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相次ぐ北京五輪「外交的ボイコット」――米中のはざまで揺れた日本 影響は?

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2022年2月に開幕する北京冬季オリンピック・パラリンピックを巡り、アメリカのバイデン政権は政府関係者を派遣しない「外交的ボイコット」を表明した。イギリス、カナダ、オーストラリアもこれに追随し、中国が反発を強めている。一方、日本政府は24日、「外交的ボイコット」という表現を避けつつも、閣僚など政府代表団の派遣を見送る方針を表明した。そもそも外交的ボイコットとは、何なのか。そして米中とのはざまで揺れた日本に、どのような影響があるのか。図説を交えて解説する。(監修:国際政治学者・六辻彰二/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)

外交的ボイコットは五輪の政治利用にあたらない?

一般的に五輪の参加国は、開会式などの式典に選手団だけではなく政府関係者も派遣している。五輪の「ボイコット」も「外交的ボイコット」も何らかの抗議の意思を表明するための外交手段の一つだが、「ボイコット」が政府関係者・選手団ともに参加しないのに対し、「外交的ボイコット」は選手団は派遣するが、政府関係者などは不参加という形をとる。

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そもそも「オリンピック憲章」では五輪の政治利用を認めていない。では、今回取り沙汰されている外交的ボイコットは憲章違反にあたらないのか。国際政治学者の六辻彰二氏は「選手団を派遣して大会運営の邪魔をしていないため、政治利用にはギリギリあたらないラインなのでは」と指摘する。

これまでに外交的ボイコットを表明した国は?

アメリカが12月6日に、中国による新疆ウイグル自治区などでの人権侵害に抗議するとして、北京五輪の外交的ボイコットを表明し、その後オーストラリア、イギリス、カナダが続いた。これに対し中国側は「誤った行為に代償を払うことになる」と反発している。中国側が対抗措置をとる可能性について六辻氏は「米中の外交関係はすでに手詰まりの状態のため、中国としては実効性のある報復措置をとる余地はない。中国としても顔に泥を塗られた腹立たしさはあるものの、実際のダメージはそこまでないでしょう」と指摘する。

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(情報は12月24日時点)

米国に端を発した一連の「外交的ボイコット」。日本の対応が注目されていたが、松野博一官房長官は24日の記者会見で、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の橋本聖子会長、日本オリンピック委員会の山下泰裕会長らが参加すると発表した。一方で、「政府代表団の派遣は予定をしていない」と明言した。新疆ウイグル自治区などでの人権問題を踏まえた対応なのかという質問に対しては、「これらの点も、総合的に勘案して自ら判断を行った」と述べるにとどめた。岸田文雄首相はこれまで「わが国の国益に照らして判断をしていく」と述べていた。

日本と米中関係への影響とリスク

外交的ボイコットを巡る日本の判断は、対中・対欧米関係にどのような影響を与えるのか?

六辻氏は「G7メンバーでもあり、地理的にも経済的にも中国とも近い日本は、非常に難しい立ち位置にあった」という。判断に時間を要したことに関しては、「安倍元首相ら党内の対中強硬派と、経団連をはじめとする融和派の間で、決定そのものが難しかったことが最大の要因では」とみている。

「今回、『政府代表団の派遣見送り』を表明したことで、中国との経済活動にブレーキがかかる可能性があります。また尖閣諸島での地政学的リスクも考えられるでしょう」。一方で、日本が「外交的ボイコット」という言葉を使わなかった理由に関しては、「できれば中国を刺激したくないという配慮の現れでは。現職議員の橋本聖子氏が東京五輪・パラの組織委会長として訪中することで、本来の趣旨とは別に、中国の反感をある程度和らげる効果が期待できると考えているのではないでしょうか。アメリカに関しては、日米協調路線は保たれ、国際社会にも『人権尊重』をアピールはできた形です」。

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「総合的に勘案して判断」(松野官房長官)して、結果としてアメリカ側の意向をくんだ日本政府だが、今後とも難しい立場にあることは変わらない。

六辻氏は「岸田首相は第二次安倍政権で2012年12月から2017年8月まで外相を務め、これは外相として戦後2番目に長い任期でした。今こそ岸田首相の外交手腕が問われます」と指摘する。

今後、外交的ボイコットはどこまで広がる?

今回、北京五輪を機に「外交的ボイコット」がにわかに注目されたが、五輪を巡る「ボイコット」は過去にも行われてきた。

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過去のボイコットは同盟国でドミノ倒し的に波及した例があるが、六辻氏は「今回は限定的なものに終わる」という見方をしている。
「中国の世界への影響力が増しているため、外交的ボイコットに参加するメリットよりも、デメリットの方が大きいからです。そもそも今回の外交的ボイコットは、バイデン政権がコロナ禍で分断したアメリカを取り戻し、支持率を上げていくために中国をたたく、という国内向けのパフォーマンス的な要素が強く、アメリカに付き合っても恩恵は期待できないという判断をする国が多いのではないでしょうか」。
各国の思惑が交差するなか、北京五輪は、来年2月4日に開会式を迎える。

六辻彰二氏/国際政治学者
博士(国際関係)。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学などで教鞭をとる。アフリカをメインフィールドに、国際情勢を幅広く調査・研究中。著書に『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『世界の独裁者』(幻冬舎)、『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『日本の「水」が危ない』(ベストセラーズ)など。

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