Inside2016.08.30

人の目で情報厳選、速く広く伝える~熊本地震で感じたライブブログの強さと課題(上)

社内の様子。写真はYahoo!ニュース トピックス編集部の葛西 耕

 西日本新聞社より、Yahoo!ニュースへ出向中の三重野 諭です。両社は双方の業務を経験して強みを学び合うために、昨年度より人材交流を実施中です。

 皆さんは「ライブブログ」という言葉をご存知でしょうか。私は出向するまで知りませんでした。災害や事件、政治など大きなニュースの発生時、メディアが記事や写真、公的機関の発表、一般の方のSNS投稿などの素材を組み合わせて、ニュースの流れや最新情報を伝える手法のことです。

 実例を挙げると、BBCが昨年12月のパリ同時テロで使ったほか、日本経済新聞は5月の伊勢志摩サミットやオバマ大統領の広島訪問、NHKはイギリスのEU離脱国民投票などを伝えました。Yahoo!ニュースも新しいライブブログツールを開発し、昨年6月の東海道新幹線放火事件から運用、先日の参院選開票日や、フランスで起きたトラックによるテロにも使いました。

 4月に前震や本震が発生した熊本地震では、Yahoo!ニュースはライブブログを最大限に活用。私もYahoo!ニュースの編集部員として運用を一部担当しました。熊本地震での編集部や自分の動きを振り返りつつ、ライブブログの可能性や課題について考えてみます。

前震発生から20分で公開

 熊本地震の前震発生は4月14日午後9時26分ごろ。震度7観測を受け、編集部員は即座にライブブログ立ち上げに動きました。報道各社が発生や政府の対応などを伝えたツイートを埋め込み、同43分ごろに発生や被害を伝えるブログを公開。前震発生から公開まで20分弱、ライブブログツールの大きな特徴の一つがスピード感です。

鷺野谷 恭

鷺野谷 恭(Yahoo!ニュースのライブブログツール開発責任者) 「災害や事件を扱うことを想定していたので、ユーザーに届けるまでの時間をいかに短くするか。保存ボタンを押して1分以内に公開する。何よりもスピードを重視しました。画像やSNSの埋め込みなどが増えると、ページが重くなるので、画面をスクロールしたら画像などを読み込む「遅延読み込み」を採用して、ページの表示の早さにもこだわっています」

いきなり使える簡単なツール

 私(三重野)はツールの使いやすさも大きな特徴だと感じました。実は私は熊本地震まで、実際に公開されたライブブログを運用する機会がありませんでした。発生5日目に編集部のデスクの1人から「たった今からライブブログを担当して下さい」と何の心の準備もないまま指令を受け、冷や汗をかきました。しかし、作業はアイコンを押したり、URLやテキストを貼り付けたりするだけで、簡単に使えるツールでした。

入力ツールの画面。アイコンが多く、感覚的に使える

鷺野谷 「日常的に使う、とまではいえないツールですが、必要なときにはいつでも簡単に使えるよう、文字よりもアイコンを多用。職人的ではなく直感的に使えるツールにしました。見せ方もワンカラムのデザインで、シンプルです。広告などでお金を稼ぐコンテンツというより、いかに見やすく伝えるかを優先し、ユーザーファーストに振りきりました」

 14日夜、被害状況を伝えるために最初に編集部員が活用したのは、現地の方が投稿したとみられる写真ツイート。報道各社の写真や記事がそろうに従い、素材を入れ替えていきました。ページ公開の約10分後からは被災者向けの情報提供にも着手。道路や鉄道の交通情報、災害伝言板、被災地での行動の注意点をまとめた配信記事などを次々と追加していきました。

「被害情報」「被災者向け」など狙い別にブログを分割

 日付が変った15日午前3時すぎには、ライフライン情報などに特化した被災者向けのライブブログを、ニュース編集部とは別の部署である、Yahoo! JAPANのトップページの担当部署が立ち上げ。このころには、情報を一つのライブブログに集約するだけでなく、地震の被害情報、被災者向け情報、というように、目的や対象に合わせて複数のライブブログの展開を始めました。

 編集部では引き続き、被害情報のライブブログ運用を担当。15日夜にはいったん、ライブブログの更新を停止しましたが、16日午前1時25分ごろに本震が発生すると、同50分ごろに更新を再開。報道各社のツイートなどを引用して、建物倒壊や市役所倒壊の恐れ、建物閉じ込めなどの新しい情報を再優先で伝えつつ、古い情報を削除し、取捨選択していきました。

トピックス更新業務がライブブログに生きた

 当スタッフブログの過去記事でもお伝えしたことがありますが、Yahoo!ニュース トピックスはシフト制の24時間体制です。ライブブログは複数の編集者が引き継ぎながら更新を続けました。発災直後などは、ブログの更新担当が専属になることもありましたが、基本的には編集者はトピックス更新業務とライブブログを兼務。私はこの兼務が、ライブブログに生かせたのではないか、と振り返っています。

前震があった14日の午後11時ごろ、Yahoo!ニュースやトップページなど関係サービスの担当者らが集まり、対応を話し合う

 編集部の主な役割は、ニュース提供社から頂いた配信記事に目を通すこと。私もライブブログを担当した際には、配信記事を見て、ブログに残すべき情報を掲載したり、既にブログに載せた情報を更新したりしました。例えば、ある宅配会社が、被災地の一部で配達を再開したという配信記事を目にした際には、その記事をトピックスとして掲載したすぐ後に、ライブブログにその会社の公式ページをリンク。配達地域や予想される所要時間など、詳細な説明をワンクリックで見られるようにしました。物資を送りたい人たちにとって、宅配便は現実的な手段で、必要とされる情報ではないかと考えたからです。配信記事の「フロー」を目にする業務だからこそ、残すべき重要な情報をライブブログに「ストック」することができた例でした。

