Media Watch2016.01.18

日経が示す「3次元の価値」・Yahoo!ニュースが独自コンテンツを始めた理由~それぞれの戦略【上】

 それぞれ異なる戦略を展開する日経電子版とYahoo!ニュース。メディアを取り巻く環境が変化する中、両者は何を考え、どのような打ち手を模索しているのか――。当ブログでは、1月10日開催のオープンフォーラム「ニュースメディアをめぐる<雲>ゆきとデジタルメディアの未来」の中で行われたパネルディスカッションの模様を前後編にわたってお届けします。

【出演】(敬称略)

  • 日本経済新聞社 執行役員電子版担当 渡辺洋之
  • 日本経済新聞社 デジタル編成局編成部次長 重森泰平
  • ヤフー株式会社 ニュース事業本部長 片岡裕
  • ヤフー株式会社 ニュース事業本部企画部部長 有吉健郎
  • [モデレーター]早稲田大学ビジネススクール教授/同ビジネススクール・ディレクター(統括責任者) 根来龍之

日経が描く戦略と「3次元の価値」

根来 日経さんはデジタル版では紙の新聞よりも2倍、3倍のコンテンツがあるということですが、提携企業を見てみると、「日経◯◯」、つまりグループ企業が圧倒的に多いんですね。一方でYahoo!ニュースを見ると、東京スポーツから、朝日・読売まで入っている。ニュースって同じようで違うところがあって、幅広く300メディアを網羅しているYahoo!ニュースに日経電子版が敵うわけないじゃないか、という考え方はあるかと思います。日経は経済紙として、Yahoo!ニュースが提供できない深いコンテンツも持っていると思いますが、広さにおいてはかなわないでしょ、と。

 一方で、日経さんのパートナーには面白いパートナーがいます。Evernoteや名刺管理サービスEightとの連携です。コンテンツ企業じゃないところと提携しているのが、日経さんのすごいところだと思います。Yahoo!ニュースは300媒体と提携していますが、コンテンツ企業との提携なんですね。一方で、日経は異業種連携をしているという面白さがあります。そこでまずは日経さんに、連携戦略についてお伺いしたい。

渡辺 いまこの場で絵を書きながら、日経のポジションについて説明します。

渡辺 縦軸の下を「生活情報」、上を「仕事で使う情報」。横軸は右を「速報」、左を「解説」とします。皆さんは通常、ニュースといえば基本のポジションは右下のあたりが中心になるのではないかと思います。ここはYahoo!ニュースさんが圧倒的に強い。では日経はどこかというと右上のあたり。さらに日経グループの雑誌の情報を含めると、右上から、解説の左上のエリアに広がっていくようなイメージです。
 
 100億PVを超えるYahoo!ニュースは右下のエリアで圧倒的な引力を持っていて、右上の日経と右下のYahoo!ニュースの間に位置している新聞社もいると思いますが、Yahoo!ニュースの引力圏があまりにも強いので、その引力圏に飲み込まれようとしています。

 最近になって、この右下のエリアにFacebook(のInstantArticles)やApple(のNews)が来ました。さらに大きな引力圏が来たので、この引力圏に飲み込まれてしまうと自分たちのポジションがなくなってしまう。そのため、まず自分たちのポジションを確かにするために右上~左上のポジションをカバーし、さらに飲み込まれないように、Evernoteや名刺管理サービスEightとの連携で「使う」という価値、つまり「3次元の価値」をいれました、というのが日経の考え方です。「仕事コスモス」を作って、小さいながらも大きなコスモスに飲み込まれずに成り立つことが必要なのではないかと。

 われわれがやることはまだまだありますが、まずは自分たちが生き残るポジションをしっかりとること。仕事の情報は唯一その可能性があります。これがわれわれの考え方です。

デジタルの情報発信はIT企業が有利?

根来 日経は自社でアプリを作っていますが、現在の路線ではそれで素晴らしいことだと思います。しかし日経はIT企業ではない。一方、Yahoo!ニュースはIT企業。「どうすれば回遊してもらえるか」といったノウハウやシステムをより持っている会社です。よりエンジニアがいる。電子の新聞をやるなら、IT企業の方が強い性質があるのではないかと。だから仕事の情報に関しても、バックヤードをうまく作れる人がやらないと価値が高まっていかない可能性がある、というのがおそらくYahoo!ニュースさんの認識ではないでしょうか。

有吉 ユーザーにとっての親しみやすさや、毎日使ってもらえる身近さがYahoo!ニュースの一番の強みかなと思います。コンテンツでは、(渡辺氏が書いた)この図解で見ると、われわれとしては右下のエリアから、左の解説の部分まで広げていって、しっかり地盤を固めたいと思っています。

 一方で「届ける」ということに関していえば、今、ヤフー全体でもYahoo!ニュースでも、さまざまなデータをとっていて、「いかにユーザーに情報を届けるか」ということを日々研究しています。Yahoo!ニュースの中には編集者もいればエンジニアもいる。2つの職種が1つのチームを作って、日々、届けていくための工夫をしています。そこはこの図解には現れていない部分ですが、こちらが多少先行していると思える部分かなと思いますし、そのノウハウが「仕事」の分野にも生かせるようになっていけばいいのかなと思っています。

