「取材現場を離れるのは人生で一番悩んだ」元新聞記者がそれでもYahoo!ニュース編集部に来た訳【ニュース×働く】

 Yahoo!ニュースの中の人や、「ニュース」に関わる人などの声を通じて「“ニュース”とともに働くということ」について探る【ニュース×働く】。今回はYahoo!ニュースの編集者が考える、これからのニュースと編集者のあり方についてご紹介します。

 現在Yahoo!ニュース トピックス編集部の編集者は25人程度。そのうち約半数が報道機関や編集プロダクションなどのメディア業界出身者で構成されています。彼らはなぜ「取材をしない編集部」(関連記事:WEBRONZA)への転職を決意したのでしょうか。元新聞記者で現在、Yahoo!ニュース トピックスの編集業務のほか、編集の知見を生かしてニュースアプリの開発や改善などに携わる編集者に話を聞きました。(聞き手/Yahoo!ニュース編集担当・高橋洸佑)

(編集とテクノロジーをテーマにした社内イベント にて)

苅田 伸宏(かりた・のぶひろ)
2001年、毎日新聞社入社。盛岡支局、東京本社社会部、大阪本社社会部で新聞記者として計12年半働く
2013年11月、ヤフー入社。

ニュースをできるだけ丁寧に伝えたい

――ヤフーに来た経緯を教えてください。

 Yahoo!ニュースに関心を持った理由は2つあります。一つは「社会的関心の高いニュースを掲出したうえで、読まれにくくても伝えるべきニュースを伝える」(関連記事:毎日新聞 経済プレミア)という合理的な発想への共感と、もう一つはニュースをできるだけ丁寧に伝えたいという思いです。

 Yahoo!ニュース トピックスには、「関連リンク」という枠があります。そこでは、ネットの特性を生かして語句説明や動画、プレスリリースそのものなど関連するコンテンツをワンストップで提供しています。池上彰さんが指摘している「ニュースは続報になるほど前提を省いてしまう。そのニュースに初めて触れた人でも理解できる仕組みが必要」という理想に近いと思いました。Yahoo!ニュースの集客力を生かして多くの人にニュースを届けたいと考えました。

――その前は新聞記者だったそうですね。

 ヤフーに来る前は12年半、新聞記者をしていました。前職時代は、記事を書いてもきちんと流通している実感を持てないストレスがありました。自分で記事を書いて自社のサイトに載って、しばらくたってもTwitterのカウンターがゼロのままだったりするわけです。それは同僚の記事もそうだし、他の新聞社も似たような状況に見えました。流通していないコンテンツはないのと同じではないかと考え、死蔵している優良なコンテンツを見いだしてきちんと流通させたいと思ったんです。

 記者であるかを問わず発信者が爆発的に増え、流通経路は複雑化しています。そのなかで、ネットメディアには伝統的メディアでしっかりと取材経験を積んだ人材がまだあまりいないようだったので、自分にできることはありそうだと思い、転職しました。

「取材をしない編集部」で見いだした価値

(リアルタイムで記事の読まれ具合をチェックしながら編集業務を行う)

――ただ一方で、Yahoo!ニュース トピックスは現在、自ら取材をすることがほとんどありません。取材の現場を離れることへの迷いはありませんでしたか。

 それはもうめちゃくちゃありました。自分は記者になりたくて新聞社に入りました。取材して記事を書くのは最後まで楽しかったし、充実感もありました。それを自分から手放すのだから、人生で一番悩みました。失った後もやりがいをもって楽しくやっていけるのかというのはすごく不安でした

――そのやりがいは、いま見いだせていますか。

 Yahoo!ニュース トピックスは、取材して書くという行為がない代わりに、流通させる力はあるわけです。自分が書いたものではないけれども、世の中にある良い記事、面白い記事を読んでもらえる。これは入社して言語化できたことですが、自分が良い記事を書くことで生む価値と、読まれていない良い記事を流通に乗せることの価値は同じだと考えています。

 私たちは、リアルタイムで記事の読まれ具合を測る数字を見ながら仕事をしていますが、これは良い記事だ、多くの人に読んでほしいと思ってピックアップした記事が実際に多くの人に読まれたときの感覚は、自分が面白いと思って取材して書いた記事が紙面に大きく載ったとき、反響があったときの手応えと非常によく似ているんです。

――Yahoo!ニュース トピックスの編集業務の中で記者時代の経験は生きていますか。

 取材して記事を書くということがなくなっただけで、前職で得たものはすべて生きています。世の中に消費しきれないほど爆増したコンテンツの中から、良いものをきちんと選び出して流通させることが今の自分のやりたいことです。12年半の記者経験で得た知識や現場感覚がその判断を助けてくれます。古巣には感謝しかありません。今は記者とネットニュース編集者の両方ができると言えるようになりたいと思っています。

「数字を見ること=読者への迎合」ではない

――Yahoo!ニュース トピックスの編集業務以外にはどのような仕事をされていますか。

 一つはYahoo!ニュースに記事を配信いただいている新聞社や出版社などコンテンツパートナーとのミーティングです。特にこの業務にはできるだけ時間を取りたいと思っています。やはり自分が以前いた業界なので個人的な思いもありますが、Yahoo!ニュース自体がコンテンツをお預かりして成り立っているサービスなので、積極的にコミュニケーションをとって相互理解に努め、双方にとってより良い関係を築いていきたいと思っています。

