Media Watch2021.08.16

18万のユーザーの声を活かす民間気象情報会社・ウェザーニューズのAIを駆使した予報技術に迫る!

民間の気象情報会社として世界最大規模を誇るウェザーニューズ。全国の「ウェザーリポーター」から届けられた情報を、毎日の天気予報や災害発生時の緊急対応に活用し、さまざまな業界に向けて気象リスクへの対策情報を提供しています。

Yahoo!ニュースでもユーザーの反応や声をニュースの編集に活かす工夫をしてきましたが、その裏側がどうなっているのかは気になるところ。そこで、Yahoo!ニュース トピックス編集部に所属し気象予報士資格を持つ三宅真太郎が、ウェザーニューズ社を訪問。知られざる現場事情とこれからの気象予報の取り組みについて、広報担当の中村好江さんにお聞きしました。

取材・文/友清 哲
編集/ノオト

最新の情報を最速で届ける、気象予報の“産地直送”配信

株式会社ウェザーニューズ・広報担当の中村好江さん(写真・左)。自身も気象予報士の資格を取得しています

Yahoo!ニュース三宅真太郎(以下、三宅) 社内の施設をひと通り見学させていただきましたが、まず眺望が素晴らしいですね! 東京湾が窓から一望できるオフィスなんて、うらやましいです。

ウェザーニューズ中村好江さん(以下、中村) 天気のいい日には富士山も見えるんですよ。また、窓から周辺360度がぐるりと見えるので、遠くで局所的に大雨が降っている様子がはっきりと視認できます。

三宅 たまに双眼鏡で外の様子を見ているスタッフの方がいますが、あれは何をされているんですか?

中村 雲の形を観察しているんです。雲がどう発達していくのかを実際に目で見て、予報を制作する材料の一つにしています。

三宅 なるほど。まさにそうやってここで天気予報が作られ、全国に向けて発信されているわけですね。

中村 予報センターにはベテランの気象予報士が複数在籍していて、実際のニュース原稿の執筆までを担当しています。そして、すぐ隣に放送スタジオが併設されているので、できた予報がそのまますぐに発信されるんです。いわば天気予報の産地直送スタイルですね(笑)。

三宅 なるほど。リアルタイム性が求められる天気予報ならではのスタイルかもしれませんね。

中村 そうですね。最新の情報を最速でお届けするために、アプリやYouTubeなどいくつかのメディアに向けて、スタジオは交代制で24時間ずっと生配信を続けています。

動画配信用のスタジオは、予報センターのすぐ隣に。物理的にも近くにすることでできる限りスピーディーに情報を届けています。複数の気象予報士とスタッフが交代制で24時間、生配信を続けています。

さまざまな業界で活用される気象情報 「あおらない」「盛らない」が大前提

三宅 同じニュースメディアに携わる者として気になるポイントなのですが、気象情報をニュースとして伝える際に、気をつけていることは何ですか?

中村 読者の気を引くために脅すようなフレーズはむやみに使わない、ということですね。例えば、太平洋上で台風が発生し、いくつかの予報会社が「大きく発達して九州を直撃する可能性が高い」と報じた場合でも、それはあくまで数ある予報の一つに過ぎません。

そういう時は一つの情報の最大値で見出しを決めたりするようなことはせず、それよりも今後の上陸の可能性に触れながら、対策を促すことを重視しています。つまり、「あおらない」「盛らない」が大前提です。

1986年、「船乗りの命を守りたい」「いざという時、人の役に立ちたい」という思いで設立されたウェザーニューズ。現在、社員は約1,000人、21カ国に拠点を持つ。

三宅 また、気象情報と言っても、それが非常に多様なジャンルで求められているということを、予報センターを見学させていただいてあらためて実感しました。予報センターでは農業や商業など、各カテゴリーに特化した気象情報を提供していますよね。

