Media Watch2016.11.21

これからは競合より協業? 世界から約2500人のメディア関係者が集結、「ONA16」から見えたメディアのあり方

 ニュースとテクノロジーの世界の最新事情はどうなっているのでしょうか。9月中旬、アメリカで、世界各国のメディア企業が集うカンファレンス「ONA16」が開催されました。Yahoo!ニュースの担当者は昨年から、このカンファレンスに参加しています。今回はその模様と、日本から参加したメディア企業の関係者がカンファレンスから何を感じたのか、後日国内で行われた報告会の様子をレポートします。(Yahoo!ニュース編集担当/高橋洸佑)

ONA16とは

 「ONA」とはデジタルジャーナリズムに携わる人たちの業界団体「Online News Association」が年に1回開催しているカンファレンスです。今年の会場はコロラド州のデンバー。街の中心にある大きなコンベンションセンターに、アメリカ、中国、ドイツなど各国から約2500人のメディア関係者が集まりました。ここで3日間にわたってデジタルジャーナリズムのトレンドが報告されます。参加者はジャーナリストやエンジニア、デザイナー、教育関係者などさまざまです。

(ONA16の会場の様子)

 会場に入るとまず目を引いたのがCNNやGoogle、Twitterといった各企業の出展ブース。ここでは各社の最新の取り組みやコンテンツを体験できます。特にGuardianが提供していたVRコンテンツは常に長蛇の列ができていました。VRが今のトレンドであることがうかがえます。

(VRを体験できるGuardianのブース)

 イベントのメインになるのが、VRやSNS上のコンテンツの作り方などについて各社の担当者が報告するセッションです。3日間の開催期間中、60を超えるテーマのセッションが開かれていました。

(セッションが行われる会場のひとつ)

 今年、日本からこのカンファレンスに参加したのはYahoo!ニュースの他に、新聞社や出版社など15人ほど。彼らにとって3日間のカンファレンスはどう映ったのでしょうか。後日、日本から参加したメンバーによる報告会が開かれました。

 報告会ではONA日本支部のスマートニュース・藤村厚夫氏の講演に続いて、 日本から参加した新聞社や出版社の3人がカンファレンスを振り返りました。

(今年のカンファレンスの特徴を振り返る藤村氏)

 「ONA16」を通じて見えた世界のトレンドは――。日本のメディアは世界のトレンドにどう向き合っていくべきなのか――。ここからはONAを受けた3人のディスカッションの様子をご紹介します。

藤谷 健氏
朝日新聞社 コンテンツ戦略ディレクター兼ソーシャルメディアエディター
澤野 未来氏
読売新聞社 システム企画部
阪上 大葉氏
講談社 現代ビジネス編集部

Facebookの圧倒的な存在感 ライブ中継はスタンダードに?

(左から、阪上氏、藤谷氏、澤野氏)

藤谷
 現地に行ってみて驚いたのは、やっぱりFacebookの圧倒的な存在感ですね。Facebookは分科会もやるし、パーティーもやっていて、そこには人が集まってくる。レガシーメディアは「わらをもつかむ思い」でFacebookの話を聞いているというような感じでした。
藤谷
 特にFacebookライブとInstant Articles、これは関心を集めていて、関係するセッションは満員でした。セッションで紹介されていたのはFOXニュースやNew York Timesの例。例えばトランプタワーに男が上った話をFacebookライブで中継したとか。言ってしまえばそれだけの話なんですが。

