Professional2018.10.30

現場を撮り続けて11年 写真記者が出向して思うこと【十勝毎日新聞(北海道)→Yahoo!ニュース トピックス編集部・出向社員コラム】

遭難事故や福島第一原発、遠くは南極までー。十勝毎日新聞社の塩原真さんは、数々の現場を伝えてきた写真一筋11年目の記者です。
そんな塩原さんは突然の辞令を受け、2018年4月からYahoo!ニュース トピックス編集部で働いています。任期は1年間、十勝毎日新聞神奈川新聞沖縄タイムスから出向している3人の記者のうちの1人で、写真記者としては、初めての出向です。
9月6日には、北海道で震度7の地震が発生しました。出向半年を経ての思いを語ってもらいました。

北海道で地震が発生 そのときの思いは

出向中の塩原さん

5歳の長男と妻を北海道帯広市に残し、東京で単身赴任しています。ちょうど地震が発生する直前、休暇を取り、帰省していました。東京に戻り「明日から仕事復帰」という日の未明に北海道・胆振(いぶり)地方を震源とする地震が発生しました。

朝目覚め、テレビニュースで地震を知りました。「北海道で震度6強(後に7を観測していたことが判明)」。これは大変な事態だと、家族や同僚らの安否を確認しました。

すぐ沸き起こってきたのは「現場で取材したい」という気持ちでした。いつも現場にいたのに、ビルの中でいすに座り、被害を伝えることが信じられなかったのです。

「今、できることをやろう」と気持ちを切り替え、都心の中に建つヤフー本社に向かいました。

Yahoo!ニュースには、一日5000本以上の記事が届きます。その記事の中から、編集部員がピックアップして伝えられる記事はごくわずか。震災後、普段なら埋もれてしまいがちな北海道のニュースで埋め尽くされました。故郷が被災地として、全国から注目を集めているのだとあらためて実感しました。

現場経験 生きた面も

災害や事故現場などつらいニュースを目の当たりにするとき、思い出す「原点」のような取材がありました。

悩みながらシャッターを切ることも

記者駆け出し2年目だった2009年7月、北海道大雪山系トムラウシ山で遭難、ツアーガイドを含む登山者8人が死亡した事故です。登山が趣味の私自身、よく登っていた山でした。ご遺体にカメラを向けると、関係者から「人の不幸で飯を食うな」という怒号が飛んできました。「自分は何をしているのか」という自責の念がこみ上げました。

一枚の写真は、ありのままの事実を伝えます。「なぜこのような事故が起きたのか。二度と起こしてはいけない。自己満足かもしれない。それでも撮らなければ」と葛藤が続きました。「ニュースを伝えるとはどんなことなのか」を考えさせられる取材でした。

地震と遭難事故。事象は違うにしろ、人の命を扱うニュースです。今回の北海道での地震を伝える配信記事にも重みを感じました。

「地震による死者は何人」。数字の背後には、人の悲しみや命の重みがあります。行政の対応もきっと簡単に批判することはできないでしょう。それぞれの人がそれぞれに現場で戦っているはずです。

例え、ビルの中でいすに座っていたとしても「人」が関わってくるニュースだと実感できました。

災害を伝える 地元紙とYahoo!ニュースの違い

地元紙とYahoo!ニュースの違いもあらためて感じました。

十勝毎日新聞も停電、当日発行できた紙面は6ページでした。社員の家族や親戚らも被災しています。地元紙は、地震を「当事者」として伝えている。一方、Yahoo!ニュースでは「ニュース」として伝えていました。どちらがいい、悪いではなく、それぞれに役割がありました。

Yahoo!ニュースの強みは、やはり速報性だと思います。そして、一地域の話題を全国に伝えてくれること。一方、十勝毎日新聞は、住民に切実な生活情報をどこよりも詳しく伝えていました。

普段のメディアは「抜いた」「抜かれた」の他社とのライバル関係で、なかなか協力できない面があります。しかし、災害時には無料で情報公開するなど、協力関係が生まれます。災害報道にこそ、ネットと新聞の連携が必要だと思いました。

全国に届けたい写真 編集部員向けに講座を開催

災害報道だけでなく、普段のYahoo!ニュースも「人」が介在してこそ、できているのだと実感しています。

記事のピックアップは合議制なのですが、編集部員がそれぞれの個性を持って記事を見つけます。新卒の20代もいれば、記者経験者もいる。ゲームに詳しい人もいれば、政治が好きな人もいる。

新聞社なら、デスクから局長を通って記事が掲載されます。Yahoo!ニュースでは、上下関係はあまり感じません。チャット上で、ピックアップする、しないの激しい議論が交わされることも。多種多様な人たちが、人の手で、それぞれの感性でニュースを編集しているのだと知りました。

20代の社員に「編集部員向けの写真講座を開きませんか」と誘われ、開催したこともあります。Yahoo!ニュースでは、記事だけでなく、PCブラウザ版のトップ写真に載せる写真をピックアップする仕事もあります。私が、南極地域観測隊の写真記者として4カ月間南極に滞在した際の写真を紹介したり、撮影の心構えを伝えたりしました。

南極地域観測隊に同行し、厳しい自然を切り撮った(塩原さん撮影)

Yahoo!ニュースには、記事ほど多くの写真は届いていません。予定稿のようなものがないので、配信されるまでに時間がかかるのも理解できます。全国には、届いていない「いい写真」がたくさんあるはず。改善の余地はあると思いました。

大事にしたい ユーザー感覚

Yahoo!ニュースで、あらためて学んだことがあります。今、どんな記事が読まれているのかがリアルタイムで分かるシステムがあるのですが、新聞社側が伝えたいという、いわゆる1面級の記事でも、必ずしも読まれません。新聞社が「読ませたい記事」と「読まれている記事」とのギャップにも驚きました。Yahoo!ニュースではエンターテインメントやスポーツといった「社会的関心」と政治経済などの「公共性」という軸を元に、バランスがとれた配信がなされています。

硬めの記事でも、読ませるための見出しを練ります。もちろん、釣り見出しにならないように配慮します。ニュースをより深く理解するための「ココがポイント」というパートには、画像やQAを使うなど、随所で工夫しています。

新聞の「他社を抜いた」「取材で苦労した」だけでは、自己満足に終わってしまうことも。これほど、ネットで無料記事が読める時代の中で、新聞の読者は、お金を払って新聞を購入していただいています。要望にこたえるのは当然です。硬い話題でも、分かりやすく「自分ごと」として感じてもらう工夫の必要性を切実に感じました。

出向期間は残り半年を切りました。私はまた現場に戻ります。北海道では、震災の継続的な報道が求められます。Yahoo!ニュースで働いた新聞社の人間として何ができるのか。これからも「異文化」を楽しみながら、頑張りたいと思います。

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