中村 はい。農業は気象条件によって作物の生育環境が大きく変わりますし、商業需要というのもまた、気象の影響を受けやすいんです。店舗の来店数や売れる商品は、晴れなのか雨なのかで、まったく異なりますから。

三宅 たしかに、よく晴れた暑い日にかき氷やドリンク類がよく売れるのは想像できますが、牛乳やカップ麺、絹豆腐などまで需要の予測が算出されているのには驚きました。人の動きがいかに気象に司られているかということの表れですね。

ウェザーニューズでは農業気象や商業気象、エネルギー気象やダム気象など、さまざまな分野に向けて気象情報を提供しています。

全国から集められたレポートを機械学習に活用

三宅 ところで、ウェザーニューズさんでは、ユーザーの声を予報に取り入れているとお聞きしました。具体的にどのように行っているのでしょうか?

中村 ユーザーの皆さんから届けられるのは各地の天気の簡易報告です。ウェザーニューズのアプリを通して、晴れ具合と雨の強さがわかるように段階を付けて情報を寄せていただいています。例えば、晴天であれば、完全な晴れ、影がうっすら見えるくらいの晴れ、影が見えない薄曇り、といった形ですね。

また降雨の場合も、その雨がおよそ何ミリ程度の雨量なのかというのは、一般の方にはなかなか判断できないので、「ポツポツ」、「パラパラ」、「サー」、「ザーザー」などと、ユーザーの皆さんが体感的に評価して報告できるようになっています。

アプリの累計ダウンロード数は、約2600万。直感的な判断基準を設定し、誰でも手軽に投稿できるよう工夫されています。

三宅 たしかにこれはわかりやすいですね。毎日どのくらいの報告が集まるんですか?

中村 1日に18万通ほどの報告をいただいています。

三宅 18万! すごいデータ量ですね。

中村 さらに、それとは別に写真と文章によるウェザーリポートが1日2万通ほど届くんですよ。こちらは特に、日常の中でできるだけ自然に使っていただけるよう、天気そのものだけでなく、ライフスタイル上の変化やトピックを投稿できるようにしています。

例えば、「暑くなってきたのでかき氷を食べました」、「寒いので猫が布団で丸まっています」などと、生活の中の1シーンを撮って、コメントを添えて送っていただくんです。ユーザー同士がコメントし合うこともでき、ちょっとしたSNS感覚で楽しく使ってもらいたいな、と。

ウェザーニューズでは、寄せられたさまざまな情報を、予報センターで集計・分析しているんだそう。

三宅 面白い取り組みですよね。そうしたデータを使って、具体的にはどのような情報を制作するんですか。

中村 わかりやすいのは「ゲリラ雷雨防衛隊」という取り組みです。おおよそ、どの地域のどのあたりでゲリラ雷雨がありそうだというところまでは、従来の天気予報でも予測可能ですが、ピンポイントに発生日時を特定することはできません。そこで、ユーザーの方からリアルタイムで送られてくる写真から、積乱雲の発達具合を機械学習で自動検知して、アプリでアラートを鳴らすんです。

三宅 つまり、ウェザーニューズさんではAIの活用も積極的に進められている、と。

中村 そうですね。何万通単位の写真を人力でチェックしていると、その間に雨が降り始めてしまいますから。怪しい積乱雲をAIである程度振り分けた上で、予報センターのオペレーターが情報を精査しています。

全国から集められた雲の様子を、AIでチェック。発達しつつある積乱雲をいち早く検知して、アプリにアラートを流します。

三宅 AIは他にどのような部分で活用されているんですか?

中村 例えば、全国のリアルタイムな雨雲の動きを予想する、雨雲レーダーもそうですね。こうした気象予測はもともと、物理モデルの計算式で行われていました。その精度をさらに上げるために、過去3年間の雨雲レーダーの画像をAIで機械学習し、物理モデルと組み合わせて予報をしています。

集められた情報を元に、気象予報士が各地域の予報を作成。AIと人力の良い点を活用することで、効率的かつ高精度な予報に努めています。

AIによる世界初の「火山灰検知システム」

三宅 また、ウェザーニューズさんでは最近、火山灰を検知するシステムを導入して話題になりました。こちらもAIを使ったものですか?

