Media Watch2016.11.11

「お金」以外のインセンティブって?――ネット時代の書き手・作り手のあるべき姿とは

 メディアの多様化に伴い、「作る」側にも変化が迫られています。 書き手・作り手に最適な環境とはどんなものか、何をモチベーションとするのか。編集はどのように書き手・作り手と向き合い、ともにメディアを成長させるのか。書き手・作り手が食べていくには、組織が持続するようお金を稼ぐには――。

 Yahoo!ニュースはこのたび、「ネット時代の書き手・作り手の育てかた」をテーマにトークイベントを主催しました。書き手・作り手が十分に活躍できる環境や価値観とはどういったものなのでしょうか。第一線で活躍されている編集者に登壇いただき、それぞれの立場からお話いただきました。


出演

佐渡島庸平さん
株式会社コルク代表取締役社長
Twitter
瀬尾傑さん
株式会社講談社第一事業戦略部長兼「現代ビジネス」GM(ゼネラルマネジャー)
Facebook
佐藤慶一さん
株式会社講談社「現代ビジネス」編集部
Twitter
徳力基彦さん
アジャイルメディア・ネットワーク株式会社取締役CMO、ブロガー
Twitter
岡田聡
【モデレーター】ヤフー株式会社メディアチーフエディター

書き手・作り手のインセンティブは、お金だけじゃない

岡田
激変する環境の中で、僕らが書き手・作り手に対してどんなよりよい環境が提供できるかは、大きな問題です。彼らからすれば、いろんな発信方法が生まれたために選択肢が膨大になってきました。何を重要視して選び取っていくべきでしょうか?


 そう切り出した岡田に対して、「まず、書き手が食べていくのは非常に大変な環境になっていますよね」と切り出したのは佐渡島さん。

イメージ:アフロ

佐渡島さん
ただ書き手が苦しくなるのは既定路線ではなく、新しいビジネスモデルをつくればいいと思っています。例えばクックパッドへの投稿に、金銭的なインセンティブはありません。レシピを投稿している人への見返りは『つくれぽ』。つくれぽが編集者的な機能として働いています。つくれぽで世間の知見を集めることで、よりよい記事(レシピ)が生まれ、作り手をお金でないインセンティブで満たしていると言えます。

 佐渡島さんは、ジャーナリズムの目的を「たくさんの人に読まれること(=PV)」にしてしまうと、あおりが生まれてしまうと指摘。本来のジャーナリズムが目指している「本質を分かりやすく、丁寧に書く」ところと、違うものになってしまう可能性があると話しました。

徳力さん
ジャーナリズムの環境の変化で言うと、ジャーナリストが会社に雇用されて比較的安定していた時代から、誰でも簡単にやれるようになってしまった結果、組織が困り始めているというのがあります。情報発信の世界で肝に銘じたいのは『タダでも喜んでやる人たちがたくさんいる』こと。アドセンス収入がなくてもブログをやる理由なんて『自分の話を聴いてもらえるから』ですから。

 徳力さんは、「コミュニケーションもインセンティブのひとつ」と示しました。お金もうけできなくても楽しく情報発信ができればいいと考える人たちと、稼がなければ持続できない組織が戦うのは、特に文字の情報発信において起こっていると指摘します。

成功の影にあるのは、ターゲティングとSNSの活用

 瀬尾さんは、ネット時代におけるメディアの成功について考えを話しました。

瀬尾さん
メディアを運営する立場からすると、小さいモデルだと成功する感触があります。講談社の『ゲキサカ』は、テーマをサッカーにだけ絞り込んだもの。ターゲティングメディアとして発信すれば、『安く早く届ける』インターネットの性質を使うことで成功するのではと思います。

 書き手の成功について問われると、「書き手の立場からすると、昔からもうかっていないのでなんとも言えませんが…」と前置きしつつ、ヒントを示しました。

瀬尾さん
誰もが食える環境ではなくなったと思います。むしろネットを使うのがうまい人は以前よりやりやすい感覚かもしれませんね。逆に、書けたり取材ができたりするのに発信ベタでメディアを使いこなせない――そういう人をサポートするのが、僕らメディアや編集者の役割ではと思いますよ。

 新しい情報発信の場(=SNS)を得て活躍している例に、田原総一朗さんや猪瀬直樹さんなどを挙げました。
 SNSを重要視している例に、佐渡島さんが営むコルク(※編注:クリエイターのエージェント会社)も挙げられます。コルクでは、Twitterのフォロワー数をひとつのKPIにしているそうです。作り手を支援するにあたり、それほどSNSは重要だと考えているとのこと。

組織でないと、専門性の高い取材は難しいのでは?

