地元小児科医が見る熊本地震。子どもと親に必要なのは特別なことじゃない

最終更新:2016/5/6 21:47

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キーポイント

  • 親には子どもを受け止める「余裕」が必要。周囲に話を聞いてもらいましょう。
  • 親と一緒に遊ぶ、子どもらしい時間を作りましょう。
  • 子どもに対して日常的に大事にしていることは、より大事にしましょう。

地震で被災した子どもたちに必要なことは何か。
親として何ができるのか。
熊本県で小児科医をする認定NPO法人NEXTEP理事長の島津智之さんに聞きました。(ヤフー株式会社 Yahoo!ニュース編集部 中上芳子)

島津さん

Q、家族で被災した時、親として子どもに何をすべきですか?

A、特別なことというよりは、そばにいること、子どものちょっとした話に耳を傾けることだけでも、子どもはすごく落ち着くと思います。そのためには、親自身もすごく疲れていて大変な状況だと思うので、一呼吸おいてみることも大切です。

ゴールデンウィークに入ってからずっと崩れた家の片付けを手伝っていた10歳の子が「頭が痛い」と救急車で来ました。普段だったら頭痛で救急車なんて、と僕らは思うんですけど、このような状況ですからね。



話を聞いていたら、その子はあまり話さないのですが、お母さんがどんどん話し始めて、そのうちにボロボロと泣き出しました。すごく感謝されて、「誰にも聞いてもらえなかった。聞いてもらえてよかった」と。まず、親が自分が置かれている状況をちゃんと気づかないといけないですよね。



基本的な子どもの心理として、子どもは不安とか欲求、要求などが「表出」(内にあるものが外に出てくる)する。それを親がちゃんと受け止められると安心感を得て、また表出する。受け止める。そのループの中で親子の信頼関係ができてくるのです。
親が感情を押し殺していては、子どもの話を聞いたり、表出を受け止める「余裕」が持てません。

Q、「余裕」を持つにはどうしたら良いのでしょうか。

A、誰でもいいから話しましょう。

親の話を聞いてあげる人が必要です。
特別な技術を持つ人ではなくて、誰でも良いのです。ただの学生でも。他の人にちゃんと話をする中で自分の置かれてる状況が客観的に見えるようになり、少しずつ整理されてきます。

話をするっていう場所があれば良いんですが。
今はそこまでの余裕がないかもしれないけれど、子育てサークルやお母さん同士も含めたランチ会のような集まりを1時間だけでもいいのです。

使命感を持って働くすべての職業人が、少なからず家族に負担をかけながら仕事を続けていると思います。
難しい状況にあることは十分に承知した上で、少しでも気の休まる時間を持つことができればと思います。

Q、子どもの不安やストレスが現れる「表出」にはどのようなものがありますか?

A、普段よりもテンションが高い、低い。また、喜怒哀楽が鈍くなったり鋭くなったりということがあります。

攻撃的になったり、普段以上に甘えたりというのもありますね。親も普段と状況が違いますから、なかなか難しいかもしれないですが、受け止めるのが大事ですね。



攻撃的になっても甘えてきても、甘えさせてあげて、その表現をしてもいいんだよというのが大事だと思います。

Q、攻撃的になった子どもを叱りつけて良いのでしょうか。

A、言葉で叱りつけたり、感情的に怒ることに意味はあまりなくて、頭ごなしに怒るというのは、相手に思った以上に伝わりません。

極端に言えば攻撃的になったら抱きしめることが一つの答えだったりします。本当に悪いことしたり、人を傷つけた、迷惑をかけたというときにはちゃんと怒らなきゃいけません。冷静にこういうときはこうじゃなくてこうじゃないかなとアドバイスするくらいの余裕が必要なんです。

Q、地震から子どもがずっと甘えてくると訴えるお母さんもいます。甘えさせていて良いのでしょうか。

A、基本は甘えさせた方がいいと思います。

余震も続いており、怖いというのはあると思います。それは大丈夫だからねと安心させてあげる。
甘やかすと甘えさせるは違います。
こういう時だから人に迷惑かけてもなんでもいいってわけではない。ルールはちゃんと決めなきゃいけない。こんな時だから、朝までゲームしていいよというわけじゃないですね。それは甘やかしているだけです。

Q、発熱するとか吐くとか、そういう症状はないんですか?

