Inside2016.08.30

情報は欲しい人の手元に届いたのか~熊本地震で感じたライブブログの強さと課題(下)

西日本新聞社より、Yahoo!ニュースへ出向中の三重野です。両社は双方の業務を経験して強みを学び合うために、昨年度より人材交流を実施中です。

私は4月の熊本地震発生で、ライブブログツールを初めて運用する機会があり、ニュース編集者としてツールの大きなメリットを体感しました。

ライブブログ:災害や事件、政治など大きなニュースの発生時、メディアが記事や写真、公的機関の発表、一般の方のSNS投稿などの素材を組み合わせて、ニュースの流れや最新情報を伝える手法

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CTRをヒントに、情報をリストラ

ヤフーでは、熊本地震を受け、主に以下のようなライブブログを立ち上げました。

Yahoo!ニュース編集部はこのうち、被害状況支援者向けの情報英語情報のブログ運用を担当しました。配信記事やSNSなどで収集した情報を掲載しましたが、情報過多という問題に直面。より多くの有益な情報をユーザーに届けようとする、編集者の真摯さゆえの欲張りな発想から生まれる課題でした。

「ページが縦長すぎる」。当初から悩んでいた編集者たちに大きなヒントになったのはデータでした。支援者向けのライブブログでは、各リンクごとのCTRをデータ部門が抽出。CTRが高い=注目度やニーズが高いと判断し、このデータを基に

「義援金や募金の窓口を複数リンクしていたが、CTRが低い飛び先を削除すべきでは」
「ボランティア募集情報が読まれているので、位置を上げよう」
「支援物資の搬送についてのニーズが特に高いので、リンクを押さずに読めるよう、飛び先の情報を一部引用して抜き出す方がユーザーファーストかも」
「災害ボランティアの心得はリンクによってCTRに差がでているので、絞ろう」

――などと意見を交わし、ライブブログのコンテンツをリストラしました。

Yahoo!ニュース トピックスでは13文字見出しで「A/Bテスト」を実施するなど、編集者がテクノロジーやデータを当たり前のように活用しています(参考:編集者がテクノロジーに出会うとき、見出しはどう変わる?~A/Bテストで見えた「渋滞45km」と「混雑ピーク」の差とは)。今回のライブブログも同様に、編集者だけでもなく、データだけでもなく、その両方を掛けあわせて判断する点が、Yahoo!ニュースらしさの一端だと感じました。

熊本のスマホUBは地震で1.5倍に

ところで、熊本地震のライブブログは、実際にどんな読まれ方をしたのでしょうか。特に地震で被災した熊本・大分を中心にデータで振り返ってみました。

震災前半年の平均と、震災があった2016年4月でYahoo!ニュースの月間のUB(ユニークブラウザ:Webサイトへのブラウザごとの訪問回数)をデバイス別で比較すると、全国ではPCはほぼ横ばい、スマホは1.1倍だったのに対し、熊本・大分ではスマホが全国を上回る伸びに。特に熊本のスマホUBは1.5倍に増えていました。

また、デバイス別のPV比率をみると、全国平均がPC:スマホ≒1:1であるのに対し、熊本はPC:スマホ≒3:1。全国に比べPC比率が高い県ではありますが、UBの増加を考えると、震災後はスマホで情報が求められていたといえます。避難や停電などでPCが使えない際の情報源がスマホであることは、想像に難くありません。

狙ったユーザーが多い地域で、ライブブログが定着か

次にライブブログ別の日別のUBについて見てみます。震災後、被災地で急激に伸びたスマホでの傾向に着目。全国平均と熊本、大分に加え、九州で両県と接している福岡や宮崎についても比較しました。UBは地域別のピークの傾向を比較しやすくするため、正規化した値を使っています。

被害状況(14日開始)のライブブログUBについては、熊本が立ち上がりが早く、15日にピークを迎えましたが、全国や他県でピークを迎えた16日には、熊本は落ち込みました。この日未明に本震があり、被害が広がって情報収集どころではなかった可能性があります。