 これからの情報発信における「個人」か「組織」か、あるいは「メインの仕事」か「副業」かの問題について、まずは会場の皆さんにアンケートを取りました。半数以上の方が副業で書き手として個人的に活動されているそうです。

瀬尾さん
個人と組織の問題についてですが、ジャーナリズムにおいては文章を書く専門であっても、取材対象の業界の専門家であることは少ないです。だから専門家ではないジャーナリストを通じなくても専門家が個人で発信できるようになったので、いい時代になったとも言えますね。ただジャーナリズムは、組織じゃないとできないことがあるんですよ。大きな政府や企業と立ち向かって取材するときに、個人ではカバーができないんです。

 瀬尾さんが例に挙げたのは、講談社が2003年に出版した「年金大崩壊」(岩瀬達哉著)。フリージャーナリストが中心となり、週刊現代編集部が取材を進めました。4年ほどかけて張り付いて取材をするなど、かかった金額はとても個人が賄えるものではなかったそうです。最終的にとても濃密な本に仕上がりましたが、そのためには組織のバックアップとヒューマンリソースが必要であると痛感したと振り返りました。

瀬尾さん
今となっては、100人や1000人のジャーナリストの組織を保つのは難しいかもしれません。もしそんな組織がいらなくなるのであれば、なくなってもいいとも思っています。その中で、それぞれに大切な機能があるかもしれない『組織ジャーナリズム』のようなものを、どうしていくかが重要かなと。
岡田
ヤフーで言うと、先日週休3日制の導入の話題が上がりました。自分としては副業制度がセットになればより有意義だと捉えています。今後、空いた時間に別の仕事をしてもいい環境は、日本全体で作っていくことになりますよね。ただ一方で、先ほどの例のように4年間それだけをやっていくのは難しいでしょうね…。

サービス・コミュニティーの時代に適応するには

徳力さん
モノを買う時代からサービス・コミュニティーを買う時代になりましたね。そのあたりについて、皆さんどうお考えですか。

 仮に音楽にとってのCDがなくなったり、出版にとっての本がなくなったりする未来が待ち受けているとしたら――どのようにサービスやコミュニティーに適応していけばよいのでしょうか。

佐藤さん
メディア業界と音楽業界の課題で言えば、音楽業界のほうが先行している印象があります。海外では今年初めてCDを売らなくてもビルボードにチャートインしたアーティストが出てきました。モノがなくなったとしても、SpotifyなどのIT技術によって急に世界的なヒットが生まれるようになっている状況です。新しい場所へどう移動するかが重要ですよね。
徳力さん
佐渡島さんは漫画を買って読んでもらうビジネスではなくて、漫画の世界観を一緒に楽しむサービスを提供していますよね。芸能人のファンクラブに近い。
佐渡島さん
僕の会社の例で言えば『宇宙兄弟』。TwitterやLINEでファンとコミュニケーションを取っていき、さらにメルマガでより濃くコミュニケーションを取っていきます。そしてもう一段階深くして、グループを作って友だちになってもらいます。コミュニティーを作っているんです。

 佐渡島さんは会場に、「ムッタ(※編注:宇宙兄弟の主人公)が宇宙飛行士以外の職業になるとしたらどんな職業だと思う?――と皆さんに質問しても、ピンと来ないですよね」と問いかけ、笑顔を見せました。「でも、宇宙兄弟のコミュニティーの人たちにとっては、めちゃくちゃに盛り上がる話題なんです。3軒ぐらい飲めちゃう(笑)」

佐渡島さん
今まで講談社は、年間数千円の書籍代を何十万人のファンに出してもらっていました。僕らは数万人のコミュニティーの人たちに、年間数万円を使ってもらうモデルにしていっています。そのコミュニティーの人数を増やしたり、コミュニティーにかけてもらうお金を増やせば、立派なビジネスモデルになりますよね。

 ビジネス観点でのコミュニティーの作り方について、佐渡島さんは実例を挙げました。

佐渡島さん
すべてのビジネスは積み重ね型で、それぞれの業界に積み重ねる方法があります。インターネットビジネスで言えば、人を集めたすぐそばに課金システムを置くのがお作法。集客と課金の必ず2つを立ち上げる必要があるんです。