A、精神的な症状だけじゃありません。

自律神経が関与している症状というのはあると思います。頭痛や腹痛。発熱でも微熱とか、息苦しい、胸が苦しい。めまいや立ちくらみ、食欲が落ちる、倦怠感、体がだるくなる。自律神経の働きで起こりうる症状です。
自律神経というのは、緊張とリラックスのバランスです。ずっと緊張していれば自律神経は疲れてしまう。子どもはまだ無意識なので、大人のようにちょっとストレス溜まってきたらリフレッシュしようという選択ができません。そもそも自分が緊張しているのか、リラックスしているのか、認識できないのです。

Q、精神的、身体的なものが「表出」するのは、何が違うのでしょうか。

A、年齢によって特徴があります。

自律神経がまだちゃんと確立されていない乳幼児期、3~5歳までは色んな感情で出てきます。



中学生をピークに、小学4、5年生~思春期あたりの子どもは体の症状として出てくる場合が増えてきます。この年代の子どもはやはりみんな我慢してますね。わがまま言っちゃいけない、本当は遊びたいけど家の片付けを手伝いなさいとか。そろそろ限界が来ていて、頭痛やめまい、吐き気などいろんな形で症状が出る子どもたちが増えています。



小学校低学年は、両方の症状が混ざってくるので個人差が出ますね。

アフロ

Q、子どもの緊張とリラックスのバランスを取るにはどうしたら良いのでしょうか?

A、子どもらしい時間を作ってあげることが大事です。

走り回ったり、水遊びをしたり、粘土遊びをしたり、絵を書くとか、その子その子で好きなこととか得意なこととかがあると思います。



一人遊びではなく、粘土遊びでも親が一緒にやることが大事ですね。サッカーやキャッチボールでも友達がいれば友達とするでしょうが、親とも遊びましょう。やはりこのような災害があった今の時期は、子どもは親と一緒にいてほしいのです。表面上はうざいと言うかもしれないですが。



遊んでいるのをそばでみてるだけでもいいですね。そこで親が携帯いじってるだけだったら、自分のことを見ていないってことになっちゃいます。

Q、親が子どもに「ちゃんと見てるよ」というメッセージを送ることが良いのですね。

A、そうですね。でもそれは災害関係なく、日常的に大事なことが今も大事なことになっているということなんです。

震災によって子どもたちに特別なニーズがあるというよりは、震災前に大事だったことが今も大事なんですよということが一番だと思います。
ただ家が倒壊したとか身内が亡くなったという状況の人にとっては、まだその段階ではないのかもしれないなと思います。

Q、2歳の子どもが地震を怖がって家で寝ることができず、車中泊をしている方がいます。どうしたらいいでしょうか。

A、「もう地震はこないよ」ではなく、きちんと情報を提供して、繰り返し伝えることが大事です。

これだけの余震があるとすごく難しいと思います。
地震への怖さや不安を消すことはできない。「もう地震はこないよ」って言って地震があったら、嘘をついたということになってしまいますからね。



無理やり家にいれるのはあまりよくないです。
「ずっと横にいるから地震がきても大丈夫だよ」「この家はつぶれないから大丈夫だよ」「揺れた時にこういうことをするから大丈夫だよ」という情報提供を繰り返すことで、子供たちも無理やりじゃない形で戻れるようになると思うんですよね。



あとは休みを利用して、少し旅行して地震のないところへ行くこともいいかと思います。
思いっきり走れる場所に連れて行ってヘトヘトになるまで遊ばせる。疲れて寝たところを抱っこして家の中に連れて行くというのでもいいですよね。



