Media Watch2015.11.26

800km先のユーザーを動かした「異例の配信」記事~地方紙のネット戦略最前線

Yahoo!ニュースでは全国的、世界的な話題だけでなく、地域ならではのニュースをお届けすることにも力を入れています。Yahoo!ニュースで読むことができるブロック紙・地方紙は33媒体(11月現在)。特に戦後70年の今年は、地方紙ならではの各地の戦争に関する逸話を数多く配信いただきました。
 
その中で、静岡新聞社から配信された記事が、新聞発行エリア外の鹿児島の中学教諭に届き、文化祭の劇の題材になる、という出来事もありました。太平洋戦争末期に特攻戦術を用いず、夜間攻撃で戦果を挙げた航空部隊と、部下の命を守るために特攻命令を拒否した指揮官を取り上げた連載記事で、初回を「命かけ特攻拒否 指揮官の信念」という13文字見出しでYahoo!ニュース トピックスで紹介しました。
 
同社によると、この記事は新聞読者からも反響が大きかったそうですが、Yahoo!ニュースでも、硬派な戦争ものの記事としては、非常に多くのアクセスがありました。地方紙ではYahoo!ニュースに限らず、ネット向けの記事配信にどのように取り組んでいるのでしょうか。静岡新聞の配信担当者や現場の記者に聞いてみました。

無料サイトはストレート中心、特集は安売りしない

松本直之さん(42)
静岡新聞社デジタル編集部 アットエス ニュースカテゴリーオーナー
1999年入社、松崎支局、東京支社編集部などを経て現職。静岡市出身。

――デジタル編集部の仕事について教えて下さい。

松本 静岡新聞は紙面掲載記事の一部を自社のウェブサイト「アットエス」 に転載しています。デジタル編集部は発行後の紙面の中から記事を選択して配信するのが主な仕事です。少ない文字数でより端的に内容を伝えられるよう見出しを工夫しています。掲載記事の選択はデジタル編集部に任されています。出稿部門と調整した上で、紙面掲載前に速報配信するケースも近年増えてきていますね。

 紙面に載った自社記事のうち、アットエスに掲載しているのはせいぜい2、3割程度です。現時点では会員エリア・有料エリアを設けていないので、無料でどれだけ出せるのか、という各部門との議論もあります。Yahoo!ニュースに配信している記事は、もう少しだけ絞っています。

――配信する記事の選択基準は。

松本 主要ニュース、公益性が高いとか、これはできるだけ多くの人に伝えたいよね、というものを優先的に選んでアットエスに載せています。ウェブはストレートニュース、短信が中心。逆に、ストレートニュースではない連載ものだとか、手のかかった解説ものや特集、生活面系の記事については安売りはしないで、紙を買ってくださったお客様向けのコンテンツとして提供するということですね。紙面、読者を優先するというのが大前提としてあります。

――今回の記事は連載だったのでは。なぜ配信されたのか。

松本 どのくらい読んでもらえるかなという気持ちだったんですよ。今回の記事は社が力を入れて取り組んだ戦後70年の年間企画のシリーズの一連載です。先ほど申し上げた通り、基本的に連載、特集記事は配信せず、アットエスにも載せないようにしていますが、今回は例外として、アットエスに企画の全記事を掲載しています。Yahoo!ニュースには、その一部をかいつまんで送りました。
 
 私自身、特攻を拒否したこの部隊について、記事を読むまで全く存じておりませんでした。記事を読み、紹介すれば、きっと多くの人に響くだろうなと思いましたし、読者の知的欲求に十分応えられるコンテンツだと確信していました。戦後70年の節目に戦争そのものだったり、特攻だったりを見つめなおす材料として優れたコンテンツだと。

――配信後の反応は。

松本 PV数を見て驚きました。新聞の発行部数を超えるような数字を見るとやっぱりびっくりしますし、社内で響きますね。それだけの価値のある、読者に満足いただけるコンテンツだとは思っていましたが、アットエスに載せているだけではなかなか出ない数字です。Yahoo!ニュースを通じて、全国に提示される。かつ、読んだ人たちがコメントを寄せる、拡散する、といういろいろなものがかみ合わさってバーっと広がっていく。その最初の舞台を提供いただいたと思っています。

構想段階からデジタル発信検討、教材化も視野


松本 今年の年間企画は、実は構想段階からデジタルでも発信していこうという話があって、デジタル編集部もサポートに入っていたんですね。企画班のメンバーの思い入れが強く、表面的なものに終わらせないというか、(戦争の題材が)出尽くしている感がある中で、読み応えのあるものを提供しようと、全般に取材の手間がかかっています。

 報道はもちろんですけど、歴史資料としても、教材としても将来的に価値の高いコンテンツになるんじゃないか、という話もしていて、その視点から生まれたのが特設サイト(画像上)。ビジュアルを豊富にして動画も入れたり、地図と記事を連動させたりしました。大前提としては、紙面優先なんですけど、後追いしていく形でウェブ系も肉付けをしていって、企画が終わった時にアーカイブ化しましょうという話は、あらかじめしていたんですね。

――中学での劇の台本化は、教材という狙いと一致した。

松本 新聞社なので、最初から教材とか、歴史資料を作ろうとは思わないんですけど、結果としてそうなればいいね、っていうことですよね。県内では、記事を教材として使わせてほしいという依頼は日頃からありますが、県外からの依頼はあまり聞いたことがないですし、鹿児島からの問い合わせというのは驚きでしたね。

