ギリシャでは国民投票が始まった。英国でも朝からニュース番組や政治討論番組でこの話題をやっている。
自分なら「賛成」か「反対」か。ということを様々な人々が語っているが、2日前にガーディアン紙にこんな記事が出ていたので紹介したい。
6人の経済学者たちは、もし彼らがギリシャ国民だったら、以下のように投票すると言っている。
ジョセフ・スティグリッツ―――「反対」
(ノーベル賞経済学者。コロンビア大学教授)
スティグリッツはザ・ガーディアン紙に掲載された記事中でこう書いている。
「『反対』に投票することは、少なくともギリシャに可能性の扉を開く。強いデモクラシーの伝統を持つギリシャは、自らの運命を自分で掴むかもしれない。たとえそれが過去のような繁栄を意味しなかったとしても、ギリシャの人々が未来を形作るチャンスを手にすることのほうが、現在の不道徳な懲罰よりもはるかに希望がある」
ポール・クルーグマン――「反対」
(ノーベル賞経済学者)
クルーグマンはニューヨーク・タイムズに寄稿した記事の中で「2つの理由で『反対』に投票する」と書いている。
まず一つ目は、トロイカがギリシャに課している支援条件とは、過去5年間の緊縮政策をそのまま延々と続行しろということであると指摘し、「いったいそれのどこに希望があるんだ?」と書いている。
二つ目は「賛成」に投票することは政治的に非常に懸念される問題を孕んでいるという。
「彼らはギリシャが受け入れることのできないオファーを出した。おそらく、相手がそれを受け入れることはできないと承知の上でそうしたのだ。突き詰めれば、実際、それはギリシャ政権を交代させるための行為なのである。例え個人的にはシリザを好きじゃない人でも、欧州の理念を信じる人なら誰だって憂慮するはずだ」
トマ・ピケティ――「反対」
(『21世紀の資本』著者、パリ経済学校教授)
ピケティもギリシャの債務を整理する必要性と『反対』への投票を呼びかけている。フランスのBFMTVのインタビューで、ピケティは、債権者側から出されている条件は「悪い」と語り、ギリシャをEUから追い出せば、ロシアの腕の中に飛び込んで行くかもしれないと警告した。
「それは複雑な選択だが、ここで問われているのは、債権者側から提示されている提案が良いものであるか悪いものであるかということだ。それが質問ならば、僕の答えは明らかだ。悪い提案だ」
ジェフリー・サックス――「反対」
(コロンビア大学地球研究所長、『世界を救う処方箋――「共感の経済学」が未来を創る』著者)
サックスは、ギリシャはユーロ圏に留まりながら、債務軽減の交渉をすべきだと主張している。それを実現するには、ギリシャとドイツの和解が必要であり、国民投票後に両者が話し合って新たなギリシャの改革プランと債務軽減を考案しなければいけない。しかし、そうするには、まず債権者から出された提案に「反対」して拒否しなければならないと彼は言う。
「僕はギリシャの人々に、国民投票で明確な『反対』を債権者たちに突き付けることを勧める」
クリストファー・ピサリデス――「賛成」
(ノーベル賞経済学者、キプロス出身)
ピサリデスは、ギリシャに課された緊縮政策は有害であり、「おそらく、長期にわたる失業率の非常な高さを招いた主要な原因」と指摘している。しかし、長期的には「賛成」に投票したほうが良い結果になるとザ・ガーディアン紙に書いている。
「前進とは内側からの改革であり、問題から逃げることではない。感情的には変化の兆しがすでに見られる。我慢すれば他の部分も変化するだろう。ヨーロッパのほとんどの政治家に、緊縮は欧州大陸の分裂を招き、EUにダメージを与えることがわかっただろう。この後で改革が起こる。ギリシャにはその中で果たせる役割がある。しかしそれもEUに留まってこそだ」
ヴィッキー・プライス――「賛成」
(Centre for Economic and Business Research経済アドバイザー、英政府経済庁元長官)
プライスは、ギリシャの債務問題ではEUとギリシャの両側に責任があると述べ、ユーロ圏全体に政治的、経済的リスクを与える問題になっていると言う。彼女は「国民投票なんてそもそも行われるべきではなかった」と主張する。
「緊縮は行きすぎていました。しかし、『反対』票は物事を悪化させるだけ。間違いなく銀行は破たんするし、EUからは離脱、景気後退のスピードは加速して、ドラクマは再導入されるや否や大きく下落します。『賛成』すれば銀行は営業を続けられるし、ギリシャの現在のリアリティーに即した新たな条件が考案され、取引が成立することにも繋がる。今ではIMFも、すべての経済学者が継続不可能だと言っている債務について、やはり整理が必要だと言っているのですから」
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わたしは英国に住んでいる人間だが、そういえば昨年は、メディアでも地べたの政治放談でも「サッチャー」、「連帯」という言葉を良く聞いたのだが、今年になってよく耳にするのは「希望の政治」という言葉だ。
スティグリッツもクルーグマンも、「希望」という言葉を挙げているのは興味深い。