未来も見ないし、過去も見ない、今しか見ない――「エジソン」の大バズ以降も、水曜日のカンパネラが変わらず刻み続ける「現在」 #なぜ話題
過去の全部があって今の私がある
水曜日のカンパネラは「主演・歌唱」の詩羽に加え、曲作りを手がけるケンモチヒデフミ、ライブ演出からマネジメント、中長期的なディレクションまで手広く担うDir.Fの3人組である。ケンモチは武道館公演について「ここを踏み台に、もうひとつ上の段階に行こう、みたいな気持ちがわりとチーム内で共有できてるのかなっていう気がしてます。それが前回とはちょっと違う、2代目水曜日のカンパネラの雰囲気かなと」と言い、Dir.Fも「これがゴールというよりは通過点で、カンパネラや詩羽自身の次の活動が、同じ矢印のまま進んでいけそうな気がして、ちょっと早いのかなとも思いましたけど、今はベストだった気がします」と振り返る。 もっとも「エジソン」が伸びたときに思い切って武道館を押さえたのは賭けではあったようで、Dir.Fは「このタイミングじゃないと機会を逃しそうだなと思って決めちゃったんですけど。これがカンパネラだよ、っていう演出とか中身って、詩羽になってからまだ知らない人も多かったんで、早めに見せられたのはよかったのかなと思います。詩羽にもみんなの力でああいうものが出来上がるっていうのは知ってもらえたし、『POEM』を出すタイミングのきっかけにもなったし」と言う。
Dir.Fが言及した『POEM』(宝島社)は、武道館公演の前日に出版された詩羽のフォトエッセー。MCで「生きているのがつらくて、死んじゃおうかなと思う時期があった」と話していたが、そのころのことを振り返り、みずからの筆で率直に綴った一冊だ。複雑な家庭環境、学校でのいじめ、生きのびるために編み出したある手段。思い出すのもつらそうな出来事が綴られているが、筆致は決然として力強く、過去の自分への慈しみも感じられる。それはきっと、言葉にすると陳腐だが、詩羽の今が充実しているからだろう。今がよければ、どんなつらい過去も正解になる。 「『あのときああしとけばよかった』というのは基本ないです。起こってしまったことは変わらないと思うし、別の道を選んでても、なんだかんだ同じことになってた気もするし。今に生きた経験もあれば、今でも後悔するぐらい生きてない経験もあるけど、全部あって今の私があるなって。今つらい経験をしてる子たちも、2年後、3年後、5年後に『あれがあったから今の自分があるな』って思える瞬間がきっと来ると思うんです。結局、今どうするかだと思います。私は未来も見ないし、過去も見ない。今しか見ないです。それくらいの気持ちで生きてますね」(詩羽)