Media Watch2015.12.10

「PVという指標は万能ではない」~ネット論壇著名人らが語る炎上・言論・メディア【下】

『Yahoo!ニュース 個人』オーサーカンファレンス2015」(12月1日)で行われたパネルディスカッション「社会の課題解決に向け、ネットの発信が果たす役割は」。「Yahoo!ニュース 個人」オーサーら約200人の参加者を前に、ネット論壇で活躍するパネリストの方々は何を語ったのでしょうか。その模様の後編をお送りします。
>>前編はこちら

【出演】(敬称略)

  • 内田良(名古屋大学大学院教育発達科学研究科・准教授)
  • 江川紹子(ジャーナリスト)
  • 松谷創一郎(ライター、リサーチャー)
  • 山本一郎(個人投資家)
  • 岡田聡(「Yahoo!ニュース 個人」・責任者)
  • 【モデレーター】
    ショーン・マクアードル川上(経営コンサルタント)

「PVという指標は万能ではない」

ショーン 岡田さんはプラットフォーマーとして「健全な」言論空間を作っていく立場だと思いますが。

岡田 コメント欄については、人の力やテクノロジーの力を使ってパトロールするとか、「こういうことを書いてほしい」というメッセージングをしているのですが、ネット特有の乱暴な言葉の存在については課題だと思っています。ただ山本さんがおっしゃるように、ユーザーのインタラクションを産む場所はどこかにあってほしいと思っていて。ネットの中で、コメントを書き込む人は(ネットユーザー全体に比べると)実は少なくて、(ネットユーザーの)ほとんどがサイレントマジョリティ。その人たちの意識をどうやって可視化するか、ということはネット上の課題。「Yahoo!ニュース 個人」だけじゃなくて、Yahoo!ニュースに配信されている記事や「意識調査」などで、多角的に伝えられたらいいなと思っています。

ショーン 量と質に対する評価とコントロールは、相当力を入れてやってらっしゃるのでは。

岡田 1PVの価値は多様化していて、スマートフォンの登場で動線が劇的に変わっている。1年位かけて取材した記事と、テレビを見て書いた記事が等価なのかという問題は常にあります。PVという指標は万能ではないと、Yahoo!ニュースを運営している中で思う。どう解決するかという時に定性的な判断が必要になってくる。例えば「『Yahoo!ニュース 個人』はYahoo!ブログでやればいいじゃないか」という話もちろんあると思いますが、そこにガイドラインや書き手の選別を加える事で一つのメディアになっていくというのが「Yahoo!ニュース 個人」の実験だと思っていて、これをどんどん突き詰めていって広めていきたいと思います。

ショーン 内田さんは、今回(組体操問題や2分の1成人式などの)いろいろな警鐘を鳴らされて、サイレントマジョリティが動いたという感触はありますよね。

内田 (「Yahoo!ニュース 個人」などの場で)情報発信をする前は、フィールドワーカーとしていかに現場に足を運んで声を聞き取るかということをしていました。いろいろな経緯があってネットで発信するようになったら、現場から足はすごく遠ざかるのですが、情報発信したあとに今まで聞いたことのないような情報が次々と入ってくるようになったんです。「こりゃすげえや」と思って。サイレントマジョリティ、あるいは苦しんでいて声をあげられない人たち、それをどうやっていい方向にむけていくか、まだまだネットには可能性があると思う。ネットの問題解決能力に驚いている。まだまだ研究者も知らないし、ネットユーザーの中でもまだそれに気付いていないのかもしれないなと。

ショーン サイレントマジョリティも手元にスマホを持っている、そのインパクトは圧倒的に強い。

江川 ネットというとスピードが強調されると思うが、もうひとつ、「検索によって過去の記事がよみがえる」ことがよくある。Yahoo!ニュースでも過去のニュースが出てくるが(注※「あわせて読みたい」機能)、記事は書いた本人が削除しなければずっと残っていくことも、ネットのいいところだなと思います。

ショーン マスメディアが取り上げられなかった奥底にある、ニッチな思いをひっぱりあげて束ねる力はありそうですね。

松谷 そうですね、ただマスメディアの中でも雑誌はそのような役割を果たしてきたと思います。 

ショーン 雑誌もだいぶ少なくなってきてますよね。

松谷 雑誌の役割がネットに移ってきている。私が「Yahoo!ニュース 個人」でやっていることは、コンビニ置きするような商業誌でやってきたノウハウを投入しているだけ。これまでのマスメディアのノウハウも十分に適用できると思います。

研究者の知識をいかに出していくか

ショーン 社会の課題解決に向けて、これから先、期待することは。

山本 申し上げたいのは二つ。知ってもらってコミットを引き出せるのが一番いいと思うんですよね。知って、関係した時から行動が変わってくれることを大事にする、それに見合うような情報提供が出力されていれば社会のインパクトにつながっていくでしょう、というのが一つ。
 あとひとつは、ショーンさんが毎週一つずつ書けばいいと思います。ショーンさんの情報発信が足りないと思います。ぜひご検討いただければ。

