Professional2017.09.05

2年も気付かなかった表記揺れ――Yahoo!ニュースアプリに欠かせない「UXライター」 スマホ時代の編集者とは

写真:アフロ

 Yahoo!ニュースでは「編集とテクノロジーの融合」を掲げ、職種の壁を越えたコラボレーションによってサービスを改善しています。Yahoo!ニュースアプリのチームには、エンジニアやデザイナー、ディレクターだけでなく編集者もいて、ニュースの価値判断など編集目線をアプリに反映させてきました。さらに最近では「UXライター」としての役割も担っています。

 UXライター(User eXperience Writer)は、米Googleや米Apple、米Amazonなど大手IT企業がこぞって求人募集を出していることもあり、最近注目を集めている職種のようです。「文章という表現手法でユーザー体験を向上させる仕事だ」と、Yahoo!ニュースのデザイン部長の宇野雄は語ります。具体的にはどんな仕事なのでしょうか。Yahoo!ニュースアプリの担当者らに話を聞きました。

宇野雄
Yahoo!ニュースのデザイン部長

齋藤梨乃
Yahoo!ニュースアプリのプロジェクトマネージャー

涌井瑞希
Yahoo!ニュース トピックスやYahoo!ニュースアプリ担当の編集者

隙間に落ちていた?「UXライター」という仕事

 UXライターとは何なのか――米Googleは「ユーザーが抱えるタスクの達成をコピーライティングによってサポートする」ことで「製品体験を形作る職種」だと、自社サイト「Google Design」で説明。文章表現のスペシャリストとしてプロダクトマネージャーやエンジニアなど、UXデザインに関するあらゆる職種の人々とともに働くと紹介しています。

 IT企業だけではありません。英BBCも過去に募集していたようで、そのページには「複雑な概念を明確かつ簡潔で説得力のあるコピーに変える」「すべてのBBC製品のインターフェースコピーを作成する」などと記載されています。

――Yahoo!ニュースアプリにおけるUXライターの仕事とは。

涌井
機能の名前やユーザー向けの案内文など、アプリ上のあらゆる文言を考えます。例えば、インターネットに接続できないときに表示される「記事を取得できませんでした。再度お試しください」というエラーメッセージ、コメント入力欄に表示する「コメントを入力してください」というプレースホルダテキストなど、多岐にわたっています。

――UXライターは“新しい仕事”なのでしょうか。

宇野
いえ、UXライティングが考えられないとWebサービスは成り立たないので、これまでも当然ながら存在していたのですが、誰がやるのか明確になっていなかったということだと思います。「表現手法を考える仕事だからデザイナーやってよ」「いやいやそこはディレクターの仕事でしょ」という感じで“隙間”に落ちていたのかも。

齋藤
(Yahoo!ニュースではUXライターという肩書きのスタッフは現状おらず)これまではディレクターがUXライターを兼ねている場合が多かったです。Yahoo!ニュースアプリでは、編集者の涌井さんが主に担当しています。

宇野
UXライターは専門領域になりうる難しい仕事。最終的なアウトプットを文字として出すけど、デザインや体験の専門家でもある必要がある。お互いのことが分かってないとできないですね。

齋藤
ハードル上がりまくりですね(笑)

涌井
やばい(汗)

――なぜ今UXライターが注目を集めるのでしょうか。

涌井
スマホ時代だからでしょうか。画面が小さいという制約のなかで、文言を考える必要があります。

齋藤
スマホアプリでは「PUSH通知を開く」というようなユーザーに操作を求めるインターフェースが増えているので、UXライティングが重要になってきているのかもしれません。

アプリで広がった、編集者の仕事

――Yahoo!ニュースアプリで編集者がUXライターを兼ねるようになったきっかけは。

齋藤
以前、Yahoo!ニュースの編集者にアプリのバナー文言を考えてもらう機会があり、表現や言葉の順番を変えたパターンもいくつも作ったんです。そしたらCTRが良い結果になりまして。

