Inside2022.07.12

1日9件の中継や緊急の記者会見にも対応――THE PAGE中継プロジェクト奮闘記

Yahoo!ニュースが運営する「Yahoo!ニュース オリジナル THE PAGE」では、これまでに数多くの記者会見を中継してきました。最近では、緊急事態宣言の発出時やまん延防止等重点措置の実施時における知事の記者会見、衆議院議員選挙における各党の記者会見などで、1日に9件の記者会見中継を行うことも。トンガで起きた大規模噴火による津波発生時には、午前2時過ぎでも気象庁の記者会見を中継しました。こうした中継配信により、YouTubeでのチャンネル登録者数は現在は約27万人。そもそもなぜTHE PAGEは中継に注力しているのでしょうか? THE PAGEの中継チームの長妻淳一(プロジェクトマネージャー)、チャーリー(仮名/編集)、箕田和浩(企画)、赤間一欽(カメラ)に聞きました。

(※肩書きや人員数は取材当時のものです)

――Yahoo!ニュースのTHE PAGEが、現在、独自に中継を行っているのはなぜでしょうか?

長妻:即応性、アーカイブ性、独自性の3点からになります。即応性という点では、他社が撮影はしても中継はしない会見もライブで届けています。アーカイブ性という点では、中継終了後もオンデマンドで視聴可能な状態にしています。独自性という点では、日々の国会や地方自治体の首長の定例会見など、コア向けでも公共性が高いコンテンツは中継しています。他社が途中で切り上げる会見も全編で中継していますね。

――記者会見の中継は、そもそもいつから始まったんですか?

チャーリー:2014年ですね。今、YouTubeには佐村河内守さんや小保方晴子さんの記者会見の動画がありますが、その前に舛添要一さんの都知事就任会見を中継しています。ただ、当時は別のプラットフォームでやってたんです。

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――自前で中継をするのは大変なことだと思いますが、どういう経緯で中継を始めたのでしょうか?

チャーリー:その頃、動画を強化していく社内の動きがあって、まずは2013年から時事問題を取り扱う解説動画に取り組みました。

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さらに映像でできることとして、記者会見の生中継を始めたんです。

――当時の中継は、どういう体制でやっていたんですか?

チャーリー:THE PAGEのメンバー3人に加えて、社外からもお手伝いをしていただいて、4人でやっていました。

――現在は、何人ぐらいの体制になっているんでしょうか?

長妻:9人ですね。
チャーリー:赤間さんたちの他にも協力していただいているので、そうすると4、5人は増えます。

――カメラをかついで現場に行っていただいている方も含めると、15人程度ですね。カメラマンの赤間さんはいつ頃から参加されたんですか?

赤間一欽

株式会社イーピーティ映像事業部部長。2011年に映像事業を立ち上げて以降、ウェブメディアで撮影から編集、中継まで広く手掛ける。THE PAGEの中継業務に2016年10月から従事。

赤間: 2016年の10月からですね。最初の中継はリオ五輪の銀座のパレードの中継でした。来て早々いきなり大きなイベントを中継することになったのですが、実はわれわれがカメラを構えて中継できるのはスタート地点の虎ノ門ヒルズ前のみで、一番パレードが盛りあがる銀座の中央通りにカメラを置くことができないことが事前にわかりました。「いやこれ困ったな」ということで、とりあえず実際にパレードするルートを歩いて撮影できそうなポイントを探りました。そのなかで通りが見通せる貸し会議室を発見、飛び込んで内覧させてもらい、狙いどおりに通りも見とおせることも確認しました。しかもパレード当日は空いているとのことで速攻で予約して結果、事なきを得ましたが、いきなり初っ端からいろいろ大変でした。
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――今は現場にカメラをかついで行く「カメラマン」と、配信システムのオペレーションをする「受け」の人に分かれていますね。そうした体制になったのはいつからでしょうか?

