瀬戸内海のほぼ真ん中に位置する広島県福山市。福山といえば、市の花でもある「ばら」や、映画の舞台になった「鞆の浦」が有名ですが、それに続くように注目を集めているのが「福つまみ」です。
現在、福つまみは福山市内の50店舗以上の飲食店で提供されています。そのうちのひとつが「瀬戸内料理 八福。」です。地元福山で食べられてきた郷土料理にスポットを当て、福つまみという新たな観光コンテンツとしてブランディングを行っている公益社団法人福山観光コンベンション協会の上田英夫(うえた ひでお)専務理事と、八福。の宗助浩二(むねすけ こうじ)料理長に話を伺いました。
福山特産品を使った"福が来る"7種類のおつまみ「福つまみ」
JR福山駅から直結、さんすて福山2番街にある「瀬戸内料理 八福。」
福つまみとは、福山の特産食材「ねぶと、ちいちいいか、くわい、ガス天、鯛ちくわ」の5つを使ったおつまみの総称で、「ちいちいいかの天ぷら」、「ちいちいいかの酢味噌」、「ねぶとの唐揚げ」、「ねぶとの南蛮漬け」、「くわいの素揚げ」、「鯛ちくわ」、「ガス天」の7種類があります。いずれも福山の家庭料理や居酒屋メニューとしてなじみのあるおつまみで、「福山のおつまみである」こと、そして「福が来る、幸せな気持ちになれる」というイメージで「福つまみ」と名付けられました。
ところで、福山が生産量全国一を誇るくわいや、鞆の浦の伝統漁法「鯛網(観光鯛網)」で知られる鯛料理などは福山名物として知名度がある食材ですが、ねぶとやちいちいいかはあまり知られていません。「これらは瀬戸内で獲られる小魚、いわゆる雑魚です。福山の食材といえば鯛がひとつの目玉になっていますが、地元の人たちはそれよりも安価で手が届きやすい海産物を日常的に食べてきました。そんな雑魚を活用したのが福つまみ」だと上田さんは言います。
公益社団法人福山観光コンベンション協会の上田英夫専務理事(左)と、八福。の宗助浩二料理長(右)
「ねぶと」は瀬戸内でよく食べられる体長10cm程度の小魚で、和名は「テンジクダイ」。地域によって呼び名は異なり、福山では「ねぶと」と呼ばれています。甘くてねばりがあり、福山では唐揚げや南蛮漬け、団子などにして食べられています。「ちいちいいか」は名前のとおり小ぶりのイカで、ねぶとと同じくらいのサイズ。年間を通じて獲れる食材です。もちもち食感が自慢で、天ぷらや酢味噌あえのほか、煮つけにしてもおいしいのだとか。
芽が伸びた見た目が「芽出たい(めでたい)」ことから、縁起物とされる「くわい」はお正月のおせち料理の定番で、全国シェアの約6割を占める福山の特産品です。地元福山では収穫シーズンになるとスーパーでもよく見かける食材で、素揚げにするとポテトフライのようにホクホクとして、くわい独特のほろ苦さがお酒にぴったり。
「ガス天」は地元では親しまれている練り物のひとつ。雑魚(小魚)とごぼうの天ぷらで、ガスガスした食感からこう呼ばれます。小魚を骨ごとすり身にしていて、歯ごたえが楽しいおつまみです。もうひとつの練り物「鯛ちくわ」は福山で豊富に獲れる小鯛を使ったちくわで、居酒屋のおつまみとしてはもちろん、福山土産としても人気だそう。
地元の人たちに食べてもらうことで、いつでも食べられる「福山グルメ」になる
そもそも、なぜおつまみに注目したのでしょうか。「実は、福山は観光よりビジネス目的で訪れる人が多いんです。駅前にはホテルがたくさんありますが、ほとんどがビジネス目的の利用者です」と上田さん。ビジネスマンに注目し、出張の夜に福つまみを食べてもらおう、というのがきっかけだったそう。
そして、福つまみブランディングの大きな目的のひとつは、福山の特産品を売ることではなく、福山の飲食店で食べてもらい、そこでお金を落としてもらうことだと上田さんは言います。「ゆくゆくは誰もが知る"福山グルメ"になってほしいと思っています。そのためには、常に提供できるようにしなければいけません。だから、今一番注力しているのが地元福山の人たちへのPRです。地元の人たちに知ってもらい、日常的に食べてもらえば、飲食店でロスが出ることなくずっと提供できる状態になります。この土台ができてこそ、観光客がいつでも食べられる福山グルメになると考えています」。
年々注目度が高まっている福つまみ
