掲載日:2022年9月1日
全国各地では頻繁に台風や大雨による被害が起き、集中豪雨はこの30年ほどで1.4倍に増加。水害は誰にとっても他人ごとではない。被災したとき、ふりかかるのが生活再建に向けたお金の問題。実際にどんな被害があり、いくらくらいかかったのか、被災した人たちの体験を聞いた。「知識の備え」を持つことが減災につながると専門家は語る。被災したら何をすればいいか、どんな支援を受けられるのか。今のうちに知っておきたい「備え」を解説する。
(アドバイス:弁護士・岡本正/イラスト:オザワタクヤ/ケーススタディ取材・文:篠藤ゆり/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
Yahoo!クラウドソーシングで募った「水害時、お金で困ったこと」のエピソードでは、家や車両への被害に関するものや、保険金の支払いなどに絡む切実な声が寄せられた。
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40代男性・会社員
台風で戸建てが床上浸水の被害に遭った。保険金は3分の1の被害としか見なされず、ほぼ出なかった。結局また被害に遭うことが怖く、翌年に家を売って住み替えた。
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30代女性・自営業
新車が浸水して廃車になった。奮発して買ったためローンがまだ残っていたのに、買い直すしかなかった。
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50代女性・アルバイト
集合住宅だが、上階からの水漏れで家財一式が被害に遭い、一時避難するための宿泊費がかかった。
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40代男性・公務員
西日本豪雨の際、床上まで土石流が流れ込んできた。後日、自治体から見舞金が支給されたが、あまり足しにならなかった。
Case.1
川のそばに住んでいるAさん
- 畳・床張り替え
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60万円
- ガーデン用品一式
庭の補修費 -
80万円
- エアコン3台
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38万円
- 見舞金(自治体より)
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-5万円
- 生活再建支援金
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-5万円
- 合計
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168万円
浸水の経験がある母の助言に従って工事を行っていたことで、被害を最小限に食い止めることができた。自治体からの見舞金は、一律5万円。近隣の住宅のなかには、床上1.5mまで浸水し、被害額が1000万円を超えたケースも。
復旧工事に老後資金を使わざるをえず、将来への不安からうつ病を患った人もいれば、終のすみかとして暮らしていたにもかかわらず、引っ越していった人もいた。
車の移動を行わなかった家は、水没して廃車にせざるをえなかった。
Case.2
洋菓子店を営んでいるBさん
- 製菓用設備など
(天井張り替え含む) -
1000万円
- 中小企業復旧支援補助金
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-400万円
- 保険
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-100万円
- 合計
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500万円
店が再開できたのは、約1カ月半後。洋菓子店にとって一番忙しいクリスマスシーズン前に再開できたのは、不幸中の幸いだった。
県の中小企業復旧支援補助金がおりたのは罹災してから約1年後で、金額は約400万円。被害総額との差額は約600万円となった。2013年の水害後、保険を見直し、休業補償つきのものに変更していたが、破損した設備が補償される内容ではなかったので、自己負担額は500万円を超えた。
2階の住居部分は無事だったが、近所では住居に損害が出た人も。リラックスできる場所を失うというのはお金に換算できないつらさがあるだろうと感じた。
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最も多い被害は「床下浸水」
最も多い被害は「床下浸水」
過去にあった水害における被害(複数選択)については、「床下浸水」(46.7%)が最も多く、次いで「車両の被災」(27.8%)という結果に。また「住家半壊・一部破損」(12.2%)を受けた人の中からは、「台風の被害で一部の屋根が破損をして雨漏りした」という声も寄せられた。
過去にあった水害における被害
Yahoo!クラウドソーシングでの調査(集計期間2022年7月13〜18日/回答者数510人)をもとに作成。
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被害額は「50万円未満」が約半数
被害額は「50万円未満」が約半数
実際の被害総額で最も多かったのは「50万円未満」(48.2%)で約半数を占めたが、「1000万円以上」(2.4%)の被害を受けた人もいた。回答者からは「家を建て替えるくらいの費用がかかり、見積もりをしたら1300万円だった」という体験談も。
実際の被害総額
Yahoo!クラウドソーシングでの調査(集計期間2022年7月13〜18日/回答者数510人)をもとに作成。
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集中豪雨の発生回数が増加傾向