チャーリー:2016年ですね。それまで中継は月2件ぐらいしかなかったと思うんですよ。そこから赤間さんたちに入っていただいて、「カメラマン」と「受け」っていう体制にして分業が整理されて、件数をちょっとずつ増やして、月4件ぐらい中継するようになりました。

――1日に中継した件数最高記録はどれぐらいでしょうか?

赤間:2019年の6月にあったG20大阪サミットでしょうか。ただわれわれが会場でカメラを構えて撮影することはできませんでしたので、提供される映像をそのまま中継・配信するのですが、関西国際空港に到着した各国の首脳の様子から、歓迎レセプション、ファーストレディが大阪・京都を散策する様子までさまざまな映像を中継・配信できました。サミットは6月28日と29日の2日間でしたが、その前日の27日から各国の首脳の来日がありましたので、この3日間で計22件の中継、配信をしました。そういう意味でも特に印象に残る案件でしたね。

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――2021年10月の衆院選では、中継を1日9件もした日もありましたが、なぜ、15人程度の体制で、それほど多くの中継が可能なのでしょうか?

チャーリー:協力してくださるカメラマンが、東京のほかに大阪と愛知にいるんです。

――2022年1月にトンガの大規模噴火の影響で津波が起きたとき、午前2時から気象庁の会見を中継できたのはなぜでしょうか?

赤間:もう寝ようかなというタイミングで携帯から警報が鳴って、テレビをつけたら通常の番組がニュースに変わっていて、「これは気象庁の会見があるかも」と思い、中継に出かけられるよう準備を始めました。気象庁は、早いと1時間後には会見が始まることがあるので、さっと着替えて気象庁へ向かいました。
チャーリー:大前提として、僕らは記者クラブに所属をしていないので、情報収集をして会見をキャッチできたら、「入れますか?」っていう交渉をしています。記者クラブだと「投げ込み」というのがあって、日時や場所の情報が手に入るんですが、われわれは自分たちで会見情報を探して行くことを長くやっていますね。

――記者会見現場での苦労も多いのではないでしょうか?

赤間:最初の頃は会見に入れるのはテレビや通信社、新聞などで、ネット媒体やフリーはなかなか入る許可をいただけませんでした。それでも、会見の情報を得ては電話やメールで会見に入れていただけるようお願いをしていくうちに、少しずつですが、許可をいただけるようになり中継できるようになっていきました。当時は会見をノーカットでライブ配信されることに抵抗がある会見主催者も多かったですが、最近ではどのテレビ局も会見をネット配信するようになり、その抵抗感も薄くなってきたこともあるかもしれません。

――記者会見を中継するかどうかの基準は、どういうところで決めているのでしょうか?

長妻:Yahoo!ニュース トピックスは、政治や経済、災害など社会に伝えるべき重要度と、スポーツやエンタメに代表されるような「社会的関心」という2つの軸でニュースバリューを決めており、有事とか国民的イベントには対応しましょうという方針があるので、そうしたものはちゃんと逃さずに捉えて中継するよう判断しています。ニーズに応えられる中継をするということが、ひとつの軸にありますね。

――みなさんの思い出深い配信はあるでしょうか?

赤間:2019年3月にイチローさんの引退会見があって。ちょうどその日は僕の結婚記念日の日だったんです(笑)。だから夕方から家族で焼き肉を食べに行って、お酒も飲んじゃってて(笑)。それで会見をするという情報は得たものの、どこでやるのか、何時からなのかもわからないまま「とりあえず向かってもらえますか」と。結局、タクシーを呼んで向かったんですけど、今度は場所はわかったけど、案外早く会見が始まるかもってことで、それはもう焦りましたよ。「ここまでしたのに会場に着く前に会見が始まるのは勘弁してよ」と。結局は滑り込みセーフで間に合いましたが、その頃にはすっかり酔いもさめてましたね(笑)。

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――結果として850万回以上も再生されているわけですが、奥さまは大丈夫だったんですか?

