”するようにモーニング娘。OGの高橋愛や、河口恭吾、カサリンチュ、ニコ動で話題の歌い手、伊東歌詞太郎らと時代をこえたコラボレーションをされているのが興味深い。

中孝介
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●人気ボカロPであるdorikoや、希代の“歌い手”伊東歌詞太郎とコラボレーション!

なかでも注目したいのは、歌うシンセサイザー・ソフトウェアとでも言うべき音声合成技術であるボーカロイドによって2008年に生み出された黒うさPによる珠玉のバラード「紅一葉」だ。動画共有サービス、ニコニコ動画を中心に広がったボカロ文化は、ティーンを中心に盛り上がっている音楽カルチャーだが、実は和テイストが強調された昭和的な泣きメロソングが多数誕生している。それら“涙腺破壊”と言われるナンバーはカラオケを中心に歌い継がれ、スタンダード・ナンバーとして継承されているのだ。

さらに、本作ではリクエストを募集するためにおこなったニコニコ生放送、そしてニコニコ超会議2での共演をきっかけに出会ったという、全国区で盛り上がりをみせる希代の“歌い手”伊東歌詞太郎とデュエットした、卒業ソングとして人気なボカロチューン「桜ノ雨」や、人気ボーカロイドクリエイターdorikoによる200万再生をこえた殿堂曲「歌に形はないけれど」を、中孝介が自らの解釈で“歌ってみた”意味は、未だ交わることの無いボカロ×J-POPシーンにおいて大きな意義を持つはずだ。

●美空ひばり、井上陽水、松田聖子など、日本を代表するスタンダードナンバーをカバー!

もちろん、本作の魅力はボカロ楽曲だけではなく、日本で生まれ育ったことを誇りと思える美空ひばりの名曲「愛燦燦」や、柏原芳恵「春なのに」で聴けるカサリンチュとの名コラボっぷり、オリジナルを手がけている河口恭吾との名デュエットで聴ける「桜」、哀愁感が半端ないわらべの「もしも明日が」、ライブでも歌われている1986年の松田聖子によるヒット曲「瑠璃色の地球」、中孝介が自ら演奏した間奏のフルートにも注目したい井上陽水の「少年時代」、Bank Bandや福山雅治、岩崎宏美など、たくさんのミュージシャンに愛され多数カバーが存在する中島みゆきによる「糸」も必聴だ。

さらに、1963年に米ビルボードランキングで1位を記録してから50周年を迎えたという、日本を代表する坂本九によるナンバー「上を向いて歩こう」が歌唱されたことも興味深い。この楽曲が持つ、心の内面を発露する言葉とメロディは、歌い方ひとつで表現力が問われるナンバーだ。ただ単純な応援歌ではなく、哀しさをも合わせ包んだ美しさを堪能出来る楽曲があなたにはどう聴こえるだろうか? 続いて同じく坂本九が歌った昭和を代表するナンバー「明日があるさ」では、対比を描くように開かれた明るさによって歌われているのも聴き所だろう。 

●まさかの、モーニング娘。の隠れた人気曲をよみがえらせる!

日本のポップシーンでは、アイドルソングやアニメソングの評価が高まっていることも忘れてはならない。浮世絵を例に出すまでもなく、日本独自の奥深い表現力が独自進化したアニメカルチャーから主題歌を通じて音楽ファンが増えている構造が興味深い。人気アニメ番組『夏目友人帳』にて、中孝介が提供したエンディングテーマ「夏夕空」もそんな1曲だ。夏という季節が持つ、楽しき祭り感と秋が近づくせつなき哀愁。誰もが経験したあの淡い感情が、たゆたうようなメロディにのせて河のせせらぎのように心に染み渡ってくる。

さらに、モーニング娘。によるファンのみぞ知る隠れた名曲「雨の降らない星では愛せないだろう?」のカバーでは、まさかの元メンバー、高橋愛とのデュエットに驚いたものだ。

四季折々の風景を切り取った、日本の素晴らしさを再発見させてくれるカバーアルバムが本作『ベストカバーズ~もっと日本。~』だ。日本ならではの繊細なニュアンスを表現したせつなさや奥ゆかしさ。それにしても、ラストに収録された「ありがとう」を聴くと、オリジナルを手がけた今やジャズシーンでも活躍する大江千里と、中孝介の相性の良さを感じるのは私だけではないはず。もし可能ならば、さらなるコラボレーションを期待したくなったことも発見だった。

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