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今年の夏は電力需給のひっ迫が報じられ、全国で7年ぶりの節電要請が実施されました。ウクライナ侵攻によるエネルギー価格の高騰は、電気代に転嫁され家計にダメージを与えています。ムダな電気を節約して効率よく使うことは、エネルギー問題の解決にもつながります。私たちにとって身近な電気からエネルギーについて考えてみませんか?(Yahoo!ニュース オリジナル特集 編集部/監修:国際環境経済研究所理事・竹内純子)
昨今のエネルギー価格の高騰により
電気代の値上げが各地で相次いでいます。
ムダな電気を効率よく使うことは、
エネルギー問題の解決にもつながります。
身近な電気からエネルギーについて考えてみませんか?
(Yahoo!ニュース オリジナル特集 編集部/
監修:国際環境経済研究所理事・竹内純子)
掲載日:2022年9月22日
私たちの暮らしに欠かせない電化製品。これらが使えない生活を想像できますか?
でも石油も石炭も天然ガスもない日本。電気は決して「当たり前」ではありません。
家庭や職場で消費される電気がどのように届けられているのか、さかのぼって見ていきましょう。
電気の元となるエネルギー源には、石油、石炭、天然ガスの「化石燃料」のほか、「原子力」、太陽光、水力、風力、地熱といった自然現象などを利用した「再生可能エネルギー(以下『再エネ』)」があります。多くの割合を占める化石燃料は、燃焼によってCO2が大量に排出されるため、昨今問題視されています。
大幅な脱炭素化を進めるには「需要の電化(ガソリンや灯油などで動く機器を、電気で動くものに替える)」と「電源の脱炭素化(電気のつくり方を変えていくこと)」を車の両輪として取り組むことが必要です。
非電力(ガソリンや灯油、重油など)機器の高効率化技術はほぼ頭打ちである上、高効率化を極めたとしても、CO2の排出はゼロにはなりません。電気もCO2の大きな排出源ですが、再エネ、原子力等での発電であればCO2を出しません。これまで非電力で動いていた機器を電動に置き換え、発電方法を火力から再エネや原子力等に転換していくことで、CO2を出さない仕組みに変えられます。
(総発電電力量)1兆240億kWh
出典:資源エネルギー庁
「総合エネルギー統計」の2019年確報値
発電時にCO2を大量に排出する化石燃料に、日本は76%も頼っています。
2020年度一人あたりの二酸化炭素排出量
約1840[kg-CO2/人]
出典: 温室効果ガスインベントリオフィス
化石燃料での発電に頼る構造上、電気を使えば使うほどCO2を排出していることになります。
脱炭素化には再生可能エネルギーが
必要ですが、比率で見ると少ない。
出典:IEA「Renewables 2021」より
資源エネルギー庁作成
日本の再エネ導入は遅れていると言われますが、再エネ発電導入容量では6位に位置し、太陽光発電導入容量(2020年)で見れば、日本の25倍もの広大な国土をもつ中国、アメリカに次ぐ3位。決して遅れているわけではありません。とはいえ、電力を大量に消費する製造業が主体の経済構造であることもあって、比率でいうと低いのは確かです。
エネルギー政策をイメージでとらえてしまわないようデータに基づいた議論が必要ですが、データの取り方で見え方も変わります。そもそもエネルギー政策は各国の生き残り戦略そのものであり、「他国では」を過剰に気にするべきではないでしょう。
日本の各地域では、どのような種類の再エネが検索されているのでしょうか。
集計期間:2021/1/1〜12/31
太陽光発電はほかの発電方法に比べて検索数が最も多く、都道府県別で見ても47都道府県すべてで太陽光発電が最も検索されていました。
再エネに関連する検索ワードの地域別特徴度を可視化(Yahoo!検索)
集計期間:2021/1/1〜12/31
次に、地域別で関心の高い再エネの発電法を見ていきましょう。
それぞれの再エネワードにおいて、全国で検索される確率を基準に都道府県ごとにスコアを生成し、その都道府県でスコアが最も高いワードを、その都道府県における関心の高い再エネとして定義しました。秋田県、青森県、岩手県、山形県などの東北地方で風力発電が、徳島県、長崎県、岐阜県などで水力発電の関心が高い傾向がありました。
出典:永続地帯ホームページ
千葉大学倉阪研究室/特定非営利活動法人環境エネルギー政策研究所
都道府県別の地域的電力自給率の内訳と照らし合わせてみると、秋田県、青森県、宮崎県、群馬県、三重県において、自給率が最も高いエネルギーと同様の検索ワードが特徴的に検索されていました。
再エネ(太陽光・風力発電など)はCO2を排出しないメリットがある一方、総じて生産効率の悪さが指摘されます。太陽光発電で言えば、天候に左右され、夜間は稼働しません。また、パネルを設置するために山を切り開くことになれば、環境への影響も懸念されます。
