児童ポルノの単純所持を禁止する児童ポルノ禁止法改正案は衆院に引き続き、6月17日の参院法務委員会で審議され賛成多数で可決しました。翌18日の参院本会議でも賛成多数で可決され、成立しました。衆参両院の法務委員会審議を傍聴した、表現規制に慎重な運動団体「AFEE エンターテイメント表現の自由の会」副編集長のにしかたコーイチさんに再びお話を伺いました。

※前回のインタビューはこちらです。

緊急インタビュー:児童ポルノ禁止法改正案が衆院を通過!子どもたちを性的虐待から守るために残された課題

「単純所持」の取り締まりをしたい規制推進派が使った「禁じ手」

明智 衆参両院の法務委員会を傍聴した感想を教えてください。

にしかた 衆院ではヒステリックにも聞こえるマンガ規制論の立場からマンガ・アニメの規制を研究する附則を外したことへの批判なども出て、いわば「規制推進派ペース」で審議が進みました。しかし、参院では規制慎重派の政党や議員がある程度の議席を有していること、加えてもちろんAFEEほかロビイングに動いた諸団体の働きかけなども功を奏し、衆院から一転して「良識の府」らしい規制慎重論が軸になった審議がされました。

明智 具体的にはどのようなことですか?

にしかた この法案にもっとも慎重な声が強かったのはみんなの党と共産党だったのですが、一昨年の衆院総選挙および政党の分裂などの結果、両党は衆院法務委員会から委員を失っていました。このため当初、児童ポルノ禁止法改正案は自民党・公明党・日本維新の会の3党派で提出されました。今回もそれよりは若干広げたとはいえ衆院法務委員会で両党が議席を有していないことを見越して、議席を持っている自民党・民主党・公明党・日本維新の会&結いの党の5党4会派だけで実務者協議を行なって改正案をまとめ、それを議員立法として衆院に提出する形を採りました。みんなの党や共産党の声は実務者協議の段階で改正案に反映されなかったわけです。

これまでこの法律の制定・改定においては全党派の枠組みによる事前での超党派案の作成および全会一致が基本でしたが、これが破れたということですね。その結果、この法案に反対する政党や、党としては賛成しても造反して棄権する議員が出ることになりました。「単純所持」の取り締まりをどうしても通したい規制推進派が、ある意味でこうした「禁じ手」を採ったとも言えます。

性的虐待を防止できない欠陥法案であることが明らかに

明智 実際に傍聴してみたレポートをお願いします。

にしかた 衆院の審議においては今回の規制のもう一つの眼目であった「マンガ・アニメ規制研究の検討」を落としてまで、どうしても通したかった「単純所持」規制の導入が前提とした審議がされました。もちろん自民党の橋本岳衆院議員のように性犯罪における「禁制品と犯罪の因果関係・相関関係」について指摘したり、民主党の枝野幸男衆院議員のように「単純所持禁止になっても『性欲目的』が失われている以上、家捜ししてまで児童ポルノを探す必要はない」などの重要な答弁を引き出した議員もいました。

参院法務委員会ではみんなの党の山田太郎参院議員がサディズムや獣姦など最悪の児童への性的虐待であるにも関わらずこの改正案では規制できない事例があることを指摘しています。また共産党の仁比聡平参院議員も「コパイン指標」について取り上げたり、日本発の児童ポルノの少なさから改正案の有効性に疑義をはさむなど衆院に議席を持たないみんなの党と共産党の活躍が目立ちました。

日本維新の会・結いの党の真山勇一参院議員も児童虐待があってもモザイクをかけたら児童ポルノとして取り締まることができなくなるのではないか、乳児の場合は「性的好奇心目的」が成立するのかといった質疑・指摘がされました。また、民主党の小川敏夫参院議員からは「死んでしまった児童の場合は『実在』の要件を満たさないのだから本改正案での児童ポルノにはならない」といった重要な質疑・指摘がなされ、全体として「この法案はポルノを規制するものとしてはもちろん、本筋である児童の権利擁護・児童への性的虐待をストップさせる構造になっていない」ことが明らかになりました。