宇野
バナーの文言を考える仕事はコピーライターに近いけど、編集者がアプリにUXライターとして関わるきっかけになりましたね。

涌井
Yahoo!ニュースアプリの担当になったとき自分に知見が全くなくて「これはまずい!」と思い、まずはいろんなアプリの事例から学ぶことにしました。気になる画面があったらとにかくスクリーンショットを撮ります。Yahoo!ニュース トピックスの13文字の見出しを考える仕事をこれまでしてきて、「決められた場所に伝えたいことを書く」「正しい日本語で書く」というスキルはあるとして、今足りないのはデザイン思考です。「ユーザーに期待する行動」を実現するために、テキストで解決するのか、デザインで解決するのか、見極められるようになりたい。

2年も気付かなかった表記の“揺れ”

――Webサービスを運用する上で、チームにUXライターがいるとどんな良いことがあるでしょうか。

宇野
「体験の統一」は大きいですよね。

涌井
設定画面ひとつを取っても、同じ人がずっと作るわけではないので、すぐ統一されなくなっちゃうんですよ。先日もYahoo!ニュースアプリのAndroid版で「文字サイズ」と「フォントサイズ」という“表記の揺れ”を発見しまして。

齋藤
調べてみたら2年間も気付いてなかったようで……ようやく修正しました。

――なんと2年も! 気付けて良かったです。

涌井
最近、Yahoo!ニュースアプリの設定画面で、タブを「タブ」と呼ぶべきか、「ジャンル」と呼ぶべきかという議論もありました。Yahoo!ニュースアプリは「国内」「地域」「経済」「国際」「IT」「科学」「エンタメ」「スポーツ」の8ジャンルのニュースを快適に見せるという思想で、それぞれタブに分かれているのですが、後から新しい機能がタブに追加されて、ジャンル=タブではなくなりつつあって、一番納得できる表現は何なのかと。議論の結果「タブ」と呼んでいます。


Yahoo!ニュースアプリはタブに分かれている。こちらは最近追加された「オーサー」タブ

宇野
「タブの並び替え」とは言うけど「ジャンルの並び替え」とは言わないなあとか色々考えました。正解がないですよね。

すごいUXライティングとは「気付かない」こと

――なるほど難しいですね。皆さんにとって“すごい”UXライティングとは何でしょうか。

宇野
究極はそれに「気付かない」こと、違和感なく使えることではないでしょうか。すごいUXライティングは極めて普通なのだと思います。

涌井
丁寧な表現だからいいというものでもありません。スマホサービスのエラー文言や案内文でたまに、英語を直訳したような表現がありますが、ユーザーもそれに慣れている現実があり、あえてそこから離れるのも変。例えばインターネットに接続できないときに表示するエラー文言で「大変申し訳ありません。お手数おかけします」と謝りすぎるのも違うなあと。

宇野
「ネットワークに接続できません」と表示するのか、接続できる方法を示してあげるのか、アプローチの違いによって文言は変わってきますね。

涌井
そうですね。多少ユーザーが混乱してもいいから、サービス側の目的達成のために強引な文言を使う――ということも、UXライティングでやろうと思えばできてしまいますよね。

宇野
ユーザーにどこまで寄り添えるかということですよね。

――Yahoo!ニュースとしてUXライティングで気をつける部分はどんなところでしょうか。

涌井
シンプルで誰にでも伝わることです。Safariに「ページを開けません」というエラー表示がありますが、ページって開くのかな? どちらかと言うと「表示する/しない」ではないのかな? などと、とことん追究しはじめると訳が分からなくなります(笑) どうとでも取れる表現をできるだけ無くすなら「表示できませんでした」と書くだけでもいいかもしれません。文言ひとつでイライラに火を注ぐということもあると思うので、ユーザーが切羽詰まっているときに読んでも問題ないかどうかなども意識します。

齋藤
ニュースを伝える立場として、「やたら過剰」に表現しないことを意識しています。「注目」とか「人気」といった言葉は軽はずみに使わないですね。

宇野
文字の視認性も大事ですね。漢字ばかりではなく平仮名も混ぜるといった工夫もしています。「医療現場で『右肩』『左肩』ではなく『みぎ肩』『ひだり肩』と書くようにしただけで、取り違え報告はほぼゼロになった」というツイートを以前見かけたことがあります。

涌井
そういうダイレクトな課題解決までいけるといいですね。

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