Technology2017.01.20

検索キーワードには被災地の要望が現れる――。データから考える災害時の情報発信

 Yahoo! JAPANで検索されるキーワードは年間約75億種類以上――。この膨大なデータを分析すると、人々が何に困り、どんな情報を求めているのかを、うかがい知ることができます。Yahoo!ニュースには、この検索データを世の中の課題解決へと活かせないかを考えているアナリストがいます。

 2016年4月に発生した熊本地震では、発災直後3時間の熊本県内の検索データから、被災地の人々が大規模災害時にどのような情報を求めるのか分析したコンテンツを朝日新聞社と共同で制作し、公開しました。

関連記事:検索データから見る熊本地震

 データの分析を行ったYahoo!ニュースの池宮伸次は、「データからは、災害時の特徴的な検索行動が見えた」と振り返ります。今回は2016年12月に、愛知県で開催された、災害時の情報通信のあり方について考える「防災情報通信セミナー~熊本地震から何を学ぶか~」(主催:東海地方非常通信協議会/東海総合通信局/東海情報通信懇談会)に出席した際の池宮の講演から、熊本地震におけるYahoo!ニュースの検索データ分析についてご紹介します。

Yahoo!ニュースが行う検索データ分析とは

左:講演する池宮伸次 右:コンテンツの企画を担当したYahoo!ニュースの前田明彦

池宮:Yahoo! JAPANの検索窓に入力されるキーワードの種類数は、年間約75億以上あります。これは、75億回検索されたという意味ではなく、75億パターンの検索行動があるという意味なので、検索回数自体はもっと多いです。

 データには、さまざまな属性情報も付与されており、これらを用いることで分析ができます。わかりやすい例でいうと、「マクドとマック」。これは同じチェーン店ですが、検索される傾向をみると、「マクド」は関西圏から検索される回数が多い一方で、「マック」は関西を除く地域で多く検索されていることが分かります。

東日本大震災の分析から見えたもの

池宮:この前提を踏まえた上で、検索データを用いた地震に対する取り組みを紹介します。実は災害時においての検索データ分析は、今回が初めてではなく、東日本大震災の際に分析レポートを発表しました

 検索キーワードには被災地にとって必要なものがキーワードとなって表れます。例えば雨が振りそうなとき、みなさんは「天気予報」などの言葉を検索するでしょう。手元に情報が満たされていれば検索する必要はありません。検索される=その人にとって必要なものが足りていないということ。この点はSNSのキーワード分析と異なるところです。東日本大震災の分析からは大きく3つの発見がありました。

被災地における情報需要の変化

池宮:一つ目は、時間とともに変化する被災者の需要。被災地では、検索されるキーワードが時間とともに変化しました。地震が起こった直後は、「電力」、「復旧」といったインフラ関連の検索が目立ちます。その次に、「給水」や「炊き出し」といったキーワードが増えます。その後も、時間がたつに連れて検索数が徐々に増えてくるキーワードがあることが分かりました。

 二つ目は被災地とそれ以外の地域での意識の差です。東日本大震災の際、(上の資料で)赤で囲った安否確認に関する検索がピークを迎えるのは、大体4、5日後でした。被災地以外にいた方々は、発災直後から災害伝言サービスなどの情報を求めていたと思いますが、被災地では、それより先にインフラの復旧情報やライフラインの情報を検索する傾向がありました。

 また、災害時に必ず必要とされる情報も分かってきました。この傾向は地震以外の災害でも基本的には共通となります。

どの被災地からも必ず検索されたキーワード

池宮:では東日本大震災のときに、全国で最も検索されたキーワードはというと、東京電力です。これは輪番停電の影響でしょう。では被災3県ではどうでしょうか。岩手・福島・宮城で最も検索されたサイトは、役所のサイトを探すための自治体名称です。それぞれの自治体単体では少ないものの、総合すると自治体名称が圧倒的に多かった。

 災害時にどういった行動を取ればいいか、どのように情報を取ればいいか、緊急事態の中で思いつかず、とりあえず自治体のHPを検索する方が多くいらっしゃったようです。これは熊本地震のときも同様でした。ですから、自治体のサイトがつながらなくなってしまうというのは非常に問題です。

会場の様子

池宮:ただ、東日本大震災の分析ではある問題がありました。3月11日は東北電力管内が停電してしまったため、地震当日のデータがほとんど取れなかったのです。災害発生時、インフラ復旧関連のキーワードが検索される前の空白部分に何かがある可能性がありました。

3月9日の東北で起きた地震の際には、東北エリアが赤くなっている一方、3月11の地震の際は白くなっている

発災直後、求められる情報とは

池宮:4月の熊本地震では停電などの影響がほとんどなく、発災直後のデータが残っています。そこで4月14日の地震発生直後から3時間のデータを抜き出して、その空白を探ろうとしたのが今回の取り組みです。

発災直後の分析の必要性

池宮:今回の分析は共起ネットワークという手法で行いました。これは検索キーワードの組み合わせ傾向が多かったものをネットワークで結びつけて可視化する手法です。検索数が多い順だと、県庁などのビッグキーワードが目立って、細かな需要をすくいとるのが難しいのですが、共起ネットワークを用いることで、一つ一つの検索数は少なくても、類似意図のキーワードをまとまりにすることで、これまでの分析ではなかなか見つけ出すことの難しかった需要をまとめて浮かび上がらせることができます。

出展: 共起ネットワーク

 

池宮:共起ネットワークからは、いくつかの傾向が見えました。私はその中でもとりわけ特徴的な3つのキーワードに注目しました。

分析結果から、「避難」「デマ」「英語」の三つのワードで特徴的な動きが見えた。

出典:熊本地震直後、何を検索? 避難・デマ...意外な「英語」

 その中の一つが、避難情報に関する検索行動です。地震が起きた際に、避難所を検索するのは当然のことではないかと思う方も多いと思いますが、感覚的に当たり前だと思うことが、データで裏付けられたということは、非常に重要なことです。

 インフラ復旧に関する情報を探す前に、避難所に関する検索行動があることは、東日本大震災の分析時にはここまで明確に表れませんでした。

 推測も入っていますが、今回の地震は夜中に発生したことで、命を守るための検索が優先されたことも影響していると思います。車の中は安全なのか、家の中のほうが安全なのか、避難所までどう行ったらいいのかという命を守る行動に関するキーワードが目立ちました。また熊本ではこれまで大きな地震が多くなかったことから、避難所がどこにあるのか、知っている人が少なかったのではないでしょうか。

 発災直後に最も優先度が高い情報は、命を守ることにつながる情報――。このデータを今後の防災政策に活かせないか、専門家の分析をもとに探ろうとしたのが、今回の取り組みにつながりました。

専門家による分析記事など:検索データから見る熊本地震

お問い合わせ先

このブログに関するお問い合わせについてはこちらへお願いいたします。