Inside2016.04.06

「かみ砕きすぎたコンテンツは最悪」18歳に政治はどうすれば届くのか~YouthCreate原田謙介さん×Yahoo!みんなの政治~

この夏の参院選から選挙権年齢が18歳以上に引き下げられます。Yahoo!ニュースのなかで政治情報を扱う「Yahoo!みんなの政治」では、18歳をはじめとした若年層に政治に興味関心を持ってもらおうと、1月からスタッフが高校などに出向き、高校生と一緒に若年層に届く政治コンテンツを考える「社会課題アイデアソン」を実施しています。

社会課題アイデアソンの詳細はこちら⇒社会課題アイデアソンとは?

企画の背景にあったのは政治ニュースが若年層に届いていないのではないかという危機感でした。そこで今回は若者と政治をつなぐ活動を続けるNPO法人YouthCreate代表の原田謙介さんにお越しいただき、原田さんと、Yahoo!みんなの政治で社会課題アイデアソンを運営する20代の若手スタッフが、若年層に届く政治コンテンツというテーマで「若者と政治」について話し合いました。(聞き手/Yahoo!みんなの政治編集担当)

【出演】

原田 謙介 氏 NPO法人YouthCreate代表
1986年生まれ。「若者と政治をつなぐ」をコンセプトに活動。地方議員と若者の交流会「VotersBar」の全国展開や、行政・企業とのコラボ企画、選挙時の投票率向上に向けた企画などを実施している。

【社会課題アイデアソン運営スタッフ(下の写真左から順に)】
・田中 郁考 Yahoo!みんなの政治編集担当(24歳)
・高橋 洸佑 Yahoo!みんなの政治編集担当(23歳)
・大野 友希菜 Yahoo!みんなの政治制作担当(23歳)

政治は勉強するものではない

――若者の実感から聞きたいと思います。よく若者は政治に興味がないと言われます。政治についてどんなイメージを持っていますか。

大野 私はデザイナーとして入社していきなりYahoo!みんなの政治に配属されました。学生の頃はニュースすら読まない人間で。政治って何から学べばいいのか全然分からないんです。知っていないと恥だなというのはあるんですが、トピックが多すぎて、どこからやれば良いのか…。例えば摂関政治とか政治の歴史も勉強しないといけないんですかと、そこまでやらないと理解できないと思うと気が遠くなって後回しにしてしまう。政治にどうやって近づいていけばいいのか、政治との仲良くなり方が正直よく分かりません。

原田 政治に関する高校生のアンケートを見ると、「政治は頭のいい人がやっているものだから、僕はまだ関われない」という意見があるんです。自分が政治のことを知らないと思っていて、知らないと言っちゃいけないと思っているから、政治に触れられない。だけど僕たちは「政治学」を学んでいるわけではないんです。いろいろな政治への入り方があっていいはずなのに、どうしても政治が学ぶものの対象に捉えられてしまう。

高橋 社会課題アイデアソンでは高校生に「18歳に刺さるコンテンツ」というテーマでデータビジュアライズ作品を考えてもらっています。ある学校で「通学に使う電車の運賃が高い」というテーマでデータビジュアライズを作ったチームがありました。それが政治に解決して欲しい高校生の身近な社会課題だと考えて。

東京都立高島高校での社会課題アイデアソンの様子。中央は生徒にアドバイスする高橋。

原田 そういう身近で手触り感のあるところから入っていいと思うんです。そうでないと主体的に関心は持てないですよ。いまは高校生が関心を持つテーマで語られる政治がなさすぎます。本来、政治は自分に関わるものです。学ぶ政治だけじゃつまらない。

「自分も関われそう」という文脈をどう作るか

東京都立戸山高校での社会課題アイデアソンの様子。

大野 あとはいろいろな問題があるのは分かるのですが、ではそれに対して自分は何ができるのかと思ってしまいます。例えば選挙で投票しても、そこから何かが動くまでのラグがでかすぎてやる気がなくなってしまう。自分が何かやったところで、あるいはやらなくても何も変わらないのではないかと思ってしまうんです。

田中 先日、千葉県船橋市で公園でのボール遊びが解禁されるという報道 (関連記事:毎日新聞)があったのですが、それは中学生からの要望がきっかけだったんですね。そういうことが身近で起こると政治に関心が持てるんだろうなと思いました。

原田 そういうニュースに日常からもっと出会えれば、「あ、何か動けば変わるんだ」というのが意識できますよね。残念ながら僕らがやり方を知らないだけで、行政や政治にアプローチして自分たちの都合の良い方に変えていこうということをやっている人はいます。それ自体は悪いことではありません。何が悪いかというと、一部の人だけがやっていることが問題で、特に若者という文脈ではそういう動きがあまりないことがもったいないと思います。

例えば最近、国立大学の学費が上がるかもしれない( 関連記事:リセマム)という話がありました。海外で学費が上がるとかなりの学生が怒るのですが、日本ではそういう話はあまり聞かないです。なぜだろうと思うんですが、「関われそうな感覚」も一つかもしれませんね。ニュースを見て「そうだよね」で終わるのではなく、そこに対して自分も関われるんだという文脈をどう作れるか、という意識はメディアにも必要だと思います。

「Yahoo!みんなの政治」というページはみんな読まない

――メディアの伝え方という意味で、インターネットメディアの特徴はいろいろな見せ方を追求できて、社会課題アイデアソンで作成しているデータビジュアライズ もその一つだと思っています。どのような表現方法であれば、政治を身近に感じてもらえると思いますか。

