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「4時間後に携帯が使えなくなる」はデマなのか?安易な記事化が被災地の混乱を増す

藤代裕之ジャーナリスト
(ペイレスイメージズ/アフロ)

北海道胆振東部地震に関してソーシャルメディアで拡散した「4時間で携帯が使えなくなる」という不確実な情報を、一部のネットメディアが「デマ」であると記事化して配信しました。しかしながら、被災地からは「使えなくなった」という証言もあり情報は錯綜。その後、記事の見出しから「デマ」の文字は消えました。「4時間後に携帯が使えなくなる」はデマと言えるのでしょうか。

ソーシャルメディアで拡散していたのは以下のような不確実な情報です。

NTTの方からの情報です。道内全域で停電しているため電波塔にも電気がいかない状況なので携帯電話もあと4時間程度したら使えなくなる可能性がでてきたそうです。

携帯の電波もLINEもあと4時間ぐらいで電波塔の電気が尽きるから使えなくなるみたいです。

「デマ」を報じたネットメディア

地震発生は9月6日3時過ぎ。各メディアの見出しと配信時間は以下の通りです。

「停電、電波塔破損により4時間後に携帯電話が使えなくなる」情報の方もデマであることを通達できた。

出典:BUSINESS INSIDER

J-CASTニュースとバズフィードはNTTドコモ北海道支社に問い合わせた結果、ビジネスインサイダーは執筆者が運営する速報サービス「スペクティ(Spectee)」のファクトチェック部隊が確認したと記事中に記載があります。

2つの確認すべきポイント

拡散していた不確実な情報には確認すべき2つのポイントがあります。

○○からの情報の発信源

ひとつは「NTTの方からの情報」という部分。自衛隊から、自治体から、災害本部にいる知人から、などバリエーションがあり、東日本大震災などの過去にもあった「インサイダーからの密告」(荻上チキ『検証 東日本大震災の流言・デマ』光文社新書)パターンです。

企業に問い合わせて否定しても、従業員が友人にこっそり伝えているかもしれません。では、その発信源を追跡して確認するという方法はどうでしょう。

社会心理学者で噂を研究する川上善郎は、うわさの源をたどることは「実際には不可能であるといってよい」(川上善郎『うわさが走る―情報伝播の社会心理』サイエンス社)としています。ツイッターに投稿されたものは追うことができますが、LINEなどのメッセンジャーサービスや口頭による伝達で拡散したものを追うことは、非常に困難です。

4時間後に携帯が使えなくなる

もう一つ。「4時間後に携帯が使えなくなる」ですが、事実として携帯が使えなくなったエリアが存在していました。筆者がドコモ本社広報に確認したところ「基地局の電波塔の非常用電源の持ちは数時間から24時間。重要なエリアの基地局24時間化、周辺基地局でカバーできるような体制にしている」と回答し、否定はしませんでした。

実際、携帯電話各社とも地震後につながりにくいエリアがあり、移動基地局や船上基地局が稼働しているわけですから、「使えなくなった」ユーザーがいると考えるのが妥当でしょう。筆者も被災地の居住者や旅行者から「地震直後は使えていたが、数時間後には使えなくなった」事例を確認しています。J-CASTニュースには追記が行われています。

(6日13時40分追記)記事配信後の6日13時20分過ぎ、NTTドコモ北海道支社の広報室担当者から連絡があり、J-CASTニュースの取材に対する当初の説明内容について、

「当初、そのように説明したが、詳細に言うと、市役所や役場の近くなど主要な基地局については、24時間程度は持つ状況です。それ以外の基地局については、どれほどの時間(電源が)持つかは定かではありません」

出典:J-CASTニュース

見出し変更「デマ」の文字が消える

このように「デマ」の判断は難しい状況です。J-CASTニュースとバズフィードは「デマ」だと断定するのは難しいと判断したのか、見出しを変更し「デマ」の文字を削除しています。

J-CASTニュースは記事末尾に「※回答の修正を受けて、記事の見出しを一部変更しました」との追記を行い、下記のようなツイートも行っていますが、バズフィードは「一部表現を修正しました」の追記があるだけで、古い見出しのツイートが残り、拡散可能な状況にあります。

J-CASTニュースとバズフィードのツイート=筆者がキャプチャ
J-CASTニュースとバズフィードのツイート=筆者がキャプチャ

被災者にとって有用な情報は何か

災害時に適切な情報を被災者に届けることはメディアの使命で、ネットメディアの取り組みを否定するものではありません。しかしながら、このような安易な「デマ」判定の記事化は被災地に混乱をもたらすだけです。

ネットメディアはスピードがあるのが良い点ですが、大規模な災害で全体像を把握するのは難しく、状況は刻々と変化します。ある時点では正しい情報が、数時間後には間違っているということもありえます。企業も被災して混乱しているでしょう。広報に確認して否定したから「デマ」だと断定というのも軽率過ぎるでしょう。事実確認には、複数の視点から確認するクロスチェックが欠かせません。

記事配信を急ぐあまり、最も大切な、何が被災者に有用かという視点が欠落していたのではないでしょうか。

ジャーナリスト

徳島新聞社で記者として、司法・警察、地方自治などを取材。NTTレゾナントで新サービス立ち上げや研究開発支援担当を経て、法政大学社会学部メディア社会学科。同大学院社会学研究科長。日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)代表運営委員。ソーシャルメディアによって変化する、メディアやジャーナリズムを取材、研究しています。著書に『フェイクニュースの生態系』『ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか』など。

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