会場 (笑い)

ショーン 私も「あなたは右なのか左なのか、賛成なのか反対なのか」とホームページに寄せられます。私は一人ずつ返事を書いているのですが、「AorBじゃできない仕事をしているので第三の道を探っています」というお返事をすることが多いですね。

山本 承知致しました、ぜひ寄稿していただければ。

ショーン 内田さん、今後のメディア全般やネットの言論空間の可能性や課題について。

内田 研究者という立場からコメントするなら、記事を書いていて思うのは「僕らの間では常識なんだけど」というのを書いてウケることって結構ある。最初は「こんなこと皆知っているのに僕が書いていいのかな」って抵抗があることも、書くと世の中に需要があって「こんなこと初めて知った」と言われることもあります。
 とすると、研究者って結構大事な情報を持っていて、知っているのに世の中の課題解決、発見にすら至っていないということ。研究者が持っている知識をいかにネットを通じて出していくかということを研究者自身も考えなければいけないし、ヤフーの皆さんもそこにアプローチしていただけれるとありがたい。

ショーン お願いしたいですね。学者が出て行く空間でないとダメだと思う。

内田 学者はそもそも一般にウケる情報発信に慣れていない。PDFで長々と書いて出すのが研究者なので。

松谷 Yahoo!ニュースが内田さんと今回くっついた。海外のメディアも新聞社と大学が手を組んでいるし、日本でも選挙での世論調査とか、かなり細かいところまでやっている。やれることってたくさんあると思うんですよね。
 社会の課題解決に向けてということで言えば、自己主張を恐れる、つまり、こういう意見はこうでないとだめだ、という風に言う方が多いんですが、それよりも先に必要なのはそれに対しての道筋をつけること。もう一つは、あえて主張を出す、という態度を取る。例えば高校野球について(※参考:高校野球を「残酷ショー」から解放するために――なぜ「教育の一環」であることは軽視され続けるのか?)書く場合、「スケジュールはこれだけのばせるかもしれない」といったたたき台をあげてみるんですよね。実際にそうなることが全て正しいなんて思っていないんです。でも「たたいてください」と提示する。その提示自体が大切だと思う。そういう「道筋」と、「あえてする提示」、これが大事だと思います。

山本 不破雷蔵さんがデータについて「Yahoo!ニュース 個人」に書いているのですが、ずっと底流を追っているんですよね。例えば社会保障だったり、貧困だったりを、データでずっと出し続けている。そういったところにいかに注意をはらうかですよね。
 何が問題なんだっけということを考えながら基本のデータを追っていく、見える化だけではなくて具体的にどういう意味付けなんだっけということを追いかけていくことが大事なんじゃないかなと思いますね。

10年20年を見据えて、若い書き手をどう育てるか

ショーン 2016年に向けて江川さんはどのようなことを考えていらっしゃいますか。

江川 来年とか再来年だけじゃなくて、折角ここまで育ってきた「Yahoo!ニュース 個人」なので、10年後20年後を見据えたことも考えていってほしいなと思います。私は新聞社に入ってその後フリーになって、雑誌に育ててもらった。だけど新聞社の体力はかつて程でなくなってきているし、部数も減っている。雑誌も、そのものがなくなっていっているし、以前のように潤沢な取材費や人材がなくなってきている。それらが担っていた機能の一部が、ネットでも重要になってくると思う。若い記者、書き手をどうやって育てるかということもネットメディアとしては意識していってほしいと思う。そして一つ一つの記事の信頼性をどうやって高めるかということ、ものによっては先に申し上げたように(※参考:レポート前編)、新聞取材的なもの、私たちが提案したものに対して、社員の編集者として、ヤフーの人が裏付けを取るとか。大きく構えたメディアとして発展していってほしいなと期待しています。

岡田 江川さんに今おっしゃっていただいた件については、編集者の数はまだまだ足りないと思いますし、われわれの課題だと思います。ネットのより良い役割を果たすために大事になっていくことは、まず丁寧さだと思う。解説をすることと選択肢をきちんと提示することだと思う。ともすれば乱暴な言葉だったり極論が多くなってしまうネットの中できちんと物事を整理して解説して、「この話はこういうことなんですよ」と丁寧に解説してあげること。もう一つは選択肢をきちんと提示してあげることが大事な時代になってきたなと思っています。
 ヤフーがユーザーに求められているのは、右だ左だということを表明するよりも選択肢を提示してほしいということ、というのは運営していても感じる。選択肢の豊かさや丁寧さをこれからも追求していきたいし、そのためには編集者の数も必要だよね、と。

ショーン 「発信する2割、それに猛烈に反対する2割」とよく言われますが、じゃああとの6割は何をしているかというと、「無関心」なんですよね。この無関心の層を活性化する役割をヤフーは持っていると思いますし、期待したいと思います。

>>前編はこちら「ネット空間での課題解決って、本当に必要?~ネット論壇著名人らが語る炎上・言論・メディア【上】」

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