また、子どもが自分の家がああなったらどうしようと不安に思ってしまうので、日頃から壊れた家の映像を見せないとか、そういうことも大事かなと思います。



車中泊って子どもより、親の方が体力的には参ってしまうところがあります。
親が精神的、体力的に疲弊してしまわないよう、生活や仕事ができる状況にしてあげるには、このような方法があるかと思います。



ただ、子どもに大丈夫って言いながら午前0時まで飲み歩いてたら子どもは嫌でしょう。こういう時だからこそ、家にいてあげてください。

Q、日常的に大事なことが、震災の起きた今も大事なことなのですね。

A、震災で特別なことがたくさん起きているというより、元々あった潜在的な問題が顕在化しています。それは家庭だけでなく熊本でも同じです。

震災が起きた今は子どもの不安の指数がすごく高くなっているので、日常以上に子どもの表出を受け止めることが必要です。



常に表出を受け止めてもらえない子どもは、今回のようなことが起きた時、より不安の指数が高くなる傾向にあります。けれど、普段から子どもを受け止められていない親は、こういう時にもちゃんと受け止めることができない。



受け止めてもらえないと、だんだん子どもは表に出さなくなる。そうすると、不安が内在化していく。内在化された不安は、幼児期だと思春期くらいになったとき、表に出始めるのです。



日常的に余裕が無い職業の人は、大変だなと思います。災害が起きた時に全く家に帰れない職業の人もいますね。



だから受け止めてあげてくださいね、という情報を発信したときに、できる余裕がない人はどうしたらいいのと。仕事も大変で、帰ったら子どもの世話もしなくちゃいけなくて、不安と言われても子どもと寄り添えない。でも休みは取れない。
これは家庭だけの問題ではありません。



熊本でも仕事が始まったり、少しずつ日常が戻ってきています。しかし、避難所にいたり車中泊を続けている人たちの中には、貧困世帯だったり、要介護者を抱えていたり、知的障害、精神障害があったりと、普段から社会で孤立している人がいます。



コミュニティの中にいるのだけど、普段見て見ないふりをしていた人たちが顕在化してきているのです。環境を整える施策が必要です。



中長期的に考えた時に、この問題は自分たちの問題としてさらにのしかかってくるんじゃないかなって考え始めています。

Q、熊本県内で小児科の問い合わせが多かったと聞きます。

A、問い合わせは多いですが、診察はそんなに多くないですね。問い合わせの内容は、多くは今診てほしいではなく、病院は開いてますか?でした。

皆さん環境が変わり、車中泊とか自分の地域じゃない場所にいるので、何かあった時のために聞きたい、というのがかなり多い。この子がもし熱が出たりしたら誰が診てくれるの?と。

最初の地震から1週間です。
熊本市内に小児科診療の拠点となる病院がいくつかありますが、そのうちの2つが地震で24時間診療ができなくなりました。
自分の知り合い30人ほどがいるLINEグループに、私の病院が24時間小児科対応をしていることを投稿しました。



そしたら、すごい勢いで拡散しました。いくつかの避難所にはその情報が掲示されたりしたそうです。



それを見て、「どこの病院が開いているわからなくて」と1時間以上かけて診察に来られる人もいました。

僕はそのときに情報が回るスピードが速すぎて怖かったんですよ。今回の震災で本当に拡散スピードのすごさを感じた。



必要とされていたからあんなに拡散されたとは思います。もしくは、この情報は喜ばれると思ったからか。回りすぎて、こんなに回ってていいのかなっていうのがあって。



すると、どこかの時点で「これウソかもしれない。デマかもしれない」という情報が流れ出したのです。



うちの病院の電話がデマかデマじゃないかの問い合わせでパンクしました。



私は医師ですから、患者が殺到する分には構わないのです。
しかし、今診てほしいという電話ではなく、この情報に対してデマかデマじゃないかという問い合わせで、ほんとに必要な人、診療にかかりたいって人に電話がつながらないという状態になり、本当に申し訳ないと思いました。



今回のことで、災害時に小児科が開いているかいないかの情報を一元化する必要があると感じました。(了)