根来 ヤフーは一種の流通企業ですが、流通企業は流通企業なりの強さやノウハウを持っています。だから新聞社が作るサイトとは違うノウハウやバックヤードを開発できる力があるというのが一番大きな特徴なのかなと思います。あとは圧倒的なユーザー数の違いです。UU数でも4~5倍の人がみているサイト。現在の日経の路線を批判しているわけではないですし、与えられた条件の中での合理的な戦略だと思いますが、将来にわたってこの戦略でいいのかというと、少し疑問。また新しい技術が次々生まれてくるので、日経が現在の路線をどこまで追求できるかという問題はあると思います。

渡辺 ネットの世界は、BtoCのほうがスケールするので全てのリソースがBtoCに行きがちで、シリコンバレーでもBtoBにリソースをさいてくれる所は十分ではありません。世の中の大きな流れとリソースの流れが変わるまでは、しばらくはこういう形でやっていくしかないのではと思っています。

ヤフーが独自コンテンツに乗り出した理由

根来 次に、独自コンテンツについてお聞きしたいと思います。流通企業なら流通に徹して下手にコンテンツ作らなくていいのでは、パートナーも嫌がるのではないか。しかしヤフーさんは「特集」という独自コンテンツを作っている。あるいはこれから独自のコンテンツを作っていく可能性もある。キュレーションの世界では既にNewsPicksが独自コンテンツ路線を進んでいます。

 日経は独自コンテンツの会社。しかし独自コンテンツは記者の人数で制約されるから、プラットフォームに記事の数では負けるわけです。プラットフォームであるYahoo!ニュースの方が記事の種類が多く、いろいろな見方があるに決まっているんですよ。日経さんは深い記事もいい記事もあるが、プラットフォームじゃないがゆえに領域が狭くなっているという考え方もできる。もちろん「仕事のために見たい」というニーズはあると思います。また、ヤフーさんはただ単に記事を並べるだけではほかのキュレーション・アグリゲーションと差別化できないから、独自コンテンツを出していくべきだという考え方もあると思います。ただ、そこに対しては「プラットフォームがそこまでやって本当にいいの?」という見方もあると思います。Yahoo!ニュースの独自コンテンツの位置づけについてお伺いしたい。

片岡 独自コンテンツを昨年の夏から始めています。理由は3つありまして、1つ目は「差別化」。巨大なプラットフォームが起点を取りに来ている中、何をもってYahoo!ニュースに来てもらえるのか、という課題意識の中で、新たな価値作りをしようとやり始めました。

 2つ目ですが、ニュースを届けることで、現状、全てが課題解決につながっているかと考えると、そうではないと痛感しています。配信をいただくもの以外にも届けたいものがあって、それを自ら作って届けることでユーザーに行動してもらおうと考えています。

 3つ目ですが、コンテンツパートナーとぶつからないかというご指摘もありますが、実はオリジナルコンテンツといえども協業してやっていくモデルを作っています。具体的にはAERAさんだったり、文藝春秋さんだったり。一緒にどういうものを届けていくか、ということを考えています。例えば、同じテーマであっても私たちはオンラインで届けて、AERAさんは紙で届ける、というように。何もオリジナルといってもパートナーとぶつかるというのではなくて、既存のパートナーと「PV連動の支払いモデル以外の座組を一緒に作って共存共栄していきましょう」というのがオリジナルコンテンツに踏み込んでいる理由です。

根来 キュレーションサービスの独自コンテンツについて日経さんはどう思っているのでしょう。「素人が何やっているんだ」と思っているのでしょうか。

渡辺 われわれはまず日経新聞の編集権としての価値判断をすること、まずこちらを優先しています。その上で他の日経外のものが優先されるということは決して否定するものではない、という上で重森に話してもらいます。

重森 私はサービスを開発する立場ですが、日経のお客さんでもYahoo!ニュースやNewsPicksを見ている人もいます。でもなぜ日経に来るかというと、「朝の短い時間で経済ニュースをさっとまとめて知らせて欲しい」という要望が一番大きい。そこはわれわれが責任をもって、しっかりお見せするのは大前提。なので、記事を書いて流通する、という2つのものだけではなくて、そのあいだのキュレーション、いわゆる日経の中の価値判断の提示は一番の価値の部分なので、そこはあわせてセットでわれわれが責任をもってやっていきたい。

 なので、ヤフーさんだけにコンテンツを出さないというわけではなく、そこはケースバイケースで、ヤフーさんのことが嫌いだというわけでは全くないですし(笑)。ヤフーさんの中のコンテンツと、日経のコンテンツもそれぞれポジショニングが違いますし、コンテンツひとつひとつの勝負というよりは、日経の世界観の中で見ていただきたいです。

>>後編はこちら(Facebook「Instant Articles」は脅威かチャンスか~日経電子版・Yahoo!ニュースが語る戦略【下】)

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