ネット時代における、メディアの責任とリスク

 話題はメディアが背負う責任とリスクに移りました。ネット時代に適応していくにあたり、どんな部分が変化するのでしょうか。瀬尾さんの意見は。

イメージ:アフロ
瀬尾さん
せっかくなのでヤフーを例にしてみましょう。Yahoo!ニュース 特集は独自に記事を制作しているので、メディアと言っていいと思います。Yahoo!ニュース 個人も、オーサーが書く記事の編集サポートをしているため、メディアとしての責任があると思います。先日もサッカー誌のエアインタビュー問題が話題になりました。本当の情報を流す社会的責任と、書き手へのサポート体制が必要になるのですが、どのように担保しようとお考えですか。
岡田
私見を交えて言えば、ヤフーにはメディア、プラットフォーム両方の役割があると思いますが、どちらの場合も責任があると思います。やっぱり掲載している記事には、品質や信頼性に関しても責任が発生すると思うんですね。それはヤフーに限らず、アグリゲーションサービスやキュレーションメディアにも言えることかもしれません。
徳力さん
ふつう、メディアは編集者が会社として一度確認するので、そこで責任を任されています。Yahoo!ニュース 個人は事後チェックが基本なので、ほかのメディアにはない面白いスキームだなと感じました。

 岡田は、Yahoo!ニュース 個人のガイドラインをオーサーからの意見も取り入れて策定する前は「真実性が乏しかったりするなど、品質の問題が多かった」と振り返ります。編集によるサポートやガイドラインを作ってからは誤情報が減り、またリスク回避にもつなげられたとのこと。

瀬尾さん
責任を負いながら正しい情報を伝えるのは非常に大変ですが、それを支える仕組みをヤフーには作って欲しいですね。もちろん記事の内容が正しいのが大前提ですが――発信するだけでなくて、書き手が安心して情報発信できる場所があることが、健全なジャーナリズムの育成になるかなと思います。

 一同うなずいた後、話題はバイラルメディアの運営スタイルへと移りました。徳力さんはバイラルメディアを通してインターネットに危機感を覚えていると言います。

徳力さん
バイラルメディアブームが起きて、コピペで作ってアドセンスでもうかるスタイルが出てきてしまいました。現状、量が質を駆逐してしまうのではと。クラウドソーシングではライター経験のない人が情報発信に携わっています。あの文化はネットを壊すものだと考えているのですが、どうすればいいのかなと思います。
佐藤さん
そういう状況はよくないですよね。現状、うまい釘の指し方がないのではと思います。BuzzFeed Japanはファクトチェック系にとても注力していて、ネットの自浄作用を意識してやっているのは、今まで少なかったかなと。

 しかし佐渡島さんは、これからのインターネットを悲観していないと言い切りました。

佐渡島さん
ただ、インターネットは新しいから思考の量が足りないだけなんだと思います。旧来のメディアで言えば――講談社には105年の意思決定が積み重なっています。僕の会社の意思決定は10年分にも届きません。そこには圧倒的な思考の量の差があります。思考の量は年数と試行錯誤の数の掛け合わせであって、賢い人が1カ月考えたとしても100年分の思考の量は生まれないんですよ。
瀬尾さん
この問題は、ネットの中では解決できないと僕は思っています。ネットビジネスを規制すればいいわけではなく、1人1人のリテラシーを上げていく作業なんです。政治とメディアと教育は三位一体なので、同時に少しずつよくさせていくのが一番。
徳力さん
僕は悲観論の深いところにいたのですが、楽観論が多くて安心しました。確かに、インターネットのリテラシーは上がっているなと思います。地震のときなどのデマの数は減ってきているし、明らかにデマの収束も速くなっていますから。

「PPAP」ブームから見る、これからのメディア業界の動き

 世界的なブームとなったピコ太郎の「PPAP」から、佐渡島さんはこれからのメディアの動きを感じ取ったそうです。

佐渡島さん
ピコ太郎は何台もカメラを使っていたり、後ろを白くしていたり…テレビの人がインターネット的な動画とはなにかを考えて作ったものだと思ったんです。あれは偶然の産物じゃないんですよ。だから、旧来メディアの人間がインターネットを理解してコンテンツを作るのは、そう遠い未来ではないと思いますね。

 佐渡島さんは、旧来のメディアからインターネットメディアへの人の移動も避けられないと言います。そして「いいもの」は代替されていくとのこと。

佐藤さん
自分自身、伝統的なコンテンツ業界にいるのですが、コンテンツを作ることにどうしても比重を置いてしまっています。もっと流通の編集をしなくてはなと思いますね。出版界はどうしても『いいものは売れる』と言いがちですが、データが否定している場合もあるんですよね。作り手側のエゴを否定する材料を持ちたいです。

編集後記

 Yahoo!ニュースは今年20周年を迎え、現在はテクノロジーとヒトの価値を掛け合わせた「新しいニュースの伝え方」を模索しています。今回のトークイベントでよく話題に上がった「コミュニケーション」も、重要なキーワードのひとつ。編集者と書き手・作り手のコミュニケーションはもちろん、コンテンツとユーザーのコミュニケーションもデザインしていかなければなりません。今回のイベントを通して、改めてその重要性を感じました。

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