中村 そうです。衛星画像の解析を行い、火山の噴火や噴煙をリアルタイムに検知します。AIを用いた火山灰検知システムで、世界初の試みとなります。

火山灰は飛行機エンジンの大敵。火山灰によって事故が起こる可能性があるため、航空会社にとっては非常に重要な情報だそう。

三宅 もはやウェザーニューズさんは天気予報だけを伝える会社ではないんですね。

中村 そうですね、私たちは取り扱うカテゴリーを「気象防災情報」と表現して、気象・地象・海象・水象・宙象を網羅しています。

三宅 台風は「気象」、地震や火山は「地象」に含まれるのは想像できるのですが、「宙象」というのは?

中村 太陽風(太陽のコロナから放出されるプラズマの流れのこと。秒速320〜770キロにもなる)の影響で、飛行機内の通信状況に支障をきたす場合があるんです。そのほか、より広い意味では紫外線も「宙象」の一つでしょう。

地上のあらゆる産業に影響をあたえる気象情報。ウェザーニューズでは防災減災への取り組みはもちろん、各産業に向けて幅広く情報提供を行っています。

三宅 本当に幅広いですね。AIの活用も今後ますます進むことになると思いますが、人力とのすみ分けはどうされているのでしょうか。

中村 現状は、AIと人力を併用です。天気予報を作成する際にも、AIが予測した雨雲の動きが現実と異なっていれば、適宜、人の手で修正を加えるようにしています。先ほどの火山灰の検知にしても、衛星から見た雲の形状から判断する際、まだ人の知見がAIを上回っている点も多いんですよ。

三宅 つまり、気象予報士の知見と機械学習のいいとこ取りができているわけですね。

中村 予測の精度もそうですが、読者の方によりわかりやすい表現に変換する作業など、人の手で行ったほうがいい点もまだまだ多いですからね。

三宅 その意味でもデータは多ければ多いほうが、より精度の高い予報につながるのだと思います。ウェザーニューズさんでは独自予報を行うために、どのくらいの観測機、観測拠点を持っているんですか?

中村 雨量に関する観測網で言えば、気象庁のアメダス(地域気象観測システム)が押さえている1300カ所を含めて、約1万3000の観測ポイントを持っています。おっしゃるように、リアルタイムに観測できる地点は多いほどいいですし、ポイントごとに過去の予報と実際の天候を照らし合わせることで、さらなる精度向上に役立てることができます。

全国1万3000カ所の観測網を擁するウェザーニューズ。こうした広い情報源が高精度な予報を支えています。

三宅 昨今の水害を見ても、気象をあらかじめ正確に知ることが、命にかかわることもありますから、重要な役割ですよね。

中村 その通りだと思います。とにかく正確な情報をより早く伝えられるよう、技術やノウハウの向上に努めることが、社会の役に立つという信念を持って取り組んでいます。

三宅 こうしてお話をお聞きしていて、われわれトピックス編集部が日頃大切にしている、正確な情報をより早くというモットーと同じ使命感を、ウェザーニューズさんもお持ちなのがよく伝わってきました。

中村 私たちの側としては、作成したニュースをより多くの人に届けるために、Yahoo!ニュースというプラットフォームの存在は重要なんです。立場は違っていても、正確なニュースを広く伝えなければという思いは同じですよね。

三宅 そうですね。何より、Yahoo!ニュースにご配信いただいている記事が、皆さんの多大な苦労と努力によって作り出されたものであることを知り、あらためて身が引き締まる思いです。われわれもいっそう頑張らなければなりません。本日は貴重なお話をありがとうございました!

正しい情報を迅速に伝えるというモットーは共通のもの。ニュース配信社の知られざる舞台裏は、Yahoo!ニュース トピックス編集部にとっても大いに刺激になりました。

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