一方で公明党の佐々木さやか参院議員からはいわゆる「ジュニアアイドル」の(主に)幼い少女が非常識なほど小さな水着を着せられて撮影される「着エロ」の問題が取り上げられるなど、児童への性的虐待に配慮した質問もありました。

これは私見ですが、衆院ではマンガ規制の必要性を指摘した議員の質問に拍手までしていたアグネス・チャンさんをはじめとしてエクパット・ジャパンや日本ユニセフ協会の皆さんが(傍聴人の拍手などは禁止なので衛視に制止されていました)、衆院の審議後は笑顔満面でメディアの取材に答えていました。しかし、参院の審議後はアグネス・チャンさんたちが強力に推進してきた法律案が児童への性的虐待防止に資さないケースがあまりにも多い欠陥法案であり、そもそも児童への性的虐待防止に特化していない法案であることが明かになりました。さらに慎重な運用を求める附帯決議まで付いたためか(参院へはアグネス・チャンさんは観に来ませんでしたが)、取材にも応じずトボトボと帰っていく有様が印象的でした。

「マンガ・アニメの規制」か?「性的虐待の防止」か?子どもたちの未来を守るためには

明智 今後の見通しはどのような感じですか?

にしかた 2つあります。一つは今回の、特に参院での審議を踏まえて「児童買春・児童ポルノ禁止法」を、真に児童への性的虐待を厳しく禁止でき実効性のある、かつ冤罪の可能性の小さい法律に変えていくことです。その最大の柱となるのは「児童ポルノ」という用語を例えば「児童(性的)虐待製造物」(Child(Sexual)Abuse Material、CAM)ですとか、「児童(性的)虐待画像」(Child(Sexual)Abuse Images、CAI)に変えることです。

実際、参院でも出た質疑で重要な点ですが、国際刑事警察機構(インターポール)は「Child Abuse is not Pornography」と公式サイトで明記しておりまして、児童ポルノというのは児童虐待や搾取を矮小化したい犯罪者・性的虐待者が使う用語であって、警察はじめ捜査機関や司法機関、メディアなどが使うべき用語ではないと。児童虐待の防止、児童福祉に徹するならそうしていくべきですし、究極的には厚生労働省管轄の児童福祉法の特別法として児童虐待防止法などと統合を図っていくべきだと思います。

もう一つが先の国会の終盤である6月11日に参院へ提出された「子ども・若者育成支援推進法」改正案です。これが「改正」という名前に値しない酷いもので、まず法律の名前を「青少年健全育成基本法」に変えてしまう。そのうえで「マンガ・アニメ」などと明記こそしていませんが、青少年に有害とされる表現の規制を検討すると。マンガ・アニメを児童ポルノとしては規制できなくなったので、急遽代わりに別の規制立法として提出したのではないかと勘ぐりたくなります。それにしても児童福祉、例えばニート支援が主眼の法律を改正してくるとか、よく奇襲の手段を考えるものです。これをすり替えといわずして、なにをすり替えというのでしょうか。ここまで酷い方法をとってくるとは、さすがに想像しませんでした。

幸いこの「子ども・若者育成支援推進法」改正案(実質は「青少年健全育成基本法」新設法案)はその手口があまりに酷かったためか、あるいは気づいた方が奮闘したためか今国会末で継続審議にならず廃案になりました。しかし、秋以降の臨時国会では必ず、再び出てくると思います。こうした動きについてもしばらく、気を抜かず注意を払っていきたいと考えています。

私たちの活動に対しては、「人の親が子どものためにならない法案を作っているんじゃないか」みたいな誹謗中傷があることは承知しています。でも私は本当に子どものためを思うのなら、いわゆる「性」に限らず寛容な社会を子どもたちに残していきたい。それが本当に子どものためになると信じますし、いつか私の息子も親のしたことを誇りに思ってくれることを夢みて、今後も活動していきたいと思います。

明智 ありがとうございました。これからも「性・セクシュアリティの権利と自由」に密接に関連するテーマですから、がんばってください。

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AFEE エンターテイメント表現の自由の会 副編集長 にしかたコーイチ

1970年生まれ。マンガ・アニメ規制などの問題に編集者・ライター・読者として20年以上関わる。現在は表現規制に慎重な運動団体 AFEE の副編集長。

AFEE(エイフィー)エンターテイメント表現の自由の会

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