人気ドラマ「ドクターX」の定番シーンは本当にあるのか もしやったら現場は迷惑?
2019年10月から、人気の医療ドラマシリーズ「ドクターX」の第6シーズンが始まりました。
「ドクターX」は私も好きで、楽しんで見ています。
真に受ける人がいると困るくらい「尖ったフィクション」ではありますが、外科医の立場から見れば、「嘘は嘘だと分かるように描いている」点で安心感のあるドラマです。
私は他にも医療ドラマを多数見て、ブログや連載企画で200本近くの解説記事を書いてきましたが、「ドクターX」にはこの絶妙のバランス感覚があると感じています。
現実の外科医の仕事は、かなり「地味」です。
リアルからかけ離れた方が外科医は”かっこよく”見えますし、本職としても嬉しいもの。
もし「ドクターX」を見て「外科医を目指したい」と思う人が増えるなら、大変ありがたいことです。
とはいえ、ドラマを見ていて「現実とどのくらい違うのだろう」と疑問を持つ方も多いでしょう。
そこで今回は、「ドクターX」で定番のシーンを2つピックアップし、リアルな世界と比較してみたいと思います。
会議室に集まる人が異様に多い
「ドクターX」だけではありませんが、だだっ広い部屋に大勢の医師らが集まり、患者さんの検査結果などを提示して議論する、というシーンはよくあります。
院長をはじめ、驚くほど多くの医師が一堂に会している、というのが定番ですね。
もし、同時にあれほど多くの医師が会議に集中してしまったら、その間多くの医療行為が中断され、病院自体が機能不全に陥ってしまいます。
きっと看護師や検査技師などの病棟スタッフや患者さんからクレームが来てしまうでしょう。
患者さんひとりひとりの病状は刻一刻と変化しています。
一定数の医師が常にその状況に対応できるよう臨戦態勢でなくてはなりません。
むしろ午前の忙しい時間帯は、看護師からの呼び出しコールに「御意!」と答えて患者さんの元に急ぐ機会の方が多いものです。
もちろん、術前カンファレンスを開き、患者さんの病状について話し合う、という過程は非常に大切です。
ひとりの医師の意見が患者さんの治療方針を決めることはなく、科内で意見を出し合い、きちんとコンセンサスを得た上で治療が行われなければならないからです。
一般的には、各々の科の医師ら数人が小さな部屋に集まって議論する、ということが多いでしょう。
一つの科のスタッフだけが集まるわけですから、せいぜい5〜10人程度、というところです(規模の大きな病院ならもう少し多いこともあります)。
総回診が異様に広がっている
「ドクターX」といえば、院長総回診が名物です。
たいてい病院のロビーで、院長を中心に大きな扇を描くように外科医らが広がって我が物顔で歩き、そこへ颯爽と大門未知子がやってきて悪態をつく、というのが定番の痛快シーンです。
病院によって方法は異なると思いますが、実際には、回診時にあんなに広がると迷惑です。
特に病棟の廊下は、リハビリ中の患者さんや点滴を持って移動する患者さん、車椅子の患者さん、検査や手術の行き帰りでベッド移動する患者さんの往来が頻繁にあります。
たいてい回診時は、廊下の端を細長い列になって、前後を見て邪魔にならないよう注意しながら歩く、ということが多いように思います。
前述の会議と同様に、回診の目的は、各科内で患者さんの病状に関する情報を共有することにあります。
一般的には、診療業務に直接的に関わる機会の少ない院長先生が参画するのではなく、各科の部長や教授が中心になるでしょう。
また、先頭を歩くのは研修医や若手医師、病棟看護師であることが多いと思います。
各患者さんの回診前に事前に訪室し、診察の準備を整える必要があるからです。
時々疲れ切った老け顔の若手医師(私を含む)が先頭を歩いていたら、患者さんに科のトップだと間違われる、という残念な現実もあるのですが…。
というわけで、今回はドクターXでよく見るシーンを題材に、医療現場の豆知識を紹介してみました。
今後もドラマを楽しみながら、医療に興味を持っていただける方が増えるとありがたいと思います。
総回診に関するドラマと現実の比較は、こちらの記事でも詳しくまとめています。