赤間:最初は「え〜」という感じでしたが、最後は「気をつけてね」と半ば諦めモードだったと思います(笑)。
チャーリー:イチローさんが日本に凱旋(がいせん)して試合をやっていて、昼に引退の報道が出たんです。リサーチをかけて、東京ドームの横のホテルだとわかって、夜の10時ぐらいに赤間さんにお願いをしてタクシーに乗っていただいて。試合時間が伸びてくれたがために、なんとか現場に間に合いました(笑)。現場に行って入れるかもわからないけど、とりあえず並んでいただいたんです。もう混乱のまま中に入れて、そのまま中継をやって。
赤間:当時、地上波で中継していたと思うのですが途中で終わってしまったのか、みんな「続きはどこでみられるのか?」とネットに流れ込んできたんじゃないですかね。YouTubeはそういう情報にアクセスがしやすいということもあったと思うんですけどね。
チャーリー:YouTubeのデータを見ると、最大同時接続が23万人でしたね。当時、テレビ局はYouTubeのチャンネルは持っていたんですが、会見単位で中継配信をすることをまだ全然やってなくて。でも、スポーツニュースだと断続的にCMが入っちゃって、会見が途切れ途切れになっちゃったらしくて、CMなしで全編見られるYouTubeをみんな見てくれて。各テレビ局がYouTubeにも力を入れる流れをイチローさんの会見が作ったんじゃないかなと思いますし、エポックな会見でしたね。

――そういうチャーリーさんの印象的な中継はなんでしょうか?

チャーリー:2020年3月、初めての緊急事態宣言が出る前の会見で、専門家会議に赤間さんに行っていただいた時に、難しい医療用語について資料を投影していただいたりして、画面を3分割したんですよ。
赤間:配られた資料のグラフを、事前に誰にも相談せず勝手にカメラの前に出して撮ったんですね。だって、「何のことを言っているのか、資料と照らし合わせないと見ている人はわからないだろうな」って思って。撮ってる自分も聞いててわからなくなっちゃったから、やってみたんです。「ああ、後できっと怒られるかもな」って思いながら(笑)

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2020年4月からは、画面右下に手話の人を入れたり、会見資料を事前にもらって、そのPDFをスイッチャーで合成することも始めています。
チャーリー:リアルタイムで資料を投影するのは、テレビ局が今までやってこなかったことで、ネットならではの強みですね。

――その他の方の印象的な中継はなんでしょうか?

箕田:小保方さんの配信は苦労しましたね。急だったっていうのもあるし、仕切りが弁護士さんだったと思うんですけど、誰でも入れるような状況で、かなりゴチャついていたんですね。休みだったんですけど、部長から電話がかかってきて、カメラと伝送器っていうストリーム伝送する機材を抱えて、新幹線で大阪に向かったんです。

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中継で一番大きいのは、ハード面の進化と、ストリーミング技術の進化ですね。ハード面で言うと、インターネット上で映像を伝送できる伝送器が出てきていて、どんどん広がっていって、他社の中継の数も増えていったんじゃないかなと思いますね。
長妻:2021年11月に近鉄の新スナックカーのラストランを中継したんです。Yahoo! JAPANのアプリやスマホページでは、掲載するコンテンツを地域ごとに出し分けできるので、ゆかりのある4県にだけ出したんですが、すごくクリックされたんです。配信中継って同質化されてきてしまっていると思うんですが、ラストランの中継って、たぶんどこの局もやらなかったと思うんですね。でも、ユーザーの関心はすごくあって、それに応えられたのはネットしかなくて、すごく良い事例だったと思っています。

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――配信が同質化するなかで、今後どう差別化して行きたいでしょうか?

長妻:ひとつは、THE PAGEはアーカイブが見られるのが大きいと思っています。全編見られるストック型は、ネットだからこそできるのかなって思います。もうひとつは、Yahoo!ニュースからリンクで誘導して、多面的にニュースを伝えられることも武器です。これをいかに誘導編成していくかということもポイントと考えています。
チャーリー:あとはマルチチャンネルで出せることですね。衆院選だと最大9番組を同時に中継しましたし、やっぱりネットならではの体験として仕掛けられたらいいなと思いますね。

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