「ヒット作品の裏側には“想い”がある」メディアコンサルタントの境治さんが語る今
各分野の専門家や有識者による、取材やオピニオンなどを軸とした記事が集まる「Yahoo!ニュース 個人」では、書き手であるオーサーの著書を集めたブックフェアを開催、丸善とジュンク堂の東京・大阪6店舗で実施しています。
このブックフェア開催を記念して3月、ジュンク堂大阪本店で、オーサーでメディアコンサルタントの境治さんによるトークイベントが行われました。「Yahoo!ニュース 個人」での執筆記事をベースにして編集された新刊『爆発的ヒットは“想い"から生まれる』に合わせて、これまでの常識では考えられないような流れでヒットした作品事例を掘り下げ、要因を解説。その様子を一部ご紹介します。
ヒットさせるためには「コミュニティつくり」が大事
境さんはメディアコンサルタントとして、さまざまなコンテンツのヒット要因を分析しています。イベントでは、「おっさんずラブ」や「カメラを止めるな」などのヒット作品を分析し、「ミドルファネル」をコミュニティ形成でうまく埋める必要性があると話しました。
広告マーケティングには、生活者は「認知」→「興味」→「検討」→「購入」の順を追って商品を購入すると考える「ファネル」というモデルがあります。以前は、テレビで認知をさせ、新聞・雑誌で興味、検討を促し、店頭で購入を決めるという流れが一般的でしたが、いまは、新聞・雑誌の力が弱くなってしまったので、興味や検討というファネルの真ん中の部分(=ミドルファネル)がすっぽり抜け落ちてしまった。そこをどう埋めるのかが、ヒット作品を生むために必要なのだといいます。イベントでは、ヒットした作品を例に挙げ、具体的に説明していただきました。
視聴率とは違う評価「おっさんずラブ」の盛り上がり
テレビ朝日系ドラマ「おっさんずラブ」は大ヒットし、グッズが売れ、映画化や続編が決まりました。TBS系ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ(逃げ恥)」と比べると視聴率も低いこのドラマがなぜここまで盛り上がったのか。実は、この作品のヒットの裏側では「コミュニティつくり」が重要な役割を果たしたといいます。
このドラマはタイトルそのまま「おっさん同士の純愛」を描いたものですが、ツイッターで前代未聞のツイート数を記録。最終回の視聴率が20%を超えた「逃げ恥」の放送中のツイート数が7万強だったのに対し、「おっさんずラブ」では最終回の視聴率が5.7%にもかかわらず、16万を超えました。
境さんはこの要因を記事でこう分析しています。
こうして見ていくと、なぜこれほどのツイート数になったかの答えは、「愛」としか言えないことがわかった。
それはまず、このドラマが愛に満ちていること。人を好きになることの素晴らしさを純粋に描き抜き、その作り手の気持ちがはっきり伝わって共感してもらえた。だからこそ、ドラマへの愛が多くの人びとの心に生まれて、感謝と声援を届けるために懸命にツイートした。その結果が16万という前代未聞のツイート数をもたらした。
そこにはいろんな要素も働いたようだ。深夜枠という、マイナーな放送枠だったからこそ、応援したい気持ちになった。
境さんはもともとBL(ボーイズラブ)ファンが支持していると予想していましたが、「男女に限らず、人が人を好きになるということを誰もがピュアに受け入れている、ファンタジーともいえる世界観」がファンを集めているとSNSで教わったといいます。制作者がSNSなどで、ドラマに込めた「想い」などを発信し、それを受けてファン同士の会話がネット上で活性化、自ら「OL(おっさんずラブ)民」と呼ぶなど、コミュニティがうまく出来上がった好例だといいます。
トークイベントではこの作品のほかに、クラウドファンディングで資金調達とコミュニティ形成を実施した映画「この世界の片隅に」、監督自身が舞台挨拶など地道な活動をしていたアニメ「君の名は」、新聞やラジオが初動に貢献したという映画「カメラを止めるな」などのヒット要因分析も行いました。
「共感」は広がる、その源泉は「想い」
2016年、投稿された「保育園落ちた日本死ね」という1本のブログ記事が、国会を巻き込むほど話題になりました。境さんはこの現象を、メディア専門家の視点から分析。炎上気味に盛り上がったこの言葉は、こういう言い方をしたからこそ話題になり、結果的に国民全体に「保育園が足りない」ことが広まったと指摘します。「話としては分かるけど、言い方が良くない」という批判もありましたが、このような言い方でなかったらまったく広まっておらず、むしろこのような言い方をせざるを得ないほど切羽詰った状態だったのだという、追い詰められた「想い」が「共感」につながっていると解説しました。
週刊文春がスクープを連発し「文春砲」と話題になった際も、記事のメッセージ性が影響したといいます。
「あるタレントの不倫報道では、『好感度の高いタレントがこんなことをしていた、どう思います?』というようなメッセージ性があり、そこに読者が共感した。そして、共感した人たちが集まるコミュニティが生まれました。一方で記事によって音楽プロデューサーが引退した際は、その共感が失われ、媒体そのものへの共感も失われてしまったのではないでしょうか」(境さん)
この「共感」を生む源泉は「想い」です。抜け落ちていた、生活者が興味を持ち、検討するというミドルファネルの部分に、作り手や関係者のコンテンツに対する「想い」を届けられれば、そこに共感の輪が広がり、ヒットにつながると締めくくりました。
編集後記
執筆したニュース記事やSNSのデータを用いながら、時に鋭い指摘を加えつつ進んだ講演は、境さん自身の「想い」が伝わるものでした。質疑応答では、広告関係者やメディア関係者から「SNSでファンを巻き込む具体的な方法はあるのか」などの実践的な質問も飛び交いました。活発な議論を聞いていて、イベントをきっかけにヒット作が誕生すればいいなぁと楽しみになりました。
「Yahoo!ニュース 個人」書店フェア開催中
日程:2019年3月1日(金)~4月7日(日)
書籍フェアが行われる書店:丸善丸の内本店、ジュンク堂池袋店、M&J渋谷店、ジュンク堂大阪本店、M&J梅田店、ジュンク堂三宮店(※丸善丸の内本店、ジュンク堂大阪本店では3月31日まで)
対象書籍:2018年の「Yahoo!ニュース 個人」オーサーアワードを受賞された井出留美さんの「賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか(幻冬舎新書)」、石渡嶺司さんの「大学の学科図鑑(SBクリエイティブ)」など100冊を超える書籍
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