■「引退」から「現役続行」への変心

引退するつもりだったんですよ」。そう発したのは、2013年まで阪神タイガースでプレーした林威助選手だ。台湾から来日し、柳川高校、近畿大学を経て2002年、ドラフト7巡目で阪神タイガースに指名され、11年間、日本球界で活躍した。

チームでもトップクラスのスイングスピードを誇り、日本人には敵わない飛距離が魅力の選手だった。またそのビジュアルから、女性人気もチームで1、2を争うほどだった。

ミスタータイガース・掛布雅之選手(現タイガースファーム監督)の後継者として背番号「31」を与えられ、主砲としての期待を懸けられていたが、度重なるケガもあってコンスタントに結果が出せず、レギュラーを掴みきれなかった。

2013年のシーズン終了後に戦力外通告を受けた時、引退を決意したそうだ。いずれ指導者になりたいという夢があったので、その為の勉強を始めようと考えていた。

兄弟エレファンツからドラフト3巡目指名を受ける
兄弟エレファンツからドラフト3巡目指名を受ける

しかし台湾球界のドラフトで、兄弟エレファンツから3巡目指名を受けたことで悩みが生じた。現役を続けるのか。引退して指導者を目指すのか。

先輩、友人、様々な人達に相談した。年を越しても悩みに悩み、ようやく導き出した答えが「現役続行」だった。「将来どこで指導者になるのかはわからない。でも、もし台湾でとなった時、台湾で選手としてプレーした経験が全くないよりも、少しでもあった方が断然いい。そう考えて決断しました。周りの人も、『ユニフォームを着るチャンスがあるのなら、着た方がいい』というアドバイスをしてくれましたし」。

かくして「兄弟エレファンツの林威助選手」が誕生した。だがその時、既に2月半ばを過ぎていた。

■台湾球界で、リハビリに苦しんだ1年目から手応えを掴めた2年目へ

ようやく腹を括ったものの、そこから順風満帆とはいかなかった。いきなり3月の公式戦で、二塁へのスライディングで左膝の半月板を負傷してしまった。現役続行を逡巡していたことで春季キャンプへの合流が遅れたため、キャンプ期間が短く、十分に体を仕上げることができていなかったのだ。さらに初めての台湾球界で、何とかアピールしたいという気負いも加わったのだろう。

5月には手術をすることになり、シーズンの大半をリハビリに費やすことになった。それでも終盤の9月には復帰でき、前後期トータルで42試合に出場。ポストシーズンでも7打数4安打、4四球と活躍し、今季への足懸かりを掴むことができた。「リハビリは本当に辛かったけど、終盤に復帰できたことで『頑張れば報われる』と思えましたね」。ケガを乗り越えたことで、自身の引き出しがまた一つ、増えた。

来季への手応えを掴んだ
来季への手応えを掴んだ

今季はリハビリも継続しながら、フルでチームに帯同することができた。120試合中、96試合に出場し、打率・309という成績も残せた。

ただチームとしては後期1位になったものの、「台湾シリーズ」では敗れ、完全優勝は逃してしまった。「悔しかったですね。もっとチームに貢献したいし、優勝したいです」。自身の成績だけでは満足できないのだ。

しかし林選手は言う。「来年、もっと良くなると思うんです」。どうやら来季へ向け、確かなものを手にしたようだ。まず手術から1年以上が経過し、体の状態が万全になったこと。そして全く対戦データのなかった相手投手陣や相手チームについて、1年間の対戦によって自分なりの情報を蓄積できたこと。こういったことから、かつてない程の自信が今、林選手の中に漲っているようだ。

■台湾野球における課題

林選手は自身のことだけでなく、チーム全体、はたまた台湾球界全体についても考えを巡らせている。プレーについては「台湾人は体が大きいしパワーがある。その分、上半身に頼りがちで、下半身を使えていない選手が多い」ことや、「大味なプレーが多い。日本のような細かい野球ができていない」ことなどの課題を挙げる。

気になる選手には、アドバイスを惜しまない。そういえばタイガースに在籍していた時も、気づいた点があれば後輩たちに助言することもしばしばあった。「それが正解かどうかはわからないけど、何かのヒントになればと思って…。ちょっとしたきっかけで変わったり掴めたりするから」。後輩の成長も喜びの一つなのだ。

さらに「厳しく注意しているのは“態度と時間”」と語気を強める。「完全なヒットなら(一塁まで)走るけど、内野ゴロだったら全然走ろうともしない!」と、そのプレー態度に憤ることも多いという。また「平気で遅刻をする。時間に対してルーズ」と、時間に対する概念も指摘し続けているそうだ。

それもこれも、その選手のためを思えばこそ、だ。うるさがられることも承知の上で、“頑固オヤジ役”を自ら買って出ている。

球団からも頼りにされ、今季はキャプテンを任されていた林選手。今後もチーム改善、選手の意識良化に努めていくつもりだ。

■日本でのクリスマスパーティで、変わらぬ人気を示す

パーティで軽妙なトークを繰り広げる。 photo by Kenji Kai
パーティで軽妙なトークを繰り広げる。 photo by Kenji Kai

そんな林選手を、タイガース時代から変わらず応援し続けるファンも数多い。先日は来日し、ファンとのクリスマスパーティを開催した。「林威助 2015 クリスマスラグジュアリーパーティ」と銘打たれた会には、日本全国から80名を超える林威助ファンが集結し、熱いひとときを過ごした。

中には今季、何度も台湾に応援に行ったというファンも何人かいた。これには林選手も「わざわざ来てもらって、ありがたいですね。本当に力になるし、励みになります」と大歓迎だ。来季また、台湾に応援に出向くファンが増えるに違いない。

日本を離れて2年だが未だに日本語は流暢で、時折「〇〇せなあかん」などと関西弁も口を衝いて出る。むしろ「台湾語の文法が難しいんです。主語と述語の並びが日本語と違うんで…」と言うから不思議なものだ。

台湾は気候が暖かいこともあり、キャンプインが早い。林選手も、来季に向けて調整に余年がない。契約はこれからになるが、いつでも戦える準備は整っている。

今後も台湾球界発展のために力を尽くしていくつもりだ。そして、いずれは日本で指導者になることも夢の一つとして抱いている。

変わらぬ“りんりんスマイル” photo by Kenji Kai
変わらぬ“りんりんスマイル” photo by Kenji Kai