大野 テキストであれ、動画であれ、なんであれ、自分の興味がない話題はその時点で見なくて、逆に例えば音楽が好きなら、それは動画でもテキストでも読むと思うんです。だから見せ方の工夫も必要だとは思いますが、根本的な解決はまた別だと思います。

原田 そもそも「Yahoo!みんなの政治」というページはみんな読まないじゃないですか。その「政治」という言葉で「えっ」ってなってしまう。音楽が好きな人に対しては、その音楽という文脈の中にちょっと著作権法の話を入れるというような、そういう小技も必要ではないでしょうか。

大野 ある本に書いてあったんですが、いまは人々の興味関心が多種多様だから、その中で多くの人に興味を持ってもらうには、まずはそれが好きなファンにとことん尽くして、その人たちに「これ良かったよ」と広めてもらうのが効果的だと書いてありました。確かに一番響くのは知っている人の声だと思います。だけどそれを政治に当てはめてみようとすると、じゃあ「政治のファン」ってなんだろうと思ってしまって。

原田 確かにタブー感は強いですね。Voters Barに来る人の中には、参加していることをSNSに投稿するのすらためらう人もいます。「ファン」を広げていけない、友達を誘えない空気感はすごく気になります。

――その「政治へのタブー感」はどこからくるのでしょうか。

原田 ないはずなんですよ。高校生や大学生は、最初は興味がない状態ですから、その時点ではそもそもタブー感も何もないと思います。その空気感を醸し出しているのは、むしろ結構上の世代の人だと思っていて、若者が思っているというよりは社会が思っていることが若者にも広がってきているということだと思います。

「若者に届く」政治コンテンツとはなにか

関西出身の田中。政治に関心をもつきっかけは橋下徹氏の政界進出だった。

田中 自分も高校生の頃それまでずっと政治に関心がなかったのですが、橋下徹さんが政界に進出した時になんか面白そうだと思いました。

原田 それは政治に興味を持ったというよりは、「人」としての橋下さんに興味を持ったということですよね。当時の田中さんは大阪都構想をすべて理解していたわけではないかもしれません。ですが、そういう関心の持ち方は大いにあるべきだと思っています。それが少ないのは、そういう伝え方をしないメディアの問題なのか分かりませんが、キャラクター的な話題のニュースは、もっと増えていいと思います。

田中 政治家に政治のことを話させないインタビューとかいいかもしれませんね。

原田 千葉市長がシムシティの実力を披露する記事( 関連記事:オモコロ)は良かったですよね。伝え方としてのステップだと思うんです。政治家を紹介する時に政策からではなく、まず人となりがあって、政策はその次というステップが刻めたらいいと思います。

政治をかみ砕いても興味のない人は振り向かない

田中 これは自戒も込めてなんですが、ニュースで若者に政治を伝えようとする時に、ついつい政治を、分かりやすく、かみ砕いて伝えようとしてしまうところがあるんですが、そもそも政治自体に興味のない人からすれば、興味のないものをかみ砕いて伝えられたところで、そんなに興味は持てませんよね。

原田 かみ砕くときに最悪なのは、かみ砕きすぎているコンテンツです。ふりがなばかりで「どう見ても小学生向けだろ」と思うものが、「高校生向け」であったりすると、若者をなめているのかと思ってしまいます。

あとは、世の中の主要な人が気になっている政策の争点は、実は若者は気になっていないかもしれなくて、だからそのニュースは見ないわけです。ほかの政治ニュースをちゃんと作らないといけないのではないでしょうか。例えば憲法や消費税が選挙の争点だと言われた時に、その主要争点を高校生に教えたほうが良いのか、あるいは高校生に興味のある話題を選んでもらってそこを深掘りしたほうがいいのかで考えると、僕は後者のほうが大事だと思います。

そういうニュースがもっと増えても良いのではないでしょうか。そもそも「政治に興味を持って、投票に行こう」ということ自体にむちゃがあって、自分の興味関心があるものと政治がつながっているから、政治に興味が持てるわけです。例えば年金をもらっている世代は年金が減ったら困るから政治に興味を持つわけですよね。

高橋 アイデアソンの運営をしていて思うのは、その「政治につながっているんだ」という気づきがあった瞬間の高校生の顔ってすごく楽しそうなんです。データという客観的なファクトを通じて、最初は「絶対これ政治と関係ないでしょ」というテーマがだんだん政治に近づいてくる。アイデアソンでなくても、そういう気づきのチャンスは日常生活にたくさんあると思っていて、そのチャンスに気づけるきっかけを、ニュースという形で提供するのもメディアの一つの責任なのかなと思います。

千葉県立白井高校での社会課題アイデアソンの様子。生徒にデータビジュアライズの設計図を作成してもらう。

届ける・伝えるだけでない、「巻き込む」という発想

原田 あとは政治と関われるんだという実感はやはり重要で、政治家とつながる企画はもっとあっていいと思います。若い人と接点を持ちたい政治家はいます。ただその人たちが、「若者集まれ」といっても若者は集まりません。そこをつなげるのはメディアや僕たちのようなNPOができることだと思っています。

田中 届ける・伝えるだけでなくて、「巻き込む」みたいな発想もメディアは持つべきではないかと最近考えています。メディアが若者のいる場所に出て行くという姿勢は大切だと思います。

【編集後記】

今回は普段サービスの運営をしながら、自分たちもまた若年層の一人である20代のスタッフに集まってもらいました。ディスカッションのなかで共通していた課題意識は、若年層が政治というテーマについて「手触り感」を感じられていないということでした。この点でメディアにできることはもっとたくさんあるのかもしれません。Yahoo!みんなの政治の模索は始まったばかりです。

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