 また、私たちの日常業務であるYahoo!ニュース トピックスは配信記事を掲出するだけでなく、関連リンクに過去記事やネット上の情報(ストック)を活用しています。編集部員は日頃からストックする訓練をしているからこそ、ライブブログの作業をスムーズにできるのでは、とも感じました。新聞社での外勤記者や整理部での経験では、新しいニュースを流すことがほとんどだったので、ストックを生かすという業務は新鮮でした。

「ボランティアまだ待って」伝えようと支援者向けブログ

 フロー情報をストックするという真価が最も発揮されたと思えたライブブログがあります。17日午後2時ごろに立ち上げた、被災者を支援したい人向けの情報「熊本支援、私たちにできることは」です。被害情報や被災者向けのライブブログは既に運用していましたが、「被害情報を伝えるブログだと、募金へのリンクを上に貼りづらい」「必要な物資などについて自治体がHPで情報発信を始めた」などと、支援系のまとめページを求める社内での議論が深まっていました。

葛西 耕

葛西 耕(熊本支援ライブブログを立ち上げた編集者) 「当日までに情報発信されていた『ボランティアはまだ受け入れ体制が整っていない』ということを伝えて、落ち着いてほしい、という気持ちが一番でした。募金など、お金でできる支援もありますよ、と。

 東日本大震災の時には、起きていることを伝えるばかりで、今回のような(支援者向けの)情報などを伝えられなかった、当時は何もできなかった、という忸怩たる思いがありました(参考:「ヤフーは東京の地方紙か」――“中の人”が語り継ぐ3.11の反省と経験)。今回は自治体が欲しい支援の情報を早めに発信したり、東日本の時の教訓を生かした『ボランティア心得』のような情報も充実したりしていましたので」

SNSで福岡市の情報を見つけて発信

 このライブブログでは、私も更新を担当。前述した宅配便のように、トピックス更新業務をライブブログに生かせたこともありましたし、SNSも情報収集に活用していました。私以外も含め、編集部員は日頃から、配信記事を待つだけではなく、TwitterなどのSNSでもニュースをチェックしています。

 15日朝、Facebookのタイムラインに流れてきた福岡市長の投稿が目に止まりました。「支援物資については現在ニーズと現地の受け入れ態勢を調査中」「市民の皆さんのお力が必要な時には、何をどこに持ってきてほしいと、こちらからハッキリお願いをしますので、その後に行動を」との予告でした。

 私は九州の人間ですので、福岡市は政令都市という人口規模に加え、在住する熊本出身者・関係者も多いため、福岡からの支援は大きな力になると想定。福岡市の動向に注意してほしいと他の部員に引き継ぎました。市がシステマティックな支援物資募集を始めると、引き継ぎを受けた編集部員が、ライブブログの上部に目立つ見出しで掲載しました。

社内外の英知を結集

 ライブブログには、編集者やニュース部門の社員だけでなく、社内外のさまざまな意見が寄せられ、その知恵を更新に生かしました。ヤフーは発災後、支援活動のため社員を現地入りさせました。

 その社員からは

  • 訪問した自治体からボランティア募集情報を掲載してほしいと相談されたが、若手職員1人の対応で大変そう。タイミングを見計らってブログに載せてほしい
  • 電話の問い合わせで、本来避難所への物資配達に従事する方が忙殺される恐れがある。情報発信に配慮を

 などの声が次々に寄せられました。

 また、九州の自治体とつながりのある部署などからも情報提供がありました。

  • 被災した市のホームページのサーバー容量が危険水域
  • 被災地支援目的でふるさと納税をすると、現地に事務作業が発生するので、現時点では募金を優先した方がいい

 指摘を受け、ライブブログでは

  • 電話での問い合わせを控えるよう、見出しで目につくように注意喚起する
  • 市の情報はテキストとして引用し、直接リンク先に飛ばすことを極力避ける

 といった対応をとりました。

ライブブログでの呼びかけ

 本震のあった16日午後には、被災地に滞在している外国人向けの英語版ライブブログも作成していましたが、きっかけはニュース部門のある社員の一言。「被災した阿蘇や湯布院は観光地だけど、外国人観光客向けの情報がどれくらい行き届いてるのか」。英語に堪能な社員のチェックや情報網に頼りながら、発案から1時間足らずでブログを公開しました。私はトピックス更新業務と平行して、SNSで知人の観光関係者や留学生らに「どんな情報がほしいか」「広めてほしいサイトは」などと助言を求め、JR九州の英語ページなどを教えてもらい、実際にブログに反映しました。

 ライブブログはフロー情報を素早く伝える、わかりやすく流れを見せる、などの強みがあります。ただ、私はそれ以上に、より長時間、より多くの人に、編集者の目でストックした情報を提供できる点で、災害対応でのライブブログのメリットを実感しました。

 ただ、このライブブログは実際に被災地の人や、支援したい人たちに届いているのか、どのくらい役立っているのか、という疑問も湧いていました。後編ではライブブログの読まれ方や、運用中に感じた課題などに触れます。

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