Inside2018.07.18

メディアの世界観が「売れる」カギ――Yahoo!ニュースと業界のキーマンが考える「まじめな記事広告」の可能性

エンタメ色が薄く、まじめで硬い記事広告は、どれだけ効果があるのでしょうか。広告主が費用を負担し、メディアの運営者が編集権を持つスポンサードコンテンツ。ネット上のスポンサードコンテンツは「使ってみた」「やってみた」などの体験型記事やライターの拡散力を生かした企画が多いようにも見えます。

5月23日、ヤフーで業界キーマンとともにスポンサードコンテンツの役割や可能性を考えるイベントを開きました。前半は、登壇者がそれぞれの立場からの事例やノウハウ、成果を紹介。後半は、事例を元に記事広告のブランディングなどについて意見が交わされました。ディスカッションの一部を紹介します。

登壇者

アウディジャパン マーケティング本部 メディア&クリエイティブ マネージャー 井上 大輔さん
ヤフーでサービス企画、ニュージーランド航空にてオンラインセールス部長、ユニリーバにてデジタルマーケティング&eコマースマネージャーを歴任し現職。
博報堂ケトル 代表取締役社長・クリエイティブディレクター・編集 嶋 浩一郎さん
1993年博報堂入社、企業の情報戦略に携わる。2001年朝日新聞社出向「セブン」編集ディレクター。2002年〜04年博報堂「広告」編集長。04年本屋大賞の設立に参画、現NPO本屋大賞実行委員会理事。
有限会社ノオト 代表取締役、品川経済新聞編集長 宮脇 淳さん
雑誌編集を経て1999年、25歳でライター&編集として独立。5年半のフリーランス活動を経て、コンテンツメーカー・有限会社ノオトを設立した。編集としてR25の創刊に参画、現在は各種オウンドメディアの企画・運営に携わる。
Yahoo!ニュース スポンサードコンテンツ 編集デスク 井上 芙優
時事通信社記者を経て、2012年ヤフー入社。Yahoo!ニュース トピックス編集、オウンドメディア編集などを経て現職。
Yahoo!ニュース スポンサードコンテンツ 編集 永井 千晴
リクルートライフスタイルで旅行情報誌「関東東北じゃらん」の編集などを経て2016年ヤフー入社。

「記事広告5カ条」について語るアウディ 井上さん
アウディ 井上さん

私は広告主の立場ですし、これはあくまで私見なのですが、私の考える「記事広告5カ条」があります。具体的に「コンパクトSUVQ2」の記事広告の展開について紹介しますね。

1. コンテクスト(文脈)を整理しよう

Q2のターゲットになるであろう人を大きく以下の3つに分けました。そのうえで、それぞれに向けて「動画広告で興味を持ってもらう→後日検索してもらい、検索広告経由で特設サイトに訪問してもらう」などというカスタマージャーニーをデザインします。

① Q2を知っているが、興味はあまりない
② そこそこ購入を検討している
③ かなり積極的に検討している

2. 「誰に」「何をしてもらうのか」を明確にしよう

そのカスタマージャーニーの中における、記事広告の位置づけを明確にします。例えば、このキャンペーンでは、②の「そこそこ購入を検討している」と③の「かなり積極的に検討している」という人に対して、自動車雑誌に記事広告を制作してもらいました。「誰に」「何を」で整理をすると、「興味を持って検討段階に進んでいる人に」「この車をショートリスト入りさせてもらう」ということになります。

3. KPI(主要業績評価指標)を一つだけ設定しよう

自動車雑誌掲載の記事広告でいうと、目的は「ショートリスト入り」なので、最終的な候補の情報を詳しく調べるアクションを定量化した数値として、「商品名を検索した人の数」をKPIとして設定しました。一つだけ、というのがポイントで、最悪複数設定する場合でも必ず優先順位をつけます。

4. 拡散力を買うのか コンテンツ制作力を買うのかを明確にしよう

バズ動画をおもしろおかしく書いていただいたような記事には拡散力があります。一方、自動車雑誌に制作していただいた記事広告は、拡散力はそれほど期待できませんが、コンテンツとしての信頼度が高い。拡散とコンテンツ力、という記事広告の二つの特徴を混同させず、ここでも目的を一つに絞ります。拡散力はインフィード広告やオウンドメディアでの展開で補うことができます。

5. あとはうだうだ口出さずに任せよう

最後は、編集者にお任せです。読者のことを一番分かっているのは、編集者だからです。

博報堂ケトル 嶋さん
このような姿勢で全てのお客さんが仕事をしてくれたらいいですね。

ヤフーのスポンサードコンテンツを紹介する井上
ヤフー 井上
Yahoo!ニュースでは、社会課題やユーザーの関心の高いテーマなどを軸に出稿主とユーザーの双方に有益なスポンサードコンテンツの制作に取り組んでいます。

