「Brand-new idol SHiT(新生クソアイドル)」「楽器を持たないパンクバンド」。アイドルのような風貌、地上波では流せない過激な歌詞、17本のロックフェス出演。メジャーデビューからまだ2年の6人組ガールズグループが音楽業界を翻弄(ほんろう)している。アイドルなのか、ロックなのか。当の本人たちは「別にどっちでもいい。見る側が決めること」と言い放つ。結論を出させない、アイドルらしさとアイドルらしからぬ「裏切り」の裏側に追った。(Yahoo!ニュース 特集編集部)
臨戦態勢の6人、出陣
11月6日、BiSH初の全国ホールツアーの横浜公演。神奈川県立県民ホールのチケットは、当日を待たずにソールドアウト。2500人のファンが詰めかけた。
開演時刻の直前、慌ただしく動くスタッフたちの間に楽屋からアカペラが響く。BiSHのメンバーたちの歌声だ。楽屋で「アップ」を済ませた6人は、ゆっくりと舞台袖へと消えていく。リハーサルではあどけない少女のような一面を見せていた6人が、徐々に"BiSH"という役に「入っていく」ようだ。「あっという間にここまで来ましたね」。そう声をかけるとメンバーのセントチヒロ・チッチはこう返す。
「もちろん嬉しい。でもまだまだこれから。目指すところがあるんです」
薄暗いステージ脇で円陣を組み、手を合わせる。いよいよ出陣だ。
ヘッドバンギングに船上ゲリラライブを敢行
2015年、マネージャーの渡辺淳之介の手によって産声を上げたBiSH。グループ名は「Brand-new idol SHiT」(新生クソアイドル)の頭文字をとった。その後、2016年のメジャーデビューを機に「楽器を持たないパンクバンド」と名乗り、アイナ・ジ・エンド、セントチヒロ・チッチ、モモコグミカンパニー、ハシヤスメ・アツコ、リンリン、アユニ・Dの6人組の体制が定着した。
BiSH人気の背景にあるのは、その激しいパフォーマンスとロックサウンドだ。代表曲ともいえる「BiSH―星が瞬く夜に―」で見せるメンバーが肩を組むヘッドバンギングや、大阪・道頓堀での船上ゲリラライブなど、既存のアイドルとは一線を画す数々のユニークな取り組みを行ってきた。
アユニ・Dは、自分たちの魅力について「他のアイドルみたいにきらきらし過ぎてない。まったく完璧じゃない。でもそんな完璧から程遠い人たちが必死にもがいて頑張ってるのが魅力なんじゃないですか」と見ている。「私は別にスタイルもよくないし、顔もかわいくない。どちらかというと"さえない系"の人間だった」
アユニ・Dは、BiSH加入まで、「普通の」女の子だった。特にアーティスト活動を経験せず、いきなり異世界へ飛び込んだ。
「私はBiSHに入ったことがシンデレラ・ストーリーだと思われてることが多くて『生きる希望にしてる』と手紙に書かれていることもある。でも本当の私は逃げる勇気さえもないだけ。ただ頑張るしかないだけなんです」
ハシヤスメ・アツコは言う。
「たくさんいるアイドルって、なんだか似ていて見分けがつかなくなっちゃうことがある。けど、BiSHの6人って顔も声も背景も、みんなバラバラですよ」
今回の横浜公演もそうだったが、BiSHのライブには多くの若者が詰めかける。キャラクターが立っているからこそ、メンバーの姿、そしてメンバーが作詞を手がけている楽曲に、自分たちを投影しやすいのだろう。
等身大の自分を素直な言葉でつづる
「リンリンが作詞した『beautifulさ』や、アユニが作詞した『本当本気』は、すごく高校生や中学生に共感されていて人気ですね」(セントチヒロ・チッチ)
どんなとげとげな日でも
----「beautifulさ」
息してれば 明日は来るんだし
泣いた後に 咲くその花は
so beautiful, beautifulさ
もうやりたいことやれずに ああいつになったならやりますか?
----「本当本気」
学校でやってやるんです seventeen まだ seventeen
ああ消したい事殺れずに じゃあいつになれば殺れます?
大きくなって求めるんだ seventeen まだ seventeen's OK?