 インターネットの出現という未曽有の変化が起こって新聞社はとても難しい対応を迫られています。どうすればよいのか、答えを見つけたくてネットの会社に来たところもあります。世界中の誰も解を見いだせていない状況ですが、自分なりに技術の会社でビジネスを学びながら、ネット対応を考える会社のよき相談相手になれたらと思っています。ネットやスマホに合う報道コンテンツのボリュームやスタイルは何かなど、知見をシェアしながら一緒に悩みたい。その結果として、育ててもらった業界に何らかの貢献ができたらうれしいと思っています。

――ネットに合うコンテンツという点では、記事の読まれ具合を測る数値の分析業務もされていますね。

 きっかけは前職時代に、お願いして自分が書いた記事のPVを見せてもらったことです。2泊3日の出張で取材した福島の震災復興に関する記事で、当初は1面想定で最終的に社会面トップに載った記事だったのですが、ちょっと引くぐらいさっぱり読まれていませんでした。むしろ取材の合間に短時間で書いて、教育面の端に小さく載った30行のコラムの方がずっと読まれていました。

 読まれないのは単に自分の書いた記事がつまらなかっただけかもしれませんが、全体的にみて、取材の手間と読まれ方があまりにも無関係なことにがく然としました。Excelで記事一覧を見たときの何ともいえない気分は今でもよく覚えています。数字を把握してバランスをとりながら読まれなくても大事だから掲出するのと、読まれ具合をそもそも知らないで大事だからと掲出するのは意味が違います。まず読まれる傾向を知らなければいけない。数字を見なければ、どうすれば読んでもらえるかを考える発想にならないし、工夫も思いつかないと思いました。

 これはヤフーに入社して実感したのですが、数字を見るのはやはり意味があるし、かつ楽しいことです。即座に効果測定して次に生かせますから。効果測定ができることがネットと紙との一番の違いだとも思っています。数字を見ることイコール読者への迎合ではない。数字を見たうえで、そこに判断を入れるのが大事なのではないでしょうか。もちろん数字を見すぎるのは良くないというのは一般的に言われていることですから、定性的なチェックを厳しめにしなければいけないとは思います。

これからの報道にエンジニアの存在は不可欠

(Yahoo!ニュースアプリのプッシュ通知)

――IT企業に転職して驚いたことはありますか。

 やはりエンジニアの会社なので技術で解決するという発想と実行力が一番違うと思いました。例えばアプリを作ることもそうですし、作ったものを磨きこむこともそうです。

――Yahoo!ニュース トピックスの編集業務の他に、編集者としてアプリの開発や改善業務にも関わっていますが、どんなきっかけだったのでしょうか。

 きっかけは、流通に精通したいならスマホアプリという新しい流通手段をきちんと知らなければと思ったことが一つです。もう一つは、これだけニュースのマネタイズが難しいと言われているので、少しでもビジネス面を知りたいと思ったことです。

 コンテンツは技術で決まる部分があると思います。例えば紙の本が先にあったとはいえ、PCが発明された後も紙の本と同じ形式や分量をクリックしながら読んでいくとしたら大変でしょう。だからコンテンツはPCに適したものになっていったと思います。同じように、アプリができたらアプリに適したコンテンツが考えられていく。技術でコンテンツが決まるなら技術を知る人の近くで仕事をする必要があるのではと思いました。当初は編集者がいないという話だったので、編集の知見が入ればできることもあるのではと考えました。

――実際に編集者ができる領域とはどういったものでしょうか。

 編集者の強みは、やはりコンテンツの目利き力です。他の職種と比べてコンテンツに触れている時間が圧倒的に違いますから、何が良い記事なのか一番知っているのは編集者です。アプリでもっとこういうコンテンツを見せた方が良いのではという提案ができるし、そういう意味で頼ってももらえます。

 あとはプッシュ通知の仕事があります。NHKが重要ニュースをテレビ画面の上部に文字で速報するのと同じことを、人々が常に持ち歩くスマホのアプリに対してニュースを飛ばす形で実現できるようになりました。どんなニュースをプッシュ通知で届けるかというのはまさにニュースの価値判断なので、これは編集者の仕事そのものだと思います。コンテンツを分かっている人間だからこそできることがあるので、いまアプリの仕事をさせていただいています。

――以前のイベントで「これからの報道にはエンジニアが不可欠だ」とおっしゃっていました。

 編集者にとって必須で頼れるパートナーがエンジニアだと思っています。エンジニアと接しながら仕事ができて、エンジニアが課題を解決してくれるという環境がいかにニュースの流通に効果があるか。届ける手段を新しく作ることができる。エンジニアと話しているとき、「こういうことができたらすごいと思う」とアイデアを伝えたら「できるかもしれません」と言われて驚くことがあります。

 プッシュだって以前はそんな発想自体なかったわけじゃないですか。それがエンジニアの手にかかると可能になる。そこに報道的な意味付けをするのは編集者です。ニュースをいかに届けるかという意味で、エンジニアと一緒に仕事をすることによってできる課題解決はすごくたくさんあると思います。コンテンツのありさまを技術が決めているという話もしましたが、技術でアウトプットが決まるという意味でも、両者は近くにいた方が良いものができると思います。

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