2024年10月5日(土)、6日(日)に開催された「福山城 酒肴祭~福つまみと備後・安芸の城見酒~」
もともと地元で親しまれてきた郷土料理とはいえ、数年前にブランディングが始まったばかりの「福つまみ」という名前は、地元でもなかなか認知が進まなかったそうですが、「酒場詩人」として知られる吉田類さんをPR大使に起用したプロモーションや、地元メディアでの情報発信、そしてイベントでのプロモーションなどが功を奏し、福つまみは着実に認知度を高めています。
「昨年に続き10月に福山城天守前広場で開催された"福山城酒肴祭"では、福つまみを目当てに来場した方が非常に多かったです。飲食店ブースは福つまみのほかに唐揚げや焼きそばなど一般的な屋台メニューのブースもありましたが、福つまみブースは特にたくさんの方が並んでいて、品切れに近い状態になるほど。昨年よりも福つまみが地域の皆さんに浸透してきていることが目に見えてわかりました」とプロモーションの成果を語る上田さん。ほかにも福山市内のホテルで福つまみをテーマにした弁当が販売されるようになるなど、「福つまみで何か取り組みたい」という問い合わせが増え、確かな手ごたえを感じています。
八福。料理長の宗助さんも福つまみの盛り上がりを実感しているひとりです。「ここ数年で福つまみを提供する飲食店が増え、お客様の反応もとてもいいです。7種類の特産品の中でもくわいは福山の特産品として有名ですが、意外とご存じの方は少ないんです。福山の特産を挙げてみようと思ってもなかなかこれというものが思い浮かばないんですね。だから、福つまみの存在は福山をより知ってもらういいきっかけになると感じています」。
ちいちいいかの天ぷら
昨年2023年11月12日にオープンした「瀬戸内料理 八福。」も、福つまみと同じく"福"にちなんだ名前で、「七福神にお客様を加えて八福」という意味が込められているそう。そんな八福。で提供されている「ちいちいいかの天ぷら」は、一度下味をつけてから天ぷらにしているのがこだわりなのだとか。
ねぶとの唐揚げ
また、ねぶとが獲れる時期は生のねぶとを調理しているそう。「冷凍と生とでは食べたときの食感が全く違う」と宗助さんは言います。宗助さんおすすめの福つまみの楽しみ方は、地元福山の酒蔵「天寶一(てんぽういち)」のお酒と味わうこと。八福。では、しぼりたての生酒「生天寶一KEG DRAFT(ケグ ドラフト)」が提供されています。
福つまみを提供している飲食店それぞれに少しずつ違いはありますが、「ほかと競争しようという考えはなく、福山全体で協力して盛り上げていきたいという気持ちがある」と宗助さん。八福。では今後福山名物の鯛めしも提供したいと考えているということで、「福つまみをきっかけにほかの福山グルメにも興味が広がってほしい」と期待を込めます。
八福。で提供されている「ガス天」には炙りバージョンも
この言葉を受けた上田さんも「福つまみはメイン料理ではなく、あくまでおつまみです。それに合わせて、鯛やそのほかの瀬戸内海の魚料理を一緒に食べてもらうようにつなげていきたい」と頷き、「福つまみは何といってもお酒と一緒に楽しむというのが魅力。その土地の郷土料理をその土地のお酒で味わう。そういった福山ならではの"ここでしかできない食の体験"を広めていきたい」と語ります。
「福山に来たら福つまみ」を当たり前にしたい
来年2025年には、世界バラ会連合が開催する3年に1度のばらに関する国際会議「世界バラ会議」が初めて福山で開催されます。海外からたくさんの人が訪れるこの機会にも、きっと福つまみが活躍するでしょう。上田さんに福つまみでめざすこれからの福山について伺いました。「広島といえばお好み焼きや牡蠣が有名です。同じように、"福山に来たからには福つまみを食べよう"と思ってもらえる街をめざしています」。
また、現在福山観光コンベンション協会では、福つまみのさらなる消費促進をめざし、福つまみ公式Instagramにて「福つまみをたべようキャンペーン」を実施しています(※2024年12月31日(火)まで)。福山市内のキャンペーン参画店舗にて福つまみを食べ、お店の名前とハッシュタグ「#福つまみをたべよう」とともに撮影した写真を投稿すると、抽選で20名様に「福つまみ特別セット」が当たります。キャンペーン情報をチェックして、ぜひ福つまみを味わってみてください。