部隊の展開先だった鹿児島の教諭が「教材」に

連載は部隊の地元、静岡県焼津市にある同社の焼津支局長が5回を執筆、その全てをYahoo!ニュースに配信していただきました。当時、部隊は鹿児島県にあった基地にも展開しており、配信記事を読み感銘を受けた基地の地元にある中学校の教諭が、新聞社の許可を得たうえで、記事を引用して台本を作りました。

「地元紙として、もっと早くスポット当ててもよかった」

静岡新聞社焼津支局 宮崎浩一支局長(36)
2002年静岡新聞社入社、富士支局、社会部などを経て現職。静岡県浜松市出身。

――記事の取材の経緯を。

宮崎 特攻作戦を拒否した部隊が県内に存在していたことを知り、県内に住んでいる部隊の元隊員に、 1人当たり4~5回面会しました。埼玉にいらっしゃる指揮官の娘さんにもお会いしました。話を聞いたお二人の元隊員が、自身の経験を話したがっているように感じられた点が非常に印象的でした。当時は特攻を拒否した部隊の戦果が公表されると、かえって特攻作戦のつたなさが露呈することにもなるという点で、戦果が表に出にくい事情もあったようです。お二人は部隊での経験を非常に誇りに思っていました。それなのに戦後も特攻隊員に比べると、あまり注目されてなかった寂しさみたいなものがあって、熱心に話してくれたのでしょうか。

 自社の記事を調べると、10年ぐらい前までは部隊の慰霊祭の取材をしていたようですが、最近はあまり取り上げていませんでした。県外の人からみれば珍しい話でも、県内で定期的に同じ取材を続けていると、当たり前な部分が出てきて、触れなくなったのかもしれません。他の新聞社もあまり取り上げてきませんでしたが、地元紙として、もっと早くスポットを当ててもよかったのかもしれません。連載は5回に凝縮しました。自分で見てないことや、会ったことのない人を記事にする際、ややもすると、記事自体が淡泊になりがちです。この部隊を、指揮官の思いを多くの人に知ってほしい。そう思って、何とか関係者から当時のこと、人柄を詳しく聞くことで、熱っぽさを伝えようと努力しました。

部隊の隊員を演じる生徒たち。隊員役の1人は「戦争は怖いというイメージだったけど、その中でも、勇気を持って行動した人たちがいたんだなと感じました」と話しました。

コメント見て「記事が受け入れられた」と実感

――トピックスの掲載後の反響は。

宮崎 Yahoo!ニュースアプリを見ていて「特攻せず」の見出しに気づいて確認したら、「おお、俺のじゃん」 と。読者の反応が気になり、コメントを見させてもらいました。ウィキペディアと情報が違うとも書かれてました(笑)。さまざまな人が読むべきだ、と書いてくれていました。多くの人が読んでくれているな、ありがたいな、と実感しました。
 
 コメント欄はできるだけすべて閲覧させてもらいました。若い人には多分、受け入れられるだろうと思っていたんですが、年配の方、特に戦争経験者だと、特攻で逝くということが褒められる時代で、近い考え方の高齢者の方もいらっしゃると考えていたんですね。元隊員の方が「おまえらは逃げているんじゃないか」と当時言われたりしているので、反応に不安はありました。ですが、比較的肯定的な意見が多く、批判もなかったので、受け入れられたのかな、と。

 Yahoo!ニュース掲載後、県内の企業の方から「戦争教育として元隊員に講演してほしいので、取り持ってもらえないか」という依頼がありました。「元隊員と話をしたいので、連絡先を教えてほしい」という反応もありました。鹿児島の中学の依頼も、ありがたいことです。地域発の話がネットを通じて全国に広がり、届いただけじゃなく、今回のようにつながったことは大きなことです。
 
 鹿児島の先生は記事使用の依頼に当たり、企画書まで作っていて、電話やメールでやりとりしましたが、よく勉強されていました。作った台本を見せていただき、「指揮官や元隊員さんの思いと違うところはないか」と問い合わせを受けました。発言がセリフとして引用されていたりして、意図は伝わっていると思いました。

――先生は台本だけでなく、記事も生徒に読み込ませた。

宮崎 生徒たちには、地元の基地であったことをよく知ってほしいですね。記事を通じて劇が生まれ、生徒が平和についてあらためて考えるきっかけになったことはうれしいことです。若者の新聞離れが叫ばれていますが、インターネットの記事をきっかけに、これからは新聞自体にも、もっと興味を持ってほしいです。

中学校の劇で、指揮官が特攻命令を拒否する場面を演じる生徒たち。指揮官役の生徒は「部下思いの部分が伝わるように気をつけました」と語っていました。

文化祭で劇を披露したのは、鹿児島県曽於市立末吉中学校の1年4組。隊員らを演じた生徒たちが「戦争や特攻について、自分に起こったことのように感じられました」と語ったのが印象的でした。台本を作った教諭も「生徒が特攻について自分で知ろうとする興味を持ってくれて、祖父母との会話も生まれたようです」と満足気でした。

劇の最後で出演者が整列。記事中の発言を引用し、「2度とこんな戦争を起こしてはいけない」と誓いました。

記者や配信担当者の明確な思いが込められた記事の影響力の大きさを実感する出来事でした。Yahoo!ニュースはこれからも、良質なコンテンツを多くのユーザーにお届けすることを通じて、読者の行動につなげる機会を増やしていきたいと思います。

中学の文化祭では特攻隊も展示の題材になっており、学校全体として戦争教育への関心の高さを感じました。

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