塩田亮吾

「やめられない」という精神疾患 ギャンブル依存者の苦しみ

2016/11/29(火) 9:16 配信

負けて、負けて、時に勝って、また負ける。いったん離れてもまた通うー。そんなことを繰り返し、ギャンブルから抜け出せない人たちがいる。借金を重ね、多重債務者となり、家庭崩壊に至る例も少なくない。なぜ、ギャンブルをやめないのか。実は、世界保健機関(WHO)は過度のギャンブル依存を「病的賭博」に分類し、個人の意志だけでは簡単に克服できない「精神疾患」と認定している。依存症になると、どんな日々が待ち受けているのか。克服の道はあるのか。パチンコにのめり込んだ男性たちを追いながら、ギャンブル依存症とその周辺に迫った。(Yahoo!ニュース編集部)

初めての日 2千円が8万円に

関東地方に住む渡辺真也さん(22)=仮名=は、ちょっとしたきっかけでギャンブルにのめり込んだ。3年前、友だちの誘いで初めてパチンコ店へ行くと、スロットで勝ちまくる。財布の2千円は瞬く間に8万円になったという。「こんなに簡単にお金が増えるのか」。その感覚は今も忘れない。それでも当初は、週1回程度だった。専門学校生だったので、資金はバイト代。使えるお金も限られていた。

アルバイトのお金も無くなったころ、サングラス代として両親に2万円を出してもらった。そのお金もパチンコ店で使った頃から金銭感覚は大きく狂い始める。消費者金融からも借金。ビギナーズラックからおよそ1年後、借金は10万円になっていた。

ビギナーズラックから始まったギャンブル狂い。渡辺真也さん(仮名)の人生を変えた(撮影・塩田亮吾)

増える借金 親に泣きつく

それでも渡辺さんのパチンコ通いは止まらない。返済に困って両親に泣きつき、消費者金融からの借金を告白すると―。

母親はあの時をこう振り返る。

「私の方がすぐ返したくなって。息子と一緒に返しに行き、『もう借りないように』と言ったんだけど…。その後また、10万円借金していました」。息子は半年間ほどパチンコを断ったものの、再び通い詰めるようになったのである。しかも、ギャンブル熱は前回より激しくなった。両親はだから、パチンコを憎んでもいる。

依存症と借金の事実を知り、渡辺さんの両親も苦しんだ(撮影・塩田亮吾)

渡辺さん自身もこう言う。

「負けていても行っちゃうんです。取り返してやるぞ、みたいな感じで。エンドレスですよ。1日平均で1万円から2万円は負けてる。その後で友だちと飲みに行って。負けて、なおかつそうしていたから3万円ぐらい普通に消えた。全部借金です」

「100万円」で行き詰まる

完全に行き詰まったのは、今年に入ってからだ。専門学校にはほとんど行かず、パチンコ店には毎日のように通う。4千円を35万円に増やした日もあるが、大半は負け続けた。2月にはアルバイトも辞め、収入ゼロの状態で借金を続けた。1月からの8カ月間で消費者金融3社から計100万円。これ以上は借りられないという額になった。

適度に通えば、パチンコは楽しい娯楽だったはず(撮影・塩田亮吾)

結局、渡辺さんは今年9月から依存症の克服を目指す支援機関に頼るようになった。ギャンブル漬けの日々はどう変わったのだろうか。

支援機関では「給与の管理」から

一般社団法人「大崎大地」は、東京都江戸川区に事務所がある。渡辺さんは今、そこの「寮」で暮らしながら生活の立て直しを図っている。住宅街の一軒家。ここに来てからは、建設現場の溶接を仕事にした。日曜日を除く毎日、朝5時に出て現場へ。毎日夕方6時に戻る。

ギャンブルに使ってしまわないよう、給料は全額、この支援機関に預ける。そこから渡されるのは、週に1度の1万円。仕事場への往復で毎週約4千円を使うため、食事などに使えるお金は1日千円に満たない。友たちとの飲み歩きも難しい。

取材の日に渡辺さんが持っていた現金。1週間を考えると、パチンコにつぎ込むお金はない(撮影・塩田亮吾)

「今は仕事をちゃんとして、まともな生活が送れていると思う。まだ2カ月ですけど、こういうのが続けばいいな、と。それと、趣味は欲しい。パチンコとかじゃなくて、フットサルとか。身体を動かすのが好きなんで、そういうのにお金を使いたいです」