まだseventeen
リンリンが作詞した「beautifulさ」は、「消えたい 死にたい朝」という歌詞で始まるが、それでも「息してれば明日は来る」と希望を歌う。アユニ・Dが作詞した「本当本気」では、「みんなが僕をバカにすんだ ナメんな」と吐き捨てる。共通するのは、鬱屈や抑圧への抵抗だ。こうした等身大の自分を素直な言葉でつづるのも、若者に支持を集める理由の1つかもしれない。
ファンを「裏切った」1曲
「もちろんパフォーマンスや曲も好きになってくれる要因かもしれないけど、一番はファンを"裏切る"ところじゃないかな」(セントチヒロ・チッチ)
確かに、短いBiSHの歴史を振り返ると、いい意味でも悪い意味でも、"裏切られる瞬間"に出くわす。
象徴的な1曲がある。2018年6月にリリースした「NON TiE-UP」だ。
デビュー以降、着実に人気を積み上げてきたBiSHは2017年にミュージックステーションに出演。それだけにとどまらず、セブン-イレブン、キリンレモン、ROUND1と大手企業のタイアップに相次いで起用された。"新生クソアイドル"の出自から一気に「キレイめ路線」に舵を切ることもできたはずだ。だが、満を持してリリースしたシングル曲「NON TiE-UP」にファンは度肝を抜かれた。
地上波で放送できるはずもない過激な歌詞に露骨な振り付け。ここに歌詞が掲載できないほどなので、YouTubeで確認してほしい。これまで大手企業とタイアップ企画をしてきたにもかかわらず、「NON TiE-UP」と題したリスキーな楽曲を世に放ったのだ。これまでの自身に中指を立てるような"クソっぷり"に古くからのファンは喝采を送り、新たなファンは戸惑った。
セントチヒロ・チッチは言い切る。
「この曲の受け入れ方は人それぞれだと思うんですけど、こんなのやりたくない、とはまったく思ってない。逆に気持ちよかったんですよ」
ロックとアイドルの板挟みを超えて
ただ、世間での認知度が高まるにつれ、ロックとアイドルの板挟みに悩まされることもあった。
「アイドルフェスはちょっと居心地が悪いこともあるんですよ」(ハシヤスメ・アツコ)
「ロックフェスでバンドに交ざって女の子6人組のグループが出ると結構ナメられることが多かった」(モモコグミカンパニー)
だが、悩む6人を吹っ切れさせたのも「NON TiE-UP 」だ。千葉県で開催された「氣志團万博」でのこと。
「バックヤードで(Dragon Ashの)Kjさんが"NON TiE-UP"を絶賛してくれて。"かましてくる感じがめっちゃ好きなんだよ。だから毎回やれよ!"って言われたんです」(セントチヒロ・チッチ)
「今ではこういう曲で"ナメ返す"っていう感覚があって(笑)。すごいダイレクトな振り付けで"おっぱい舐めてろ!"って歌うのは爽快ですね」(モモコグミカンパニー)
アイドルかロックか、どちらか一つを選ぶのではない。BiSHという唯一無二のジャンルを見つけた瞬間だった。
アイナ・ジ・エンドはBiSHを取り巻く変化を冷静に見つめる。
「私はずっと"アイドルでもロックでも別にどっちでもいいのに"って思っていた。見る側が決めることじゃないですか。"この子たちは僕にとってのアイドルだ"って思ってもらえるなら光栄だし、パンクバンドだって思ってもらえるならそれでもいい。だから、別に自分で決めることでもない。受け手、聴き手が自由に見てもらえる、あんまり先入観とかなく、自分の好きなように見てほしいって言えるようになりました」
既存の「枠」を軽々と打破する6人
神奈川県立県民ホールでは合計20曲を熱唱した。観客からは地鳴りのように「アンコール!」の絶叫が響く。それに応えるようにセットが真っ二つに割れ、6人が姿を見せる。現れたのはデカデカと筆で書かれた「美醜繚乱」の文字。ハードで荘厳なサウンドに乗せて歌い始めたのは、「NON TiE-UP」だった。
「BiSHはアイドルが歌うようなきれいで王道な曲もあるし、『NON TiE-UP』みたいな曲もある。全部をBiSHとしてできるのが私たちの強み。私たちを見ていて、裏切られた気持ちになってたら、それがすごいうれしい」
セントチヒロ・チッチはいたずらっぽく笑う。
美しさも醜さも、ロックもアイドルも、批判も称賛も。すべてを併せ呑んで、BiSHは我が道を往く。
(ポートレート撮影:栗原洋平 ライブ撮影:中野賢太)
この記事と同時に『写真ルポ BiSHのライブに密着、熱狂の舞台裏』も公開しています。
BiSH
アイナ・ジ・エンド、セントチヒロ・チッチ、モモコグミカンパニー、ハシヤスメ・アツコ、リンリン、アユニ・D からなる楽器を持たないパンクバンド。2015年3月に結成、5月にインディーズデビュー。2016年5月4日に「DEADMAN」でメジャーデビュー。2018年3月28日にリリースしたメジャーサードシングル「PAiNT it BLACK」は自身初となるオリコン週間シングルチャート1位を獲得。5月22日には、横浜アリーナでワンマン公演「BiSH "TO THE END"」を開催した。2018年10月から開催された初の全国ホールツアー「BRiNG iCiNG SHiT HORSE TOUR」を中野サンプラザ公演からスタートさせ、12月5日にはメジャー5thシングル「stereo future」の発売、12月22日には幕張メッセ9・10・11ホールにて史上最大2万人規模の単独ワンマン公演「BRiNG iCiNG SHiT HORSE TOUR FiNAL "THE NUDE"」 を行うことが決定している。
https://www.bish.tokyo/
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