(Facebookライブに関するセッションの会場。多くの聴衆がつめかけた・現地撮影)
藤谷
 ライブについてFacebookの担当者が何を言っていたのかというと、一つはオーディエンスエンゲージメントを高めるツールであるということでした。実際に数字として普通の動画の10倍のコメントがつくと言っていました、あるいはアーカイブで視聴する人も多いと。また今後は動画タブを作ってFacebookのなかで動画だけを見られる場を作る。そんな話もありました。ただいろいろ問題もあるかなと。
澤野
 そうですね。ライブはすごく面白いと思うんですが、やっぱりちょっと気になる点がありました。例えば、恋人の射殺現場を実際に配信して370万再生されたという例が過去にあったんですが、こういうショックが大きい動画を子供がうっかり見てしまったらどうするのか。公序良俗に反する動画があった場合に、どうするのかというのは、会場にいるジャーナリストの皆さんも気になる所で、何回もそういう質問が出ていました。テレビならスイッチングで映さないかたちで配慮もできますが、Facebookではできない。そういうところは要注意かと思います。
藤谷
 向こうのメディアもとりあえずやっているような印象だった。そこで何を目指すのかと、やっている人たちもあまり分かっていないという面もあって、人は集まってくるんだけど、それはブランディングにプラスになるのか、信頼性につながるのか、その辺はまだまだ見えていない、五里霧中という面はあるのかなと思いました。
澤野
 それからONAの中で毎年、人気のセッションの一つに「これから来るテクノロジーの10のトレンド」というテーマのセッションがあるんですが、その中では「bot」の話もありました。

(「これから来るテクノロジーの10のトレンド」のセッション会場・現地撮影)
阪上
 そうですね。botはこれから全盛だろうという予測がありました。開発コストが非常に下がっていて、多少エンジニアがいれば誰でも作れるようになるということでした。それぞれのメディアが、それぞれのbotを開発して、何か質問するとそれに答えてくれるような記事、書籍を提示する。そのbotが提示するレベルの優劣によってメディアの価値が決まっていくという話があって、なるほどと思いました。
澤野
 あとは個人的に面白いと思ったのは「journalism as a service」という考え方ですね。いろんなサービスの中にニュースを組み込んではどうかと。例えばカレンダーアプリを立ち上げると、その日付に今日見るべきニュースが並んでいるような、ニュースに来てもらうのではなく、ニュースを溶け込ませるというアプローチで、これは面白かったなと思いました。

ONA16に見るメディアのこれから

澤野
 カンファレンスの中で、皆さんとても興味があって私も興味があったのが「マネタイズのためのアイデア」というセッションでした。メディアの仕事は何でしょうかという定義の問いかけがあって、そこで話されていたのは、メディアの仕事は記事を作成することだけじゃないんですということでした。情報を探求して付加価値を作る、そしてストーリーテリング、コミュニティー作り、この4つの機能をメディアはやるべきなんじゃないかと。そこに到達するまでに知恵を絞るセッションでした。
澤野
 紹介されたアイデアはもうやっているよね、というのもあって若干消化不良だったんですが、このようなアイデアが紹介されていました。もうやっているからと一蹴しないで、本当に自社のサービスはそれでいいのかと見直すきっかけにしたいなと感じました。

(会場で紹介されたアイデア)
藤谷
 向こうではBBCやAPなどメジャーなメディアから現役バリバリの人たちが来て倫理の話をしていました。Online News Association(ONA)にも報道倫理の委員会みたいなものがあります。ユーザージェネレイトコンテンツをメディア側が使うのが当たり前になっているわけですが、それを使う基準や、どういったことに気をつけるのかという倫理規範は、まださほど議論されていないと思います。ONAでは、それをずっと議論していて、今年の2月に「ONA Social Newsgathering Ethics Code」が発表されたのですが、その説明がありました。

Online News Associationが発表した倫理規範の内容⇒ ONA Social Newsgathering Ethics Code

勝ち筋は「競合ではなく協業」?

阪上
 参加して驚いたのは、アメリカの特にローカルメディアでは協業というのが当たり前に行われているということでした。取材の段階から、複数のメディアの記者、カメラマン、エンジニアなどが一緒に進めている。
阪上
 協業に関するセッションがあって参加したら、初めに「皆さん協業やってますよね」と質問されて、オーディエンスの8割ぐらいが手を挙げていた。協業の経験を前提に議論が進んでいて驚きました。日本ではまず考えられない。

(報告会の様子)
阪上
 既存のパイの奪い合いではなくて、メディア同士が組むことでパイ自体を大きくしましょうよという発想ですよね。競合ではなく協業という考え方にヒントがあるんではないでしょうか。

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