Inside2015.11.20

Yahoo!ニュースを死守せよ 防災訓練を「面倒くさい」で終わらせないために必要なこと

東日本大震災をへてヤフーではBCP(自然災害などに備えた事業継続計画)を捉え直し、本格始動させています。9月には首都直下型地震を想定した防災訓練「829んれん」(やふーくんれん)を昨年に続き実施しました。

訓練はヤフーの“全社員”の危機対応力アップを目指して実施する大規模なものです。それぞれが自らの身を守り、近くの誰かを助けられるよう、基本知識を身に付けるのはもちろんのこと、Yahoo! JAPANの重要サービスを「維持」するためには何が必要で、何が足りていないのかを確認する重要な機会となっています。

Yahoo!ニュースでは訓練を通じ、一体どんな課題が見つかったのでしょうか。また社内の防災意識を高めるために乗り越えなくてはいけない壁とは何なのでしょうか。今年の訓練を企画したスタッフに聞いてみました。

本番さながらのやり取り

「緊急地震速報、緊急地震速報」「東京で震度6強を観測しました」――とある平日の朝、緊迫感あふれる内容のアナウンスがオフィスに流れました。いよいよ防災訓練の開始です。被災した東京本社が停電し、ネットワークやサーバがダウン。そんなシナリオのもと、Yahoo! JAPANのトップページやYahoo!ニュースなど各サービスの担当者が初動にあたります。

いよいよ防災訓練開始

例えばYahoo!ニュース トピックスの編集部ではテスト環境を使ってトピックスを作成・更新しました。訓練の運営係が「東京に3メートルの津波」「各地で電車の脱線」「がけ崩れで十数人が生き埋め」「コンビナートで大規模な火災」などとシナリオを読み上げると、編集者はそれに応じて今発信するべき情報は何かを判断。Yahoo!ニュース トピックスでおなじみの13文字の見出しも実際に考え、テスト環境に反映していきます。

編集部のチャットには「原発関連は●●さんフォローお願いします」「帰宅困難者向け情報をもっと充実させましょう」といった感じで、本番さながらのやり取りが書き込まれていきます。編集部は東京だけでなく、北九州、大阪、八戸にもあるので、訓練にはもちろんすべての拠点のスタッフが参加していて、シナリオで「東京が余震で身動きがとれない」となれば、地方拠点が業務を引き取り、司令塔となって全体に指示を出していきました。

こちらは北九州での訓練の様子。複数の拠点の連携によりYahoo!ニュースを死守します

一方、東京の編集部ではヘルメットをかぶったり、非常用電源が確保できる会議室に移動したりと緊急時の初動をまずは確認。「社内のインターネット環境が使えない」「メールやビデオ会議のシステムにつながらない」などのトラブルが起きた想定で、業務システムにどうやってアクセスするのか、ほかの拠点のスタッフとどのように連絡を取り合うのかといった具体的な対応策をシミュレーションしました。

東京の編集部ではヘルメットをかぶります

前述の通り訓練は全社的なもので、Yahoo!ニュースだけでなく、Yahoo! JAPANのトップページ、Yahoo!天気・災害、検索など複数のサービスが合同で行っており、サービスや職種を超えた連携の確認も大きな目的の1つです。実際に訓練に参加したスタッフからは「サービスを横断した連絡ができず困ることがあった」「東京がどんな状態か分からなかった」「誰が意思決定するのか不明だった」など、コミュニケーションの課題と反省が多く聞かれました。

電源が確保できる場所に移動したら、「余震時に潜れる机が足りない」という課題を発見

効果的な防災訓練とは

今回の「829んれん」を企画・運営した北九州編集室の小池裕人と金子有司に、社内の防災意識を高めるために必要なこととは何なのか、そもそもなぜ訓練を企画したのか聞いてみました。

――防災訓練のシナリオは昨年と同じですか?