被災者向け情報(15日開始)では、16日に全国的にピークを迎えましたが、熊本では他県に比べピークが小さくなりました。本震被害の影響も考えられますが、加えて17日以降の落ち込みが熊本では他県に比べ緩やかだった、持続が長かったことも影響しています。

支援者向け情報(17日開始)では、熊本、大分の反応が早く、福岡、宮崎や全国は翌日以降に伸びました。ピークが20日と遅いことや、一旦落ち込んだ後にも伸びるなど、前述した2つのブログとは異なる傾向がありました。また、被災2県以外のUBの落ち込みが緩やかで、定着していたことがうかがえました。

「自己満足では」自問自答も

以上のデータから、被災者向け、支援者向けのライブブログはそれぞれ想定していたユーザーが多い地域で、より遅くまで読まれていたことが分かりました。こちら側の狙いが表れていたと捉えています。とはいえ、情報が本当に欲しい人に届いたのか、その情報が役に立ったのかは、CTRやUBだけでは判断できません。「情報を発信しただけで、届いた気になっていないか。自己満足になっていないか」。自問自答する冷静な声も、社内にありました。

支援活動取材のため現地入りしたヤフー社員、Yahoo!ニュース編集部員らに、「ライブブログを見た」「役に立った」という声はあったか、と尋ねてみました。震災後、定期的に取材を続ける北九州編集室のメンバーは「これから参加できる熊本ボランティア情報まとめ」を見て奈良からボランティアにやってきた、という男性に出会いました。「各市町村の受付状況がここまで詳しく一覧で見られるページはほかになく役立った」との言葉を聞き、感激したそうです。

あくまで私が聞いた範囲ですが、残念ながら、その他にはっきりとライブブログを指すような感想は聞けなかったそうです。とはいえ、ヤフーを見ているとの声は複数あったそうで、「災害情報をきちんと伝えてくれている。助かっている」(熊本市災害ボランティアセンター職員)「テレビも駄目で新聞も届かないし、頼りになったのはネット」(南阿蘇村の高齢者施設職員)など、ありがたい言葉もありました。

被害の大きかった熊本県益城町中心部にある仮設商店街「益城復興市場・屋台村」。7月末に訪れた際、地元の人らで賑わっていました

益城町在住の知人を訪ねた際、「4月の終わりぐらいまで停電が続いていて、スマホの電池を極力使わないようにしていた。連絡などを優先していて、ヤフーは見なかった」と振り返っていました。また、本震直後にJRが止まった際、駅で旅行者を他の交通機関に案内することに追われたという九州の自治体職員にも話を聞きました。「外国人でも個人旅行者はほとんどWi-Fiレンタルなどの通信手段を持っている方が多いので、代替の交通手段が外国語で調べられるサイトがあれば役立つのは間違いない。ただ、そのサイトの存在をどうやって知ってもらえるかが課題ですね」と指摘していました。

いち編集者の立場を越えた考えになってしまいますが、情報を届けることを突き詰めていくと、ただライブブログを運用するだけでなく、ブログの存在をどうやって広報するか、電池や電波状況をどう改善するか、といった点についても考慮していくことは避けて通れないのかもしれません。

自治体の情報発信チェック、人力ではタイムラグも

ライブブログは、ユーザーに届いたかという点だけでなく、運用上の課題もありました。掲載情報が更新された際の対応です。私も更新した支援者向け情報では、特に支援物資やボランティアの募集情報を重視していましたが、その2点については自治体が細かく情報を変更しており、発信のたびに対応しなければなりませんでした。必要とする物資の種類を変えたり、受け入れそのものを中止したりしたにもかかわらず、古い情報を掲載していれば、支援どころか、かえって受け入れ先に迷惑となるためです。ボランティアについても、当初は自粛を要請する内容だったため、受け入れ表明に合わせてアナウンスを変えるのが義務だと感じていました。

