「埼玉の女子高生がトランプ大統領に並んだ!」爆発的なPVを呼んだローカルニュースと取材の舞台裏
新聞・テレビ・雑誌・ネットメディアなどから配信された記事を分刻みで更新し、配信しているYahoo!ニュース。編集部がその中からピックアップし、13文字の見出しを付け、関連リンクを追加するなどしたものが「Yahoo!ニュース トピックス」になります。その数、1日100本以上。
トピックスに選ばれるものは、国内での事件・事故や政治、国際情勢、スポーツなど、新聞の1面に掲載されるようなニュースが多くなりますが、地方での出来事を取り上げた記事も積極的に取り上げています。そのローカルニュースのカテゴリで今年はじめ、ある「事件」が起きました。
「埼玉の女子高生がトランプ大統領に並んだ!」
2017年のお正月が明けて間もない1月6日、埼玉県郊外で起きた小さな出来事を取り上げた埼玉新聞の記事が、「高1が涙 道に散乱の紙を回収」という見出しでトピックスとなり、トップページに出ました。
「高1が涙、道に散乱した紙拾い集め 鴻巣署が感謝状…見ないふり辛い」
(埼玉新聞のウェブサイトに移ります)
県道に散乱していた大量の古紙を女子高生が一人で回収し、その行為を警察が表彰したという内容。正直、テレビや新聞のトップニュースには選ばれにくい話題かもしれません。しかしこの記事は、大きなニュースが多かった2016年度のトップランクに入るほどの閲覧数を記録。ウェブサイトの閲覧数を示すPV数では、「トランプ大統領が当選」と並ぶほどの大反響を呼びました。
4月6日に発表された「HAPPY NEWSキャンペーン」(日本新聞協会主催)の2016年度受賞作にもこの記事が選ばれました。記事を読んだ大学生が推薦し、「大学生大賞」を受賞しています。選者は推薦の理由を「素朴で美しい行動を知って、僕は自分の生活を振り返らずにはいられなかった」とし、さらに「この記事を読んで、言いようのないうれしさに包まれた。ありがとう」と感謝の言葉も添えられていました。
社会を震え上がらせるような猟奇的事件ではなく、誰もが驚く芸能人のゴシップでもない。にもかかわらず、なぜここまで多くの人の心をとらえたのか。編集部内でも議論になりました。掲載されたタイミングがよかったということもありますが、それよりも「まっすぐに人に感動を与える内容だった」という意見が多くありました。さらに深掘りをして、この記事はどのような経緯で取材されることになったのかを知りたいと思い、埼玉新聞を訪ねました。
地域密着型の新聞だからこそ取れた「特ダネ」
事件や事故、または今回のような表彰式など、警察が関係する取材は、「広報文」という警察署から発信されるプレスリリースをもとに行うのがほとんどです。報道用として、日時や場所、当事者の名前などが詳しく書かれてあり、担当の記者はそれを読んでニュース価値があるかどうかを判断し、取材に行くかどうかを決めます。
今回の記事を取材・執筆したのは記者歴20年以上というベテラン、新井千昌(ちあき)さん。10代の娘を持つママさん記者です。
新井さんも広報文をもとに取材したのだろうと思い、こう切り出しました。
編集部:「取材のきっかけになった広報文を見せていただけますか?」
すると予想外の答えが。
新井さん:「それが、この件について警察は広報文を出していないんです」
顔なじみの警察官から口頭で教えてもらったとのこと。驚きました。
「女子高生の素晴らしい行動に警察署内で拍手が起きた。表彰を考えているが取材してもらえるだろうか?」。新井さんは「ぜひ」と即答。もちろん、表彰式を取材したのは埼玉新聞のみ。地域密着型の取材活動を続ける地方紙だからこそ取れた「特ダネ」だと思います。
新井さんは、見て見ぬふりはできないと泣きながら紙を拾い続けた女子高生の気持ちに心を打たれ、「自分の娘だったらどう行動しただろうか」と考えながら原稿を書きました。
「これはいい話。反響を呼ぶに違いない」。新井さんから原稿を受け取ったデスクの高橋信彦さんは原稿を読みながら、Yahoo! JAPANのトップページに記事が出ている光景が思い浮かんだそうです。
「新年早々、心洗われた」ネットを通して反響続々
高橋さんの期待通り、記事はトップページに掲載されました。その直後から新聞社へ反応が続々と届き始めます。普段は不祥事に対する怒りや苦情などが多くを占めるとのことですが、今回は違いました。ほぼすべてが感動や感謝など好意的なものだったのです。「女子高生にトロフィーを贈りたい」と申し出る企業まであったとのこと。 特別に見せていただいた読者からのメールにはこう書いてありました。
「悲しくなる事件が多発する中、こういう記事はとても貴重。これからも地域の小さないいことを拾って発信してください」
「心洗われる記事を読み、感謝の気持ちを伝えたくてメールを書きました」
どちらも紙の埼玉新聞を読むことができない県外在住者からのメールでした。埼玉新聞から渡されたニュースのバトンをYahoo!ニュースがつなぎ、新聞が届かない場所にもこの素晴らしい出来事を伝えることができました。
取材の終わりに、高橋さんは期待を込めてこう話してくれました。
「地方紙の使命とは、全国紙が拾いきれない小さなニュースを積み重ねていくこと。10本の記事を配信してたとえ1本しか読まれなかったとしても、その1本に大きな意味がある。今回の記事に対する反響は、私たちの日々の努力が報われたような思いです」。
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