小池 昨年のシナリオをベースに、各サービスにヒアリングして訓練すべき項目を追加していきました。

金子 そういう意味では、ヒアリングした時点で「ここもBCPの準備ができていない」と“穴”に気付くことが多かったです。

――事前に分かった“穴”とは例えばどんなところでしょうか。

小池 被災した際に全社を横断して連絡できる手軽なツールが自社製のチャットツールくらいしかなかったこと。メールはリアルタイムではありませんし、もし社内チャットが使えなくなったらどうするのか、音声でやり取りできる手段はあるのかなどの課題はシナリオを作る時点で既に浮かんでいました。

また逆に訓練当日は、連絡手段が複数あるために情報が錯綜したり、業務をうまく引き継げなかったりするトラブルが起きてしまった局面もありました。

いま使えるツールは何かをパネルに表示

――今回は昨年と違い、シナリオが事前に参加者に公開されていました。

金子 昨年はシナリオを公開せずに防災訓練をやったことで、情報が参加者に行き渡らず、できるはずの災害対応すらできないという崩れ方をしてしまったんです。そこで今回はシナリオを事前に公開し、さらに今どういうステータスなのか表示するパネルなども用意しました。しかし、そうすることで逆に皆が淡々と訓練をこなす感じになってしまいました。個別訓練を皆で一緒にやるみたいな。

――拠点やサービス間の連携がうまくいかなかったという反省が聞かれましたね。

小池 お互いの状況が分かっている状態で訓練しているので、あえて先頭に立ってまとめ役になるような人が出てこなかったんですよね。個別訓練みたいになってしまったのはリアリティーに欠けていたと反省しています。

――ほかに反省点はありますか。

小池 システムの訓練は難しいですね。今回の訓練では実際にサーバが落ちる、データセンターが落ちるなどの検証はできませんでした。次回はそのあたりのテストも行えるように考えています。

スマホで遊んでいるわけではありません!社内ネットワークが使えない想定でテザリングの設定中

2回目の防災訓練、実は立ち消えとなりかけていた

――そういえば昨年の防災訓練はヘリコプターなどを使って要員を東京から北九州に移動させるなど、大掛かりだったんですよね。

金子 はい、そうして始まった防災訓練なのですが、今年はトーンダウンしていた印象があります。私はBCP拠点である北九州に今年4月に赴任したのですが、そのとき、関係各所に「今年の訓練はどうしますか?」と聞いて回ったら「今年はとくに予定がないです」という返事が返ってきたことが多くて……。

――えっ!そうだったんですか。

金子 昨年、防災訓練を始めた時点では毎年やろうと思っていたはずなんですが、今年の春の段階ではまだ計画が動いていませんでした。でも昨年の訓練でいろいろと課題が見つかっていたので、今年やらないのはまずいという話になり、そんなとき「俺がやります」と手を挙げてくれたのが小池さんだったんです。

小池 私は北九州に赴任して1年たつのですが、BCPを担う北九州のオフィスにいるのにまだ何も明確なアウトプットを出せていないんじゃないかという危機感や焦りもありました。そこで防災訓練を北九州発で企画しようと思ったんです。

金子 防災訓練はYahoo!ニュースのチームだけではできません。Yahoo! JAPANのトップページや検索、Yahoo!天気・災害などほかのサービスの担当者にも参加してもらおうと声をかけ、雪だるま式に増えていき、昨年以上の規模になりました。昨年は北九州と東京だけでしたが、今回は大阪や八戸からも参加しています。

画面の向こうには北九州や大阪のスタッフ。訓練後は早速反省会です

――なるほど、そんな経緯があったんですね。

金子 BCPはすぐにお金を生むものではないので、大掛かりな防災訓練に対してどのように社内の協力を得るのか、どうやったら興味を持ってもらえるかという部分は課題でした。防災訓練は面倒くさいと思われがちですが、小池さんの熱意によって皆がやる気になってくれたのかなと思います。

――確かに北九州から東京などほかの拠点を巻き込んでいく際には苦労がありそうですね。もしかしたら同じ悩みをいろんな企業が抱えているかもしれません。

小池 平時に有事のことを考えるのは本当に難しいです。訓練は昨年トップダウン的に始まったんですが、今年はボトムアップでした。今後も続けていくためにはトップダウンとボトムアップの両方が必要ではないでしょうか。

訓練には社長の宮坂学(右)の姿も。訓練後の1コマ

金子 北九州は「BCP拠点」という位置づけなので、存在意義も掛かってます。その必死さできっかけを作れたのかもしれません。参加してくれた方の防災に対する意識や温度は上がったと思うのですが、このあと継続的に温度を上げていくにはどうすればいいかすごく難しいですね。「なんかやってましたね」で終わらないようにしたいです。

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