安定供給に優れているのは原子力です。制度設計が整えば、低コストで大量の脱炭素電気を供給するポテンシャルを有しますが、廃棄物処分や事故のリスクをいかにケアするかが大きな問題です。
火力はそのままだとCO2を排出しますが、現在、アンモニアをガスタービンの燃料として活用する技術開発が進められています。窒素と水素からできているアンモニアを利用すれば CO2を削減できますが、まだ実証段階であり、コストの課題があります。
再エネですべての電気を安定的に確保することは現状では不可能です。莫大なコストをかけて蓄電池を導入するなどの措置が必要ですが、それも現実的ではありません。「環境保全」だけでなく「経済性」や「エネルギーの安定供給」という3要素のバランスをとりながら徐々に脱炭素化社会に移行していくことが必要です。
カーボンニュートラル社会への転換は、産業革命以上の大変革です。バランスを失えば、カーボンニュートラル社会を目指す政策が持続可能ではなくなってしまうので、それぞれのエネルギーの持つ利点をうまく調和させていくかじ取りが欠かせません。
エネルギーを効率よく使い、CO2排出量を減らすために、家庭ではどのようなことができるでしょうか。
身近な取り組みを紹介します。
まずは熱の出入り口である「窓」の断熱性を高めることが重要です。例えばサッシをアルミから樹脂製に、単板ガラスを複層ガラスに替えると、窓からの熱の流出入を抑えることができます。断熱効果によりエアコンに頼らなくても快適な環境を保つことができ、効率的で無理のない省エネ効果が得られ、CO2削減につながります。
※アルミサッシ+単板ガラスをアルミサッシ+Low-E複層ガラスA12にした場合。市区町村別の省エネ地域区分6地域(代表都市:東京都)
出典:板硝子協会
※1 54Wの白熱電球から9Wの電球形LEDランプに交換(年間2000時間使用)
※2 冷房を1日1時間短縮した場合(設定温度:28℃)
※3 暖房を1日1時間短縮した場合(設定温度:20℃)
※4 1日1時間テレビ(32V型)を見る時間を減らした場合
出典:資源エネルギー庁
家電製品の使い方を見直すことも有効です。
エアコンを使わないとき、テレビを見ていないときは消すことを心がけたり、照明をLEDランプに替えるなどの工夫をしたりすることが大切です。
日常生活の省エネに加え、太陽光パネルの設置や電気自動車の購入も検討するとよいでしょう。電気自動車の中には、例えば災害時に、自動車のバッテリーから家に電気を送ることができるタイプもあります。災害対策としても活躍するかもしれません。
日本はガスの原料である天然ガスのほとんどを輸入に頼っています。
ウクライナ侵攻の影響でロシアから日本への天然ガスの供給が途絶えた場合に備え、政府が家庭や企業にガスの節約を促す「節ガス」を求めるための制度設計を進めています。
給湯器をガス式から高効率のヒートポンプ技術を活用した電気式に替えることが効果的ですが、引き続きガス式を利用する場合にはお風呂の使い方を見直すことが効果的です。
例えば家族が間隔を空けずに入浴し、追いだきの回数を減らすことが節約に直結します。
※2時間の放置により4.5℃低下した湯(200L)を追いだきする場合(1回/日)
出典:資源エネルギー庁
※2時間の放置により4.5℃低下した湯(200L)を追いだきする場合(1回/日)
出典:資源エネルギー庁
シンプルではないからこそ、
まずは知ることから
エネルギーはライフライン、まさに生命線です。究極の生活必需品ですから、価格上昇は特に経済的な弱者にとって大きな痛みとなりますし、安定供給が脅かされれば生活・経済に大きな不安を与えます。
エネルギーは国際政治の武器となることが、ロシアによるエネルギー危機で明らかになりました。気候変動という大きな課題を乗り越えるためにはカーボンニュートラル社会に転換していかねばなりませんが、どのようにバランスをとりながらそうした持続可能な社会に移行していくかは非常に難しい課題です。万能のエネルギー源はないので、ポートフォリオを組んでリスクを低減させていく必要があります。まずは現実的な議論に向けて「知る」ことから始めていただければと思います。
【監修者】
竹内 純子 (たけうち すみこ)
国際環境経済研究所理事/U3イノベーションズ合同会社共同代表/東北大学特任教授
慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、東京電力株式会社に入社。
主に環境部門を経験した後、東日本大震災を機に独立。複数のシンクタンク、大学の客員教授、政府委員等を務め、環境・エネルギー政策の研究・政策提言に取り組む。新たな社会インフラとしての「Utility3.0」の実現を目指し、環境・エネルギー分野で新たな産業を創出するために、U3イノベーションズ合同会社を創業。共同代表として、スタートアップとの連携を進める。
企画・構成:Yahoo!ニュース
オリジナル 特集編集部
デザイン:エコンテ