【PR】育休中に生じた家事・育児の偏り――復職後の共働き生活を乗り越えるには
【PR】「食器洗い」ですれ違う夫婦たち――家事は「マネジメント」の時代へ

パナソニック100周年の企画を紹介します。洗濯機や食器洗い乾燥機などの記事広告です。昨年10月から今年2月の約半年間かけて計14本の記事を書くという、実に長期間にわたる企画でした。

今回登壇していただいた「ノオト」に制作を担当していただきました。共働きの世帯が増えている点に注目。育児や夫婦のコミュニケーションなど、身近な話に(パナソニック家電を)さりげなく、自然になじませる形にできました。さらに、一般の方を取材したり、専門家の話を盛り込んだりと客観的な視点も盛り込みました。

ノオト 宮脇さん
こちらの記事は、多くの反響がありましたよね。「共感した」という声が多かった。夫婦や家族の課題を徹底的に話し合いながら進めたのがよかったのだと思います。
ヤフー 井上
ネットで家事や夫婦に関する社会課題を取り上げた場合、身近な分、話題になりやすいです。一方、それだけ注目されているという意味では炎上のリスクもあります。そのリスクを十分に分かった上で、あえてこのテーマに挑戦させてくれたパナソニックにも感謝しています。
ヤフー 永井

私は、花王と記事広告を制作しました。

【PR】かばんはいつも右肩?──7m歩いてわかる“偏り” 地域を健康にする「歩き方指南」とは

商品を担当している宣伝部ではなく、人体の研究をしている研究開発部と展開しました。赤ちゃんのおむつ開発のために始めた動作解析技術に光を当てた企画です。歩き方の質や量を計測しながら健康増進を支援するサービスをPRしました。多くの方に読まれ、普段表に出にくい研究者の仕事をアピールでき、みなさんが仕事により誇りを持てるようになったという成果もありました。

ノオト 宮脇さんは「おもしろ要素ゼロ」や「役に立つ要素」を入れた記事広告を紹介

ノオト 宮脇さん

「おもしろ要素ゼロ」で制作した記事広告があります。 家具や雑貨を販売している「北欧、暮らしの道具店」には、記事広告をコンテンツ「BRAND NOTE(ブランドノート)」があります。そこで、家庭料理に欠かすことができない「だし」の生産者の方を現地で取材して、社員の自宅でみんなで味わうという企画でした。

奇抜な演出など一切ありません。私たちは、事実をきちんと取材して制作するだけ。それでも、自然と同社のファンが記事広告を見てくださり、PRにつながりました。「北欧、暮らしの道具店」のブランドが確立されていたからだと思います。

一方、「おもしろい」だけでなく「役に立つ」要素を入れるよう工夫した記事広告もありました。ツイッターで話題のニュースを届ける「トゥギャッチ」と展開した記事広告です。情報番組「王様のブランチ」(TBS)のMCが交代する際、ワイプの入れ方など、テレビの舞台裏を取材し、軟らかくおもしろ要素を盛り込んだ企画でした。「こういうことは知らなかった。知れてよかったよね」という知識欲を満たす内容で、ネットでの評判もよく反響がありました。

記事広告にも世界観を ネットにも「我」と「偏愛」

「記事広告は、そのメディアの世界観も含めて買う」と語る博報堂ケトル 嶋さん
博報堂ケトル 嶋さん
さきほど宮脇さんがお話された北欧暮らしの道具店は、メディアがブランド化されているいい例ですよね。根強いファンがいて、そこで紹介されるからこそ、価値がある。記事広告は、そのメディアの世界観も含めて買うのだと思います。
ヤフー 永井
さまざまな情報が混在し、多くのユーザーが集まるネットでは、世界観を作るのは、簡単ではありません。
博報堂ケトル 嶋さん
実は、Yahoo!ニュースは、世界観が作りにくい顕著な例です。例えば、文春も、週刊ポストも、朝日新聞も…と幅広いジャンルがひとつのサイトに混在しているのですから。
ヤフー 永井
世界観を作るには何が必要でしょうか。
博報堂ケトル 嶋さん

どれだけの人に読まれたかというPV至上主義でウェブを作ると、世界観を作るのは難しくなります。でも、Yahoo!ニュースは、記者経験者を中心に人の手で編集されている。「読まれなくても大事な記事は出していく」というジャーナリスティックな視点は、とても価値がある。そのことでYahoo!ニュースならではの世界観が作れる。そうすることでジャーナリスティックな記事広告が出せるのではないでしょうか。

家事の効率化に焦点を絞った雑誌もあれば、一方で家事を楽しむことを第一に考える雑誌もある。それぞれの雑誌がそれぞれに世界観を持っています。そういう世界観の中で商品が紹介されるからこそ価値があり、そこに広告記事を出したくなるんです。