「100回負けても…」

自らの名前を団体名に冠した大崎大地さん(72)も、かつてはギャンブル依存症だった。期間は25年にも及んだという。この活動を始めたのは10年前。自分のような依存症者や家族を救いたい、との思いが強まったからだ。自らの経験があるからこそ、大崎さんは「彼らの心情が分かる」と語る。

「依存症の被害者は家族」と力説する大崎大地さん(撮影・塩田亮吾)

「彼らにとって、ギャンブルで儲かるか儲からないかは、関係ないんです。損すれば損をするほど、賭ける気が起きる。始まりがあって終わりがない。100回負けても『101回目には儲かるんじゃないか』と考えるのが依存症者です。本人の意思や性格の問題だと皆さんは捉えますが、そうじゃない。病気です。そして人格、人間が壊れていく」

大崎さんによると、依存症には三つの特徴がある。嘘や隠し事などの「虚言癖」、自らが依存していることを否定する「否認の多用」、そして「借金問題」だ。そのため、大崎さんもまず現状を認めさせることからカウンセリングを始める。

「借金を隠していることを全て打ち明けると、すごく楽になる。問題は解決してないが、本人が楽になる。隠すことの辛さは大変。打ち明けても借金はある。あるけど、すごく楽になる。楽になったその人の考え方が、問題をどう解決しようか、という知恵につながるんです」

社団法人「大崎大地」のセミナー。主催者が「パチンコは善か悪か」と問い掛ける(撮影・塩田亮吾)

厚労省「推計で約536万人が依存症の疑い」

WHOがギャンブル依存症を精神疾患と認定したのは、1977年のことだ。国際的に用いられている米国精神医学会の基準では現在、「興奮を得たいため掛け金の額を増やす」「ギャンブルを制限、減らす、中止するなどの努力を繰り返し、成功しなかったことがある」といった9項目のうち、4項目以上に該当すれば、依存症と診断される。

ギャンブル依存症は「否認の病気」とも言われる。「ギャンブルは好きだが自分は依存症ではない」などと本人が認めないことが多いからだ。さらにこの依存症患者はアルコール依存症のように外見でそれと判断しにくく、家族らが気付かぬうちに進行し、同時並行で借金が膨らんでいくなどのケースも目立つ。

ギャンブル依存症患者はどの程度、日本に存在しているのだろうか。厚生労働省研究班は2014年、推計値ながら成人男性の8.7%、同じく女性の1.8%がそれに該当する可能性があるとの調査を公表したことがある。人数に換算すると、推計で計536万人という数になる。

苦しみの経験を「匿名」でさらす

互いの経験を共有することで依存症の克服を目指す自助グループもある。そのうち、「ギャンブラーズ・アノニマス(GA)」は国内最大。45都道府県に168のグループがある。「アノニマス」は「匿名の」という意味で、その名の通りメンバーはニックネームで呼び合い、本名を明かさない。

ここに通う40歳の「ナベさん」は、長く依存症で苦しんだ。大学受験に失敗した浪人時代からパチンコ通い。大学3年で消費者金融から借金し、就職しても抜け出せない。30代前半で借金は300万円になったという。

繁華街にも郊外にも。日本では至る所にパチンコ店がある=イメージ・よっしー/PIXTA(ピクスタ)

喫茶店で向き合ったナベさんは、温厚で話し方も丁寧だった。ギャンブルに狂った過去があるとは思えない。彼自身、「依存症の人って、ギャンブラーって感じの、強面のイメージがあった」と話す。だからGAに行くのは怖かった。

生きづらさ抱えた「草食系」

GAの集まりに来ると、想像は外れた。会場には、生きづらさを抱えたかのような「草食系」が多い。「こんなに辛い思いで生きているのは自分だけだ、と。そう思って来たら、同じような人がいっぱいいる。ああ、自分だけじゃないんだ、って」

ここの回復プログラムには12のステップがある。大勢の前で自分の体験談や近況報告などを話す「ミーティング」、1対1で話し合う「スポンサーシップ」。この二つを軸にし、回復には2年ほどが必要だとナベさんは言う。ナベさん自身は、GAが心の拠り所となり、依存症を克服した今も定期的にGAに顔を出している。