集中豪雨の発生回数が増加傾向
近年、「数十年に一度」と言われる想定外の大雨が全国各地で発生しており、水害も身近になっている。全国の1時間降水量50mm以上の平均年間発生回数を見ると、最近10年間(2012~21年)は、統計期間の最初の10年間(1976~85 年)と比べて約1.4倍に増加している。もし大きな被害にあってしまったら、どうすればいいのか。生活を立て直すには、まず何をすればいいのか。そうした際に必ず必要になる「お金」に関する知識をあらかじめ備えておくことが重要だ。
全国(アメダス)の1時間降水量
50mm以上の年間発生回数
気象庁のデータをもとに作成
アドバイザー
岡本正
おかもとただし
銀座パートナーズ法律事務所・弁護士・博士(法学)
岩手大学地域防災研究センター客員教授、人と防災未来センター特別調査研究員
内閣府出向や日弁連災害対策本部の経験を生かし、「災害復興法学」を創設。著書に『被災したあなたを助けるお金とくらしの話 増補版』など。
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生活再建の第一歩は
「罹災証明書」の申請罹災証明書
災害による住居などの被害の程度を証明する書面
- 被災者からの申請が必要
- 市区町村に発行義務がある
- 被災者支援を受ける際に活用
専門家のアドバイス
被災したら、市区町村の窓口に行って罹災証明書を申請しましょう。罹災証明書は、災害対策基本法に定められている法的制度。被害の程度がこの証明書によって明らかになり、さまざまな支援を受ける際に活用できます。申請後、自治体が住宅の被害調査を経て発行しますので、手にするまではある程度時間がかかります。詳しくは内閣府のウェブサイトで確認を。
内閣府防災情報 -
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身の安全を
確保してから写真を写真撮影のポイント
- 建物の全景を撮る
- 浸水した深さを撮る
- 被害箇所を撮る
専門家のアドバイス
危険な段階で撮りにいくのはやめてください。安全を確認したうえで被害状況を撮影しましょう。罹災証明書では通常、調査によって、全壊、大規模半壊、中規模半壊、半壊、準半壊、一部損壊に分類されます。認定に違和感がある場合、再調査の依頼も可能です。住居を撤去、解体したり、修繕や片付けをしたりする前に、建物の全景(東西南北の4面から)、浸水の深さ(水の跡をもとに)、被害箇所の遠景・近景を撮りましょう。
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3
被害に遭ったら
受けられる支援は- 被災者生活
再建支援制度 - 自然災害により生活基盤に著しい被害を受けた世帯に対し、支援金を支給し、生活の再建を支援する制度
- 応急修理制度
- 災害のため住居が半壊の被害を受け、そのままでは居住できない場合、応急的に修理すれば居住可能となり、かつ、その者の資力が乏しい場合に、自治体が必要最小限度の修理を行う制度
- 被災ローン
減免制度 - 自然災害の影響で、ローンなどの返済が困難な方を対象として、一定の要件を満たす場合に、債務の免除・減額を申し出ることができる制度
専門家のアドバイス
被災者生活再建支援制度(※1)では、住宅の被害程度に応じて最大100万円の基礎支援金が支払われます。住まいの再建方法に応じて追加で支払われる最大200万円の加算支援金も。
応急修理制度(※2)は被災者に直接現金が支給されるのではなく、自治体を通じて修理業者が派遣される制度です。その範囲は、半壊以上の場合は1世帯あたり65万5000円以内、準半壊の場合は、1世帯あたり31万8000円以内です。
被災ローン減免制度(※3)は、債務整理後もブラックリストに登録されないうえ、500万円までの現預金など、財産を手元に残せるという利点があります。支払いに困ったらまずは利用を検討してみてください。
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※1
被災者生活再建支援制度は、一定規模以上の災害が発生した場合に、適用地域を区切って利用できる制度です。
内閣府防災情報 -
※2 応急修理制度は、災害救助法が適用された地域に限り利用できる制度です。
内閣府防災情報「住宅の応急修理」の項目に詳細があります。
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※3
被災ローン減免制度(自然災害債務整理ガイドライン)は、災害救助法の適用のあった災害の影響による場合に限り利用できる制度です。
自然災害債務整理ガイドライン運営機関
- 被災者生活
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まとめ
1.罹災証明書と写真
2.お金の支援
3.ハザードマップ
専門家のアドバイス
被災すると、生活を立て直すためにお金が必要です。不安になってしまうと思いますが、法律に基づいたいろいろな制度、支援の仕組みがあります。その情報をきちんと知っておくことが、再建への一歩を踏み出す原動力になるでしょう。
まずは罹災証明書を申請し、可能であれば写真を撮っておく。それらを活用して、さまざまなお金の支援を得ます。
それから大事なのが、ふだんからハザードマップをよくチェックして、リスクを理解しておくこと。水害リスクが高い地域に住んでいる場合、民間保険に入るのも手です。その際は保険がどんな被害に対応しているか、しっかり確認してください。
罹災証明書は基本的に住居の被害についての認定で、残念ながら家電や車など動産は含まれません。浸水の可能性が高ければ、それらがカバーされている保険を検討するとよいでしょう。
「知識の備え」を持っておくことが減災につながります。
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