部数やPV数のようなリーチも大事なのですが、数が多くても深く伝わらないケースもある。「レリヴァンシー(関係性)」という視点も重要で、リーチが少なくても真剣に読んでくれる読者が多く、広告効果の高いメディアもあります。なので広告記事が全てPVで換金されるのはいかがなものかなとも思います。

記事広告を出稿するっていうことは、人様のパーティーに呼ばれてスピーチするようなものだと思います。媒体はそのお客さんを集めた場を作ってくれる。だからスピーチする人は、好き勝手に自分の話たい話をするのではなく、どんなお客さんが招待されているのかを考えてみんなが聞きたい話をしなきゃいけない。

アウディ 井上さん

「キュレーションメディア」と言いますが、キュレーターというのは学芸員ですよね。岡本太郎美術館のキュレーターは、太郎さんの実質の妻岡本敏子さんでした。何を言いたいかというと、キュレーターは、情報を整理するだけではいけません。愛情、もっというならば、偏愛を持つべきです。メディアブランドを確立するには、「我」と「偏愛」がないと、よさは伝わらない。記事広告についても同じことが言えると思います。 多くのネットメディアで、どういう人たちがどういう思いで編集しているかという「顔」が見えていないのはネットメディアの弱い点ですよね。

ノオト 宮脇さん

制作の立場からいうと、ネットでは、ライターの育成という点で課題があります。「ネット=東京」というようなイメージがまだ強いようですが、地方都市も含めライターの数が増えているのはいいことです。

しかし、編集プロダクションなどで経験を積んだ人はまだ少ない。経験のあるライターで、かつネットの反応も分かるというような人たちが必要でしょう。

記事広告のPR標記とは ネットの記事広告の可能性は

Q Yahoo!ニュースで記事広告を出すメリットや活用方法を教えてください。

ノオト 宮脇さん
圧倒的にユーザーが多いことです。先ほど紹介した記事広告も、ヤフーに掲載されたからこそ、多くの反響があったと思います。弱いメディアでも話題になれば、大きく化けることができます。おもしろコンテンツの弱点は、おもしろいだけで本質は伝わらず3日で忘れられがちになってしまうこと。ヤフーなら、おもしろ狙いでなくても多くの人に見てもらえます。

Q 記事広告の「PR」という標記はどこにつけたら効果があるのでしょうか。

博報堂ケトル 嶋さん
答えとは関係ないのですが、ちょっと言いたいので答えさせてください(笑)PRという表記は、PR業界に失礼だと思うんです。PRパーソンの仕事は、記事広告を作ることではないのですから。スポンサードと表記する方がいい。

Q ネットの記事広告でも、雑誌のような世界観を持つという話が出てきました。結局、「原点に返るのが大事」と理解したのですが、ネットが出てきたことによって広がった可能性は何ですか。

博報堂ケトル 嶋さん
よかったのは、インフルエンサーと呼ばれる人たちをはじめ、個人がスターになったことでしょう。「企業がこの人に書いてもらいたい」「この人に批評された」というようなことは、今後もどんどん進んでいくと思います。 それから、大量のデータも強みになるのではないでしょうか。特にヤフーに可能性がある点です。過去の企業に関する記事のデータも大量に持っています。データと記事広告をどうつなげるか、ネットの強みを生かした表現方法も展開していけると思います。
ノオト 宮脇さん
ネットの記事広告は、読者同士が感想を見せ合えるのが雑誌と異なります。この記事広告を読んでどう感じたのか。コメントがついたり、シェアされたりすることによって広まります。おそらくユーザーによっては、記事広告の受け取り方が180度違うこともあるでしょう。また、自分がそこまでの感想を持っていなくても、誰かの熱っぽい反応を目撃することで、興味・関心が生まれる可能性もあるはずです。
ヤフー 井上
配信していただく中で、同じような構成や見せ方をなぞっているだけならば、やっている意味はないと思っています。ユーザーのことを一番知っているのは、私たち編集者。動画にチャレンジするなど、ユーザーに一番いい見え方を研究していきたいです。

編集後記

会場には、メディア運営者、編集プロダクション、広告代理店など満員の約200人に参加していただき、関心の高さが伺えました。

イベントでは「おもしろいだけが記事広告ですか?」という一見挑発的なタイトルを掲げましたが、背景には「Yahoo!ニュースのスポンサードコンテンツにはどんな可能性があるのか」を、登壇者とともに、探っていきたい思いがありました。トークが進むにつれメディアの世界観――すなわち、ブランドの強さが今後のカギになると改めて感じました。

Yahoo!ニュースのような、さまざまな媒体社から記事をお預かりしているニュースサービスにとって、世界観の形成や言語化は容易ではありません。しかし今回のイベントを通して、そういったYahoo!ニュースの個性を曲げるのではなく、伸ばして高めていくことで、スポンサードコンテンツの「新たな鉱脈」を掘り当てられるのではと感じられました。

お問い合わせ先

このブログに関するお問い合わせについてはこちらへお願いいたします。