依存症を治すには、GAのような通所、「大崎大地」のような克服施設、それに病院という主に三つの道がある。GAの場合、施設に入るわけではないので、必ずしも仕事を辞めたり変えたりする必要もない。

ギャンブル依存症を考える出版物や資料は少なくない(撮影・塩田亮吾)

自助グループに参加してどこが一番変わったのか。ナベさんは「孤独感が消えたことだ」と明かす。「会社の人や家族と一緒に居ても、自分だけが、なんかこう、疎外されているような変な感覚があった。それが次第に無くなりました」。そして立ち直った。

克服のために「肩代わりはNG」

近親者が依存症になり、何度も借金をしてしまったらどうすればいいか。主に依存者の家族をサポートする「ギャンブル依存症問題を考える会」代表の田中紀子さんは、借金の肩代わりをしないことです、と断言する。

「依存症の家族はたいてい、『人様に迷惑をかけてはいけない』と強く思っています。だから、借金も尻ぬぐいする。それをやってしまうと、本人の病気は悪化し、皆さんのお金もなくなっていく。誰も得しません。勇気を出して、尻拭いをやめることです」

窮状を訴える子どもからのLINEメッセージ。依存症は家族も巻き込む(撮影・塩田亮吾)

お金の工面にはもう一切協力しないー。そう強く言っても、依存症の人は「どうもならない」と泣き言を口にし、救いを求めてくる。「その時に初めて『ギャンブル依存症っていう病気があるのよ』と説明するんです」と田中さんは言う。「あなたは病気だから、もう余計なお金は出さない。だから支援機関へ相談に行きましょう、と。それが本人の回復につながったケースが一番多いんですね」

業界はどう考えているか

ギャンブル依存症の周辺を取材していくと、きっかけは「パチンコ」「スロット」と明かす人が目立つ。では、業界側はどう考えているのだろう。全部で14を数えるパチンコ・パチスロの業界団体は、パチンコ依存症問題相談機関のNPO法人「リカバリーサポート・ネットワーク」に毎年約3000万円を資金援助している。

パチンコ・チェーンストア協会の事務所(東京)には「のめり込みに注意」のポスターが貼ってある(撮影・オルタスジャパン)

業界団体の一つ、「パチンコ・チェーンストア協会」の拠出は年間100万円。同協会専務理事の中島基之さんは「業界全体の売上げが大きいから、お金を出すことにやぶさかではない。もっと全国的なケア組織があれば、業界は賛同すると思う。こうした団体を支援する責任はある」と話す。パチンコは大衆娯楽であり、商売でもあり、それ自体をなくすことはきないが、例えば、貸し玉が1個1円の「1円パチンコ」のようにギャンブル性を低くするなどの取り組みは進めてきた、とも言う。

「依存症になったら終わり」ではない

依存症のメカニズムは詳しく分かっておらず、有効な治療法は国際的にも見つかっていない、と話す専門家がいる。東京都の成瀬メンタルクリニックで院長を務める佐藤拓さんもその1人。「ギャンブル依存症問題を考える会」の理事も務める精神科医だ。

「咳をしている人には、風邪の可能性も結核の可能性もある。『ギャンブルがやめられない』という一つの症状だけで、依存症だと判断していいのか。実はどういった要素がギャンブルを引き起こしているかは個別に診ないと分かりません。同じようにやめられない人がいても、認知症の方とそうでない方を同じように診ていいのか、ということです」

支援機関の寮で暮らす渡辺さん(右端)。依存症だった人と一緒に暮らし、克服を目指している(撮影・塩田亮吾)

佐藤医師によると、生活が行き詰まった末に依存症になる例が多い。だから、生活全体を見直す自助グループへの参加、回復支援機関の利用は有効だという。そして、もっと気軽に相談できる仕組みが必要だと訴える。

「パチンコ屋に朝並んでいる人たちを見て『ああなったら人生終わりだよな』って思ってた人が依存症になったりするわけです。ギャンブル依存症は、それになったら人生終わり、という話ではありません。一人一人の生きづらさに向き合い、『ここ問題だったんだね』と分かるだけでけっこう解決するんです。二度と出てこられない、みたいなことはなく、みんなが気楽に相談できる社会になればいいと思います」

[制作協力]
オルタスジャパン
[写真]
撮影:塩田亮吾
写真監修:リマインダーズ・プロジェクト 後藤勝

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