支援物資の受け入れ中止予告、中止など、きめ細かく情報発信していた福岡市 広報戦略室のツイート

ただ、現状では自治体などの発信のチェックは人の目でやらなければならず、共通認識を持ちながら業務を引き継いでいたとはいえ、自治体等のHPの更新からライブブログ反映までタイムラグが発生するケースもありました。その間、古い情報を目にして行動した方もいらっしゃるかもしれません。人の目を多くする、こまめに見るなどの運用改善の余地はありますが、限界も感じました。

情報更新でURL変更、デッドリンクが拡散

自治体や企業によっては、公式ページで発信した情報の更新の際、URLが変更されたり、古いページが削除されたりするケースもありました。これも人の目でチェックすれば、ライブブログ上の対応は可能ですが、SNS等でも情報が拡散された点を考慮すると、広まった投稿のURLをクリックするとデッドリンクだった、というケースもあったと思われます。

古い情報を削除する、あるいは古い情報を残したまま別のURLで新しい情報を伝える、どちらも意味のあることだとは思っていますが、URLが拡散されてもより正確な最新情報に触れてもらう、ということを重視すると、同じURLで情報を更新し続けるのが、現時点では最もユーザーファーストなのでは、というのが私見です。Yahoo!ニュースのライブブログツールでも、今後はリンク先のページの更新や削除を検知・通知する機能を備えるなど、改善の余地が十分に残されていると感じました。

スマホで読みにくいPDF形式での情報発信についても、発信側がウェブページなど別の形で伝える、アプリの技術で見やすく変換する、など対処の可能性はあると思っています。

自治体ごとに分けて、記者が聞いてきた情報をまとめていた西日本新聞のまとめサイト

熊本地震では、多くのメディアがYahoo!ニュースのライブブログと同じような目的で、ライフライン情報や支援者向け情報などのまとめサイトを作って発信していました。Yahoo!ニュースと大きく異なる点は、報道各社は直接取材して得た情報を発信できるという点です。私たちが運用したライブブログでも、NHK熊本日日新聞などをリンク先として活用させてもらいました。

私の出向元である西日本新聞も被災地各地の情報まとめを作成。これは現地に入った記者が直接聞いてメモした情報だけを、取捨選択して掲載する試みでした。ライブブログ内でのCTRも比較的高く、Yahoo!ニュース編集部内でも好評をいただきました。

Yahoo!ニュース編集部の立場を離れた発言になりますが、西日本新聞の情報まとめも、整理や文体などをさらに改善して、必要な情報によりアクセスしやすく、よりコンパクトに伝えることもできると感じました。難しいのは承知のうえですが、大災害時には複数社での連携の可能性もあるかもしれません。被災者向け・支援者向け情報などで、エリア別や分野別に情報収集やウェブ発信を分担、相互にリンクし合ったり、共通のハブページを立ち上げたりすることもできるのでは、と妄想が膨らんでいます。(Yahoo!ニュースが音頭を取ったり、つなぎ役になれないでしょうか…)

増えていく募金額に希望

「改善の余地」を何度も繰り返しましたが、ライブブログは歴史が浅い分、編集者の発想や運用、技術面など、まだまだ進化途上ではないでしょうか。出向者の私から見て、ヤフー社内には「ユーザーのために改善する知恵を出し合う」という土壌があると感じています。スマホユーザーの要望や評価を直接集め、速やかに編集に生かす、ということも実現するかもしれません。

大災害を前にすると、1人の編集者としての私の役割は微力だと感じずにはいられませんでした。ただ、いろんなコンテンツ、多くの力を結集して形にして、さらに支援を集めるという今回のライブブログは、微力でも貢献できる場所がある、と希望を抱かせる仕組みでした。実際にリンクに貼った募金の金額が絶えず増えていくのを見て、ありがたい気持ちがこみ上げてきました。私は8月末で出向を終えますが、出向経験を生かしつつ、Yahoo!ニュースをはじめとした様々なメディアと競ったり、協力したりしながら、災害発生時や、復興の途上で何ができるのか、何を伝えられるのか、ということを考え続けていきたいです。

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